妙in遊郭  
 
屋形船型飛行船、空飛ぶ遊郭の一室で、志村妙ははじめての客を待っていた。  
明かりと言えば枕もとの行燈のみ。いつもは勝気な彼女がやけにおとなしく見えるのは、髪をおろしているからだけではない。  
 
数日前、金貸しの社長が彼女を物かげに呼んで言った。  
「どや、身売りの件、真剣に考えてみぃひんか?あんたやったら高う売れるし、悪い話やないはずや。  
今みたいな利息返すだけでやっとの生活、どのみち立ちいかんようになるで。  
あんたががまんしさえすれば元本ごとチャラや、弟はんのためにもここは決心のしどころちゃうか」  
1日、悩んだ。が、選択肢ははじめからなかった。  
思えば幼いころから弟は借金取りに追われる毎日だった。あれでは侍の誇りも保てないだろう。  
自分たちを守るために戦った幼なじみは、そのために片目を失い武者修行の旅に出たまま帰ってこない。  
妙は手紙を書いた。  
 
『新ちゃんへ。  
 借金取りの人から実入りのいい仕事を紹介してもらったのでちょっと出稼ぎに行ってきます。  
 しばらく帰れないと思うけど、あぶない仕事とかじゃないから心配しないで。  
 それより私のいない間、志村家のことを頼みます。  
 なんといってももう借金はなくなったのですから、私が帰って来た時恒道館が江戸一番の道場になっていること、  
 楽しみにしていますからね。  妙 』  
 
襖が開いて、男が1人入って来た。がっちりした体格の、いかにも好色そうな中年の男。  
処女を相手にするのはけっこう大変だ。自分が楽しむどころではない時もある。  
にもかかわらず、初夜権は高く売れた。買うのは大抵が金に余裕のある幕府の高官か豪商で、店のお得意様だ。  
この男もその1人だった。  
 
「…お妙でございます。可愛がってくださいまし」  
「まぁそうかたくならずに、気楽にいこうや。まずはこっちにきて酒でもついでもらおうか」  
男は妙のついだ酒をひと息にあおると、「お前も飲め」と盃を妙にさしだした。  
「はい、あ、いえ、私は」  
「なんだ、遠慮するこたねぇ、なんなら飲ませてやろう」  
そういうと男は酒を口に含み、妙の唇に自分の唇を押しつけた。口移しに酒が流れ込んでくる。  
「いやっ」  
ファーストキスという言葉のイメージからはあまりに遠いおぞましい感触に思わず男を突き飛ばす。  
男は壁まで飛んで行った。「あっ、もっ申し訳ありません」  
「…いってぇ……てめえ、なにしやがんだ!!」叫ぶなり、男は妙の頬を打つ。今度は妙が畳に倒れこむ番だった。  
「でめえ自分の立場解ってんのか!?今度こんなマネしてみろ、ここにいられなくしてやる」  
「本当に、申し訳ありません」  
「しかしなんつう馬鹿力だよ…おい、いつまでもそんなとこで頭下げてないで、しゃぶれ」  
「え」  
「しゃぶれって言ってんだよ。カマトトぶんじゃねえぞ。分かってるだろうが、歯なんか立てたら承知しねえからな」  
「は、はい」  
男に近づき、着物をかき分け、肉親以外で初めて見る男のブツをおそるおそる口に含んだ。  
「もっと気ぃ入れて咥えんかいッ」  
「うぐッ」  
髪を掴まれ、押し付けられる。呼吸困難になりかけながらも、妙は必死になめた。  
大好きなハーゲンダッツだと思えばいい。…味も感触も、まったく違うけれど…  
「…ッふ、初めてにしちゃ、なかなかうまいじゃないか…ほんとに初めてかァ?ハハ…」  
どうやら男の機嫌も直ってきてくれたようだ。妙はさらに必死に舌を使った。  
妙の黒髪が男の下腹部をさらさらとなでる。先ほど殴られた際に乱れた襟元からのぞく白いうなじが艶めかしい。  
「どれ、はじめてでいきなり口の中じゃさすがに可哀そうだからな」  
男はそう言うと、妙の髪を掴んだまま仰向けに布団に押し倒し、その上にのしかかった。  
 
腰ひもをほどくと、小ぶりだが形の良い胸が露わになる。  
その白いふくらみを男の指がもみしだいた。先端の赤い突起を、指でつまみ、こすり、吸い上げる。  
「…んッ…んん……ッ…あっ」  
「胸の小さい女は感じやすいと聞いたがお前もどうやらそのようだな。ここも」  
手を伸ばし指を妙の秘所に滑り込ませた。「すっかり良い塩梅になってるじゃねえか」  
気持ちとは無関係に体は敏感に反応をしめす。男の指が妙の中で無遠慮にうごめくと、その度に蜜があふれた。  
 
「…そろそろいただくとするか」  
男はそう呟くと、妙の足を開かせ、指とは比べ物にならないほど大きくそそり立った自身を入口にあてがい  
一気に妙の中に押し入った。  
「ッぁああああああああああ!!!」  
思わず悲鳴を上げる妙に頓着することなく、男はなおも侵入し、やがて完全に妙を貫いた。  
しばらくそのままにしたあと、ゆっくりと動き出す。  
妙の細い身体が弓なりにしなり、男が腰を打ちつけるたびに揺れた。  
「ふ、あっ、あぁっ、んっ、はぁっ…」  
もはや妙には苦痛と快楽の区別がつかなくなっていた。気がおかしくなりそうになるのを、シーツを握りしめて耐える。  
男の動きが次第にはやくなり、やがて熱いものが体内にほとばしるのを感じた。  
「…あぁ…」  
一瞬、妙の脳裏に新八と、亡き父と母の顔が浮かんで、消えた。  
閉じた瞼から涙が一粒、頬をつたって落ちた。  
 
初日は客は一人しか取らなくていいことになっている。次の日から本格的に始まる仕事にそなえて少しでも休んでおいた方がいいのだが、  
どうしても眠れず、妙は障子にもたれ窓から朝焼けの街を見下ろしていた。  
 
B'z稲葉似の立派なお侍と結婚し、新八とともに道場を盛り立てていく。その夢はたぶんもう叶わない。  
(でもいいわ。きっと新ちゃんが代わりに叶えてくれるもの。小姑がいなくてむしろ良かったりして、ふふ)  
笑おうとすると涙がこぼれた。それでもなんとか笑顔を作る。つらい時こそ、笑顔にならなくては。  
(新ちゃん、1人にさせてしまったけど、がんばるのよ。私もここで…がんばるからね。)  
妙の乱れた髪を、朝の風が優しくなでて通り過ぎて行った。  
 
 
おわり。  

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