良くも悪くも世の中には、不条理というものが存在する。  
それはどこにでも誰にでも起こるもので、例えば今の自分に置き換えてみると判り易い。  
そう、今自分は、よく側にいる女の子を、世間的に見れば同僚を、使っているオフィスのソファに押し倒している。  
待て、誤解だ。押し倒したのは自分ではない。ないのだが。 この状況、この空気。  
何がどうなってこうなったのか、ズレた眼鏡もそのままに新八は頭を捻らせていた。  
 
話は少し前に戻る。  
 
今日は日中に用事があった為に夕方になってから相変わらず仕事の依頼などこない万事屋へ向かった。  
またどこかフラフラしているのか銀さんはおらず、神楽ちゃんも遊びに出掛けているか定春の散歩か、とにかく万事屋はもぬけの殻であった。  
ふと、銀さんの使う机の上やその周辺が散らかっているのが気になって(認めたくないが雑用の要素が備わっているようだ)、やれやれとばかりにそこを片付け始めた。  
一つ一つを手に取りながら、いるものといらないものを分けていく。  
主にはどこの主婦だお前はと言われたが、この際仕方ない。  
っていうか主婦がいなきゃゴミ屋敷だこんなもん!  
ぶつぶつと文句を垂れながら、雑誌の類が散らばる机の下へと行動を移す。  
山積みのジャンプ。いい大人がいつまで読んでるんだ。  
嘘臭い見出しの週刊誌。どこで拾ってきたのか汚れている。  
日付が飛び飛びの新聞。これは仕事上当然と言えば当然だ。  
濃厚なエロ本。これも当然と言えば………って、  
「全然当然じゃねェェェェ!」  
仕事場にこんなもん置いとくなよ!家に置けよ!ってここも家だよ!  
それにしたって一応年頃の娘もいるのだし…まぁあれに気を遣う必要はないとしてもやっぱり気を遣って欲しい。  
いつもの調子でツッこんでから、はぁぁと盛大なため息をついた。  
 
それから。  
進まない掃除の傍らにまるで餌のように置かれたそれに、じっと訝る目をやる。  
表紙は際どい格好をした少しけばけばしいモデルがこちらを誘うような視線をしていた。  
思わず、ごくりと唾を飲む。  
自分だって、言ってみれば思春期真っ盛りの男子だ。興味ない方がおかしい。  
どきどきと跳ねる心臓に逆らう間もなく雑誌を開いた。  
 
思えばその時、周囲を見渡すくらいはしておくべきだったのだろう。  
「そういうの興味あるのカ?」  
「うわあああっ!」  
思いっきり大きな声で驚けば、神楽はうるさいと一瞥し酢昆布をかしかしと齧りながら覗き込んでいた。  
「か、神楽ちゃん…違う、違うよ!?これは銀さんの…」  
「銀ちゃんのエロ本使ってオナニーか。お前も腐った大人になるネ」  
「駄目だよ年頃の女の子がそんな言葉…ってまだ僕やってないから!事前だから!」  
「まだってことはこれからするつもりだったアルか」  
「うっ…」  
否定出来ない。  
もちろんするつもりは無かったしただの興味本位だったとはいえ、  
持ち主を軽蔑しておきながら自分も同じように理性に負け男としての本能に抗えなかったのだ。  
返せる言葉もない。  
かしかし、と酢昆布を齧り神楽はその雑誌を手に取る。  
「ふーん、こういうのが好きアルカ。趣味わりーな」  
「だからそれ銀さんのだって…ほら、返して。捨てるんだからそれ」  
素早く奪い返すと、いらないものに分別された他の雑誌の山の上に重ねその上にジャンプを乗せて縛りあげた。  
それから咳払いをして立ち上がると、神楽は机の向かい側に寄りかかっていた。  
「新八もそういうことするアルカ」  
「…まぁ、男だからね」  
そう言っとくしかないだろう。平常を保ちながら茶でも入れようかと動くと、何かがそれを制した。  
神楽が袖を引っ張っていたのだ。  
「なに?」  
「…一人より」  
「え?」  
「一人より、二人の方がイイネ」  
「何言って……っ!」  
ぐいっと襟元を引っ張られその方向へ引き付けられた次の瞬間、唇に生温かい感触がして、  
それを意識すると同時にぐらりと傾き身体はソファの上に落ちていた。  
その下に、そうさせた少女を組み敷いて。  
ずる、と滑った眼鏡は落ちないで辛うじて引っかかったままだった。  
 
一分、いや、三十秒だろうか。実際の時間はそれくらいだっただろう。  
しかし新八の頭の中の混乱が元に戻るには何時間分もあったように思えた。  
神楽の頭を挟むように両端に手をついて自分を支える。  
ぎし、とスプリングが鳴って密着した部分が熱を持つ。  
なんだ、この状況は。  
というか、さっきのはなんだ。  
「神楽ちゃん、今…何した?」  
「俗に言うふぁーすときすアル。光栄に思え眼鏡」  
「……」  
けろりとした口調で返されツッコミである自分は今のもツッコまなければならないだろうが、それよりも他の部分にツッコミ所がありすぎて整理が追い付かない。  
何を言っていいのか、どうすればいいのか判らないまま時間は過ぎる。  
一秒一秒が、一時間一時間と尺を変えながら。  
 
神楽は未だ真っ直ぐに新八を捉えたまま、口を開いた。  
「新八、私はお前のこと好きアルヨ」  
「神楽ちゃ…」  
「お前は違うアルカ?」  
ズレた眼鏡のせいでピントが合わない。  
下にいる神楽がどんな表情をしているのかさえ、ぼやけていてよく見えない。  
なのに、心臓はこれでもかという程高鳴っていた。  
「新八」  
もう一度名前を呼ばれて、新八は眼鏡をかけ直す。  
何がどうなってこうなったのか、考えても考えても同じ場面で止まってしまう。  
きっかけとか状況とか、追い掛けても辿り着くのはいつもここだ。  
この少女の質問に答えなければ、先へは進めない。  
掛け直した眼鏡を通してはっきりと見えたのは、いつもと変わらないようで少しだけ不安げに揺れる翡翠の眼。  
その奥には間抜け面の自分が映る。いつもなら馬鹿にされそうなのに、少女は真剣だ。  
わずかに漂うひなたの匂い。  
ピンク色の髪の毛。  
それに劣らない、鮮やかで小さな唇。  
そこへ近付き優しく触れるように自分のを重ねて、新八は顔を上げた。  
「僕も、好きだよ」  
多分、ずっと前から。  
強くて脆くて小さいこの女の子を、いつの間にか自分は気付かないうちに、だけど始めからそうなると決まっていたように自然と好きになっていた。  
守りたい、守れるほど強くないかもしれないけど、守られてばかりの気もするけど、守ってあげたい。側にいたい。  
くるりと瞳を丸くして、神楽は嬉しそうに笑った。  
 
*  
「本当にするの?」  
とは言え、それとこれとは話が別だ。  
唇と唇が重なるだけの荒々しいファーストキスから、突然の告白、  
自分にしては頑張った想いを込めたセカンドキス。  
少しの間にこれだけ距離を縮めておいて、更にとはさすがに良心が抵抗する。  
「嫌アルカ?」  
そう呟く高い声だって、まだ幼い。  
「いや、嫌じゃないけど、こういうのって女の子には大事な事なんだよ。  
 それに痛いって聞くし」  
「腹からスイカ」  
「そうそう、腹から…ってそれを言うなら鼻からスイカ!ってそれも違うから!子供産む時だから!」  
ふぅ、と溜め息を漏らして起き上がり、ソファに座る。  
神楽はその隣でしげしげと顔を覗き込んでいた。  
懇願するような、目。  
「怖くないの?」  
こくり、頷く。  
「新八だから」  
それ以上の決まり文句があるだろうか。  
むしろここまで女の子に言わせておいて、何も出来ない自分の方が臆病者ではないか。  
 
新八は神楽の手を引いて、隣の部屋へ向かった。  
神楽は寝床の押し入れの中がいいと言ったがさすがにそれは無理だと返して、  
ひきっぱなしの銀さんの布団の横に客用の布団をひく。  
「えーと、じゃあ、服……ってもう脱いでるし」  
赤いチャイナ服を脱ぎ捨てて、神楽は下の下着だけをつけている状態でごろんと横になった。  
「この布団、かび臭いアル」  
俯せで鼻を擦り付けながら顔をしかめる。  
本当に今から何をするのか判っているのだろうか。少し心配になってきた。  
思い悩む新八を余所に神楽はこちらを向いて手招きをした。  
「くるしゅうない、ちこー寄れ」  
「どこで覚えてきたのそんな台詞…」  
はしゃぐ神楽の隣で新八は心の中で気合いを入れて、自分も着物を脱いだ。  
 
手順、なんてものはそれこそああいう雑誌だったりなんだりで頭に入ってはいたし、  
あのだらし無い上司に教えられた無駄な知識だけはある。  
もちろん初めてだ。でも誰もが通る道だ。  
大丈夫、やれる。  
それに目の前にいるのは好きな女の子だ。きっと大丈夫。  
心の葛藤を気付かれないように神楽に覆いかぶさり、もう一度唇を塞いだ。  
あ、眼鏡。外した方がしやすかったかな。  
でも外したら外したでまたよく見えなくて、その分考える時間も増えそうだ。  
これ以上色んなことを考えたらさすがにパンクする。  
頭では冷静になりながら、今度は少し深く、と恐る恐る舌を入れてみた。  
何事にも平気な素振りをしていた神楽は、そこで初めてぴくりと身体を動かす。  
少し、嬉しくなる。可愛いと思う。  
それからおずおずと小さな舌を伸ばして、拙いながらも互いに絡ませ合う。  
幸せな気分だ。ぽかぽかと身体の奥から温かくなる。  
唇を離すと神楽も頬を上気させていて、同じように思ってくれてるのだと知る。  
「しんぱちぃ…」  
甘ったるい声が耳から興奮を呼び、新八も名前を呼び返して白い首筋に顔を埋めた。  
ちぅ、と軽く吸い付くと綺麗に赤が浮かび上がり、透き通るような肌に手を滑らせると熱が宿った。  
それから少し躊躇いがちに未発達な胸に触れる。というより、置くというような感じで。  
「エロ本の女みたいに大きくないネ」  
するとぷいとそっぽを向いてふて腐れるように吐き捨てるので、思わず笑ってしまった。  
「僕は気にしないよ」  
「ほんと?」  
「うん」  
そう言って、やわやわと乳房を優しく揉んでいく。  
反対側は唇を落としていきながら、じっとりと浮かび始めた胸の間の汗を舐めとるとくすぐったいと身を縮めた。  
暫く続けていると、吐く息が段々と震えてきた。  
太腿を擦り合わせながら神楽が名前を呼ぶので何かと顔を上げたら、いいよ、と言う。  
それを聞いてもまだ戸惑ったままでいると、神楽はむくりと上体を起こし自分から下着を脱いだ。  
新八の眼前に現れたのはまだ生えそろうことなく子供のままの神楽の秘部。  
どきりとした。  
それは性的な興奮ではなく、むしろ罪悪感とか背徳感とかそういう類のもので。  
「新八?」  
「あ、ごめん…」  
もう一度寝かせて、唾を飲む。  
「痛かったら、言ってね」  
そう言うと自分の人差し指を唾液て十分に濡らし、中心に向かわせた。  
柔らかい、溶けるように熱い部分を探るように動かしながら、  
それでも神楽の様子を見て慎重に、焦るな焦るなと言い聞かす。  
「ど、う?」  
口にした声は上擦っていた。  
「ん…わかんナイ…、なんか、変な感じ…」  
「痛くない?」  
「ウン」  
頷く表情は割と平気そうだったので、ほっと胸を撫で下ろす。  
だが、先程感じた罪悪感や背徳感は消えることはなかった。  
本当に大丈夫だろうか。  
自分だって彼女だってまだ子供で、好いているとはいえ早過ぎたのではないだろうか。  
失敗して、嫌な思いをさせはしないだろうか。  
新八は心の中で自問自答を繰り返しながら、ある一つの答えに辿り着く。  
 
「神楽ちゃん、やっぱりやめよう」  
動かしていた指を離し、もう片方の手で髪を撫で優しく諭すようにそう伝えた。  
神楽は一瞬目を丸くさせると、すぐに表情を暗くさせる。  
「好きじゃないアルカ」  
小さい声に首を振る。  
「違うよ。そうじゃなくて…僕はこういうことしなくたって、神楽ちゃんが好きだよ。  
 ずっと側にいたいって…だから、まだ僕たちも焦らなくていいと思うんだ」  
好きだから。大切だから。  
我ながら他に気の利いた台詞くらい吐けないものかと情けなくなる。  
でも、嘘も偽りもない。  
見た目も中身も平凡な自分だが、恥ずかしいくらい平凡な言葉だが、今は自信を持って言えた。  
 
伝わっただろうか。  
神楽は視線を落として、何か考えているようだった。  
「…でも、不安なるアルヨ」  
「え…」  
返ってきたのは、思いがけない神楽の答え。  
うっすらと涙を浮かべて、新八の腕にしがみつく手がふるふると震え始めた。  
「いつかいなくなっちゃうって、不安アル。新八も…銀ちゃんも、定春も姐御もみんなみんな」  
「神楽ちゃん…」  
「ガキだけど、ガキじゃないアル…好きネ、新八のこと」  
つぅと涙が目尻から垂れ落ちて、その透明さに胸がきりりと痛んだ。  
ああ、こんなに。  
こんなに小さな女の子は、たくさんの不安を抱えていたのか。  
置いていかれはしないかと、居なくなってはしないかと、いつもどこかで寂しがっていたのか。  
こんなに、自分を必要としていてくれたのか。  
「わかった」  
微笑んで、その涙を指で拭う。  
「でも、絶対に無理しちゃ駄目だからね。痛かったら、絶対に言って」  
頭を撫でると、こくんと頷いた。  
その眼はただ真剣で、そこに女性の強さを、新八は確かに見た。  
 
せめて痛みが和らぐようにと中心を舌で解し、濡らしていく。  
時折鼻にかかるような神楽の声を聞くにつれ、自身もたかぶっていくのが分かった。  
 
「じゃあ、いくよ」  
足をやんわりと広げ、意を決する。  
「ちゅう、して」  
「ん、」  
手を伸ばしねだる声に答えて、その部分に先端をあてがった。  
恐怖の方が、きっと大きい。  
二人分の不安も、愛しさに変われば大丈夫だと思えた。  
男新八、本当の男になります!  
 
…だが。  
「あれ…」  
その決意も虚しくか、何度も入口を探るも一行に入らない。  
神楽のものが小さいからか、自分のものが大きいからか…いや後者はないな。  
というよりも、  
「ヘタクソ」  
だからなんだろうけど。  
……って。  
「今、なんと?」  
「ヘタクソ、って言ったんだヨ」  
「…いやそうなんだけどさ。僕も初めてだし」  
情けなさと神楽の毒舌に、一気に力が抜けてしまう。  
しかしそれで油断したせいかぐいっと力を入れてしまい、先端が僅かな開きに侵入された。  
「いッ…!」  
同時に神楽の顔が歪み、そこではっとする。  
「ごめっ…!痛かった?」  
何やってんだ、あれだけ注意しておきながら。  
瞬時の反省に頭が真っ白になる。  
腰を動かさないように保ちながら、神楽の瞼が開くのを待った。  
大きく胸を上下させながら呼吸をし、神楽は薄く目を開くと小さく首を振る。  
「大丈夫、ヨ…まだ」  
消え入りそうな声はさっきの勝ち気な彼女をどこかへ飛ばしてしまっていて。  
汗の滲む額にキスを落として、新八は微笑む。  
「あとちょっとだから…頑張って」  
「ウン…」  
返事を聞くと手を握り、ゆっくり、慎重に腰を進めていく。  
ぎゅっと目を閉じて血が滲むほど噛みしめられた唇に労るようにキスをしながら、  
ゆっくりゆっくり、狭く締め付けられるような中へ押し進める。  
 
「神楽ちゃん、力抜いて」  
「ふ、ぅ…ぅあ…?」  
恐る恐る瞼を上げて、神楽はその部分に視線をやった。  
同時に強張っていた肩の力がすっと解けて、二人に笑みが浮かぶ。  
「「…入った」」  
ゆるゆると解けるように、神楽の内部は想像以上に温かかった。  
誰からも何からも邪魔されない、隔たりのない繋がり。  
待ち望んでいた、境界線の向こう。  
目頭が熱くなって、あれ、何だろう、涙で霞んで見えないや。  
「…何で新八が泣くアルカ」  
「いや、ごめん、なんか…嬉しくて…普通逆だよね」  
「女々しいナァ、ぱっつぁん」  
「ごめんってば」  
けらけらと笑ってはいるものの神楽の表情は無理をしていると分かった。  
きっと痛みは尋常じゃないはずだ。  
眼鏡を外して涙を拭いたあと、もう一度かけ直す。  
思えばこうすると、普段より少し強くなる気がした。  
想いを告げる勇気が、湧く気がした。  
「あのさ、今日はここまでにしよう」  
「ぅ…なん、で?」  
「時間をかけた方がいいだろうし…それに、神楽ちゃんが辛い思いするのは見てられない」  
一つ我が儘を聞いたのだ。こちらも一つ、聞いて欲しい。  
神楽は新八の首に手を伸ばして、そのままぎゅっと抱え込む。  
「……新八ぃ」  
「なに?」  
「ありがとアル」  
「うん…」  
強くて小さな女の子を抱き竦める。  
やはり脆くて折れそうで、そしてとても気持ち良かった。  
 
*  
 
そのまま暫く布団の上でじゃれあって、はしゃぎ疲れた神楽が寝てしまった頃には窓の外は薄暗く、日はとっくに落ちていた。  
長かった。  
数時間が、それこそ何日分も何ヶ月分も、いや、人生においても何年分もあるくらい、とても長く感じた。  
それは確かな安らぎと幸せで、思い返せば結構照れ臭い。  
普段は言わないようなくっせー事ばかり言った気がする。  
そして普段ならそれを馬鹿にする少女は、それを聞いて嬉しそうに笑った。  
 
目が覚めたらきっと、いつもと変わらない万事屋の二人なのだろう。  
少しだけ大人になった、いつもの二人。  
銀さんに言うのは暫くしてからだなと、神楽の寝息を聞きながら新八は眠りについた。  
 
 
おわり  
 
 

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