浅い眠りのときに見る夢は、いつも決まっていた。
月明かりだけが差し込む薄暗い部屋で、一糸纏わぬ姿で縺れ合う男女。
その男――十四郎は、自らが常々想いを寄せる女の身体を貪るように求める。
透き通るような肌に口付け、着物の上からでもそれとわかる豊満な乳房を揉みしだき、時には顔を埋め先端の蕾を啄ばむ。終には己の欲望の塊を女の胎内に捻じ込み、発する――
いつもそこで、弾けるように目が覚めた。まだ更けたばかりの夜に、梟の声が遠くに聞こえた。
まただ…
十四郎は頭を振り、深くため息をついた。汗ばむ身体に貼り付く夜着が気持ち悪い。
いつからこんな夢を見るようになったのだろう。
道場に若い男が集まれば、自然とそんな会話も出るし、誰かが持ってくる指南本や春画も見たことくらいはある。
そしていつしか十四郎の中に、その指南本や春画で行われている行為を、一人の少女と為したいという欲求が生まれた。
彼女は十四郎を道場に招いた近藤の古くからの友人であり、尊敬もしていない年下の兄弟子の姉だった。名を沖田ミツバといい、美しく気立てもよく、男所帯の道場の細々とした雑用をこなしていた。
若い頃に誰しもが芽生える性への欲求を、だが手近な彼女を捌け口にするつもりではないことは確かだった。彼女を性の対象としてみているのは、一つの確固たる感情からであった。
いつからか…恐らく、初めて出会ったその日から、十四郎はミツバに惹かれていた。
その笑顔、声、佇まい、その肌、唇、指先…すべて、そしてその心さえも奪ってしまいたい衝動に襲われる時がある。美しい声で己の名を呼ばれると、自身の心臓は破裂しそうなほどに脈打ち、知らず顔に血が上る。
それとは裏腹に、十四郎はミツバに優しい言葉すら掛けたことがない。こんな夢を見るようになって尚更、清らかな彼女を汚している後ろめたさからきつく突き放してしまう。
自分と彼女とは、住む世界が違うのだ。
彼女はこんな野蛮で粗雑な自分のことなど好いてはいまい。
だから夢の中で自分は、彼女を欲望のままに無理やり己の下に組み敷いているのだ。実際には見たことも触れたこともない彼女の身体を。
彼女は夢の中でどんな顔をしていたか?…泣いていただろうか…少なくとも、笑ってはいないのだろう。
そう、むなしい夢だ。それなのに…
行き場のない欲望を抱え、天井に向かって屹立する己を、十四郎は忌々しげに見下ろした。
十四郎は小さく舌打ちをし、夜具に仰向けに寝転がり、その隆起に手を伸ばしかけた。
その時。
十四郎の寝間の障子越しの縁側に人の気配を感じた。
咄嗟に十四郎は近くに竹刀を引き寄せ、夜具を頭まで被り、尚も外の気配に神経を研ぎ澄ませた。
こんな夜更けに一体誰であろう。
この道場の主と近藤は所用で少し遠出しており、今夜は戻らないという事だった。今この道場にいるのは十四郎だけだ。
物盗りか、はたまたこの道場の者あるいは自分に恨みのある者であろうか…。そう、考えている間に十四郎の寝間の障子が外側から静かに開かれた。十四郎は身を強張らせ、相手の出方を待つ。
す、と、侵入者が十四郎の布団の傍に座ったような気配がした。十四郎は夜具の中で息を殺していたが、侵入者が襲ってくる様子は感じられなかった。
どのくらい沈黙が流れていたのか、十四郎はいぶかしみながら夜具の隙間からそっと覗いてみた。
そこにいたのは、つい今しがたまで夢にいた相手のミツバだった。
「!?」
十四郎は目を見張った。確かに、ミツバは十四郎の布団の傍に正座をしていた。彼女の表情はどこか思いつめていた。
(なんで、ここに…)
思いがけない者の来訪に、彼女がこれから何をするつもりなのか、十四郎はただ夜具の隙間から見つめることしかできなかった。
薄闇に浮かぶ彼女の姿は、昼間見るそれとは違う色気を醸していた。普段束ねている髪を下ろし、風呂上りの濡れ髪から石鹸の香りが漂う。
暫くの沈黙のあと、ミツバがついに十四郎の夜具に手を伸ばした。徒ならぬ気配を感じ取っていた十四郎は、このまま飛び起き、声をかけることも
できたが、躊躇った。先ほどまで夢の中で交わった相手への後ろめたさと、今彼女の腕をつかんだなら、彼女の色気に醸されてそのまま欲望を
ぶつけてしまいそうだったからだ。ミツバが自分に何をするつもりでも、十四郎は動くことができなかった。心臓の鼓動だけがただただうるさく、
夜具の中に潜ったままの十四郎の耳に響いていた。
ミツバは十四郎の夜具を少しだけめくった。十四郎は腰から下に涼しい夜の空気を感じた。
次にミツバは十四郎の夜着の裾を肌蹴けさせる。
そしてついに、その手が十四郎の褌に伸びた。震える白い手が十四郎の股間を弄る。十四郎は目の前で行われているミツバの行動に釘付けになった。
ミツバは小さく息を呑んだ。十四郎の褌の中から取り出した彼自身は、先ほどまでの淫猥な夢想により隆起し、まだその欲望を解き放っていない。
愛する女性――ミツバの白く細い手が、屹立した己に触れている事実を目の前にしているだけでも興奮を煽りその硬さを増していく。
それをミツバは、何をするつもりなのだろうか…。十四郎の頭の中は疑問符と、先ほどまでの夢の記憶が綯い交ぜになっていた。
ミツバは、そっと手にした十四郎の男根に顔を寄せた。そしてそれに頬ずりをするようにうっとりと見つめた。
「は…十四郎さん…」
十四郎に呼びかけたのではない、ため息交じりに出た呟きが十四郎のそれを包む。ミツバの吐息は熱く湿り気を帯びていた。
「んっ……ん…」
ミツバは十四郎の先端から竿にかけて、愛おしそうに口付けをしていく。
柔らかいミツバの唇が触れた先から電撃を食らったように、脳天からつま先までが痺れた。己の肉塊は痛いほどに張り詰め、先端からは先走りが滲んでくる。
「は…ん…はァ…」
ついにミツバは、十四郎のそれを口いっぱいに咥えた。十四郎は初めて与えられるその刺激に、辛うじて声を抑えながらも、喉を反らせた。
いつの間にか、夢に引き込まれたらしい。
こんなこと、あるはずがないのだから。
「んっ…んむっ…ちゅぅ…」
卑猥な水音が十四郎の寝室に響く。途切れ途切れに、ミツバの声が漏れた。
今、ミツバの、接吻もしたことのないだろうその唇が、十四郎の欲望の塊に口を付け、
含んでいる。比べる相手がいないので上手いのかどうかはわからないが、歯を立てないように、
丁寧に咥えられる限り奥までそれを口に含み、吸い上げる。舌は先端をチロチロと舐める。
右手は竿を包み、左手は陰嚢を弄っている。ミツバの口内は唾液がとめどなく溢れ、
口から流れ出た唾液が十四郎の竿を伝い、その根元の茂みを濡らしていく。
十四郎は襲いくる快感に深く溜息をつく。蒸し暑くなった夜具の中で、十四郎はすでに
荒い息を立てているが、ミツバはその行為に夢中になり周りの物音には鈍感になっているようだった。
(ミツバ…)
これは、本当に夢なのだろうか。
今までの夢で感じていたものより遥かに強い快感が十四郎を襲っている。
突然、ミツバがその行為を中断した。今までの夢では、
だいたい自分の思うように動いていたから初めてのことだ。
十四郎は息を整えながらミツバの動きを見つめた。ミツバはもどかしそうに
自身の夜着の袷を肌蹴させ、そこから想像していたよりずっと豊満で張りのある乳房を取り出した。
十四郎は思わず唾を飲み込んだ。
「十四郎…さん…っ」
ミツバは自身の乳房で十四郎の男根を挟んだ。そして目の前に飛び出した亀頭を口に咥えた。
「はっ…は…んんっ…」
ミツバの興奮も盛り上がってきたらしい。
ミツバは柔らかい乳房を両手で押しつけながら、
十四郎の男根を挟み込み、舌でその先端を丁寧に愛撫していく。
十四郎は新しい刺激に腹の底から登り詰める快感に抗えなくなっていった。
「う…っ、く…」
でもこのまま達すれば、ミツバの口内に精液を吐き出してしまう――
夢であるはずのに、そんな心配が頭をよぎった。
「んっ、ちゅっ…」
ミツバが先端を強く吸い上げたと同時に、快感の波が絶頂を迎えた。
「くっ…ミツバ…っ!」
十四郎は咄嗟に身を起こし、ミツバの口から己を引き抜いた。
「う…っ」
それが最後の一押しだったのか、途端、十四郎は己の精を吐き出し、その白濁はミツバの顔や胸を汚した。
「あ…っ」
十四郎は目をしばたたかせた。いつもなら目が醒めればいないはずの、ミツバの姿がまだここにある。
「あ…っ、あの…」
先ほどまでの大胆さとうって変わり、戸惑い恥らうような表情を浮かべたミツバが十四郎を見つめていた。その頬は上気し、濡れた髪が頬と首筋に張り付いていた。唇は唾液と精液に濡れ、乳房までもが白濁液に汚されて、薄闇に官能的な姿を浮かばせていた。
その姿を見た十四郎の理性はついに決壊し、気づけばミツバの腕を引き布団に押し倒していた。
「と…十四郎さ…」
己の名を呼ばれるが早いか、その唇を自身の唇で塞いだ。
「んん…っ」
唇を強く吸い、舌をミツバの口内に侵入させる。十四郎は生臭い己の精の味に少し顔をしかめたが、
それは確かに今まで、ミツバが自身の口に十四郎の男根を咥えていたことに他ならなかった。
接吻の仕方もあまりよくわからないので、ひどく不器用なのかもしれないが、とにかく貪るように、
彼女の唾液を吸い上げ、歯列をなぞり、舌を絡める。
ミツバもそれに応えるように自らも舌を絡める。ミツバの細い腕が十四郎の背にまわり、彼の夜着を強く握っていた。
「あふ…ふ…うぅん…っ」
息継ぎの度に艶めいたミツバの吐息が漏れる。離れた唇からはお互いの唾液の糸が幾筋もお互いの唇を繋いでいた。
十四郎はミツバの耳たぶを軽く噛み、耳の襞を舐め、その穴に舌を進入させた。
「ああっ…」
ミツバは身を捩り声を上げた。
「ミツバ…ミツバ…っ」
耳を弄りながら、十四郎は小さくその名を囁いた。
「ああ…ん…」
ミツバの口から濡れた吐息が漏れた。
十四郎は首筋を舌でなぞっていった。鎖骨を舐め、鎖骨の下、乳房の上あたりの肌を強く吸った。
絹のように滑らかでそれでいて吸いつくようなもっちりとした白い肌の上に赤い花びらが咲いた。
十四郎は面白くなって、ミツバの腕、乳房の横、わき腹、腹にも同じように花を咲かせていった。
「ん…もう…」
ミツバは咎めるように呟いたが、それはほとんど声にならず吐息のようだった。
代わりに十四郎の頭を強く抱きしめた。十四郎はミツバの柔らかい乳房に顔を埋める
格好になる。乳房の奥から、ミツバの心臓の音が聞こえる。十四郎と同じく、
張り裂けんばかりに強く波打っているのを感じる。
十四郎は頭を少し上げ、ミツバの腕の拘束から外れると、両手で乳房を揉みしだき、
既に硬く尖った先端の薄紅色の蕾に強く吸い付いた。
「あッ…!あ…ん…」
ミツバが嬌声を上げ、喉を反らす。十四郎はその声に煽られるように、
先端を舌先で舐めたり、軽く噛んだりして、それぞれに違うミツバの反応を見た。
「と…しろ…さ…」
ミツバは息も絶え絶えに十四郎の名を呼んだ。十四郎はミツバに見せ付けるように、
執拗に乳房への愛撫を続けた。
「あ…あ…あぁん…」
頭上に降るミツバの声に、先ほど精を放ったばかりの己が再び熱を持っていく。
ミツバの夜着の帯を解いて肌蹴させ、その裸体を眼前にすれば、
ミツバの肢体は桜色に色づき、汗が滲んでいた。
十四郎の目の前に全てを晒されたミツバは恥らうように目を閉じた。
夢に見ていたミツバの生まれたままの姿だった。
十四郎は不器用な愛撫しかミツバに与えることはできなかったが、心の中は震えていた。
乳房への愛撫をやめ、ミツバの肌に唇を這わせながら、
十四郎はミツバの下腹まで辿り着いた。刷り合わせられたミツバの太股は、既に溢れる愛液が滴っていた。
十四郎は息を飲んでミツバの膝に手を掛け、ゆっくりとその足を開かせる。
「は…っ…や…ぁ」
初めこそ僅かな抵抗があったものの、武芸を嗜む男の力に抗えるはずはなく、
ミツバの、愛液の溢れるそこは十四郎の目の前に晒された。
初めて見るそこに十四郎は感動した。見ることすら叶わないと思っていた想い人の花園だった。
ミツバの、艶やかな髪と同じ色の茂みの下から、既に勃起した珊瑚のような陰核が姿をあらわし、
ふっくらとして艶やかな薄紅色の襞に囲まれるように愛液の泉がある。ミツバの蜜壷からは、
とめどなく彼女の愛液が流れ出ていた。
十四郎はしゃぶりつくようにミツバの蜜壷の入り口に口を寄せた。そしてその蜜を舌ですくい上げる。
「ひゃぁ…っ!」
ミツバは強い刺激に身体をいっそう大きく反らせた。今まで誰にも見せたことのない、
触れさせたこともないそこに、初めて男を受け入れている。
「ああっ!あっ…ああん…っ!」
十四郎は陰核を舌で優しく刷り上げ、時に歯を立て柔らかく噛んだ。それぞれの刺激に
ミツバは首を振り、艶かしい声を上げる。
十四郎は舌をミツバの蜜壷にねじ込んだ。
「あ…!ああっ…」
ミツバは仰け反り、腰を浮かせた。愛液はとめどなく溢れ、その入り口は
男のそれを欲しがるように蠢き始めた。
「はぁっ…はぁっ…」
ミツバは荒い息をつきながら、ねだる様に無意識に腰を揺らした。
十四郎はミツバのそこに指を差し入れた。
「んっ…」
初めて受け入れる異物感に、ミツバは少し身体を強張らせたが、
それが十四郎の身体の一部である喜びを感じた。
ミツバの膣は十四郎の指をきつく締め付けた。十四郎はゆっくりと
ミツバの胎内で指を動かし始めた。
「あっあっ…」
指を出し入れするたびに、ミツバの身体は跳ね、激しく鳴いた。膣内の収縮が激しさを増していく。
「とうしろう…さん…っ…とうしろ…」
ミツバが十四郎の名を呼んだ。自身の猛りもそろそろ限界に近づいていた。
ミツバの豊満な胸が荒い呼吸で上下している。
十四郎は自らも夜着を脱ぎ捨て、ミツバと顔を合わせ、
硬く隆起した己自身をミツバの潤った入り口にあてがった。十四郎の不器用ながら
丁寧な愛撫に身を委ねていたミツバも、初めて受け入れる男の欲望の熱に、
初めて僅かながらその美しい顔に不安を滲ませた。
ミツバは潤んだ瞳で十四郎を見上げた。僅かに開かれた唇から吐息とともに囁きが漏れる。
「十四郎さん…好き……好きよ…」
その言葉だけで、十四郎は体が震えるほど熱くなった。十四郎は応える代わりに、
ミツバの瞼に唇を寄せた。手でミツバの柔らかな髪を優しく撫で、十四郎は己の男根をミツバの蜜壷に差し入れた。
「ああああっ!」
十分に潤っていたとはいえ、破瓜の痛みにミツバが身体を強張らせ布団を強く握り締めた。
十四郎はミツバに口付けながら、片手でミツバの手を握り、片手で乳房を貪った。ミツバが縋るように十四郎の首に
腕をまわし強く抱き寄せてきた。十四郎も応えるようにミツバの身体を強く抱きしめた。
「あっ…あっ…あああッ…」
胎内に進入する熱い猛りを感じ、ミツバの瞳からは涙が零れる。
十四郎自身の全てが入りきったところで、一度動きを止めた。ミツバの中は十四郎の男根を強く締め付け、熱く絡み付いてくる。
お互いの顔が目の前にあり、お互いの熱く濡れた吐息を鼻先に感じる。
「今、十四郎さんが私の中にはいってるのね…」
確かめるようにミツバが呟いた。
「ああ…」
十四郎は吐息混じりに小さく応えた。
「嬉しい…」
ミツバは瞳に涙をためて微笑んだ。その笑顔は、今まで見たどの笑顔よりも最高に可愛かった。
愛おしさが一気にこみ上げ、十四郎はゆっくりと律動を開始した。
「あ…あ…ああ…」
ミツバの喘ぎが痛みに堪えるそれとは違っていた。十四郎の熱を飲み込んだ己は尚も
十四郎を求めるように収縮を繰り返す。十四郎が動く度に強い快感がミツバを襲った。
「ああっ…!ああ…んっ」
十四郎が出入りする度に膣口と陰核が擦れ、快感が増していく。
「あんっ!あっあっあっ!あああんっ!」
十四郎の腰の動きが激しくなり、腰が強く打ち付けられ、結合部からは愛液の絡まり合う
淫靡な水音が鳴り続けていた。
十四郎自身も動くたびに熱と潤いと締め付けを増すミツバの膣内に激しい快感を覚えた。
動きに合わせて上下に激しく揺れる乳房と、乱れたミツバの表情が扇情的で、
夢中で腰を打ちつけた。涙に濡れたミツバの瞳は辛うじて十四郎を捕らえようと薄く開かれ、
濡れた薄紅色の唇からは絶えず嬌声が漏れていた。
「あああああ―――っ」
ミツバが叫び、2人は同時に達した。
ミツバの身体が弓なりに激しく反り、膣の締め付けを一層強くした。
蜜壷からは愛液が溢れだし、十四郎は絞り出されるように精液をミツバの胎内に放出した。
精を吸い取られた十四郎はそのままミツバの乳房に顔を埋め、眠りに落ちてしまった。
ミツバも荒げた息を整えながら十四郎の頭を愛おしそうに抱き、一緒に眠った。
明け方を迎えるまでに何度か目が覚め、隣に眠る愛しい人の寝顔を確かめて先ほど
行われた情事は夢ではないと確かめ、安心して眠る。お互いが同時に目覚めたときは
指を絡め、啄ばむような口付けを交わした。
そうして何度も目を覚ましながら、ミツバは
今回の事をに及ぶ経緯を少しずつ話した。
道場のゴミ箱に捨ててあった春画をたまたま目にし、いつものことだと
気にしないつもりだったのだが、どうしても十四郎の事が気になり、
十四郎にその行為を行いたいという気持ちが強くなり、近藤も師範も
この道場にいないと知ったらその欲求がついに抑えきれず、つい事に
及んでしまったのだという。確かに、男根を口に含んだり乳房に挟ん
だりしている春画もあった。ミツバが自分にそれを施す夢を十四郎も見たことがあった。
「十四郎さん…ごめんね…」
とろとろとまどろみながらミツバは十四郎に詫びた。だが詫びられる
ことなど何もない。十四郎もまた、春画に描かれている女性をミツバと
重ね、いつしかミツバとそういう関係を結びたいという気持ちがあった。
ミツバもまた同じ気持ちを持っていたという事が、たまらなくうれしかった。
「と…しろ…」
再びの眠りに落ちる直前までミツバは十四郎の名を優しく呼んだ。
十四郎は愛おしさにミツバを強く抱きしめて眠った。
まだ夜が明けきらない、東の空が僅かに薄明るくなりつつある頃、
十四郎はミツバを家まで送っていった。
思えば夜着のまま夜中に女性が一人歩きしていたなんて危ないことだった。
野犬やゴロツキに襲われてもおかしくない状況だった。
「そういえば、そうね…」
ミツバは己の行動を反省し項垂れた。
「…ったく…」
十四郎も後からそれを思い、肝を冷やした。
「もう来るなよ」
沖田邸の庭での別れ際、十四郎は冷たく言い放った。
「はい…ごめんなさい」
ミツバはシュンとしている。
自分はなんて不器用なんだと、身体の中から自分が胸をたたく。
「…今度は、俺から行くから…」
十四郎はミツバへ背を向けながら、小さく呟いた。
「え…?」
ミツバが聞き返したが、十四郎はそのまま走り出していってしまった。
おしまい