アイスクリームが2つ入ったビニール袋を片手に、九兵衛はコンビニの自動ドアをくぐり抜けた。  
先ほど購入したばかりのカップアイスは九兵衛の友人、志村妙の大好物。きっと喜んでくれるに違いない。  
 
「…ふふ」  
 
お妙の喜ぶ顔が目に浮かぶ。九兵衛は小さく笑い声を零して頬を緩めた。  
これから始まる悲劇の幕開けになど、これっぽっちも気付かずに。  
 
 
 
「お前が柳生九兵衛だな」  
 
その時はいきなりやってきた。  
背後から名を呼ばれる。瞬間、振り向く隙も与えられずに九兵衛の意識は遠退いていった。何かを嗅がされたのだ。  
しまった。油断した。そう思った時にはもう遅い。アイスの入ったビニール袋が握力を失った手から滑り落ちる。  
自分の口元に布をあてたまま下種な笑みを浮かべる男の顔を最後に、九兵衛は暗い闇へと沈んでいった。  
 
 
「…う、うう」  
 
軽い頭痛と共に意識を取り戻した九兵衛は、もう先ほど歩いていた繁華街にいなかった。  
暗い密室、立ち込める煙草の匂い。そして周囲から聞こえる低い笑い声。  
 
「ここは…車の中?」  
 
自分の下に敷かれたシートをなぞり、ここが車内であることを確認する。  
振動がないことからするとこの車はどこかに停めてあるようだった。  
そこでようやく意識を失う前の記憶が九兵衛の頭を駆け巡る。そうだ、自分は誰かに襲われたのだ。  
 
そしてがばりと上体を起こした九兵衛は、次いで自分の眼を疑った。  
 
「な、んだこれはっ!?」  
 
九兵衛は衣服を何も着けていなかった。  
小ぶりな乳房も、下半身の秘部も、全てが晒されたその格好に九兵衛の顔はカッと熱くなる。  
 
「ようやく気付いたか。柳生九兵衛さんよォ」  
 
振り向いた先には見知らぬ顔。  
車内には他にも3、4人の男がいた。そのどれもが九兵衛の美しい裸体を舐めまわすように眺めている。  
 
 
「何者だ貴様ら…!?」  
「そんな怖い顔すんなよ、柳生家のお嬢さん」  
「…っ、僕は男だ!!」  
「俺たちも最初はそう思ったさ。でもまさか、あの名門柳生の現当主が女だったとはねぇ」  
「全く嬉しい誤算だよ」  
「お前も運が良かったな。男だったらもうとっくに半殺しにしてる頃だ」  
 
男らの言葉に、九兵衛は眉を顰める。  
その言動から予想出来ることはただ一つ。  
 
「貴様らは柳生に…僕に恨みでもあるのか」  
「まあそんなところだ」  
「安心しろ。女とわかったからには可愛がってやるからよ」  
 
手を伸ばしてきた男に九兵衛は身構える。そうして男が気付いた時には既にその手首をギリ、と捻り上げていた。  
 
「柳生の名を舐めるなクズ共」  
「ぐっ…ま、待て!」  
 
男は慌てて制止の言葉をかけると、すぐさま懐から一枚の写真を取り出した。  
映っているのは、親しげに談笑する九兵衛とお妙の姿。  
写真を一瞥した瞬間に息を呑んだ九兵衛を男は見逃さなかった。再び余裕の笑みを浮かべる。  
 
「お前の弱点なんかもうとっくに調べ済みなんだよ。今から俺たちの言うことを聞かなかったら…分かるな?」  
「やめろ!妙ちゃんは関係ない!」  
「だったらその妙ちゃんに危害が加わらないよう、お前が頑張ることだな」  
 
にやりと口元を歪める男。九兵衛はかつてないほどの殺意が湧き上がるのを感じた。  
 
「まあ楽しませてくれや」  
 
けれど軽蔑の眼差しを男らに向けるだけで、それ以上の抵抗は何もすることが出来なかった。  
 
 
そして九兵衛にとっては地獄のような、男達に言わせれば柳生に対する復讐の時間が始まった。  
 
「おら、くわえろ。歯ァ立てたらぶっ殺すからな」  
「うぐっ…!」  
 
2人がかりで四肢を拘束された九兵衛の小さな口に、男の膨張したペニスが突っ込まれる。  
生臭い悪臭に吐き気を催しながら九兵衛は眼を瞑った。開いたままの口から透明の糸が零れ落ちる。  
 
「舐めろ」  
「…うっ…あ…」  
「妙ちゃんがどうなってもいいのかァ?」  
 
その言葉に九兵衛は勢い良く首を振り、たどたどしい舌使いで懸命に男のモノを慰めた。  
先走りの垂れる先端を舐め上げ、ちろちろと赤い舌を小刻みに舌を動かす。男の息は段々と荒くなっていった。  
 
「っ、はあ…いいぞ、上手いじゃねえか」  
「ぐ…うっ…はあ、」  
「もっと奥までくわえろ!」  
「…!!…っげぇ…!」  
 
無理やり髪を掴まれ、喉の奥までペニスを突っ込まれる。あまりの苦しさに九兵衛の瞳から涙が溢れ出した。  
 
「だすぞ…っ」  
 
とうとう男の溜まった欲が、九兵衛の口へと吐き出された。  
口内いっぱいに纏わりつく白濁した液体に九兵衛は顔をしかめるしかない。  
溜まった涙の一粒が、唾液と一緒にシートへと染み込んだ。  
 
「次はお前も気持ち良くしてやるからな」  
「…っ、やめろ!放せ!」  
「うるせーよ。股はしっかり濡らしてる癖して」  
「ひっ!や、めろ…!触るな…」  
 
M字開脚の姿勢で固定された太股を複数の手が厭らしい手つきでなぞってゆく。  
そして無情にも少し湿ったそこに何本もの男の荒れた指が挿入される。  
 
「やだ!痛いっ…!」  
 
「ん?九兵衛サマは処女かぁ?」  
「初めての相手が見知らぬ男とは、傑作だなこりゃ!」  
「ははははは!」  
 
為す術もない九兵衛を嘲笑いながらも男達の動きは止まない。  
蛇のようにずるずると九兵衛の裸体を這いずり回る。  
固く反り立った乳首を摘み、乳房を揉みしだき、クリトリスに刺激を加えた。  
 
 
「っ…くそっ…」  
 
幼少時に女を捨て、ずっと男として生きてきた九兵衛にとってこれはあまりにも惨すぎる仕打ちだった。  
耐えきれない屈辱に奥歯をギリギリと噛みしめる。  
 
「やめてくれ…もう嫌だ…頼む、お願いだから」  
 
声にならない嗚咽と共に懇願するも、それは性欲にまみれた男達を煽るだけだった。  
 
「いれるぞ」  
「次、終わったら俺な」  
「さっさとしろ」  
 
そうこうしている内に、一人の男が九兵衛の腰を押さえつける。  
そして固く反り立ったそれを、一気に奥深くへと突き刺した。  
 
「い゛っ…あああ!や、やだっ、痛い!抜け!!」  
「チッ、うるせえな。オイ、口に入れてやれ」  
「おー」  
 
「むぐっ!」  
 
悲痛な叫び声を上げた九兵衛の口に再び男の性器が突っ込まれる。悪臭を放つそれがひたすらに口内を犯す。  
その間にも九兵衛の処女を奪った男のペニスは容赦ないピストン運動を繰り返していた。  
 
「中にだしてやるよ」  
「ん゛ー!」  
「お前、男なんだろ?じゃあ中出しなんて平気だよなぁ?」  
「…っは、…ふざけるな!やめろ!」  
「もう出すぞ…っ」  
「う、そ!…やめろ、やだ…いやあああ!」  
 
必死の哀願も虚しく、大量の精液が九兵衛の子宮へと注ぎ込む。  
望まない快楽の絶頂と共に、九兵衛は果てしない絶望感に苛まれる。  
涙でじわりと滲む視界には、悦楽に浸る男たちの歪んだ顔面だけが映っていた。  
 
 
 
 
 
次に眼が覚めた時には車も男達も、跡形もなく姿を消していた。  
九兵衛は、男達が情けでかけた布切れ一枚という一糸纏わぬ姿でアスファルトの地面にひれ伏していた。  
 
 
「九ちゃん?」  
 
そこへ突如現れた女の声に、九兵衛は重く閉ざしていた瞼を開ける。聞き慣れた声だった。  
遠くでがさりと何かが落ちる音がする。それは沢山の食品が詰め込まれた買い物袋であった。  
 
「…妙、ちゃん」  
 
「九ちゃん!?九ちゃん、しっかりして!何、何があったの!?」  
 
すぐさま駆け寄ってきて跪いた妙に、九兵衛は弱々しく笑みを浮かべる。  
抱きしめてきたその腕は温かい。妙から漂う優しい香りに、九兵衛の心は深い安心感に包まれた。  
 
「妙ちゃ、…無事で…よかっ、た」  
 
それだけ告げて九兵衛は妙の胸へと顔を押し付ける。もうそれ以上何も言えなかった。  
自分が守り抜いた大切な人の温もりに堪らなくなって、九兵衛は生まれたての赤子のように甲高い泣き声を上げた。  
 
 
 
 

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