その日は朝から雨がふっていた。  
空はどんよりと暗く、傘をさして道を行き交う人々も皆うかない顔で、ただ用事のみ済ませようと足早に歩いていく。  
 
「鬱陶しい、アーうっとうしい。ヤんなるねぇ、雨の日は気分もクサクサするっての。  
何だってこんな日がジャ○プ発売日なんだよ」  
いつもの調子で文句を言いつつ、万事屋銀ちゃんこと銀時はコンビニからの家路についていた。  
そこへ横の路地から声がかかった。  
「銀時様」  
視線をむけると、たまがいた。メイド型ロボット「たま」。  
たまたま、と二回続けて呼ぶと高確率でその辺のネコが返事しそうな「たま」だ。  
たまは銀時に向かって深々と頭を下げた。  
 
「銀時様。先日の休暇では大変お世話になりました」  
「あー、そんなこともあったかねえ」  
「はい。私のデータにしっかりと残っています。実は今日も休暇をいただいたので、  
河原で子供たちと遊ぼうとしたのですが、この雨で……誰も来ません」  
 
銀時は傘を少しずらし、空を見あげた。相変わらず厚い雲におおわれ空は暗い。  
今日はもう雨の止むことはないだろう。これでは子供が河原に出てくるはずもない。  
銀時はたまに視線を戻した。傘も持たず着物も髪もすっかり雨に濡れている。  
子供たちを喜ばそうと河原でどれだけ待っていたのだろうか。  
 
「今日の天気じゃ無理だ。諦めな」  
「やはり、そうなのでしょうか……」  
「ああ。それより、こっちこい。入れ傘」  
 たまは不可解な言葉を聞いたように小首をかしげた。  
「雨なら支障ありません。私はカラクリです。完全防水仕様で、十気圧まで耐えられます」  
「おまえがよくても、俺がヤなんだよ。わけー娘が雨に濡れてしょぼくれてる図なんざなぁ。  
ほら、入れ」  
 再度催促すると今度は素直にやってきた。銀時は傘を半分たまにかかげた。  
 
二人でなんとはなしに万事屋へ歩きだすとたまが口を開いた。  
「……私はカラクリですが、お登勢様や銀時様たちは、時々私を人間の娘のように扱われます」  
「そりゃね、人間やっぱ姿形で左右されっからな。端から見てりゃおめーはかわいい娘っ子だよ。  
まっ、お登勢はそれだけじゃねーだろうがな」  
まるで自分の娘のようにたまをかわいがるお登勢を思いだし銀時は言った。  
 
「銀時様はどうなのですか? 銀時様も私に対して、ただの電化製品以上の思い入れを  
お持ちと見受けられます」  
「そーかねぇ。……気のせいじゃねーの」  
「そうとは思えません。データによると……」  
「あー、いーから。データはいいから」  
「銀時様。私は本日、銀時様にオトナのご奉仕をしたいです」  
 
たまのセリフに銀時はつんのめるように止まった。  
「ハ、ハイィィ?」  
「喜んでいただきたいのです。子供たちの次に、大人の銀時様に。  
それが私の過ごしたい休暇です」  
「待て、ちょっと待てぇ。一見言ってることはまともだけど、そこに『大人の』ってつくと  
すんげーただれて聞こえるんですがっ!? おまえこの場合の『大人の』ってなにさすのか  
分かってんのか?」  
 
「はい。先日記憶チップの中に、隠しコマンド『上・上・下・下・左・右・左・右』で開く  
裏データを発見しました。カラクリメイドにインモラルな奉仕を要求するご主人様が  
後を絶たないため、相手に事故が起きないよう開発されたプログラムです。  
昨今発売のAVに使われたシチュエーションや男性器に対するあらゆる奉仕の方法が……」  
「だぁぁぁぁっ。コラッ黙りなさーいっ。往来で若い子がそんなこと口走っちゃいけまっせーんっ」  
銀時はあせってたまの身体を胸に抱えみ、口をふさいだ。  
 
「もごもごふが……(私は若い子ではなくカラクリで)」  
たまは身体をねじって抵抗したが手が離れないとみると、くちびるから舌をつきだし  
銀時の手のひらをスッと舐めた。  
「っ――――」  
思わず手を引いて目をむく銀時。たまは上目遣いに言った。  
「だめでしょうか? 銀時様……」  
 
 雨に濡れた美少女(に見えるカラクリ)。  
 じっと見あげる大きな目。震えるくちびる(気のせい)からのぞく赤い舌先。  
「だめってか……なんつーか……」  
 頭を掻きながら視線を逸らすと、まわりには罠のようにラブホテルや連れ込み宿が並んでいる。  
 今も相合い傘の男女二人が人目を気にしながら、スイと一軒の宿へ入っていく。  
 
「今日は子供たちとは会えません。銀時様がどうしてもお嫌でしたら、他の殿方に  
ご奉仕をして参りますが……」  
 目を伏せて悲しげな瞳(気のせい)で言うたま。  
 
 どうする?どうする銀さん。  
 ・連れ込む  
 ・連れ込むのをガマンしたがやっぱり連れ込む  
 
ニア・我慢せず連れ込む  
 
 フーッと息を吐き、銀時はたまの上に身をかがめ耳元にささやいた。  
「おい、お登勢には内緒たぞ」  
 ご主人様と認定した男の、欲望を含んだ低い声に、たまの体内で『大人のメイド』プログラムが  
発動した。  
 
 
 

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