神楽は万事屋の皆と訪れた吉原にて、見た事も無い中年男性と鉢合わせていた。このまま闘い続ければ、双方どちらが勝つかなんて事は明らかに判りきっている。
しかし、だからといって自分の負けを認めるなんて事それこそが有り得ないと思案した神楽は、男へと負けじ魂の鋭い眼光を向けると「バカ兄貴はどこにいるって聞いてるんだよ」と言い放つのだった。男は神楽を見て喜ぶ半面で、微かに驚いている様子だ。
「お前さん、まさかひょっとして団長の…」
「ああ?団長って誰アルか、敵の能力を盗っちゃう黒ずくめの団長アルか」
「……そうなの?団長ってそんな高等な能力持ってんの?」
「バカヤロォッ!!アンターハンターの団長しか居ねえだろ!これだからオッサンとは話しが合わないネ、だからさっさと…」
世代交代するヨロシ。叫ぶと同時に再び地を蹴った神楽は身軽な体を宙に浮かせ、武器である傘を男目掛けて振り下ろす。
当たる筈が無い、けれど当たるかもしれない。そんな神楽の考えを肯定する様に、重量を増した傘は男の頭上へと見事に命中した。
少なくとも手応えはあった、そう思う神楽が男への視線を外す事なく再度距離間をとると、視界の中には苦笑を浮かべる男の顔が映ってきた。心音が速度を増し落ち着かない感覚がほと走るのは、気のせいではないだろう。
「おー…痛え、油断してたよおじさん。でもな、仕方ねえってやつよ」
中年男性との視線が交じわった瞬間、神楽は全身が身の毛立つ感覚を瞬時に悟った。
「その、縞ニーハイが気になるんだよね」
「死ね!!今すぐ死ねェェ!!」
「ちょ!乱射すんなよ俺に当たるだろ!」
「喜ぶネ!カグーラ=ジャスアントはお前を敵と見做し今まさにテメェを狙ってるアル!さあ死ね!朽ち果てて塵となるヨロシィィィ!!」
鼓膜を圧迫する銃声音が五月蝿く鳴り響き、男へと乱射された弾丸の所為で辺り一面に粉塵が舞い始めた、その矢先。
「アーブートー、タオルかハンカチ持ってないかな」
神楽の聴覚に、聞き覚えのある声色が響いてきた。聞き覚えがあるのも熟知しているのも、全ては当然の事だろう。
それも全ては、二人が夜兎族であると同時に、血の繋がりを持った兄妹であるが為だ。
「神威ッ!!」
「……団長。手ぇ真っ赤じゃねえか」
「これ?上手に焼けましたーみたいな、冗談だけど。……あれ、誰こいつ」
しかし、数年振りに再会を果たす神楽に向けられた顔は、あまりにも冷えきった微笑だった。普通に考えれば数年経った程度では、風貌は対して変わらないものだろう。
しかし神威は何故か神楽を妹として見做さない。そこに或る真意は、一体なんだと言うのだろうか。もし知る者が居るとすれば、それは神楽では無い。
「……私の顔、忘れた…アルか?」
「阿伏兎、よく判んないけど手ぇ拭きたいから、タオル」
「俺がタオルなんて上等なもんを持ってるように見えたんなら謝るがよ、生憎俺はトイレから出てきた時、手を拭かねえのよ」
「それバッチくない?なら阿伏兎の手は玉菌ばっかだよ。玉菌ついた手で更にセンズリしてたら、いずれは性病になるんじゃない?」
「やめてくんない?一人エッチするの前提とか一回も手を洗わないの前提とか。流石に恥ずかしいでしょ」
無視すんな、そう思いながら頭に血を昇らせた神楽は神威の首元目掛けて、傘の銃口を向けた。その光景は、夜兎族の瞳が合致した瞬間でもある。
「無視すんなコラ。神威お前はそんなに偉いアルか」
「ん?何時何分、地球が何回回った時に誰がそんな事言ったの」
「中二発言もいい加減うざいアル」
兄妹喧嘩にも見えなくはないが、そんな容易い光景ではないだろうと思った男、阿伏兎は、空気に伝わらない様に一歩下がると無意識の内に安全な位置へと移動した。
神威は表情さえ変えずに神楽を見下ろしているが、それが余計に不気味に見えたのだろう。
「お前のその、弱いくせに強気な態度こそが目障りだ…って言ったら?」
「弱くなんかないネ。お前よりは立派な強さを持ってるつもりアル」
「…そもそもさ、解ってないよねお前」
神威が呟いた瞬間、神楽の視点が急速に降下する。顔が地面に衝突した一瞬の間に、神威に一発ぶち込まれたのだという事実を認識した神楽は、思考を朦朧とさせるしか無かった。
「俺は弱い奴に興が湧かないんだよね。だからお前にも興味がないし、どうせなら俺と対等の戦力を身につけるまで待ってやろうかなって思ってたダケでさ。
だから別に、見込みが無いなら今から殺してやっても構わねーよ。なんならあの時みたいに」
―――犯してやろうか?その言葉が頭を巡った瞬間、神楽は意地という物に感化されて、離れゆく意識を必死に手繰り寄せた。
「…はっ…忘れてたアル、お前に…ひとつ言いたい事があったネ」
「んー…まあ良っか、辞世の句ぐらい聞いてあげるよ」
「私はお前が大ッ嫌いネ、これは絶対に変わらないアル。けど、だけど」
神威が血の繋がるたった一人の兄貴だって事も、絶対に一生涯変わらない事実アル。だから、夜兎族だとか絶滅危惧種云々だとかいう難しい話しは置いといて。
「その成長が止まった中二魂、妹である私がへし折ってやるネ」
神楽の傘が再び神威に差し向けられた瞬間は、神威の興が神楽に傾いた瞬間でもあった。神威の心臓が僅かながらに締め付けられたという事は、無論、誰も知る由がないだろう。
「……ふうん。俺が止まっていて神楽が成長してるんだったら、神楽は大人って意味だよね」
「そうとも言うアル、私だってもうガキじゃないネ」
「だったら、セックスでどっちが先にイくか勝負しようか」
「団長ォォ!?話しに脈絡がねえよソレ!大体こんなちびっ子が性行為なんざできるわけっ」
離れて二人を見ていた阿伏兎も流石に突っ込みたくなったのか、口を開いて大袈裟に片手を振り回す。しかし、哀しいかな阿伏兎に反論の許可は下りなかった。
「バカヤロォッ!!修羅の道を行くカグーラ=ジャスアント様をなめんなァ!!」
「だってさ阿伏兎。ちなみにカグーラジャスアントって誰かな」
「私アル!だから頭文字K兄妹の神威は、カムーイジャスアントネ!!」
「うん、強そうな名前だ」
「…敢えて言って良い?アンタら感性おかしいよ、オジサンはついていけれん」
かくして、己の強さ披露会ならぬ性行為忍耐勝負が始まった。神威が三人混同でどうだと言えば神楽は上等だと意気込み、勢いが止まる様子などは微塵も無い。
事情があって片腕である阿伏兎はどうすれば良いかと不安げな表情をしているが、しかし、兄妹の親である人物と多少なりとも面識があるのは事実である為、当然とも言える反応だろう。
「じゃあ、阿伏兎は後ろの穴で俺は前ね」
「いや、その、なんつーかな…」
「ああ、後ろめたい?気にしなくて良いと思うけどなあ」
そうは言われても、大人の事情というものが世間には存在する。阿伏兎は何処からどう見ても大人の枠入りであり、そんな阿伏兎が神楽と性行為をするというのは、犯罪にも近い事なのだ。
憶測ではあるが、神威はそれさえをも考慮しているのかもしれない。そして、挙動不振となっている阿伏兎を見て楽しんでいるのだとしたら、まさに滑稽で大人としての面目が立たないというもの。
だが、阿伏兎にも阿伏兎の意地がある。
「じゃあ口、フェラで頼むとしますよ」
「ふうん、それで阿伏兎が満足するなら良いと思うけど。どう神楽」
「構わないアルネ。スーパーテクをお披露目して私が勝つだけアルし」
そう言うと、神楽は一目散に阿伏兎の股下へと頭を下げて自身の露出を促した。続くように神楽の背後へ回った神威は、地に膝をつけると四つん這いとなった白い太腿を撫で始める。
そして、誰からともなく勝負開始の合図を鳴らすのだった。
「…凄いアル。オッサン、大きいネ」
「ちょ、やめて。俺言葉攻めに弱いから」
「嘘アルね、本当に弱点なら逐一言わないアル。うん、弱点というよりはさしずめ性感帯ネ」
姿を表した肉棒に若干釘付けとなった神楽は、暫く直視すると先走る液が光るそれに手を沿えた。触れただけで微動する自身は黒く、今にも欲望を放ちそうにさえ見える。
「っ…あー…否定は出来ないなぁ。その洞察力に感服したよオジサン」
「ちなみに、自分の事をオジサンとか言っちゃう奴は他人に可愛く見られたいと思ってるらしいアル」
「……否定したいが、今否定したら余計に怪しいんだろうな」
阿伏兎が妙に哀しい表情を浮かべた瞬間、一気に先端へと吸い付いた神楽。先程胸を張って言った様に、今からスーパーテクとやらが披露されるのだろう。
そう思った阿伏兎は、罪悪感に蝕まれながらも、確かに舌使いが巧みな神楽に酔いしれ始めるのだった。
「あれ?神楽、阿伏兎を舐めてるだけで濡れてきてない?」
しかし、神威が神楽の身体に対しての発言をした矢先。思い掛けない事が起きる。
「ふ、う………ッッ!!」
「んっんん……っ!?」
阿伏兎が、早くも絶頂へと辿り着いたのだ。不覚にも精液を飲んだ神楽は、我慢強くしてそれを受け入れている。
流石の神威もこれには驚くしか無いらしく、興醒めしたかの様な顔を前方に向けると、一言痛い所をついた。
「阿伏兎、早漏って知ってる?」
「くっ……はぁっ。俺がそうだってか?正直フェラが良いと言った時すでに発射寸前だった」
「えーなにそれ。阿伏兎を見る目が変わりそう」
「まあそう言いなさんな。俺はちょっくら厠に行ってくるから、後は若いモン同士で色々と話し合いな」
大人の余裕という物であろう態度を晒した阿伏兎は、満足げに自身を隠すと神威と神楽に背を向ける。その背中を見た二人が、血の繋がりがある証拠の様に同じ事を思い巡らしたのを、阿伏兎は知らないだろう。
なんか、格好悪い背中。
勿論口に出す筈がない二人は、互いを見合うと本来の目的を思い出して、行動を再開させた。既に濡れた様子である秘部を眺めた神威は、指先で下着越しの割れ目をなぞると神楽に問い掛ける。
「もう挿れたいんだけど」
「ん…ぅあ…っ、良いアルよ…」
此処からが勝負ネ、と呟かれると同時に下着を剥ぎ取った神威は、阿伏兎に向いていた神楽の体勢をそのままにして、肉棒を外へと解放した。阿伏兎の様に発射寸前というわけでは無いが、けれどやはり張り詰めている。
神楽の愛液を滑りとる様に先端を這わせた神威は、若干丸みを帯びた腰に手を添え、そして一気に自身を中へと埋め込む。
ズン、ズプ、と侵入した中は思った以上に熱く、あの時と変わらない位に締め付けがあった。その感覚を例えるならば、熱く熟した桃辺りが妥当だろう。
そして、打ち付ける動作を始めた神威は微動もしない笑みを浮かべ、神楽を攻め始めた。
「神楽、さっきは誰コイツとか言って悪かった。でもさ?久々の再会だから俺も恥ずかしかったんだよね」
「な…ぁあっ、なに言ってぇ…」
「それに、神楽が俺好みの女になってたから余計に拍車がかかってさ」
休む間もなく動く神威の肉棒に気をとられつつも、神楽は聞こえてきた甘い言葉に頬を紅潮させた。その言葉が本音か否か、そんな事は神楽には判らないが、けれど身体は素直に反応してしまう様だ。
「あれ?気持ち良くてもうイッちゃいそう?」
「はあぁっ…んっ、そんなワケないアル…」
「ああ、そうだ。神楽のその格好さ」
凄く可愛い。そう囁いた瞬間、神楽の秘所は肉棒を強く熱く締め付けた。口で何と言おうが、秘部は熱い快感を燻らせて正直な状態のようだ。
その現状に面白みを感じた神威は動作を維持し、露わとなった神楽の双丘に手を伸ばすと、以前よりも微かに大きくなったそれを揉み上げて、感度を落としていない事実を確認した。
「はぁ…あっんン…ああっ」
「感度良いねーもしかして一緒に住んでる誰かに揉んで貰ったりしてる?」
「やん…あっ、そんなっ…」
「もしくはさ、ヤッたりした?」
キュウッ、と反応を見せた神楽の秘部。それが表す事は肯定と否定どちらだろうかと思った神威は、瞬時に思案した事柄を神楽に促すのだった。
「神楽、ハンデあげる。騎乗位で動いて俺を攻めてみなよ」
綻んだ笑みを浮かべる神威に「そうあるネ…大人になった事のみせしめの為には、上が1番かもしれないアル」と返した神楽は、けれど微かに怯みながら寝そべった神威の上に跨がる。
互いの繋がった部分が丸見えという事は、つまりどちらにしても興奮の種にしかならないという事だ。後は唯々、己の持つ忍耐力の差での勝負。
「スゴ、丸見えだ。神楽、動いて良いよ」
「上等…っ…アルね」
神楽は腰を降ろし、肉棒を小刻みに締め付けながら上下動を繰り返し始めた。長さのある神威の自身は簡単にも神楽の奥を突き、そして、神楽の艶かしい中は神威を気持ち良い程に締め付ける。
病み付きにならずして何になろうか。そう思える位に二人の感性は一致していた。
しかし、神威は巨大な組織春雨を率いている為に、神楽よりも明らかな忍耐力がある。組織があれば間者もいる、そうなれば、間者と間柄を持ち情を交わす事も少なからずあり、隙を見せない為に免疫もつくというものなのだ。
故に、神威にはまだ当分の余裕があった。言い方を変えれば、気持ち一つでいつでも射精可能なのだろう。
そんな事を知る由もない神楽は腰を巧みに動かし、けれど、やがて動きを鈍くしていくと熱い吐息を吐くのだった。
「どうしたの神楽。腰がひくついて動いてないよ」
「や…んっ…ふぁ……ッ」
「もしかしてあれか、イキそうだからイカない為に動き止めたとか」
まさにその通りであろうと見破った神威は、肉棒を中に挿入したままで、ビクビクと震える神楽の頬に手を添えて、そして純粋に思うのだった。
愛くるしい、と。
無論口には出さないが、しかし思った以上に神楽を求めていたのも否定出来ない事だ。兄妹であるが故にか、好いてしまっているが故にか、もしかするとそのどちらでも無い領域であるが故にか。
そんな小難しい事はまだ解らないが、けれど唯一心に、神楽が欲しい。
「…神楽、ねえ神楽」
「んっ……んんっん…」
初めて唇を重ねた神威は、舌を神楽の熱と絡ませ淫靡な音を鳴らすと一度大きく秘部を突いた。グプッと水音を鳴らしたそこは、どちらからともなく絶頂を求めている様に見える。
否、見えるのでは無くそうなのだろう。そして、二人の口元に光る唾液がそれに拍車をかけている。
「俺が欲しいって言え」
「ぅあ…っや、いやネ…」
「もう限界。言ってくれたら、目一杯気持ち良くしてやるから」
切にとまではいかないが、けれど先程までとは違う神威を視界で捉えた神楽は、心臓を微かに締め付けられた気がした。錯覚ではない確かな感覚だ。
強がったり大人ぶったりとしてはいるが、やはり何処かでは未だに純粋無垢な子供。それが二人であり、本当は難しい事は何も理解していないのだろう。
故に、本能が赴くままに二人は生きる。
「神威っ…私あの時から誰ともシてないアル…神威しか知らないネ、だから…っもっと神威が欲しい、一緒に気持ち良くなりたいアル…ッ」
涙を溜めた瞳で唯一人の男、神威を見据えた神楽は悲願にも似た言葉を囁き、神威の中に住くむ、修羅を駆り立てた。
「うん…良い子だ。胸に手ぇ置いてな」
「う…ん、はぁあッあァ…んあッ」
騎乗位のままで神楽を突き始めると、神威は腰を更に激しく動かして熱を拡大させていく。熱く硬い肉棒に秘部を攻められ喘ぐ神楽は、その絶妙な快感に魅惑めいた表情をするしかない。
「ぁああッ…奥ぅッ…奥までくるネッ」
「イキたかったら…っ、言えよ」
「うあッあぁ…ひぁあンッ…もっ…だめ……神威のッ…熱いのが欲し…んぁあッ!」
言うと同時に上半身を倒し密着してきた神楽は、柔らかい胸を神威の胸部に押し付けると自らに腰を揺らし始めた。
とんだ淫乱だと神威は思うが、己も欲の塊だと自覚すると、神楽の尻をわし掴みして統合部を一層密着させ、そして、欲望が疼く本能のままに神楽を突くのだった。
「やッ…んあぁあっあッふぁァアアッ!」
「く…っ、…神楽…っ…」
「やぁあァッ!だめッイッちゃ…ぅああッ!」
艶かしい肉棒にもどかしくなり、神楽の膣内が肉棒を蕩かす程に締め付ける。
「たっぷり…中に注いでやるよ…!」
「神威…いっ…んあぁあああッッ!!」
絶頂に達した神威は、小刻みに震える神楽の中に白濁をぶちまけた。熱い液体が最奥を突く感覚に、全てを持って行かれた神楽は意識を手放した様だ。
未だに余韻に浸る二人が、何処か幸せそうに見えるのは見間違いではないだろう。
「もう終わりで?全然話してねえじゃんアンタら」
「うん、もう十分に充実した時間を過ごせた。なんやかんやで本音も言えたし」
「そういうモンかねえ…起きたらまた立ち向かってくるぞアレ。うん、絶対」
そういうものだ、と思う神威は理解不能だと呟く阿伏兎と共にいつぞやの様に神楽へと背を向け、そして兄妹はそうでなくちゃと微笑んだ。
この勝負は、まだ引き分けで良い。そうでも無いと、この先の世界に面白みが無いからだ。
終わり