「姐御ー。和服ってどうやって着るのか教えて欲しいアルー」  
志村家に庭先にひょっこり現れた神楽だったが、厭な顔ひとつせずに妙は笑顔で迎え入れた。  
「突然着物なんてどうしたの? それに、塀を越えて入ってきたわね。  
今は良いけれど、ウチに誰もいない時はダメよ。  
ストーカーと変態の不法侵入防止の為に留守の時はセキュリティが働くから…」  
「ゴリラは解るけど、変態て誰? 姐御、ストーカーの他に誰に狙われてるネ?」  
出されたお茶をすすりながら、本気で妙を心配する神楽を見て胸が痛んだ。  
しかし、今はまず邪魔者を排除しなければならない。  
妙は神楽に笑顔を向けたまま、おもむろに畳に拳を叩き付けた。  
ドカッと云う短い破壊音。  
床にめり込んだ細い腕に床板が擦れて幾筋かの傷と血が生まれている。  
「姐御! 血が…」  
思わず神楽が声を発したが、妙はその痛みなど気にする素振りも見せない。  
「あともう一つ…っ!」  
ゆらりと立ち上がった瞬間、片足を軸に身体を反転させそのまま床の間の壺を蹴り割る。  
割れた壺から上半身を現したのは、変態と称されていた眼鏡のくの一。  
「あー! 変態アル!! 変態ドMネ!  
お前銀ちゃんだけじゃ飽き足らず姐御もストーキングしてるアルか?」  
「てめぇら今すぐ出て行きやがれぇ!!」  
妙の怒号と共に床下ストーカーと壺変態が志村家から退散した。  
「さ、神楽ちゃん。これで邪魔者はいなくなったわ。ええと…着付けを教えてほしいのよね?」  
先ほどまでの気迫など無かったかのように柔らかく笑いかける。  
その笑顔を見て神楽も「うん!」と無邪気に笑い返してくれる。  
ズキリ…と胸が痛い。  
神楽のことは本当の妹のように可愛く思っているし、神楽も妙を姉のように慕っている。  
妙はそれが嬉しいし、本当に大切に思える。  
しかし、それはあくまで神楽を女として意識しなければの話。  
「地球来て結構長くなるけど、そろそろちゃんとした和装してみたらどうだーて云われたアル。  
キャサリンも天人だけど和服ネ。それに…」  
「それに?」  
少しだけ顔を赤くして、神楽は次の言葉を紡いだ。  
「きっと和服も似合って可愛いだろうから…って。そんなコト云われたら私、  
和服着るしか無いアルヨ…」  
神楽のチャイナ服は神楽の出身を語る民族衣装のようなものだ。  
それを脱いで和服を着たいと思わせたのは、恐らくあの男なのだろう  
──そう思うと妙の胸がまた傷む。  
 
──ああ、ダメ。自分の気持ちを打ち明けることも出来ないくせに、  
神楽ちゃんに嫉妬するなんて…最低だわ  
 
「あー、姐御ー。先に腕の手当しなきゃヨ。せっかくキレイな腕なのに傷なんて残しちゃダメネ」  
妙の複雑な心境など知るはずも無い神楽は、純粋に妙を心配し気遣ってくれる。  
しかし、その純粋さが妙の心に突き刺さる。  
「そうね、少し待っていてちょうだい。手当してくるから。  
あ、あと着物も持ってくるわね。私のお古だけど…」  
神楽を一人残し、部屋から出る。閉めた障子に背中を預け、妙は短いため息をついた。  
 
…可愛いだろうって云ったのは…銀さん…なんでしょうね。  
 
とぼとぼと廊下を歩き、自室に入る。  
先ほど負傷した腕に軽い手当を施しながらぼんやりと考える。  
近藤なら何も訊かずに私を慰めてくれるだろうか?  
もしくは──銀時への想いなど忘れさせてくれるだろうか。  
「……なんて、莫迦なこと…」  
痛い。  
腕も、胸も。  
銀時と神楽が好きあっていると具体的に耳にしたわけではない。  
しかし、普段の二人を見ているとそれは明らかだ。  
何よりも、神楽は銀時と同じ部屋に住んでいる。神楽は子どもだが、やはり女なのだ。  
いくらいい加減でどうしようもない程ダメな男である銀時でも  
気を許した者としか一緒に暮らさないだろう。  
以前、妙が万事屋を訪れたとき、偶然にも新八と神楽が不在だった。  
日が暮れるまでもう少しといった時間だったので、妙は新八の帰りを待って一緒に  
恒道館道場に帰るから待たせてくれ、と提案したがそれは却下された。  
「お前と二人きりなんて冗談じゃねえ。今ならまだ日が落ちる前に帰れっだろ?  
新八にはとっとと帰るように伝えるからよ、まぁ気ィつけて帰れや」  
ああ、やっぱり。神楽ちゃんはよくて、私はダメなのね…。  
肩を落とし、歩いた帰路。夕暮れの空を見上げたとき、視界は涙で歪んでいた。  
 
「え? この着物くれるアルか?! こんなキレイなの、ホントにイイの?!」  
「お下がりで悪いけど…よかったら着てちょうだい。とっても可愛いわよ。神楽ちゃん」  
神楽が妙から着付けを一通り習い、なんとか一人で着こなすことが出来た時には  
すっかり夜も更けていた。  
しかし、神楽は昼間よりも明るい笑顔で喜びを体現し、  
妙のお下がりの着物を纏いぴょんぴょんと跳ねている。  
その姿は本当に可愛らしい。銀時の事が無ければ、妙も心から喜べる情景だ。  
「姐御! ありがとうアル!」「おーい、邪魔するぜー」  
神楽の声に重なるように不意に声が聴こえた。  
闇夜に紛れて、庭から銀時が現れたのだ。  
「あー、銀ちゃん、不法侵入アル。姐御ー、セキュリティ発動するヨロシ」  
「ああ? セキュリティ? どうせあのストーカー専用だろ?  
俺はストーカーじゃありませんー。だからセキュリティなんざ発動しねぇんだよコノヤロー」  
家主に何の断りも無く縁側に腰を下ろす銀時の登場に妙の心はどうしようもないほど混乱した。  
せっかく今までは神楽へ理不尽な想いをぶつけること無く過ごせたのに。  
無意識に沸き起こる醜い嫉妬を抑え付けていたのに。  
それなのにこうも簡単に銀時が現れてしまっては何の意味もない。  
「おー神楽ー。似合ってんじゃんか」  
神楽の和装に気付いた銀時が賛辞を口にする。  
その声に抑揚はないが、わざとらしくない分本当に可愛いと思っているのだろう。  
「本当アルか? 可愛いアルか?」  
「可愛い可愛い」  
二人を見ていたくない…。  
ああ、どうして。こんな感情、要らないのに…!  
「あらぁ、わざわざお迎え? さすが銀さんね。神楽ちゃんには優しいのね」  
「お前ね…。神楽が晩メシの時間になっても帰って来なかったら心配するだろうが。  
こいつに何かあったらこいつのオヤジさんに殺されんだよ俺。  
お陰でまだ晩メシお預けだし、ウチで新八がメシの支度して待ってんだぞコンチクショー」  
銀髪をくしゃくしゃと掻きながら悪態をつく銀時を見て、また胸が痛む。  
ちがう。あんなことを云うつもりなど無かった。  
どうして私は神楽ちゃんみたいに可愛くできないんだろう。  
妙の胸の痛みはどんどん大きくなる。  
 
「銀ちゃん! 今新八一人あるか!」  
「うぉっ!?」突然神楽が勢いよく跳ね、その頭が銀時の顎を直撃する。  
「神楽ぁ!! アッパーっておまっ…」  
「姐御ー! 今日はありがとアルー!! 銀ちゃーん!  
ゆっくりそこで茶でも飲ませてもらっとけ!! いいか?! しばらく帰ってくんなヨー!!」  
そう云い残し神楽は壁をぶち抜いて走り去った。  
「え? …って云うか……壁…」  
残された妙は呆然としている。  
訳が解らなかった。  
何故神楽は一人で帰ったのだろうか。  
何故銀時はまだここに座っているのだろうか。  
わざわざ迎えにきたのだから、神楽を追いかけるのが道理のはずなのに。  
「あー…。悪ぃな。なんかいろいろ迷惑かけたっつーか…新八もまだ帰れなさそうだし…それに」  
未だ状況が呑み込めず立ち尽くす妙の隣に立ち、その肩に手を置いた。  
普段なら反射的に振り払っただろうその手を、妙はとても愛しく思う。  
その反面、辛くもあった。触れられた場所が熱い。  
「…それに? なんです?」  
声が震えているのが解る。解るのは、自分が動揺していることだけ。  
「いやホラ、しばらく帰ってくんなって云われちまったしよ。悪いけどちょっと居させてくんね?」  
そう云うや否や、銀時は部屋に入り座布団の上に座り込んだ。  
床にはまだ着物の帯や襦袢が散乱している。  
「あー。神楽、随分喜んでたみたいだな。和服さ、着てみたいって云いだしたんだけどよ。  
その原因はお前の弟だからな。俺じゃないからな」  
「…え?」  
「だからさ。新八が云いだしたんだよ。神楽の着物姿も可愛いんじゃないかってさ」  
「銀さんが…云ったんじゃないんだ…」  
妙の身体から急に力が抜け、がくん──と膝が折れその場にへたり込んでしまう。  
「ちょ! オイどうした?」  
後ろから銀時の焦りを滲ませた声が聴こえる。しかし妙は後ろを振り向かない。  
動かずにその場に座り続ける。  
「え? …あの…新ちゃんと神楽ちゃんって…もしかして…」  
「あ? 何? お前知らなかったの?  
あいつら中学生みたいなプラトニックラブのバカップルだぞ?」  
「そう…なんだ…」  
妙の声は完全に震えていた。泣きそうになっていたが、すぐ後ろに銀時がいる。  
泣くわけにはいかない。  
それに、何故泣きたいのか、心の中が混乱しすぎて解らない。  
嬉しいのか、悲しいのか。もしくは、情けないのか。  
「あ…お茶…すぐ煎れますから…待ってて…」  
とりあえずここから──銀時から離れて気持ちを落ち着かせよう──  
そう思い立ち上がろうとした瞬間、後ろから銀時の腕が伸び妙は抱きしめられていた。  
「銀さ…」  
「あのさぁ…。んな涙声で背中向けられてたら…なんつーか、なぁ?」  
妙の耳元に銀時の吐息がかかる。自分の顔が紅潮し、熱くなるのが解る。  
 
しかし心はまだ混乱し続けていた。  
何故銀時が自分を抱きしめているのか。厭ではない。嬉しい。  
けれど、同情だとするならそれは──  
「銀さん…ご飯まだなんでしょう? 簡単なものでよかったら用意しますから…」  
とにかく、なんとか理由をつけて銀時から離れたかった。  
後ろから絡まる腕に手を重ね、どけてくれ、と意思を表す。  
その際着物の袖が引力に従い下に垂れた。  
細腕に巻かれた包帯が眼に留まる。銀時は思わず妙の束縛を解き、その手を掴んだ。  
「どうした? ケガか?」  
そのとき二人はようやく正面から向き合う形になった。  
妙の眼には、焦りでいっぱいの銀時の表情が。  
銀時の眼には、動揺で頬を染める妙の表情が映る。  
「ゆ…床下に近藤さんがいたから」「床板叩き割って帰ってもらったんかい…」  
全く、そんなしょうもないことでケガして傷でも残ったらどうすんだ  
──そう呟くと、銀時は包帯の巻かれた腕に口づけをした。  
「銀さん!?」  
銀時の唇は飽くまで包帯に触れている。直接妙の肌に触れているわけではない。それでも熱い。  
「ああもうぎゃーぎゃーうるせぇ口だなぁオイ」  
掴んでいた腕をぐいと引き、妙の身体を引き寄せる。  
突然の事に顔を上げて抗議の視線を寄越す妙の唇は、一瞬で銀時の唇に塞がれていた。  
最初はただ唇を重ねるだけだったが、銀時の舌が妙の唇に触れる。  
思わず妙が閉じていた口を開くと、すかさず銀時の舌が侵入しその咥内を貪った。  
妙にとっては初めてのキスだった。まさか本当に誰かに舌を入れられるなんて考えもしなかった。  
そして、  
自らも進んで舌を絡ませるなんて──  
「………はっ…あ………」  
どれぐらいの時間、そうしていたのだろうか。  
ようやく銀時から解放された妙の顔は熱で紅潮し肩で息をしている。  
どちらのともつかない唾液が口の端から溢れ艶かしく光っているのが銀時の欲情を煽った。  
「あーあ…、すっげーエロいよお前。どうしてくれんの。  
てか、なんで泣いてたんだよさっき。つーかまた涙眼なってるしよぉ…」  
「…ぎ…んさんが…勝手に…! それに…私が泣いたって関係ないでしょう? 私は…」  
妙は完全に泣いてしまっている。顔を下に向けて涙をぽろぽろと流す。  
それは銀時の着物に落ち、その染みを広げていく。  
「お妙」  
妙の耳元まで顔を近づけ囁く。キスで火照った妙はそれだけで十分に反応してしまう。  
「俺の勝手な推測で悪いんだけどよ。お前、俺と神楽がデキてるーって勘違いしてたんじゃねえの?  
そんで、銀さんに惚れてるお前は神楽に嫉妬してた。  
けどソレは全部勘違い。張りつめてた糸が切れて気が抜けて、んで泣いちまった。違うか?」  
「だいたいソレで合ってるけど……銀さんは…私のこと嫌いでしょう?  
私と二人きりなんて…厭だって…! それなのになんで…こんな…」  
云った。云ってしまった。  
あの日、あの夕刻の万事屋での出来事。  
──お前と二人きりなんて冗談じゃねえ  
その言葉は、あの日からずっと妙の心に突き刺さっている。  
 
「あー……お前…まさかあの日のこと云ってんのか…。あー……あれなぁ…」  
泣き続ける妙の不安を拭うように銀時は妙を抱きしめ、妙の頭をポンポンとあやす。  
「いやさ、云い方は確かにマズかったんだけどよ。俺だって男なんだよ。  
なんつーか、…惚れてる女と二人きりなんてよ?  
新八と神楽がすぐに帰ってくるのがわかってんのにさ、無理だって。  
理性抑えるのも必死だしよ。だからって襲っちまうなんて言語道断だし。  
だから…お前にゃ悪ぃけど、無理矢理にでも追い出しとかねぇと…その…なんだ」  
ぐい、と妙を身体から離しその漆黒の眼を見つめる。  
妙の顔はとても美しい。なんて女だ──銀時は暴れ狂う自分の感情に嗤うしか無かった。  
「要するに…俺はお前が好きだ。お妙」  
そう云うと、今度は妙から銀時と唇を重ねてきた。  
 
ああ、ホントなんて女だ。キスだけで済まなくなるぞ…俺が。  
………つーか、無理だ、うん。どうしてくれんだよマジで。  
 
「……っふ……ぁ………」  
 
あー。もう無理。無理無理。ぜってー無理。なにコイツ。  
なんでこんなに可愛いの。つーか、よく今まで我慢してたな俺。  
 
「妙…」  
銀時の唇が離れ、妙の首筋や鎖骨に吸い付き舐め上げる。  
「あ…銀さ…んっ! あ…私…こう云うの初めてで……ああっ!」  
赤い花が生まれるたびに妙の身体はびくんと痙攣し、小さく喘ぐ。  
妙は抵抗もできずにいる。帯が解かれてしまってもその手を止めることが出来なかった。  
着物を脱がされ白い肩と小さな胸が露になると、さすがに二つのふくらみを隠そうと抵抗してきた。  
しかしそれは逆に銀時の嗜虐心を煽る。  
「隠すなって。いいから、全部見せろ…」  
妙の手を握り、身体から引き剥がす。  
それでも力を入れて抵抗を続ける手を押さえ込み指同士を絡ませてやる。  
抵抗は無駄と悟ったか、妙の手から力が抜けた。  
空いたもう片方の手で妙の小さな胸をゆっくり包み込むようにして揉みしだくと、  
かすかな嬌声が上がる。  
「…あ…っ」  
しばらくは中心を避けて手の平を這わせていたが、妙の下肢が微かに震えたのを銀時は見逃さなかった。  
中心にある桜色の先端を指先で弄ぶとそれはすぐに屹立する。  
そしてすかさずその一方を口に含んだ。  
「あ……ぁあ…」ぴくんと身体を震わせ、喘ぐ妙が可愛らしい。  
口の中で存在を誇示する先端を舌で舐め転がし、もう一方を指で摘む。  
「っん………ふぁ……ああ…っ!」  
自分の口から零れる今まで聞いた事の無い甘い声。  
妙は恥ずかしさのあまり、口をきゅっと閉ざし、顔を横に振った。  
「厭だってか? おいおい、そりゃねーよお前」  
「待って! あ…っ…」  
銀時の手が妙の白い内腿に触れ、そのまま潤みを帯びた秘所に指を添える。  
「あ……ダメ……あ…」  
「なぁにがダメなもんか」  
 
妙の両腿はきゅっと閉じ頑に侵入を拒もうとするが、  
それより早く銀時の膝が割って入り結局は侵入を許してしまう。  
銀時の指が秘裂をなぞり、妙の最も敏感な場所をようやく見つける。  
そこを指の腹で擦りあげると、妙は耐えきれずに喘ぐ。  
声が上がる度に蜜が溢れ銀時の指を濡らす。  
そしてそのまま妙の中に指を滑らし、秘所を指で犯し続ける。  
くちゅくちゅと響く水音は妙の意識を溶かすのに十分だった。  
「や………銀さ………あ……ああ!!」  
「初めてなんだろ? その割には感度いいなぁお前。こんなに濡らしてさ」  
銀時は完全にサドだ…まともに働かない思考をなんとかふるわせ、妙は思う。  
でも、愛する男が与えてくれる快楽なら全て呑まれてもいいのかもしれない──。  
羞恥はまだ十分に妙の中で暴れていたが、それ以上に銀時が触れた場所が熱くなり  
段々と何も考えられなくなっていた。  
「悪ぃ…妙…もう俺が無理」  
「え…?」  
肩で呼吸を繰り返す妙の額に滲む汗をやさしく拭うように撫でる。その指先が熱い。  
「銀さん…私のこと…好きですか…?」  
「ばーか。好きじゃねぇとやらねーって」  
困ったようにはにかむ銀時を見て、一層愛しさが増す。  
「妙…愛してる…」  
妙の耳元で囁きながら、銀時は己自身を取り出す。  
「痛いと思うけど…ゴメンな」  
密で濡れた秘所に少しずつ自身を妙の中に沈めていく。  
いくら慣らしていたとはいえ、破瓜の痛みはやはり妙を襲う。  
それでも痛いなどと口にはせず、ぎゅっと眼を瞑りその痛みに耐えている。  
そんな妙を見て、銀時は何度正気の手綱を放したいと思ったか知れない。  
欲望のままに貪って、突き上げて、嬲って、啼かせて…。  
でも出来なかった。妙が遊びで付き合える程度の女ならどれだけ楽だったか。  
本気で惚れて、大切にしたいと心から思えた相手だからこそ、今まで我慢も出来た。  
今もそうだ。大切にしたい、けれどこの手で無茶苦茶に壊してしまいたい──。  
「悪ぃ…」  
妙の耳に聞こえない程の小さい声だったが、それでも妙の鼓膜を揺らすのには十分だった。  
痛みに耐え続ける妙の手がそっと銀時の頬に触れ、微笑みを浮かべている。  
「大丈夫…だから…銀さん…泣かないで」  
そう云われて初めて、銀時は泣いていることに気付いた。  
 
今度こそ、守り抜こう。手前の大切なものぐらい、守れなくて何が侍だ──。  
「妙…」  
まだ治まらない痛みを和らげるため、妙の全身愛撫し、キスを降らせる。  
少しずつ妙の身体は緊張と痛みから解放され開いていく。  
「…あ…んっ…ああ……」  
切なげな吐息が漏れる。銀時はその声を聴き、堪らずその唇を貪るように重ねた。  
どちらともなく舌を絡みつかせるとやがて 妙も腰を振り始めた。  
銀時はその腰をしっかりと抱き、激しく突き動かした。  
「やぁっあっあ…ああ……!!」  
腰を突き動かされ、銀時の肉棒が挿入を繰り返すリズムに合わせ、妙の全身が震え、嬌声が上がる。  
その声を受け止める銀時も限界が近付きつつある。  
妙の中を思うままに蹂躙し、沸き上がるすべてを放出した。  
「妙……妙…っ」  
何度呼んでも足りない。愛しい名を繰り返す。  
しかし妙は何の反応も示さない。銀時の腕の中で静かな寝息を立てていた。  
「あー…まぁいろいろあったしなぁ…」  
苦笑いを浮かべたが、腕の中にある妙の存在をしっかりと感じ取り、充足感を噛み締める。  
銀時はいつまでもこの手を離したくないと誓いを立てた。  
 
 
「新八ー。銀ちゃんと姐御、二人きりにさせる計画はこれでダイジョブアルかー?」  
「まぁ、大丈夫だと思うよ。これ以上は僕たちが立ち入る問題じゃないしね」  
「銀ちゃんも姐御も、お互い好きだって思ってるクセしてじれったいアル。  
全く、ガキはこれだから困るネ」  
「とりあえず、ご飯食べちゃおうか。あ、銀さんの分も食べて良いよ」  
「マジでか! いただきますアルー!」  
「………まぁ、銀さんも多分食べちゃってるだろうしねぇ…」  
──こうして万事屋の夜は更けていった。  
 
 
 

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