こんなに静かだった事はあっただろうか、そう思い沖田は自室で柱にもたれかかり息をついた。
...何故こんなに静かなのか、それは自分がよく分かっているはずだ。沖田は暗い部屋の中で
自分の手を見つめた。...罪悪感は無い、でも空虚感は感じられた。身体が痛みを伝えてくる。
...確かに仲間だったのだ。でも近藤を裏切った者だった。嗚呼、身体が痛い。胸も痛く思えてきた。
(...っ畜生..テメェの所為だ土方コノヤロー...ッ!)
やり場の無い思いを今はいない男に向け、沖田は自分の膝に顔をうずめた。...その時だ。気配がこちらに
近づいてくる。山崎?と口にしかけて沖田は眉を寄せた。...山崎も、いないのだった。
(...近藤さん達は幕府に呼び出されてるし...この足音、女...?)
今の沖田には確認する気もなかった。襲撃されても生き残れる自信はあったし、もう誰でも良かった
というのも一つだろう。だが、その人物はあまりにも予想外の人物だった。
「...お前、今なら楽勝で倒せそうアル。寝首掻いてやろうカ?」 「...何の用でぃ。」
顔を見ずとも分かる。この口調、この声。普段の自分なら此処で嫌味の一つどころか十個は
言いのけただろう。だが、今は一番会いたくない人物と言っても過言ではなかった。
顔なんか見たくない、顔なんか見せられない。きっと今自分の顔はいつもの自分ではないから。
ゆっくり近づく音に気を配って、沖田は白い肌の少女の気配を追った。神楽はどうしても自分を
見ない男の前に立ち、その頭に手を置き「らしくないネ」と呟いた。...俺らしいって何でぃ、そう
内心思った沖田の耳に届いた言葉は信じがたいものであった。
「...なぁ、沖田。゛せっくす゛しようヨ。」