最後に 一度だけ・・・
わたくしを抱いては、くださりませぬか?
馬鹿げた芝居からようやく開放されるのだと安堵していた矢先、少女の口からとんでもない台詞が飛び出したので、土方は大いに動揺した。
なんでそういう展開になるんだああぁぁぁ!!!
「な・・・何を言ってるマヨ」
軽くめまいを覚えながらも、なるべく平然を装って声を出す。
「わたくし、泣いたりしないでございまする!また会いたいなんて言わないでございまする!
・・・ただ、このままお別れだなんて、マヨラ様と過ごした思い出まで夢のように心の中から消えてしまいそうで ・・・怖いのでございまする」
大きな瞳に涙をいっぱいためて。
「だから、私のワガママ、最後に一つだけ叶えてほしいのでございまする。どうか抱いてくださりませ、マヨラ様・・・」
土方は不覚にも、その少女に見蕩れていた。
美しい。もとより綺麗な貌をした娘ではあったが、真っ直ぐに想いを伝えてくる姿は、逃げようとしている卑怯な自分とは対照的に、ひどく清廉で貴い存在のように思えた。
俺はどうしようもねぇ甲斐性なしだ
いい女に悲しい想いをさせてばっかりだな・・・
救いを求めるように空を見上げれば、ふと、今は特に思い出したくない人物の顔が浮かんできた。
今は亡き想い人。
彼女は最期まで自分の前で涙を流すことはなかった。
冷たく突き離した日も、別れの言葉さえ交わさずに旅立った日も。
笑顔を絶やさず気丈に振舞っていた彼女が、その心を悲しみに震わせ、人知れず涙を流しているのを知りながら遠ざけた。
もう女に泣かれるのはたくさんだ・・・
「・・・俺の我侭だ、妬くなよ」
独り言のように小さな声でつぶやいた土方の言葉がよく聞き取れなくて、栗子は不安げな表情で彼をみつめていた。今頃になって自分が口にしたことの大胆さを恥じているのか、夕焼けの中でも分かるほど真っ赤に頬を染めている
「・・・栗子。俺はお前を連れて行くことはできない。だが、勝手かも知れねぇが、お前には幸せになってもらいてぇんだ。お前の気が少しでも晴れるなら、俺は何でも応えてやりたいと思う。」
語尾にマヨをつけず真剣に話す土方に驚いて、はじめは目を瞠っていた栗子だが、すぐに満面の笑みを浮かべて男の胸に飛び込んだ。
「・・・ありがとうでございまする マヨラ様・・・」
二人は小さな宿に入った。
いわゆるラブホテルなのだが、ありがちな下卑た装飾はなく、清潔で落ち着いた雰囲気の部屋だった。
あの後万事屋に仕方なく事情を話すと、こんなときだけ協力的な銀時がニヤニヤしながら逃がしてくれたのだ。彼らが変装して芝居の続きを演じ、松平の目を欺こうという強引な作戦だったが、ここへ来るまでに自分が撃ち殺されていないのを見るとどうやら成功したらしい。
「勢いで来ちまったものの・・・」
シャワーを浴びて少し冷静になったら、仮にも上司の娘であり、10歳ほども年の離れた少女を抱こうとしている自分が酷い男のように思えてくる。
土方が今更ながら罪悪感に苛まれていると、栗子がバスルームの扉をあけて気恥ずかしそうに顔をのぞかせた。
バスタオルを巻いただけのその姿を、土方はまじまじと見つめた。
上気した頬、白い肌、細身ながら女らしい肉感的な身体・・・
すべてが男の劣情を煽るようで、土方はごくりと喉を鳴らした。
「そ、そんなに見ないでくださいませ・・・」
栗子は恥ずかしさに耐え切れなくなったのか、真っ赤になってもじもじとバスタオルのすそを引っ張り身体を隠そうとしている。
その仕草は男の理性を吹き飛ばすには十分に妖艶で、立ち上がり栗子のもとに歩み寄った。
細い肩に触れると、栗子が息を呑むのが分かった。
そのままぐっと抱き寄せる。小さく震える栗子を見て、土方はふと思い当たった。
「おまえ・・・もしかして・・・」
「はい。わたくし、は、初めてなのでございまする・・・ だから、やさしくしてくだ・・・んっ」
必死に紡いだ言葉の最後のほうは、土方の唇によってかき消された。
潤んだ瞳でそんな可愛らしいことを言われると、押さえがきかなくなる。
俺にどういう事情があろうが、この娘は迷いもなく俺を想ってくれている。
せめて今だけは理想の恋人を演じて、できる限りの快楽を与えてやろう。幸せな思い出だけが残るように・・・
緊張してぎゅっと閉じられた唇を舌先でノックするようにつつくと、躊躇いながらも開かれるのが分かった。その隙に舌を差し込んで、ねっとりと歯列をなぞる。
「ふっ・・・ん、ん・・・ んはぁっ・・・んっ・・・」
ぞくぞくと、栗子の体に知らない感覚が走る。
熱い舌が口内を余すとこなく動き回り、鼻にかかった声が漏れ出す。
ちゅ、という音とともに銀色の糸を引いて唇が離れたころには、栗子の身体からははすっかり力が抜け、土方の胸に縋っていないと立っていられないほどだった。
とろんとした表情で見つめる栗子を抱き上げて、ベッドの上にそっと横たえる。
「マヨラさま・・・? ・・・ひゃっ、ぁあん・・・」
首筋に舌を這わせながら、そっと胸のふくらみに手を触れる。やわやわとその感触を愉しむように揉みあげると、ピンク色の頂を指でつぶすように弄ってやる。
「あっ、ん・・・まよら、さまぁっ、そこ、なんだか・・へんっ、おかしくなりそっ・・・んんっ」
「おかしくなって構わねぇよ・・・もっと、感じろ。」
そのまま舌を乳房まで滑らせ、先端を口に含む。チロチロと舌で転がし、ときに甘く噛んでやると、耐えきれない様子で身をよじって喘ぐ。
感じやすい体質なのか、それだけですっかり息があがってしまっている栗子にかまわず、今度は秘部に手を伸ばした。
「んあっ、だ、め・・・っ」
そこはすでに蜜で溢れていて、触れただけでもじんわりと土方の指を濡らした。
しばらく割れ目をなぞっていた指が敏感な肉芽に到達すると、栗子はびくっと身体を震わせて一際高い声で喘いだ。
「ひあぁ・・・っ、んん、はぁ、はっ・・・ん、あぁっ」
何度も摘んだり押しつぶしたりして、感じていることを確かめるようにその反応をみる。
「ま、よらさまっ・・・! はあっ、んっ・・・ まよらさまぁっ・・・!」
快楽の波に飲み込まれそうになりながらも必死で愛しい男の名を呼ぶ姿に欲を煽られ、今度は足をぐっと開かせると中心に唇を寄せた。
「やああぁぁっ・・・! そんなとこっ・・・ふ、ああぁ・・・っ」
じゅぶじゅぶと、熟れた果実にかぶりつくように歯を立てて愛撫する。
過ぎる快感から逃げようとする腰を引き寄せ、さらに深く顔を埋めて入り口を舌でほぐす。
「はあんっ、ああ・・・いやぁっ・・・」
ちゅぷ、じゅぷっ、ぐちゅっ
いやらしい水音と娘の喘ぎ声で部屋が満たされていく。
十分ほぐれたのを確認してそっと指を入れてみると、丁寧に慣らしたためか難なく飲み込んだ。
「痛くねぇか?」
「んん・・・はあっ、いたくは、んっ・・・ないで、ございまするっ・・・」
それを聞いて、土方はほっと息をついた。
痛くないということは、快楽を拾えるようになるまでそう時間はかからないだろう。
キスをして落ち着かせると、少しずつ中の指を動かす。
はじめは違和感に眉を顰めていた栗子だが、ある一点を指がかすめたとき、びくっと背をのけぞらせて大きく喘いだ。
「・・・!? っああぁぁ、んんっ、そこ、いやぁっ、ひゃんんっ・・・」
みつけた一番感じやすいそこを狙うようにして指を動かすと、栗子は涙を流しながら震え、土方の背に縋り付いた。
「んっ、あ、ああっ・・・!!」
快感の波を逃がすようにふるふると首を振り、しかし身体は快楽に従順で、もどかしそうに腰をくねらせている。
熱い蜜壷からは愛液が伝い落ち、きゅっと土方の指を締めつけてくる。
その凄まじいまでの色気を目にして、土方は今まで保っていた理性が今度こそ焼ききれるのを感じた。
すでに十分勃起している自身を取り出して、ヒクヒクと誘うそこに宛がい、ゆっくりと腰を落とす。
「ああああぁぁっ・・・」
「・・・くっ・・・ きついな・・・」
いくら指で慣らしたとはいえ、その何倍もある土方自身を受け入れたのだ。栗子の顔に苦痛の表情が浮かぶ。
「い、たぁ・・・っ、ま、まよら、さまっ・・・んっ・・・」
「すまねぇ・・・ でも、すぐに良くなるから・・・」
すぐに突き動かしたい衝動を土方はなんとか堪え、ゆっくりと全部埋めてから、抱きしめながら栗子の息が整うのを待つ。
「はぁっ、はぁっ・・・ わたくし、・・・幸せで、ございまする・・・」
「そうか・・・」
「・・・大好き、で、ございまする・・・っ」
「そうか・・・」
蕩けるような笑みを浮かべる栗子に、演技ですら「俺もだ」と言ってやれない不器用な自分が歯がゆくて、抱きしめる腕に力をこめた。
「・・・そろそろ、俺も限界だ。・・・動く、ぞ・・・」
「はい・・・どうぞ、マヨラ様もわたくしで気持ちよく、なってくださいませ・・・ っああぁ!」
その言葉を聞いた瞬間土方自身がぐっと大きさを増して、腰を打ち付けるスピードが加速する。もう我慢なんてできない。
ぐちゅっ、ぐっちゅっ、くぷっ・・・
動くたびに、どちらの体液ともつかない水音が響いて、二人の熱を煽っていく。
目の前で揺れている白い乳房に獣のようにかぶりつく。
「ああぁっ、はぁ、ああぁんっ、まよ、らさまっ・・・ああっ、きもち、いいっ・・・」
「はっ・・・もっと、感じろ、っ・・・もっとだ・・・」
がくがくと体が震え、お互いの絶頂が見えてきたころ。
ほんの一瞬だけ、土方は錯覚した。
やわらかい身体に包まれ、まるですべてを許されているような、この娘を愛してしまいそうな感覚にふと陥って、頭を振った。
忘れちゃならねぇ。これは、俺の罪なのだから。
ぎりぎりまで引き抜いて、一気に奥まで裁つ。
「あっ、ぁあああぁーーーーっ」
「・・・くっ・・・!」
達した栗子の締め付けに逆らわず、土方も追うように己の欲を吐き出した。
気を失ってしまった栗子の身体を清め、布団をかけてやる。
自分はこの娘の、きれいな思い出になれただろうか。
「俺のことなんざさっさと吹っ切って、はやくいい男見つけて幸せに暮らせよ。」
そう言って、眠る頬にそっと口付けたとたん、なんだか気恥ずかしくなってそそくさと部屋を後にした。
屯所への帰り道、そういえば一日我慢していたのに何故か吸いたいとも感じなかった煙草が急に恋しくなって、一本取り出し火をつける。
「・・・不味ぃなぁオイ」
明日からまた激務に追われる日々が始まる。
真撰組副長は、愛だの恋だの言わないで、江戸の平和を守ってりゃいいんだ。
俺にとっちゃそれも一つの愛情表現だろ。なぁ。
見上げた満月は相変わらずやさしい色をたたえている。
なのに、何となく自分を咎めているように思えたから、笑って言い訳するようにつぶやいた。
おわり