閉じられた襖の奥で梅雨の様な湿った空気がその部屋に満ちる  
 
窓を閉め切り、小さな豆電球が辛うじて物の輪郭を表す中で  
桂は幾松の白い肌に己の唇を這わせていた  
 
啄み、なぞる様にその滑らかな肌の感触と  
耳に届く甘い喘ぎを心地よく堪能しながら  
久方ぶりに幾松の身体を貪っていた  
 
短い息を吐きながら幾松の手がゆうるりと桂の長い髪を梳く  
そして胸元で戯れる桂の顔を優しく撫でた  
 
呼応するかの様に顔を上げて熱を帯びた視線を互いに絡め合わす  
桂も同じように掌で幾松の顔を包み込んで  
汗で張りついた髪の毛を指先で払いそのまま額に軽く口付けた  
 
どちらともなく小さく笑い合って深く深く唇を合わせる  
 
互いを唯一独占できるこの僅かな時間がとてもいとおしい  
 
次、なんて約束が出来る訳の無い二人  
刹那の証を焼き付ける様に求め合い与え合う  
 
志した目標に邁進するしかない程に  
どうしようもなく生真面目で  
 
自分を傷つけたかもしれない相手を受け入れてしまう程に  
どうしようもなく暖かくて  
 
 
距離を置くべきだと解っていたのに逆に縮めて果てには交わってしまった  
 
二人はどうしようもない愚か者  
 
桂を全て受け入れた幾松の、一際高く甘い声が悩ましく部屋中に響く  
 
どうしようもなく優しい愚か者  
 
せめて、この時だけは―――  
(終)  
 

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