ある、春のうららかな午後。花粉と桜の花びらが舞う、埃っぽい街の片隅の  
小さなビルの二階。少年と少女が息を潜める暗い押し入れ、そこから襖一枚向うで。  
情事は、行われていた。  
 
ぴちゃぴちゃと、狭い部屋に水音が響く。  
襖と襖の間から見える明るい世界で、ぼさぼさの髪に生気の抜けた様な瞳の男がソファに背中を預けていた。  
足元に跪いているのは、紅い忍者服に美しい長髪、眼鏡を掛けた一人の女性。  
「さっちゃん、さん…」押し入れの中で、新八がぽつりと呟く。喉がからからに乾いていた。「何だよ、これ」  
「……知らねーヨ」  
傍らに座る神楽がかすれた声で応えた。  
 
さっちゃんは目を伏せて銀時の足先を丹念に舐めていた。  
彼女は忍者服の胸元を少しはだけたまま後ろ手に縄で縛られ、腰を高く浮かせているため白い脚があらわになっている。  
眼鏡はなぜか顔の脇にテープで固定されていた。  
「オイ、眼鏡外れねーように気ぃつけんだぞ。外れっとお前ひきこもりの兄ちゃんより何やらかすか分かんねーからよ」  
「あ、はい…」  
「うめーか、俺の足は?」  
「はい…美味しいです、御主人様…っ」  
「やっぱ毎日の糖分摂取が効くんだよな。…なぁ、そろそろ違う処舐めたくねーか?」  
ねっとりとした口調で銀時が尋ねる。  
「はい、舐めたいです…舐めさせてください、御主人様…」  
(いやいや糖分と足の味に関係なんざあるわけねーだろォォォ!)  
どうしていいか解らず、とりあえず新八は心の中で全力で突っ込みを入れた。  
時々は不必要な程に元気な神楽も、今は完全に押し黙っている。  
(ああもう、何でこんなことに…)  
頭の中を混乱させながらも、空気が少しずつ湿っていくのを新八は感じていた。  
 
事の発端は数時間前。  
パチンコに行くと銀時が出掛けている間に訪ねてきたのは、茶菓子を持った桂だった。  
「貰い物だが食べきれんのだ。皆で食ってくれ」渡されたのは、江戸でも有名な高級菓子屋の包みだった。  
「新八、これ銀ちゃんにあげるには勿体無くナイカ?」  
箱を開けて美しく彩られた菓子を見た途端、神楽がそう云い出した。  
「パチンコ三昧の糖尿はザラメでも食ってるがヨロシ」  
「そこまで云わなくても…何かあったの?お前らの間に何があったの?」  
「…お通は甘いものが好きだって云ってたネ」  
「……」  
「この量だとちょっと余るヨ」  
「……」  
そして高級和菓子を二人で貪り食っている最中に(もちろんお通に貢ぐ分は確保していた)銀時が帰宅し、あわてて押し入れに隠れーーーー現在に至る。  
 
 じゅぷじゅぷと音を立て、さっちゃんは銀時をくわえて懸命に奉仕している。  
銀時が彼女の太股を撫で上げると、びくりと身を震わせる。  
そのまま、銀時は忍者服の裾から手を入れた。下着はーーーー着けていない。  
「もう濡れてんじゃねーか、淫乱だなァ。いくらお母さんが洗濯しても追っつかねーぞオイ」銀時が透明な液体で濡れた指を見ながら云う。  
(銀さんにこんな趣味があったなんて…)  
普段は死んだ魚のようだとさえ云われるその瞳は、今は雄の欲望で妖しく光っていた。  
 (「いざという時はキラめくから」…ってそういう事かよオイ。)  
「ん、んぅ…むっ、御主人、様…気持ち、ひぃ…ですか?」  
頬を紅潮させたさっちゃんが上目遣いで銀時を見やりながら、自身をきつく吸い上げる。  
と、銀時はいきなり手を伸ばし、さっちゃんの顔を引き離した。ピンク色の唇から透明な液体が糸を引いている。ーーーーそう思った瞬間、  
びゅくびゅくと銀時の欲望が吹き出した。白く濁ったそれが、さっちゃんの顔や胸元だけでなく、床にとろりと零れていく。  
銀時がにやりと笑って云った。  
 
「舐めな」  
 
 目が、離せない。  
新八は息を殺してこの光景を凝視していた。今迄、ビデオで見る事さえ勇気が要った「大人の世界」が、其処に在った。  
さっちゃんは微塵もためらわずに床の上の精液を舐めとっていく。  
乱れた忍者服の隙間から覗く紅い秘所と舌が這っている床は、遠目にも解る程濡れて光っていた。  
「よしよし、全部舐めたな」  
「美味しかったです、御主人様…」  
「甘かったか?」  
「えっ?いえ、苦酸っぱかった…です」  
「よし、まだこっちまで糖は来てねェな」  
 いや、どこまで糖にこだわる気なんだよお前はよ。  
もう脳内突っ込みも弱々しくなり、息が乱れてきていた新八は、急に袖を引かれてふと我に帰った。  
「神楽…ちゃん?」  
 そうだ此処には神楽も居たのだったとぼんやり思い出すのと同時に、袴の下ですでにその存在を主張していた新八自身を握られる。  
「なっ…!」  
暗い押し入れの中、神楽の白い顔が浮き上がって見えた。  
「新八、シヨ」  
 
「もっといじめてください、御主人様」  
おそらく恍惚とした表情の、さっちゃんの哀願が耳に届いた。  
 
「あ…っ、ん…はぁっ、御主人様ぁ…」  
 鼻にかかった甘い声。横になった新八の視界の端に、ソファに寝転ぶ銀時の上にまたがって淫らに腰を振るさっちゃんが見えた。  
「オイ、もっと腰振れよ。そんなんじゃハルウララにだって負けちまうぞ」  
「はい…はぁっ、あ…やぁ…んっ」  
くちゅくちゅと、粘膜の擦れあう淫猥な音が響いている。  
「新八、ちゃんとこっち向くネ」  
急に強い力で首を正面に向けられ、そのまま唇を重ねられる。  
神楽の口の中はさっき食べた菓子の所為かやけに甘く、新八は我知らず舌を絡めていた。  
「んっ…うぅ」唾液が糸を引き、神楽の唇は闇の中でぬらりと光っていた。  
神楽も自分も身につけていたものを何時の間にか全部脱いで、神楽は新八の上に重なり、彼自身をねっとりと愛撫している。  
薄い胸にぎこちなく触れると、目を細めて甘い吐息を洩らす。  
誰にも触れられた事の無い場所への初めての快感と、すぐ傍で行なわれている情事。  
新八は眩暈がした。  
「はぁっ、う…か、神楽ちゃん…な、何でこんな、…その、巧い、の…っ」  
「銀ちゃんに教わったヨ」  
「……っ!?」  
言葉を無くした新八を余所に、神楽は新八自身をぱくりと口にくわえて舌で刺激する。慣れていない新八は、あっと云う間に果ててしまった。  
「早いヨメガネ、童貞アルカ?」  
にやにやと笑いながら、神楽は口の端から垂れた体液をぺろりと舐めてみせた。  
ーーーーもう、何もかもどうでもいい。  
「神楽ちゃん…っ!」  
新八は神楽を押し倒した。  
 
銀時がさっちゃんを床に組み敷くのが、ちらりと見えた。  
 
「あっ、や、ぁ、やぁぁっ!き、気持ち、いいですっ!ぁ、あんっ!」  
「うっ…く、はぁっ…もっと、欲しいか?」  
「あっ、あんっ!はい、もっと、あ、ぐちゃぐちゃに、やっ、して、くださ…あぁんっ!」  
 
「やっ、新八ィ…ぁ、聞こえ、ちゃ…んぅ、」  
「神楽ちゃん…凄い、中、熱い…」  
新八はもはや何も考えていなかった。神楽自身ははあっさりと新八を迎え入れ、ぬるりと絡み付きひくひくと収縮している。  
華奢な足が絡み付き、春だというのに二人は汗だくになっていた。  
夢中になって白い胸の小さな突起に吸い付くと、一段声が高くなる。  
「あっ、あ、スゴいヨ、新八ィ…」  
激しく腰を動かしながら襖の外を見ると、二人は全く気付く様子もなく自分達の行為に没頭している。  
さっちゃんの太股までが愛液で濡れて光り、結合部からは白い液体が溢れていた。  
「あ、神楽ちゃ、僕、もう…」  
「あ、新八、気持ち、イイ、ヨ…ぁ、やっ、ん、ーーーーっ!」  
「うっ…おい、出す、ぞっ」  
「はい、あっ、下さ、あっゃ、あぁぁぁぁあんっ!!」  
 
もはや酒池肉林の宴と化した万事屋の中、四人はほぼ同時に絶頂に達していた。  
 
その後。  
「銀さん!アンタまっ昼間から何してんですかアァ!」  
「いいじゃねーか、大人の事情って奴だよ。お前だって人の事云えねーだろーが」  
「それはその…、そうだ、神楽ちゃんにまで手ェ出したらしいじゃないですか!見損ないましたよ!」  
「そうだなぁ。おゥ神楽、何で桂が持ってきた和菓子隠したりしたんだ?」  
「ってそっちかよオィイ!っつーか何ちゃっかり食ってんですか!」  
「いやーやっぱ疲れた時には甘いモンだよな」  
と、そこでやっと神楽が口を開いた。「…って書いてあったアル」  
『え?』  
「糖尿が進むと起たなくなるって本に書いてあったアル!」神楽が目に涙をためて叫んだ。  
「………」「………」  
男二人が固まる。神楽はうつむいてさらに続けた。  
「私…銀ちゃんとアレ出来なくなるの嫌アルヨ…」  
「神楽……」  
「神楽ちゃん……」  
銀時がよしよしと神楽の頭を撫でてやる。  
っつうかさっちゃんとした事に関しては何も云わないのかよそもそも銀さんあんたロリコンなんですかそうなんですか等々、延々と脳裏をよぎる突っ込みを何とか押さえ込んでいた新八を振り返り、銀時が云った。  
「新八ィ、ちょっくらスッポン買ってきてくれ」  
「んな金あるかァァァァァ!!」  
新八渾身のアッパーが銀時を吹き飛ばした。  
 
 
後日談。  
 
所変わって、幕府の番犬真選組の屯所内。  
「おい総悟、その手に持ってるのは何だ?」  
「秘蔵の無修正ビデオでさァ。中年と眼鏡っ娘のSMと童貞のロリプレイの豪華2本立てですぜ。どうです?土方さん」  
「……いや、俺は遠慮しとく。…その、何だ。程々にしとけよ」  
去っていく上司の後ろ姿を見送った後、沖田は懐からもう一本ビデオを取り出した。  
「心配しなくても、あんたのマヨネーズプレイもしっかり撮ってありやすぜ」  
と、懐の携帯電話が鳴りだす。沖田はビデオを片手に抱え、受話器を耳に当てた。  
「もしもし。…あ、見た見た。なかなか良かったですぜ。何?早くて中途半端だったって?あー、年ですからねィ。………わかったわかった、おとなしく家で待ってなせェ」  
そして限りなく邪悪に、妖しく笑んで囁いた。  
 
「心配しなくても、今夜一晩丸々遊んであげやすぜ?ーーーーさっちゃん」  
 
劇終。  
 
 

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