月を見ているとその姿形がハンペンに見えてしまい食欲が湧いてくる。そんな事を考えながら、神楽は夜空を一望していた。
その表情は何処か寂しげだが、憂鬱な顔を浮かべているのには理由があった。
ここ最近父親である星海坊主が世界を闊歩している為、家族内に団欒という時間が無い為だ。年頃の子供には少なからず家族との時間が必要であり、親もまた子供と時間を共有したいと思うのが普通だ。
けれど悲しい事に、対象が夜兎族となれば話しは違ってくる。
しかし、神楽もそんな父親を心の何処かでは尊敬し、理解をしていた。だからこそ神楽は憎まれ口を叩きながらも、父親であり男でもある星海坊主の行動にとやかく口を挟まないのだ。
けれど、やはり寂しいという気持ちは心の何処かにある。それ故に一人で居ると意味もなく感傷に浸ってしまうのだろう。
月夜を鮮明に覗ける窓辺から更に見えてくる人影がある。影は神楽へと近寄ると、存在を確認するように大きく声を出した。
「おいチビ。どうも小腹が空いた、卵かけご飯作ろう」
「お前もチビだって事忘れてないアルか。ついでに言えば卵が無いアル、あ、でもパピーが置いていったお金がアルネ」
「……ふうん。あの人も良い性格してる」
微塵も褒めていない言葉を零した人影は、夜空を見上げる神楽の背後にまわって目前の頭上へと掌を乗せる。
温もりが伝わってくるその感覚に恥ずかしさが込み上がったのか、神楽は勢い良く手を振り払うと人影に紅潮した顔を向け、お馴染みとなっている憎まれ口を叩いた。
「なにアルか神威。私に触ると火傷じゃ済まないアルヨ、下手すりゃ命が無くなるアル」
「ふうん、お前も良い性格してるよね」
言いながら、神楽は胸の前に手を翳し戦闘体勢へと入る。
神威と名を呼ばれた人影はその言葉に面白みを感じながら、しかしその半面面白みを感じなかった。命が無くなる、その言葉が夜兎にとっては冗談に聞こえない内容だからだ。
事実、夜兎族は戦闘種族とだけはあり、闘いを繰り広げ刻々と時をきざむ様に日々絶滅の危機へと近付いている。それ故、その事実を知っている神威が神楽の言葉を面白くないと受け取るのも仕方ないのだ。
しかし、神威は思案顔をすると何を思ったか神楽に笑みを向けてもっと側へと歩み始めた。
「ねえ、強くなりたいって思うのは可笑しいかな」
「なにアルかその笑顔…。別に可笑しくないアル、私だって強くたりたいって思うアルし」
「なら、簡単に強くなれる方法って解るか」
語尾を強調して、神威は更に笑みを浮かべる。その表情が冷笑に見えてしまった神楽は窓の冊子に手を沿え、悟られない様に後ろへと後退し始めた。
これから神威が告げるだろう言葉に、暗雲が立ち込めている事を判断出来た為だ。
しかし、神楽の動きは神威の持つ桁外れの力によって無情にも制止させられる。
すぐ目前に位置する神威の眼光が動く事を赦さない上に、掴まれた腕から血の気が引いていく。現状を容易く理解出来た神楽は、負けじと鋭い眼光を向けるしか術が無かった。
ヤバイ、こいつヤバイ。
「…まあ強くなるのとはちょっと違うけど。強い血を授かる者同士が一つになれば、簡単により強き者を作ることができると思うんだよね」
「…なに言ってるアルかっ」
「解りやすく言えばレンジでチンみたいな…そういう行為をなんて言うっけな。ああ、思い出した」
そうは思う神楽だったが、無垢であるが故に羞恥を煽る言葉に弱いのも事実だ。
刹那、神威の口からは聞き慣れないけれど知識はある単語が零され、神楽は身体を強張せると同時に頬を一層紅潮させた。
「兄妹でするセックスだから近親相姦だっけ」
抗う策も、力も、術も、神楽には無い。
腕の皮膚と筋肉を巧みに押さえ付けた神威は、鋭い眼差しと共に白い首元にも刺激を走らせた。相手を挑発するような神威の性格を表した舌の艶かしい感触は、神楽を簡単にも支配していく。
「やっ…神威やめ…っ」
ゆったりとした動作のみを繰り返す舌は、鎖骨、耳たぶを丹念に濡らしていき、唾液が月明かりに反射する様子はそこはかとない淫靡さを漂わせていた。
神楽の羞恥をより煽る為に、わざとがましく窓辺を選んだ神威が居ることを誰が知ろうか。知っているとすれば、それは正しく神威本人だけだろう。
熱を篭らせた神楽の吐息が漏れ、その湿る外気を頬で察知した神威は口元を休ませる事なく目前の赤装束へと手を伸ばし、情を捨てるかの様に上半身を露わにさせた。
目の前には傷ひとつない白い肌。発育途上とだけはあり小振りな双丘が姿を見せたが、掌で強く刺激を与えれば胸は柔らかく形を変えて、神楽が女らしい身体つきになっている事を説明づけていた。
先端の突起に至っては、誰も触れた事が無い証拠のように桜色をしている。神威は起ち始めた突起へと舌を這わせ、片手で神楽の動きを封じるともう片方の手を華奢な腰へとなぞらせていった。
「やめ、ふっ…はぁ…あっ…」
「もうこんなに起ってる。もしかして夜兎って淫乱の血筋でもあるのかな」
「…やっ…そんなっ…んぁあ!」
瞬間、神楽の反応が激しい変化を遂げる。腰を撫でていた神威の片手が、軽く湿り気を帯びた下半身へと触れた為だ。
下着越しに指を前後させるだけで神楽の喘ぎ声と水音が漏れ、愛撫の続く身体が熱を帯びてゆく。熱が疼く感覚から微動を繰り返す神楽の身体には、微かな汗が滲み出ていた。
「でももうこんなに濡れてる。淫乱が否定できないね」
「やっあっあ…ぁあっ」
「見えるか神楽」
これがお前の厭らしい愛液、下着越しだっていうのに凄いね。そう囁いた神威は、神楽の愛液で塗れた指先を眼前へと散らつかせた。
神威の目に映る神楽の瞳が潤んでいるのは、きっと見間違いでは無いだろう。
それは、嫌でも女の身体となっている己を自覚し、血縁者との交わりに罪悪感を感じる一方で、何かが満たされている錯覚を感じた己に嫌悪感を募らせたが為の鳴き顔だ。
「神…威っ…やめ…るネッ」
「うーん…それは嫌だ」
これ以上の行為に畏怖した神楽は悲願する。
しかし、神威は神楽の表情にこそ奮いを高揚させたが、心境には興が湧かない為か散らつかせた指先を再び下半身へと下ろすと、下着を下にずらして愛撫を再開させた。
先程と違う点と言えば、今度は中をほぐすように指を振動させている事と、疼きを与える度に濡れ具合が増していく神楽の秘所だろう。
グチュ、グプ、と水音を出し次第に受け入れる態勢が出来ていく身体は、快感に伴ってか強張りを徐々に減少させている。
頃合いなのだろうか。そう思案した神威は興奮の主張源となった硬い自身を、神楽の太腿へ押し付けると反応を窺った。
すると、蜜が垂れ下がる秘部は小刻みに震えて赤みを増し、肉棒を待ち侘びている事を物語り始める。
見計らった神威は立っているのがやっとである神楽が逃げないと見通せた為、締め付けていた腕を解放した。
案の定、神楽はひくついた逃げ腰にこそなっているが全身が快感を求めている為か、荒い呼吸を部屋に響かせるだけだった。
無抵抗となった神楽を床へと組み敷いた神威は、弾力のある白い脚を両肩にかけると真正面にきた秘所へと息を吹きかける。煌々とした水滴をつけるそこは、まだ何も受け入れた事が無い為に酷く綺麗だ。
それを、今から己が押し開く。そう考えただけで神威の自身は一層質量を増すのだった。
はち切れんばかりの肉棒を外気に晒した神威は、真っ青になる神楽の顔を見ないふりして、今更何を言おうが無駄だと告げる様に目を細めると、自身を一気に、奥へと押し込んだ。
瞬間、卑劣な水音と神楽の叫び声にも似た喘ぎが室内に残響する。
「ああぁぁあああああッッ!!も…いや…っやぁあああッ!」
「…キツっ、濡れ具合と熱もだけど締め付けが半端じゃないね…もげたらどうしよっか」
「ああぁっ……いっ……!」
当然、思考が下半身の痛みへと集中している為神威の声は神楽に届いていない。しかし、このまま無視されるのも癪だと思った神威は、自身を締め付けている秘所の傍にある突起へと指先を這わせると、その膨らみを機敏に刺激し始めた。
「ひゃ…あっぁあッんぁあ!?」
痛みに支配されていた神楽も、この真新しい快感には反応せざるを得ない様だ。己を意識している全身に満足した神威は、それを合図にすると根元にまで包みこまれた肉棒を、ゆっくりと抜き差しし始めた。
ズプズプと鳴り響く音はまさに二人にとっての興奮剤だろう。
「だめッ…ふああっあぁんっは…んっあっあっぁああッ」
「駄目じゃん神楽…っ、弱点を簡単に教えたらさっ」
「ぁああッ…熱いネッ…やっ…あっあぁあァッ」
自分の身体ではないみたいだと腰をくねらせた神楽は、無意識に神威の背中へと手を回して肉棒を、きつく圧迫する。
突くだけでは物足りない神威の自身は、腰を更に密着させると休む暇をも与えずに、神楽の中をまわるように動き始めた。
「やあぁああッんぁあ!!やっ…それっやめ…ッ!」
「あーあ、女は演技してなんぼなんだから、弱点ぐらい隠すようにしないと。まあ不感症よりは良いかもね」
グプッジュプッ、と響き渡る音が更に粘着を増すと、熱を走らせた統合部は見事な程に熟していた。
「もっ…あぁッ!…だめッんああぁああァッ!!」
欲望が今にも放たれそうだと認識した神威は、血の繋がりを持つ者同士の情交は相性が良いという事実を知る。病み付きになりそうとさえ思っただろう。
「じゃ、お前の弱点を一点に突いてあげるよ」
「ふあぁあァッひ…ッやあぁあっあっぁあッ!」
言うと同時に、神威は素早い動きで神楽を突き揺らし始めた。内部を激しい程に突かれる神楽は、熱烈な快感に伴ってか今にも意識を手放しそうだ。
「ひあぁあッ!いやアル…ッこんなのっ…いやぁあァッ!!」
「ならさ、容易い程に弱さを攻められている…」
韻を零した神威は、神楽の熱い奥を目指して挿入を強くした。
「弱い自分を憎みな…っ!」
「やッ…あっんあァッふぁああァああぁあァアーッッ!!」
神楽が頂点に達する瞬間、神威は漲る欲を放とうとして、けれど神楽の秘部が肉棒を強く締め付けると、間髪入れずに自身を外へと抜くのだった。
波打つ白濁の欲は、神楽の双丘に放たれ、感じた事の無い快感に全てを支配された神楽は、案の定意識を手放したようだ。
神楽の余韻と疲労感を漂わす表情は、今にも泣きっ面で『神威なんて、大嫌いネ』とでも言い放ちそうに見えた。しかし神威は、それで良いと思う。
こんな事だけで、弱り果てるなんてさ。
「……お前はまだ色んな面が弱いよ。だからもっと俺を憎んで、俺を嫌いになってさ」
それをバネにして、強くなった時にまた逢えたら面白いかもね。そう呟いて、ぎこちない笑みを浮かべると神威は神楽と部屋に対して背を向けた。
修羅の道を行くと決めた神威は、最初から嫌われて身を軽くしたかっただけなのだろう。無くす物があるという不安要素は、この先必要ないのだ。
しかし、この行動は利口なのではなく臆病とも言える為、自嘲した神威は握り拳を作った。
「……だからこそ強くならねーといけねえんだよ」
それとも、本当に神楽との子供を作りたかったのだろうか。
神威は考えたが、しかし答えなどという明確な物は到底解る筈がなかった。しかし、どうであっても強者という存在に執着しているのだから、変わりは無いのかもしれない。
「憎むべきは、夜兎の血筋か」
だが、そんな宿命さえ本望だと独りごちた神威は夜空に浮かぶ朧月を見上げると、足音を小さくしていった。
今宵の情交全てを知っているのが月だとすれば、夜兎族の全貌を知っているのも、また、月に外ならないのかもしれない。
終わり