「おーい、ついにきーちまったぜー」  
 戸口が開くとともに聞こえてきた懐かしい声に、レイははじかれたように飛び出してきた。  
 ギンーっと呼ぶ声と彼女が抱きついてくるのがほぼ同時で、銀時はよろけながらも彼女を受け止めた。  
「おいおい、いきなり客を転ばせる気かぁ?」  
 霊体となった今、ぶざまにこけることはないのだが、ここに来てしまったことやそう錯覚してしまったあたり、まだ自分の中では受け入れられていないのかもしれないと銀時は思った。  
 
 出迎えのレイはというと、すがりつき泣きながらいとしい男のここでの『名』を呼び続けている。  
 
「いつまで泣いてんだよ。客を案内しろって」  
 レイを軽くおしやると、レイはあわてて奥に消えていった。  
 
「んーいい湯だな」  
 銀時は準備された露天風呂に浸かる銀時はすっかりとご機嫌だった。  
 今日は貸切ということで、風呂には誰もいない。  
 あの時は雪に閉ざされていたが、今は山は燃えるような紅葉で埋め尽くされていた。  
「紅葉狩りしながら入るのもおつなもんだぜ」  
 
「嬉しいねぇ、そう言ってもらえると」  
 銀時の背中を流す準備をしているレイも上機嫌で、血潮の通っていない頬にうっすらと赤みがさしているような錯覚さえあった。  
   
「いいのか?オレ独り占めして」  
「いいんだよ。ぬくもったらこっちにきて。流してあげるから」  
 銀時は言われたとおりレイの待つ洗い場に向かった。  
 レイは石鹸をたっぷりと泡立て銀時の背にまぶす。  
「おい、タオルは?」  
 手のひらで背をなでていくレイに銀時がきくと、レイは  
「あんたを直接感じてたいんだ。だって…やっとここに来てくれたんだからさ…」  
 レイはその手を銀時の前に回し胸元から腹にかけても彼女の手で直接洗い始めた。  
「そんなことされたらオレまずいんですけどぉ?その気になっちゃうよって…もう死んでんだからそりゃなしか」  
 レイの手が一瞬止まった。だが、彼女はフッと笑みを浮かべさらに体を密着させた。  
「バカお言いでないよ。ちゃんと感じてるんだろ?」  
 それに…あんた十分若いよ、と言われ銀時は目の前の鏡に移る自分の姿に苦笑した。  
   
 あれから自分は年を重ね、この生来の白髪が違和感がなくなる年になっていたのだが、今ここにいるのはあの時初めてこの温泉にきたときの姿のままだった。  
 
「ここに来る時にはね。自分が一番こうありたいって思った年のころなんだ」  
「そうかい」  
 耳元でくすぐるようにささやくレイにそっけなく答えた銀時だったが、レイの言うことはウソでないことを認めていた。  
 触れている箇所から伝わる感触に血潮の通わない体にも確実に情欲がわき始めている。  
 自ら積極的にこういうサービスをしようとしているということは、レイにもその気があると解釈してもよさそうだが、一つ気になることがあった。  
 
「それはそうと、おまえいつもこんなサービスしてんのか?」  
「いいや、あんただけだよ。あたしがこうしたいって思ったのはさ…」  
 
 そうかい、と小さくつぶやいた銀時は目を閉じレイの愛撫に身を任せ始めた。  
 
 レイは愛しそうに銀時の体を洗っていく。  
 あの時一瞬触れた彼女は温度も質量も感じることができなかったが、今は違った。  
 ぎこちない指の動きではあるが確実に彼女は銀時の体に触れていく。  
「おまえさん、生きてるときに誰かいいヤツでもいたのか?」  
 レイは小さく首を振った。  
 銀時はそれにちょっと戸惑ったような表情を浮かべた。  
 この清らかな魂に欲情を感じてしまった自分を恥じたかれだが、さっきの「待っていた」という言葉がそれを押しのけてしまった。  
「いいじゃない、そんなこともう関係ないよ。生きていたころの未練これっぽっちもないんだ。もうとっくの昔に消えてしまった」  
 ただね…。  
 レイは手を離すとそばの洗面器を取り銀時の背中を流してはじめた。  
「…一度だけこの世にいなかったことを後悔したことがあったよ」  
    
 それについて、銀時はもう何も口にしなかった。  
 ここのお湯は死せる者にも温泉のぬくもりを感じさせることができるらしい。  
 ああ、極楽だ、という平凡な感想が口をついて出るころには、さっきレイに抱いた感覚を忘れかけていた銀時だが、露天風呂に出ようとしたとき、片付けをしている彼女に声をかけた。  
「おめぇもどうだ?」  
 レイは驚いたような顔をした。  
「客は俺だけなんだろ?一緒に入りゃいいじゃねぇか」  
「そうだね」  
 
 銀時は彼女が着ているものを脱いで来るのを露天風呂の淵でまっていた。  
 そして恥ずかしそうに前を隠してやってきた彼女の手をとり、一緒に湯船に浸かった。  
 見渡す限りの紅葉に感嘆しつつ、温泉に女にときたら当然口をついてでるのは酒のこと。  
「いいねぇ。ここでまた一杯やりながら風呂に入るともっと」  
 といいかけたのにレイがあわてて出ようとしたのを銀時は止めた。  
「ごめん、じゃあ準備してくる」  
「冗談だって。おまえもゆっくりしろ」  
「だって、お客に…」  
 言われたことを…というレイの言葉は銀時の唇に封印された。  
 驚き目を見開いているレイの唇を割るのは容易でなかったが、舌先で何度もなぞるうちにレイの目は細くなりゆっくりと体に入っていた力が抜けていく。  
 いったん離れた銀時が、彼女を抱き寄せ、耳元で『サービスしてくれんだろ?』とささやくと彼女は銀時の胸元に頬を寄せた。  
   
 湯の下で触れ合うレイの体に手を回し、下に滑らせていくと、レイは「いや」と体をこわばらせたが、  
「俺に任せとけって」  
 という銀時につられて軽く体を開いた。  
「そうやって力抜いときゃいいんだ」  
「でも…」  
 これじゃ私は何もしてないじゃないか、というレイに銀時は  
「あのな。こうやって触れてるだけでもこっちゃすんごく楽しいの。なんたってよ、死んだ後にこんなことできるって思ってもなかったからよ」  
「そうなんだ?」  
「おうよ。これだけでも十分。ほれ」  
 と、いたずらっぽく笑い、レイの手を自らの下腹部に触れさせた。  
 レイは触れたそれがどうなっているのか見て笑ってしまった。  
 
「本当だ」  
「そろそろあがるぜ」  
「…で、でもっ」  
「いつまでも外にいたらせっかく温まってもさめちまうだろ。ホレ」  
 銀時はレイをひょいと抱え上げ、湯船から出た。  
「ちょっちょっとっ」  
 レイは降りようともがくが銀時はそれを許さない。  
「お楽しみは今からだよ、おめ、青姦するつもりだったのか?」  
 レイは恥ずかしそうに顔を背けたが、すぐに銀時の胸に体を預けてきた。  
 
 脱衣所で体を拭きあい、銀時はもう一度レイを抱き上げると最初に案内された部屋に向かった。  
 中にはすっかりと床が整えられていた。  
 一つの布団に二つの枕。  
「準備整ってるじゃねえか、オイ」  
「え…これは…」  
 レイは戸惑っているようだが、銀時はそれにお構い無しに彼女を床に横たえた。  
「気が利いてるな」  
 レイの唇が何か言おうとするのと銀時の唇がそれを封じたのは同時だった。  
 先ほどとは違うむさぼるような息もつけない口付け。  
 銀時はレイがぎこちなく応える暇も与えず、小ぶりだが形のよい乳房に手を伸ばし乳首を指でもてあそび始めた。  
 レイはようやく開放されたが、整えることのできない息が切なげにもれた。  
 やわやわと揉みしだく手は意外と大きく、男というものはこうなのかと思う。  
 潰してしまわないよう、やさしく転がす指先とさっきまでもてあそんでいた唇が時折強く吸うのが交互に行われ、放置されていたもう一つの乳房も、こちらも忘れないでといわんばかりにツンと上を向いている。  
「あ…ァ…ン…」  
 このころにはレイの唇は完全に半開きで、不意に銀時の唇が重ねられたのに、離すまいと、首に腕を巻きつけむさぼった。  
 離れた銀時は、どこか、してやったりと言わんばかりの笑みを浮かべており、  
「お楽しみはこれからだからよ」  
 と言うと、レイの首筋から胸元、腹部にかけて舌を這わせていき、彼女の両膝の間に割って入ると一気に両脚を開いた。  
 
 この仕打ちには、さすがにレイも首を振り嫌がったが、指先で草むらをかきわけてあらわにされた秘所はすでに潤いはじめていた。  
 痛いほどにつきささる銀時の視線に  
「ちょ…やめてよっ」  
 とレイは泣き出さんばかりの声で懇願したが、銀時は聞こえないふりをし、そのまま秘裂に指を這わせ始めた。  
 レイは息を詰め、眉を寄せていたが、次第に増してきた潤いを指先に絡めた銀時が縦横無尽に指を這わせ始めると、すぐに体を捩りだした。  
 
 しばらくはレイの切なげな吐息と湿った水音しか聞こえなかったが、それにいつの間にか銀時の荒くなった息が混じり始めた。  
 もう今となってはそういう生理現象が起きるのはありえないと分かってるのだが、触れ合っている部分がじっとりと汗ばんでいるという錯覚がし、銀時は動きをとめた。  
 暖かいと感じているのも錯覚なのか?  
 錯覚というには体を駆け巡る情欲はあまりにも熱すぎて、最初のころは何度か閉じようとする行動もあったレイもいまやすっかりと脚を開ききっており、その最奥では、生きている間はついに熟れることのできなかった果実が、今やもぎ取られるのを待ちわびていた。  
 銀時はしばらくそこに見入っていたが、レイが何か問いたげにうっすらと目を開けたのに気づくとあわてて愛撫を再開した。  
 すでに蜜で溢れ返っている場所に指をもぐりこませたところ、初めて受け入れるレイは体を堅くした。  
「大丈夫だって」  
 という言葉に力を抜こうとしたが、依然として眉根は寄ったままだ。  
 これはちょっと骨が折れるかな?と思いつつゆっくりと指を蠢かせるとまとわりついてくる襞にはやる気持ちを抑えきれなくなった。  
 湿った音が次第に高くなりそれと同時に今ではすっかりと銀時の指に慣れてしまったレイは痛いほどに締め上げている。  
 からかうように、  
「ん?どうした」  
 といわれ、大きく胸をあえがせるだけで言葉にならない。  
「素直に言ってみろよ、ホラ」  
 銀時は指をもう一本増やし、今度は激しく出し入れを始めた。  
「ひっ…ふぁ…んああ…んんーっ」  
 それと同時に存在を主張し始めている肉の芽に指をかけると、レイの口から短い悲鳴があがった。  
 激しさを増した指の動きにレイは息を上げのどをのけぞらせて体を震わせている。  
 それを見たからには銀時もこれ以上ガマンするのはムリだった。  
 おもむろに指を抜くと、彼女のひざに手をかけぐいっと引き寄せた。  
 突然止められた愛撫にレイは頭を上げて銀時を見た。  
 
「もう限界」  
 銀時はレイを引き寄せると足をあげさせ、あらわにした場所に己を押し付けた。  
 さすがにここまでなっていれば大丈夫だろうと思ったものの、いよいよという緊張で体のこわばったレイに阻まれなかなか進めず何回かにかけてようやく果たした。  
 もうすでに準備はできていたとはいえ、レイは苦しそうな表情を浮かべて痛みを必死にこらえている。  
「大丈夫か、オイ」  
 という問いかけに彼女は銀時に手を伸ばし、顔を近づけてきた彼の首を巻きつけた。  
「こ…こうしていて…」  
「こうでいいのか?」  
 抱き返してやると、レイは頷いた。  
「暖かいよ…ギン…」  
 ああ…本当に暖かいな。  
 すでに肉体もうせているのにあたりまえのように返すと、レイは嬉しそうに微笑んだ。  
「私、やっとギンと一つになれたんだね」  
「そうだな」  
 動きがとれなくなっていた銀時も、レイが力を抜いたおかげでそろりそろりと動き始めた。  
「ハッ…ンんん…ん」  
 次第にレイの唇から漏れ始めた、さっきとは別ものの艶のある声に銀時の動きも加速していく。  
「は…あ…あぁんっ。ギ、ギンッ」  
 激しく突き動かしながら銀時が聞くと  
「ど、どうした?ん?」  
「私なんかおかしい…よ……んんんーっ」  
「な何がおかしいって?」  
「ど、どうにかなりそう。なんで…こ、こんなに」  
 
 戸惑いを隠さないレイに銀時はあっさりと言った。  
「コレはそんなもんなんだよ。気持ちいいだろ?あ?」  
「いいのかな……なんかよく分からないけど…」  
「全く…ほらよっ」  
 銀時はそのままレイを抱え上げ座り込んだ。  
 その衝撃と座り込んだ時の突き上げに、レイは悲鳴を上げた。だがそれが彼女にさっきまでの戸惑いが何だったのかを分からせた。  
「気持ちよくなってきんだろ?そうなんだろ?」  
 答えることのできないレイは体を銀時にしがみつき、背中に爪を立てる。  
「だからどうなんだって!」  
 とひと際強く突き上げるとレイは体を震わせながら、甲高いあえぎ声を上げた。  
 全くいい趣向してるじゃねぇか、と銀時は目の前であられもない姿を晒すレイを見て目を細める。まさかこんなお楽しみがあるとは。しかも待っててくれたとか、にくいじゃねぇかよ、と思えばさらに愛しさがこみ上げ、自然と抱く手にも力が入っていく。  
 もはや限界、銀時がピッチを上げるとともに、レイはガクガクと体を震わせのけぞったかと思うとがくっと力を抜き、満足そうに見上げる彼女の中に銀時が精を吐き出し、二人はそのまま布団の上に倒れこんだ。  
   
   
 それからどのくらいたったか。  
 布団の中でレイに腕枕してまどろんでいた銀時はふすまのあく音に驚き飛び起きた。  
 見慣れない、体が半透明に透けた女が微笑みながら二人を見ていた。  
「レ、レイっお客さん、お客さんだぞ」  
 まだ余韻に浸っているレイをゆすると、彼女は恥ずかしそうに起き上がり、やってきた人物に  
「おかみ…」  
 と声をかけた。  
 それを聞いた銀時は、岡に上げられた魚のように口をパクパクさせる。  
 彼の記憶によればここで「おかみ」というのはあのお岩であって…だが今目の前にいる女はどうみてもお岩よりも若い。  
「おかみって…アンタ誰?」  
 
「やだね、ギン忘れたのかい?私だよ。お岩」  
 その瞬間銀時は壁際までふきとんだ。  
「うそだ、うそだろ」  
 とうわごとのように言う彼にお岩は説明した。  
「そりゃさあ、私だって若い姿がいいに決まってるだろ?」  
 それともこっちがいいのかい?と見たことある姿に戻った瞬間、思わず銀時は首を振ってしまった。往年の大スタンド使いは死後は  
自分の姿を自在に変えることができるらしい。  
 お岩は傷ついた様子もなく、さっきの若い姿に戻すとフフフと笑い、  
「ずいぶんとお楽しみだったねぇ」  
 と二人を交互に見た。  
 レイは恥ずかしそうに自分の着物で前を隠し、銀時は、ええ…まあ…とてもよいサービスで…と口ごもりながら言うほかはなく。  
「じゃあ次は…」  
 お岩はおもむろに着物の前をはだけ銀時に歩みよった。  
「ちょっ…ちょっとー!!!!!」  
「私からもサービスさせてもらうよ」  
「レイッな、なんとかしてくれッ」  
 銀時はレイに助けを求めたが、彼女はその気は全くないらしい。  
「おかみもさ、実はアンタに惚れていたっていってたんだよ」  
「レイ、そんな無粋なことお言いでないよ。さっき女になったばっかのくせに」  
「もう仕方ないだろ?なんなら私も手伝おうか?」  
 と、銀時の意思は全く無視の会話を繰り広げ、結論を出すと、彼をがっしりと捕まえた。  
「俺…そんな二人いっぺんに相手したら死んじゃうんでー…」  
「もう死んでるだろ?」  
 と一丁前にレイは銀時の耳元に息を吹きかけながらからかう。  
「成仏するにはまだ早いよ。逝くのは私たちを存分にイかせてからにしておくれ」  
 
 前門のおかみ、後門のレイ。  
 蛇ににらまれたカエル状態の銀時であった。  
 
 

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