「……来てらしたんですか」  
再開の言葉は妙からだった。  
夜通しの仕事を終えた妙が朝日を引きつれて帰ってみれば、招かれざる客は妙の家の縁側で暢気に煙管を吹かしていた。  
「久しぶりだなぁ、妙」  
煙管を縁側に叩き付け灰を落とし、高杉は不敵に笑う。  
いつだったか勝手に羽織って帰ったままの妙の着物……蒲葡に黄金の蝶が舞う丈の足りない女物を我が物のように着、  
海松茶の羽織を肩からかけていた。  
「また大騒ぎを起こしに戻ってきたんですか?」  
「小せぇ騒ぎなんざ起こしたって面白くねぇだろ」  
皮肉を軽くあしらわれ、不機嫌を露にした顔で、妙は高杉の隣に座る。  
京に潜伏していた筈の高杉が江戸に現れたことはつとに江戸の人々の耳に入っていた。  
高杉による料亭での幕吏殺害は記憶に新しく、そのせいだろう、妙の店の常連だった幕府の関係者らの足がすっかり遠のいている。  
「あなたのお陰でお店が暇で仕方ないわ。どうしてくれるの?」  
「そりゃあ悪かった。……埋め合わせだ」  
高杉は懐から随分と分厚い紙包みを出し、妙の膝の上にポンと置く。  
それが札束だということを察知した妙は「いりません」と毅然とした態度で包みを突き返す。  
「こんな血に塗れたお金なんていりません」  
「つれねぇなぁ……金、困ってんだろ?」  
高杉はぐるりと屋敷を見渡す。  
庭の松は枯れ、塀はあちこち崩れかけていた。  
雨戸が閉じられたままの道場の屋根瓦は所々欠け、障子は黄ばんでいる。この家の今の経済状態は、誰の目にも明らかだった。  
「……お金なら自分で稼いでいます。弟も働きに出ていますし」  
「はっ、お前らの稼ぎじゃこの道場が盛り返す頃にゃ、二人ともジジイとババアになっちまうぜ」  
突き返された包みを懐に仕舞うと、高杉は妙の肩を抱き寄せた。  
「お前の弟と言やぁ」  
耳元で、急に小さな声で高杉が囁いた。  
「手紙、読んだぜ。俺が京を発つ前の日に届いた」  
冷たく柔らかな妙の耳朶を、高杉は軽く舐めた。くすぐったさに妙が身を捩る。  
「お前の弟が働いてる万事屋……皮肉なもんだなァ。まさかアイツんところで働くたぁ……」  
 
「………」  
妙は高杉から目線を反らした。  
「あいつとはもう寝たのか?」  
妙の身体がビクっと跳ねた。  
「銀時のことだよ」  
「あの人とはそんな関係じゃないわ」  
高杉の方を見ようともせず、妙は否定する。  
妙が銀時と会う前に、妙は既に高杉と懇ろな間柄だった。  
銀時のことは昔の話の中で高杉から何度か聞いていた。  
まさかこんな形で出会い、関わりを持つことになろうとは妙にも高杉にも予想外だった。  
銀時は妙と高杉のことを知らない。無論、新八も知らない。  
妙の肩を抱く高杉の指先に力が篭る。妙はじっと唇を噛み締めている。  
『抱かれちゃいないが、憎からず……ってところか』  
妙がこんな顔をするときは高杉の予想が当たっている証拠だ。高杉には分かっていた。  
「真選組の局長から言い寄られてるらしいな」  
「あの人はただのお客よ」  
「お前はそのつもりだろうがな……まったく、お前って女は……血生臭い男ばっかりが寄ってきやがる」  
「やっ、」  
妙の顔を自分の方へと無理に向かせ、高杉は妙の唇を奪った。妙は抵抗しなかった。  
一度行為を始めたこの男から逃れることなど出来ないと知っていたからだ。  
高杉は妙の着物の身八つ口へ手を入れ、幼さの残る膨らみを優しく愛撫した。  
「……ん……ッ」  
手馴れた愛撫に、妙が喘ぐ。  
会えなかった期間は随分と長く、それを埋めようとするように高杉は妙の唇を貪った。  
舌を絡め、煙草の味のする唾液が送り込まれ、妙はそれを飲み干す。  
隻眼は恐ろしさの奥にどこか優しさを秘めていて、その目は妙を映していた。  
「俺がいない間、誰にも抱かれちゃいなかったってぇのか」  
糸を引き唇を離し、高杉は妙に尋ねる。妙は無言で頷く。  
満足げに口端を上げてにやりと笑い、妙を縁側に横たえる。  
肌蹴た妙の着物の裾からは白い脚が伸びる。  
「あ、あっ」  
妙の太腿に、高杉は愛しそうに頬を寄せ舌を這わせた。  
付け根へとつぅ、と舌先を走らせると、その先にある薄手の下着は先程のあれだけで、もうしとどに濡れていた。  
「何だ、たったあれっぽっちでこんなになってやがる」  
 
「……だって……」  
指摘された恥ずかしさに妙は赤くなった顔を両手で隠す。  
高杉は顔を寄せ、わざと鼻を鳴らしながらその濡れた箇所の匂いをかぐ。  
甘酸っぱい性の匂いはやや刺激的で、薄手の下着に濃い染みを作っていた。  
下着の脇から指を入れて探ると蠢く花襞が高杉の指へと絡みつき、包皮から顔を出す淫芽が手の腹に当たった。  
「あっ、はぁッ!」  
妙の膣内を高杉の指が激しく掻き混ぜた。根元まで入れられた指はよく知った妙の中の、いい場所ばかりを狙った。  
入り口の上を激しく擦ると妙の腰が勝手に動き出す。  
「いやッ、あ、あ、ァッ、」  
喘ぎ声というよりもむしろ嬌声を上げながら、妙は乱れた。  
「やッ、あ、ああぁぁぁ……!」  
「もっと感じろよ、いいぜ、妙」  
会わなかった間誰にも抱かれなかったという言葉は嘘ではないらしく、腰をくねらせ悶えた。  
熱を帯びた妙の襞は高杉の指へ吸い付き、もっと奥へと誘う。  
そこから聞こえる品のない水音は、とどまる事のない欲望そのものだった。  
高杉は妙の濡れた下着を無理に剥ぎ取ると、蒲葡の着物の前を押し上げていた己の雄を、  
はしたなく口を開く妙の膣口へと宛がい、一気に奥まで押し込んだ。  
「ア・あァッ!」  
妙がのけぞった。高杉は妙に覆い被さり、激しく腰を動かし始めた。  
妙の胎内は待ち草臥れていたといわんばかりにねっとりといやらしく、高杉の雄を歓迎した。  
「ひァッ、あ、はッ、あっ、あ、あ、」  
酸欠のように妙は言葉にならぬ声をあげ、高杉の頭を抱き寄せる。  
「妙、お前は俺だけのモンだ……誰にもやらねえ」  
汗を滴らせながら、高杉は妙の耳元で囁く。  
妙の中に己を打ちつけながら、誰にもやらねえ、と繰り返す。  
「わかってるなぁ、妙……!」  
「ン、あ、あ、」  
喘ぐ声は了解だったのか、拒否だったのか。  
妙の身体を知り尽くした高杉は何処までも妙を翻弄し、結合した部分からは透明な飛沫が何度も上がった。  
甘い痺れが全身を支配し、妙はいつ終わるとも分からぬ快楽に我が身を委ねるしか他なかった。  
もう会わないつもりで居た男なのに。  
会えば抱かれると分かっていたから。  
恐らく自分はこの男から、きっとずっと逃れられないのだろう。  
そんな思いが、妙の胸の片隅で交錯する。  
長い再開に、終わりの時が来た。  
「オラ、……とっとと孕んじまえ、ッ、」  
大きなストロークとその言葉と共に最奥で放たれた高杉の思いが、妙の胎内を満たした。  
「―――ァ……ああ……ッ……!」  
妙は脱力し、溢れた白濁が縁側を汚した。  
 
 
「江戸には暫く居るつもりだ。色々楽しいことがありそうなんでな」  
煙管を吹かし、高杉は懐から先程の包みを再び取り出し、未だ乱れた格好のまま横たわる妙の胸の上に置いた。  
「抱かれたけりゃいつでも来い」  
名残惜しそうに妙の頬に口付けをすると、高杉は去って行った。  
「……こんなもの……」  
捨ててしまおうと妙が掴んだ包みの隅には、江戸での潜伏場所の宿の名と、逗留用の偽名が記されていた。  
そしてその下には、詠み人知らずの恋の歌。  
それは確かに、高杉の字だった。  
「……馬鹿な人」  
妙は呟き、目を閉じた。  
 
(幕)  
 

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