風邪気味で店を休んでいる、幕府のお偉方との会合がなけりゃ見舞いに行きたいが今日は無理だ、代わりに見舞いの品だけでも届けてくれと局長に頼まれて、持ってきた果物カゴは庭に転がって泥まみれなのが見えた。
「女に恥をかかすもんじゃありませんよ、川崎さん」
「山崎です」
うっかり視線を妙に戻してしまい、急いで緩んだ襟元から目を逸らすと、敷かれた布団の横に、黒焦げたなにかが液体に浸かっている湯呑みが見えた。
「…風邪気味だから、玉子酒を作って飲んでたんです」
「あれ玉子酒!?」
(ダークマターじゃねーかー!!どう見ても酒じゃないよねあんなん呑んでなにが治るんだ!!?)
治るどころか、きっと妙は今、悪酔いしている。
でなければ、なんでこうも情欲に濡れた様子で山崎の上に馬乗りになっているのだ。
なにか気を逸らすものはないかと部屋を見渡したら、大人のジャスタウェイが転がっているのを見てしまった。
てらてらと淫靡な光り方をしているソレに、見えそうで見えない寝間着の裾の奥を想像して、ごくりと喉が動く。
「ねえ、もう、こんなものまで見られて、恥ずかしいんですから」
「み、見なかったことにしますから…ぅあ」
布越しだが、おもいっきり下半身に手を伸ばされて、山崎は声を詰まらせた。
「谷崎さんもこんななってるじゃないですか」
「や、山崎です」
薄々反応していた熱源をかりかりと布の上からこまかくひっかかれ、むず痒いような快感が生まれる。
ますます張り切りだしたそれを揉むように刺激されて、暑さのせいではない汗が滲む。
逸らすことを忘れた視線の先で、妙が艶然と微笑んだ。
「ほら…気持ち、いいんじゃないですか」
「そ…んな、…っ」
いくらマウントポジションを取られたと言っても、いくら相手が妙だと言っても、男と女だ。
その気になれば妙を振りほどけないはずはないのに、山崎は動けなかった。
それをいいことに、妙は少しずつ身体をずらして、山崎のベルトに手をかけだした。
「いやいやいや、待ってくださいって!」
慌てて上体を起こしたが、妙はあっさりズボンを脱がして、あろうことかそこに顔を埋めた。
肉棒がぬるりと暖かい粘膜に包まれ、先端を這い回る舌の感触に山崎は絶句する。
「あ、ま、待って…」
じゅぷ、じゅ、と淫猥な音が耳に届いて、山崎は頭の後ろらへんが痺れてくるのを感じた。
「ん…」
はらりと垂れた髪を、妙が邪魔そうに耳にかける。
「で、出」
「駄目です」
「っだーーーー!!?」
直前で根元を握られ、山崎は雰囲気ブチ壊しの悲鳴を上げた(いや元々、あんまり色気のある雰囲気ではなかったが)。
射精感がせき止められて、強烈な快感が逃げ場を失って山崎の中に逆流する。
生理的な涙で揺らぐ視界の中で、妙が肉棒から口を離して笑みの形に釣り上げた。唇の端に唾液が光っている。
「こっちに…ください」
もはや腰紐だけでかろうじて身体にくっついている寝間着をたくし上げるようにして、妙が再び山崎の上にまたがった。
ぬぷり、と口とは違うぬくもりとぬめりが肉棒を包み込む。
山崎が訪れる直前まで、大人のジャスタウェイを咥え込んでいたそこに、今度は山崎自身が飲み込まれていく。
「あん…ッ岡崎さん…の…」
(山崎ですけどそんなんもうどうだっていいや)
妙は山崎の胸に両手をついて、腰を動かし始めた。
グチュグチュという音に合わせて、山崎の目の前で、小ぶりな乳房が揺れる。
汗に濡れて艶々と光を弾くそのふくらみに、山崎は手を伸ばした。
汗のせいでかえってひんやりとしているが、しっとりと掌に吸い付く肌の質感に、山崎は陶然とする。
慎ましい膨らみの、つんと尖った部分を指の間に挟むようにして全体を揉むと、妙は切れ切れに喘ぐ。
「ん…ッ、あん…気持ち、いい」
きゅっと眉根を寄せて快楽に耐えるように目を閉じながら、それでも妙の腰の動きは止まらず、むしろ早くなっていて、元々限界だった山崎はあっという間に追い詰められた。
ドクリ。
それでも中はマズいと咄嗟に妙の腰をつかんで持ち上げる。
間一髪…なのか、白濁が妙の太ももや自身の腹に飛び散って、山崎は息を吐く。
欲を吐き出して、どこかで冷静さを取り戻した自分がうろたえているが、それを自覚するより先に、がしっと肩をつかまれた。
「高崎さん…」
「は」
目元をアルコールに染めたまま、妙が拗ねるように顔を近づけてきた。
「私、まだイってないんですけど」
「え………え?」
据え膳喰わぬは男の恥、とか言うけれど。
多分、喰われるのは山崎のほうだ。夜はまだ長い。