すまいるの奥のボックス席で、銀時はソファにふんぞり返っていた。
「んだよ、お妙休みかよ」
薄い水割りを一口飲み、銀時はちっ、と舌打ちした。
久しぶりにパチンコで勝った帰り、すまいるに寄ってみたがお妙はあいにく休みだった。
おりょうや花子といった銀時がよく知っているキャバ嬢は上客の相手に忙しく、残っていたのは阿音だけ。
「名刺にお休みの日書いてあるでしょ?」
銀時に指名された阿音は営業スマイルのかけらもない顔だ。
「名刺貰ったことねえもん、お妙に」
「あっそ。じゃあそれ飲んだら帰んな、万事屋」
「うるせえよ、阿婆擦れ巫女。言われなくても帰るよ!」
小指で鼻をほじると、銀時はお妙がいないんなら来るんじゃなかったよ、と呟く。
阿音も折角の指名に営業用スマイルで控え室を飛び出してみれば、よりによって万事屋銀時。
控え室で化粧直しでもしていた方がよっぽどましだったわ、と呟いた。
「ところでさ……巫女プレイとかすんの? お前」
銀時がふとそんなことを言い、阿音は「はぁ?」と返す。
「棒の先に白い紙ふさふさつけたアレでさ、おっぱいさわさわ〜とか……あり?」
「いっぺん死んでこいよてめえ」
「あなたの股間の破魔矢を私のおまたの的のど真ん中に、とかお神酒でワカメ酒とか」
「しねえよ」
阿音はため息をついた。
(男ってのはどうしてこう巫女に夢見るのかしらね)
「なぁ」
「……!」
阿音はぎょ、っとした。
銀時の手が、阿音の袴の太腿にいつの間にか置かれていた。
優しく撫でられる。その慣れた手付きに、性的なものを感じ、阿音はいけない、と思った。
「ちょ……ここおさわり禁止なんだけどっ!」
「――そういうことしねえんだったら、どういうことすんの?」
少しばかり赤い銀時の顔が、阿音のすぐ目の前、鼻先数センチの距離にぐいっと迫った。
よく見れば悪くは無い顔立ち、いつになく真剣な表情。低い声で尋ねられ、阿音は答えに詰まった。
「な、阿婆擦れ巫女」
銀時の手が、太腿の付け根に触れる。布越しだが、確かにその手付きはいやらしいそれだった。
阿音が足を閉じたが、それをこじ開けるように銀時の手が動く。
他の客なら平手の一つも食らわせてかわすのだが、銀時の獣と雄を感じさせる据わった眼差しに、
阿音はそれを選ばなかった。
(この男……って、……もしかしなくてもやばいかも……何よ、ちょっとカッコイイかも……)
「阿音よ」
「ん?」
「阿婆擦れ巫女じゃないわよ……阿音って名前があるのよ」
声が震えている。阿音は息を呑んだ。気圧されそうなのを悟られまいと、銀時を睨む。
「あっそ……じゃあさ、阿音ちゃんさ」
袴を離れた銀時の手が巫女装束の胸元に当てられる。胸のふくらみをなぞる。
「さっきの質問、答えてくれねえの? それと心臓ドキドキしてるみたいだけど、どうして?」
わざと左を触ったのだ。ずるい、と阿音は思った。
「聞きたいなら教えてあげるけど、ここじゃこれ以上は無理よ」
ダメだ、陥落。降参だ。阿音は銀時に折れた。ずるい男だわ、と阿音は負け惜しんだ。
「んじゃ、阿音ちゃん連れ出しでお願いしまーす」
「――高いわよ」
「いいぜ、今日はパチンコでジャンジャンバリバリ出たから」
あっちの方もジャンジャンバリバリ出しちゃおっかな、と銀時は不敵な笑みを浮かべた。
(おわり)