■■■■
「んっ…あっ……んんぅ…っ」
くちゅくちゅと水の音と、交わる荒い息。
伊東は、また子の秘所からあふれでる蜜を絡めとるように指でかきだしては、彼女の太股に塗るように愛撫する。しかし、肝心な所は中々触らない。
そのかわり、もう10分くらいたつだろうか、女に息をする暇もあたえないくらい、無言で唇を貪り続けている。
(息…できな……。頭…おかしくなりそ…ッス)
顔をそむけても、執拗に唇を求め、そして首筋や耳に刺激を与えてくる。
伊東に口を吸われる度、クラクラと甘い感覚に陥ってしまう。
伊東の右手は、彼女の股を、秘所をまさぐってはいるが、彼女が快楽に溺れる寸前になると愛撫を止める。
そしてその反応を楽しむように顔を覗き込んでは、意地悪そうに目を細め、口を吸ってくるのだ。
───こんな攻められ方は、初めてであった。
また子が今まで体を許したのは、高杉晋助一人である。
情交というものは、高杉のやり方でしか知らない。
彼に抱かれた回数は両手の指で数えれるくらいである。しかし、彼に抱かれる度に、彼女は更に彼に堕ちていく。
───例え、苦痛を伴う抱かれ方でも。
高杉は決まって、人を斬った晩にしか彼女を抱かない。息をきらせ、瞳孔は開ききり、体は返り血にまみれている。その姿で女を抱く。
まるで自分の昂ぶりを抑えるためかのように。
まだ斬り足りない、まだ人の血が足りないという修羅の念を、精を吐くことで振り払ってしまおうというのか。
高杉との情交は常に血の匂いがするのだ。
『熱っ…晋助さまっ…やめて…あぁっ…!』
四つんばいにされ、首ををおさえつけられ、背中には彼が吸っていた煙管の灰を落とされる。
腰をつかまれ、愛撫されることもなく挿入される。
『来島ァ…もっと鳴けや…』
自身を挿入すると、フゥっと艶のある息を吐き、また子の背にかぶさり耳元で囁く。
『おめェのその鳴き声がたまらねぇんだよ…』
ククク、と狂ったように笑う。その言葉だけでも、また子にとっては十分な潤滑油となる。
優しく愛撫されることも、口を吸われることもなくても。───自然と蜜があふれ出してくるのだ。
高杉はきまって、背や脚に胸に印を残す。爪でひっかいた跡であったり、煙草の灰で焼いた跡であったり、唇でつけた跡であったり。
どんな形でもいい。彼女に印を刻むことで己の支配欲を満たしているのだ。
そして彼女も、それを喜んでいる。
(痛くたって、晋助さまが満足してくれるなら、私はそれでいいッス…)
───…本音を言えば、怖いし、痛い。
人を斬ってきたばかりの彼は殺気立っており、今にも自分を殺しそうな眼をしながら、自分を求めてくる。
乱暴に寝室につれこまれ、押し倒されるその度に、恐怖に顔がゆがむ。
その顔を見て高杉は頗る嬉しそうに喉を鳴らし、「たまんねぇな…」と一言呟いてまた子の体を弄ぶのだ。
苦痛をともなう情交のあとは、高杉は決まって布団に堕ちる。身なりを整えることもないまま、穏やかな寝息を立てて。
(この顔を、見ていたいんス───。)
体の痛みに耐えながらも、高杉の体を綺麗に拭いてやり、着物を着付けてやる。
さきほどと同じ人物とは思えないくらい、まるで少年のように幼い顔つきの高杉を見て、ホッと胸をなでおろす。
人を斬ったあとの昂ぶりを、自分だけが抑えることができるなら。修羅から高杉晋助に戻るこの瞬間を見ることができるなら、───自分は何だって耐えれる。
血なまぐさい夜が明けると、高杉は決まってまた子より先に起き上がり、彼女の頭をスパンとはたいて起こしてくる。
『来島ぁ、腹へった。メシ用意しろや』
ふあぁぁ、と大きなあくびをして、髪は寝癖のついたまま。
(ああ、いつもの晋助さまッス……。)
それを確認すると、嬉しそうに飛び起きて、笑顔をさかせるのだ。
『はいっ、ただいまッス!!!!また子特製の朝定食、ご用意してくるッス!』
『おい、目玉焼きにソースかけたら殺すからな。醤油だ、醤油。』
だるそうに呟いて、風呂場へと向かう。外部には中々みせないが、これが鬼兵隊での、いつもの高杉の姿であった。
■■■■
「んんぅ…はぁぁっ…」
艶のある溜息が寝屋に響き渡る。股は蜜で濡れそぼっている。
(こんなの…こんなシツコイ男、初めてッス───。)
当然であろう。今まで高杉しか知らない。そして情交というものは、彼の特殊な性癖によるものでしか知らない。
優しく、時折激しく、そして執拗に、快楽を与えられるのは初めてであった。
女のツボを心得ているというのか。彼の攻めに何度も何度も高みに昇らされそうになる。
「いかせてほしいか…?」
「んぁっ………」
急に耳元で、熱い吐息をかけられながら囁かれ、また子は思わずビクンとのけぞった。
高杉とはまた違う、低い男の声。それすらも、今のまた子にとっては刺激となっている。
耳元で囁かれただけで達しそうになってしまう。そんな女の様子を見て、伊東は満足気に口角をあげた。
「僕の手で…いかせてほしいか?」
くちゅくちゅくちゅと陰核を指ですりあげられた。
「ああああっ!!!やぁぁっ!!!」
親指で陰核をすりながら、中指で秘孔に激しく抽挿を繰り返す。男の太い、ゴツゴツとした指の感覚がまた子を攻め立てる。
絹糸のような金色の髪を振り乱し、顔を紅潮させ、伊東の肩にすがりつくこの女の表情は、伊東の心をあつくさせた。
(もっと…もっと僕を求めろ…)
中指を奥まで差し入れると、何か固い壁のような感触を感じた。
(ここか……?)
そう直感すると、男はさらに激しく指を抜き差ししはじめた。
「ああああっ……!やめ…!いやぁっ!!!な、なんか変…あぅぅぁぁぁっ!!!」
「いいのか…?ここが…」
グチュグチュグチュッと卑猥な音がこだまする。伊東が再度耳元で囁く。その声には以前より甘さが加わっており、また子の
脳内をクラリと犯した。
「……君、言ってくれないとわからないな…。このまま続けてほしいか?」
「ふぁぁっ……つ、続け……ひぁぁぁっ」
きゅううっと着物をつかんで、すがるように見つめてくる。
その姿を素直に可愛いと感じてしまい、伊東はそれをふりはらうように眼を閉じ、女に唇をおとした。
中で達せさせられるのは初めてなのか。それとも情交による快楽を与えられるのが初めてなのか。
「最後まで言ってくれないと…わからないが…。いいだろう、僕が君を…」
そう言って伊東はさらに抜き差しを早め、また子の秘孔の奥を激しくつきやった。
「……いかせてやろう」
「くっ…ぁぁああああぁっ!!!!!!」
女は大きく喘ぎ、体を跳ねさす。ぷしゃぁぁぁ、と秘部から飛沫を飛ばせて。
「あっあぁぁぁっ…!!!!」
びくびくびくと小刻みに体を震わせると、伊東の胸に顔をうずめるようにすがりついた。
「ふ……。達したか…行儀の悪い娘だな、君は───…」
すがりつく女の顔をクイとあげてやり、自身の右手を見せ付ける。
「潮をふくのは初めてか?ククク………」
女の蜜と、飛沫にまみれた右手を、また子の頬にそっと這わせる。
「はぁ…はぁ…っ」
肩で荒く息をしながらも、ハッと我に返り、伊東を睨み付ける。しかし、恥ずかしさのあまり、すぐに言葉が出てこない。
伊東が意地悪そうに見つめ、眼鏡をクイとあげる。───その彼の仕草に、無意識に女の心が熱くなる。にらみつけた眼が、うっとりと潤んでしまって。
それを見て、伊東も、腹の奥がうずくような、甘い感覚を覚える。
再び、唇を落とすと、今度は女のほうからも求めてきた。
「はぁっ…んんぅ…はぁんっ」
何度も、何度も。舌を入れてやると、女の甘い舌が絡められる。脳内がとろけるような、そんな感覚は初めてだった。
5分ほど熱い接吻を繰り返したあと、また子が息を切らせて声をあげた。
「……結局……欲情してるじゃないッスか………」
「さぁ……?それはどうかな。君こそ僕に達せさせられているではないか…。そんなに良かったか?」
そう言うと女の耳たぶを優しく噛んだ。
「んっ……!」
「フフフ…」
素直な女の反応を見て、伊東はまた勝ち誇ったように口角をあげる。
「………まだ足りないな…僕を欲情させるには……」
そう言うと、また子の脚に唇を這わせる。
「ひぁっ……!」
ちゅ、ちゅぅと吸い付くと、彼女の白い脚に紅い印がつけられた。
それ見て伊東は満足そうに眼を細めると、彼女の脚にくまなく印をつけていく。
白く、長い美しい脚に紅い印が刻まれていく。脚先から、太股まで。そして───。
内股にたどりつくと、そこにはすでに印が刻まれていた。
それを見るなり、不愉快そうに顔を顰めると、その印にかさねるように、思い切りつよく吸う。
「んぅぅっ!」
達したばかりの秘部に近い場所を吸われ、また蜜があふれてくる。
それを知ってか知らずか、伊東は刻まれている印を消すかのように彼女の内股を紅く染めてく。
ひくひくと女の秘部がうずく。
「あ、あんた、ほんとにしつこい男ッスね!そんなに脚ばっかり嘗め回して!変態ッスか!!」
声を出していないと、本当に溺れてしまいそうになる。こんな男に。
いや、すでに溺れているのではないか───。
自分で自分の心がわからない。ぎゅっと眼をつぶる。脳裏に浮かぶは、いとしい高杉の顔。
(ああ───。晋助さまにこんなことされたら……!)
伊東は、脚の刻印をすべて自分の唇で消したことに満足したのか、今度は胸に顔をうずめてきた。
しっとりと吸い付くような絹肌に、弾力のある乳房。
そして穢れをしらぬかのようにツンと上を向く桜色の突起。
伊東は熱い息を吐きながら、女の乳房にむしゃぶりつく。そしてまた印をひとつずつ刻んで。
(気持ちいい───…。晋助さま…晋助さまにこんなことされたい…。)
きっと、それは叶わないとわかっている。また子は眼を閉じ、伊東に高杉の影を重ねていた。
重ねれば重ねるほど、女の体は熱くなっていく。達したばかりだというのに、
体はすでに欲しがっている。男のモノを───。
女の疼きを察したのか、伊東は制服をゆるめ、熱くなっている自身をさらけ出す。女は無意識のうちにそれに手を這わせる。
ひんやりとした女の手の感触に、伊東はくらりとよろめいて。
熱くなっている男根に、また子は唇を這わすと、男からは溜息がもれた。
「ん、んんっ」
口いっぱい広げないと入りきらない男根を、自身の口に入れ込み、出し入れを繰り返す。
普段であれば、頭をおさえつけられ、顎をつかまれ玩具のように無理やり出し入れをされるのだが。
女を押さえつけるはずの男の右手は、優しく彼女の髪を、頭をなでている。
顎を掴むはずの左手は、いとしそうに彼女の頬を撫ぜている。
時折、甘い溜息をもらしながら自分を見下ろす彼の姿は、とても色気があり、さらに女の体を欲にかりたてる。
(ああ、晋助さまだったら……!これが晋助さまだったらいいのに)
再度目をつぶり、くわえこんだ男根に舌を絡ませる。
たまらないといった様子で、男は女の髪をなであげ、左手で顎をつかみ、唇を離させた。
「はぁっ…はぁ…っ……」
二人の息が寝屋に響く。危うく達しそうだった伊東の顔はさきほどよりも紅潮していた。見下ろすと、
また子が上目でこちらをみながら、唇を半開きにし銀の糸をひかせている。その姿がたまらなくいやらしい。
口にはしないものの、早く来てほしい、と必死に訴えるその表情を見て、
伊東はゆっくりとまた子に覆いかぶさると、脚をあげさせ、いきりたつ男根を秘部にあてがった。
「入れるぞ……」
「あっ…!!!!!」
伊東が低くつぶやくと、また子の体に一瞬にして快楽の波がおしよせる。
ズブズブズブっと大きな水の音が、そして腰をうちつける音が響き渡って。
(く……すごい締め付けだ………)
てっきり高杉に飼いならされ、使い込まれているものと思っていたその孔のあまりの締りのよさに、伊東は窒息しそうな感を覚えた。
しまりの良さだけではなく、ほどよく絡みつくような、そんな感触が男根に伝わる。
「あんっあんっあああっ!!」
腰を打ち付けるたびに、女の嬌声が激しくなっていく。自分がこの女をこれだけ喘がせている。そう思うと、さらに体が熱くなった。
(やばい、やばいよぉっ……こんなに気持ちいいの、はじめてッス……ああ、晋助さま…晋助さま!!!)
愛する男の名をこの快楽の波で忘れてしまわないようにか、必死に高杉の姿を思い浮かべる。
「もう……来そうだ……かまわないか……?」
男が喘ぎながら、耳元で囁く。わざわざそう聞いてくるこの男に、思わず心を動かされる。
「いいッスよ…中に…中に出してくださいッス」
欲にまみれた艶のある声で女がそう言うと、更に孔の締め付けがきつくなった。
「くぅ……っ!!!はっ……!!!」
「あっあっ!!!!!──────…あぁぁぁぁ!!!!」
ドクドクドクっと、奥に熱い精が放たれる。その瞬間、二人はひし、と固く抱き合って。
そのまま、また子は快楽の果てへと堕ちていった。
■■■■
「───…ん…」
うっすらと目をあけ、口を半開きにすると、気づいたかのように伊藤が唇を重ねてきた。
男の腕の中でしばらく堕ちていたのか。少し脚をうごかせると、甘い疼きが体中に走った。
「起きたか…?」
彼の低いその声には、さきほどになかった優しさが滲んでいた。口付けをしながら、女の頭を優しく撫ぜている。
「し…晋助…さま…。」
「───!!」
ふいに、洩らしたその言葉に男の体が固まった。そして、不愉快そうに唇を離す。
「……目を開けろ。」
グイ、と女の顎を手で掴む。
「───……嫌ッス。」
「今目の前にいるのは、高杉殿ではない。この僕だ……。僕を見ろ。」
伊東は声を荒げながら、また子の顎をグイと持ち上げる。
「……嫌!!」
また子は頭をふった。彼の手によって快楽に堕ちてしまった、その事実を認めたくなくて。
「高杉殿は、君を満足させたことがあるか…?君に傷をつけて、一人で楽しんでいるだけだろうに…」
「………晋助さまが、それで喜ぶなら私も満足するッス。あ、あんたなんかには私は満足させられないッス!!」
プイと、目を瞑ったまま、そっぽを向く。
フゥ、と溜息をついて、体を少し離し、また子を見下ろす。胸に、脚に、無数の紅い印。
「……君は、僕のことが嫌いだろう?」
誰かにも問うた、その同じ文言を目前の女にも問うてみる。
「……嫌いッス!大嫌いッスよ!あんたなんか!…ほんと、しつこいし!性格悪いし!!!」
伊東の布団を取り上げて、また子は自身をくるみこむと、ジロリと伊東をにらんできた。
「………フン、僕だって君のような女は嫌いだよ」
ああ、大嫌いだ。こんな、テロリストでしかない野蛮な集団の頭である男に心酔しきっている女なんて。
本当に嫌いだ。嫌いすぎて、すべてを壊してしまいたくなる。奪いたくなってしまう───…。
「いずれ………」
「?」
言いかけて、胸のうちにしまう。
(いずれ……僕のものにしてやるさ…───。)
僕だけを見て、僕だけを想って──。僕の隣にいてほしい。
秘められたその想いには、伊東自身、この時、気づくことはなかった───。