だんだんと上がっていく自らの呼吸を確認し、まだ己に肉欲というものが残っていたのかと山本は少々驚いた。  
とみ子が自ら、己の身体を山本に開くといったのだ。  
この腐りかけた肉体を、受け入れようと。  
 
挿入時、とみ子は痛みのあまり全身に脂汗を浮かべ、それでも山本の男根を受け入れようと努力した。  
山本は己の激情をぶつけるが如く、とみ子の中に精を放った。  
破瓜の血が山本の腿に伝い、シーツに滑り落ちてゆく様さえ、山本を酷く興奮させた。  
 
 
 
情事の後、押し寄せてくる様々な感情の波を払うように、山本はとみ子に優しく口付けた。  
このような甘い口付けを、もう随分と忘れていた気がする。  
絡まる舌、熱い吐息。零れ落ちる唾液に構うことなく、山本は容赦なくとみ子の口内を犯した。  
時折聞こえるとみ子の呼吸音が、耳に心地よく響く。  
 
荒い呼吸を繰り返し、上下しているとみ子の薄い胸。鎖骨に歯を立てれば、小さく呻く声が聞こえた。  
滑らかな肌に手を這わせ、小振りの胸を緩く揉む。それだけでももう堪らないのか、とみ子は羞恥に顔を赤らめ身悶えた。  
山本は微かに笑う。  
「普段からこのように可愛らしければいいんだが」  
聞いたとみ子は身動ぎし、悪態をつこうと山本を睨み上げた。  
 
もう一度唇を合わせ、今度は深く貪るようなキスを。  
 
潤んだ瞳、上気した肌、赤く色づいた唇から覗く、濡れた舌。  
それはすべて扇情的で、普段のとみ子とのギャップに山本は苦笑し、己の熱が再び昂っていくのを感じていた。  
形のよい胸が上向きに張り詰め、やや薄い色合いの乳首が外気に晒され形を変える。  
山本はそれを目で愉しんだ後、形のよいそれを強く揉みしだいた。  
 
「あ、あっ、い・・・痛い、放しなさいよ、馬鹿ぁ・・・」  
とみ子は切なく吐息を零す。  
先ほど初体験を終えたばかりのとみ子は、疲労で身体が弛緩しきっていた。  
 
山本の手は止まらない。  
 
「だが、好きなだけ抱いてもいい、と言ったのは貴様だぞ、とみ子」  
己の発現には責任を持たんとな、と、山本は意地の悪い笑みを浮かべた。  
とみ子の抗議も空しく、山本の腕はとみ子の下腹部へと伸ばされていた。  
 
「や、やだ。まだやるの?」というとみ子の抗議が聞こえているのかいないのか、山本は血と精液で濡れそぼったそこに指を宛がい、ゆっくりと侵入させる。  
とみ子の身体が跳ね、指を抜こうと腰を捩じらせ抵抗する。山本は構わず愛撫を続けた。  
いやらしい光景だなと一人ごちて、硬く勃ち上がった自身を入り口に擦り付け、とみ子の羞恥を煽る。  
山本は逃げようとする腰を押さえ込むと、指とは異なる質量を持ったそれをゆっくりと挿入し始めた。  
 
 
 
 
静寂と暗闇に、二人分の吐息と粘着質な水音が響いている。  
とみ子は未だにこの状況を許容しきれてはいなかった。  
とみ子の顔に、山本の汗が滴る。  
いつもと違う、優しく、激しく、恐ろしい顔だった。だが、不思議ととみ子は「全て愛おしい」と感じていた。  
身体の痛みとか、苦しいとか辛いとか、そんなことよりも、ただ、目の前の男が、欲情の色を隠そうともせずに己を揺さぶる「魔王様」が、愛おしくて堪らないと。  
今はただ、それだけで心が満たされていく。  
山本の肌は、とても死人とは思えぬほどに、熱かった。  
 
 
 
 
 
 
朝日が昇る頃、山本は目を覚ます。  
腕の中の存在を確認し、優しく抱きしめて、再び眠ろうと布団を被った。  
 
ふいに、とみ子が呟いた。  
 
「山本」と。  
 
それは明らかに寝言であったが、山本は胸を締め付けられるような切なさを感じ、目を伏せため息をついた。  
 
 
「山本」  
 
 
とみ子を抱きしめる腕に力がこもる。  
愛おしいと感じる。守りたいと。この優しい夜を、忘れたくないと思う。  
 
 
胸にこみ上げてくる背徳感、どうしようもない後悔の気持ちを押さえ込むように、山本の瞼は朝の光を遮って、落ちた。  
閉ざされた瞼の裏で、ああ昨日までの俺たちではいられない。いられないなあなどと考えてから、少しパサついた黒髪を梳き、再び睡魔に身を寄せる。  
 
目が覚めたときに、昨日の朝であったなら、と、小心者の魔王は願った。それは分不相応な願いだと、朝日が笑った気がした。  
 
                                                                            fin  
 

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