白い盆のような月が頭上で輝いていた。
しんと冷え切った暗い森の中で、その輝きだけが土方の行く手を照らし出す。
―――全く。何だってこんな目にあわなけりゃならねぇんだ。
月明かりに照らし出された男の顔は、傍目にも疲労が窺え、擦り切れた隊服はそれまでの彼の受難を物語っていた。
珍しく局長代理の仕事で、一人で出張することになった土方は、本来ならば今頃、旅館で温泉にでも浸かっているはずだった。
仕事の内容は地方の警察関係者との会合だったが、それが済んだ後は、普段のビジネスホテルにではなく、ランクも数段上の温泉旅館に泊まれるはずだったのだ。
滅多にない役得だったのに、なぜか土方は今、凍えそうな思いをして夜の森をさ迷っている。
―――かんっぜんに遭難してんな、こりゃ……。
先ず最初の受難は旅館に向かう途中で車のエンジンがイカレた事。そしてそれが携帯の電波の届かない山中であったこと。
次いで、そこは人影はおろか、他の車一台通らない、街灯すらない山道で、旅館までは歩いて2,3時間は余裕でかかりそうな位置であったこと。
寒い中、山道をたった一人で歩くことにウンザリした土方は、カーナビで見ただけのうろ覚えの地形を頼りに、森を突き抜けて人里へ降りる計画を断行した。
計画の成果は、今の状況が物語っている。失敗である。
あれから5時間は経とうと言うのに、一向に人里に降りられる気配はなく、気づいたときには引き返す道も分からなくなっていた。
既に体の芯まで冷え切って、脚は棒のようになっている。
胸元のタバコに手をやるが、紙箱の中身は綺麗に空で、土方は苦々しい表情を満面に湛えて空箱を握りつぶすしかなかった。
―――あーっ、どっかに自販機ねぇかな。くっそ、イライラする!!
街灯どころか道すらない山の中に自動販売機などあろうはずもないのだが、ニコチンの切れた土方には最早まともな思考など不可能だった。
同じ場所を何度も巡っているような錯覚に捕らわれ、もう森から出られないのではないかと絶望しかけたころ、土方の眼は橙色の光を捉えた。
「―――自販機?」
思わず口から出た間抜けな問いかけの答えは、もちろん否だった。
暖かな光は行灯のもので、その明かりは闇の中でほわほわと漂う白い湯気を照らし出していた。
森の中に唐突に浮かび上がったその湯気の正体は――。
「温泉じゃねぇか」
暗闇に滔滔と溢れる温泉が現れた。
見渡す限り人気(ひとけ)はない。
岩で囲まれた立派な露天風呂の周りに、数点の行灯が灯されているのみである。
―――狐にでも化かされてんのか?
土方がいぶかしむのも無理はなかったが、警戒して一帯を調査するほどの思考能力も体力も、既に尽きていた。
不審に思う気持ちよりも、先ずは温まって、カチカチに凍えて棒になった体を元に戻したいという願望が勝っていた。
土方は隊服を脱ぎ捨てると、白い湯気の中に入っていった。
冷え切った鼻腔に暖かな湯気が入り込み、感覚の無くなりかけた手足を温泉の湯がじわじわと解してゆく。
つるりとした泉質の湯を両手で顔に浴びせる。
―――はぁ〜……生き返った……。
それまでの疲労が溶け出していくのを感じて、土方は息をついた。
が、落ち着いて周りを見渡してみても、やはり行灯のほかに民家の明かりは窺えず、真っ暗な森の木々の隙間から、満月が見えるのみである。
人気のない山中に唐突に浮かび出た豪華な温泉は、いささか不気味に思えなくもない。
―――……まぁ、明日、陽が昇ってから動きゃいいか。露天風呂があるなら、どうせ里は近くだろうし。
考えなくてはいけないことは後回しにして、土方は湯の中で夜を明かすことに決めた。
すっかり気の緩んだ土方は、いつもなら気づいたであろう、かすかな人の気配すら見逃していた。
その為、それは急に白い湯気の中から生まれ出たように感じられた。
「誰だ、ここに無断で入っているのは」
「ぉぶお!!」
白いもやの中に、鋭い声音が響いた。
思わず湯の中に沈んだ土方だったが、口から飛び出そうになった蚤の心臓を必死に押さえて、湯から顔を出し、周りを窺う。
行灯があるといっても、照らし出す範囲は知れている。周りは深い闇。
土方には声の主が小さな影にしか見えなかった。
しかし、冷静になってその声を思い返すと、確かにそれには聞き覚えがあって――。
「ここは柳生家の隠し湯だ。誰の断りがあって――…!君は…」
「その声は、確か柳生んとこの――」
「「何でこんなところにいるんだ!?」」
図らずも、同じせりふを同時に叫ぶ事になった二人は、まじまじと互いの顔を眺めた。
土方が一瞬怯えたもやの中の奇怪な人影は、名門柳生家の後継者――柳生九兵衛だった。
「僕はたまに家の者に内密にしてここに来るんだ。君こそ何故人の家の風呂に勝手に入っているんだ」
「俺は――遭難したんだよ」
気まずそうに湯の中で答えた土方の説明で、どれだけのことが伝わったかは不明だが、九兵衛はそれ以上は追及せずに、臆面もなく浴衣の帯を解き始めた。
「そうか。まぁ全く知らぬ者でもない。借りもある。今日くらいは入れてやってもいいだろう」
「って、オイ!!お前――っ」
慌てたのは土方の方である。
剣の腕は男顔負け、出で立ちも少年のようで、男として生きてきたという経歴の持ち主でも、九兵衛は女なのだ。
うら若い女が暗い山中に男と二人きりの状況で、いきなり着物を脱ぎ始めたら、土方でなくとも動揺するだろう。
なんと言って突っ込めばいいのか、狼狽する土方をよそに九兵衛は白い浴衣を脱ぎ去った。
行灯の光に照らし出されて、九兵衛の白い裸体が浮かび上がった。
未成熟な薄い胸はほんのりと先端が色付き、細くしまったウエストのラインから丸く張り出た腰と太腿の肉付きは、細くともいかにも女のもので、その美しさに土方は思わず釘付けになった。
細くとも柔らかそうな体。少年のようにすらりとした手足をしているが、男には決して感じない色香が漂っている。
両腿の閉じあわされた間、平らな腹の下に申し訳程度の茂みがあり、ふっくらと盛り上がった柔らかい肉の丘が見て取れた。
大人の女というよりは、成長途中の青い果実を連想させるような九兵衛の体は、冒しがたく神聖なものにさえ映り、それがかえって艶かしく土方には感じられた。
「ちったぁ、隠せよ。……恥ずかしくねぇのか、お前――」
温泉の湯に当てられただけでなく、染まってゆく自分の頬が気まずくて、土方は九兵衛から目をそらした。
そのまま見入っていたら、確実に妙な方向に雪崩込みそうに思えた。
女関係で面倒事になるのは御免だった。
自分は一介のチンピラ警察の副長で、相手は柳生のご令嬢だ。
おまけに最悪な跳ねっ返りで、先般はおニューの刀にヒビを入れられ、土方自身も深手を負うほどの揉め事を引き起こした張本人だった。
女の身でありながら、幼馴染の娘に懸想していて、大の男嫌いだとも聞く。
―――全く訳のわからねェガキだ……。
己の動揺を気取られぬように顔を背けた土方だったが、その土方に向けられた九兵衛の言葉は、その彼を思わず振り向かせてしまうほど、予想外のものだった。
「君も――やはりこの体は直視できぬほど醜いと思うか」
「は……はぁあ?」
「醜いと思うから、隠さなければならぬほど恥ずかしい体だから、顔を背けるのだろう」
土方が振り向くと、露天風呂の淵に腰掛けた姿勢で、九兵衛は沈んだ表情を浮かべていた。
「いや……あの……別に醜くはねぇけどよ……」
―――むしろ、綺麗っつーか、そそられたっつーか……。
しかし九兵衛は表情を変えずに、土方の言葉を遮った。
「いや、僕の体は醜い。解っているんだ。
女とは程遠い。けれど、どうやっても男にはなれない。
どちらにもなれない片輪者なんだ」
そう言いながら、苦しそうに薄い自分の胸に指を這わす。
土方は九兵衛の話を聞きながら、なんとも怪訝な顔になった。
先ほどから九兵衛が、何故そんなに自分の体を卑下しているのか訳がわからない。
「どう見たって女じゃねぇか。立派に女だろ」
「君は――」
僕を愚弄しているのか!!と、いきなり九兵衛は激昂した。
湯の中に入り、土方に詰め寄る。
全裸で迫ってくる九兵衛の剣幕に押されて、土方は思わず湯の中で後ずさった。
「な、なんで自分で女じゃねぇって思ってんだよ!! 」
「おっ、お妙ちゃんより!! む、胸がなかったんだ!! 」
「……………………はい?」
「みんなが妙ちゃんは胸がなくてまな板とか言うが、そんなことはなくて、小さくても綺麗で…っ
ぼっぼくは、妙ちゃんよりもっとペタンコで、おまけに僕より年下の神楽ちゃんにまで…っ」
「……………………負けたのか」
「まっ負けたとか言うな!!!!」
聞けば、九兵衛は幼い頃から男と偽ってきたばかりに、銭湯の類は入ったことがなかったらしい。
門弟の者たちが稽古の後で男湯に入って楽しそうにしているのが、幼い頃は羨ましかったのだという。
そして、先日ひょんな経緯でお妙たちと断食道場で共同生活することがあり、初めて他の者と大浴場に入ったのだという。
そこで生まれて初めて目にした同性の裸体が、彼女にとっては衝撃だったらしい。
「猿飛さんとか、ああいう体が本物の女の体なんだと思う。
家の者は今では僕に女の子として生きてもいい等と言うが、僕はきっとあんな風にはなれないし、
それに、男相手では肌と肌が触れるだけで虫唾が走るんだ」
とても、女としてなんか生きられやしない――と続ける九兵衛は、土方から見れば、愛らしい容姿の少女にしか見えない。
本人だけがどうやら卑屈な思い込みをしているらしい。
「何も、女ってのは、胸がデカイ奴の事ばかり言うンじゃねェだろう」
「東城も小さい方が良いとか言うが、アイツの言うことは信用できない。ハァハァ言って気持ち悪いし。
それに――」
家の者は僕のことを心配してくれるのは解るのだが、それが時々重たいんだ――。
そう言って、九兵衛は湯の中で背中を丸めた。
細いうなじから背中にかけて雫が滑り落ちる。
濡れて張り付いた漆黒の髪が、華奢な肩に垂れていた。
その細い肩を、土方は何故か無性に引き寄せたくなった。
七面倒臭いふざけた餓鬼だと思っていたが、複雑な育ち方や不器用な性分を抱え込んで生きているのだと思うと、不憫に思えなくもなかった。
「……それで、家出してきたってわけかい」
「別に……そういうわけでは……」
九兵衛は否定したが、柳生家にいるのがいたたまれなくなってここへ来たのは明白だった。
土方は深くため息をつくと、いきなり九兵衛の左腕をつかんで引き寄せた。
「家出娘はお巡りさんが保護しなきゃな――」
不意をつかれたとはいえ、男に触れられて、九兵衛の顔があからさまに歪む。
「やっ、ヤメロ!! 僕は――」
「肌と肌がダメなら――粘膜と粘膜じゃどうなんだ?」
言うが早いか、土方は九兵衛の攻撃をかわし、彼女の顎を捉えて口付けた。
そのまま間髪を入れずに、小さな唇の間に己の舌を捻り込んだ。
予想外の土方の行動に、九兵衛はすっかりパニックを起こして固まった。
彼女の許容範囲を優に超えて、それは衝撃的な出来事であったらしい。
御付の東城にセクハラまがいの言葉をかけられたり、変態的な視線で観察されたりは日常茶飯事でも、東城は従者として最低限のラインを超えてきたりはしなかった。
九兵衛は日頃から男には負けないという自負もあったので、自分が男に襲われることなど想定もしていなかったらしい。
おまけに、目の前の男は以前、九兵衛が剣で伸したことがある。九兵衛にしてみれば“雑魚”だ。
無論、そんな“雑魚”に唇を奪われるなど夢にも思わない。
口づけの対象にされ得ることすら、理解していなかった。(東城は特別に”変態“だということで、警戒はしていたが)
あまりのことに、相手の舌を噛み切る発想も思いつかず、九兵衛はやすやすと男の舌を受け入れた。
土方は九兵衛が抵抗しないのを良いことに、彼女の腰に腕を回し、小さな胸を無骨な手の平で撫で回し始めた。
びくりっ、と九兵衛の腰が跳ねて、男から逃れようとするが、湯の中でしっかり抱きとめられていて、それは叶わなかった。
「ふ……んむっぅ…ん…んっ!!」
湯の中で男に体を弄られる度に、九兵衛は鼻から抜けるような吐息を漏らしたが、それは悉く男の舌に絡めとられて、くぐもった声にしかならなかった。
ぬるりとした泉質の湯の中で、敏感な乳首や尻の間や、内腿を撫でられ続けているうちに、九兵衛は徐々に興奮しだし、息が荒くなっていった。
しかし、酸素を求めて口を開いても、男のぬめった舌先が、より深く自分の咥内に潜り込むだけで、九兵衛は次第に意識が霞んできた。
ぬるりとした男の舌は違う生き物のように九兵衛の舌を嬲り、呼吸を奪うように吸い付いてきた。
長く深い口づけの後、土方が唇を離すと、互いの舌の間に唾液の糸が伝い、九兵衛の両目は蕩けて覚束なくなっていた。
「こんだけ柔らけぇ体してたら、充分に女だ。安心しろ。感度も良いようだしな」
真っ赤な顔をして、無意識に土方に縋り付いている九兵衛の顎をくいと掴み上げて、土方は彼女の顔を覗きこんだ。
濡れた唇を薄く開いて、肩で息をしている。
見上げてくる瞳は涙で潤んでいて、見つめられた者は彼女が再び口づけをねだっているのかと錯覚しそうな程だった。
「な……なんだ……今のは……。ち、力が…入らな……」
はぁはぁと荒い呼吸を繰り返しながら、九兵衛は無意識にに土方の両腕を掴んでいた。
どうやら腰が抜けてしまったらしい。
思っていたよりもずっと初心な反応に、仕掛けた土方の方が生唾を飲み込んだ。
深刻な表情の九兵衛を軽く笑い飛ばしてやろうと、口づけたのだが、思いの外、彼女には刺激が強すぎたらしい。
土方とて女を知らぬわけではないが、百戦錬磨とは程遠い。寧ろ、どちらかといえば苦手な部類である。
女に関わると必ず面倒事になるからだと土方は考えているが、土方自身の女に対する反応の方がよほど面倒臭い場合が多い。要するに、不慣れなのである。
その土方の口付けで腰を抜かす程なのだから、九兵衛は筋金入りの箱入り娘だと言えた。
―――がぁああッ!! 何だ、コレ!! いいのか!? ヤッちゃっていいの、この娘!?
あまりにも無防備に感じている様を見せる九兵衛に、冗談ではなく土方の欲望が膨らみ始めた。
「――男からしてみりゃ、胸の大小より、感じてくれる奴のが、よっぽど良い女だぜ」
そう嘯くと、土方は意識の覚束ない九兵衛の腰を再び掴んで引き寄せ、薄い茂みの奥にある泉に指を這わせた。
「ひゃぁあっ!! あ、っゃ!! なにす…っ!」
驚いて高い悲鳴を上げてしまった九兵衛の秘所は、先ほどの愛撫だけで既にぬかるんでおり、温泉の湯のぬめりとは違った、濃い粘液を土方の指先に伝えた。
「……柳生の若様は随分と感度が良いらしい。……口吸われただけで、もうぐちょぐちょにしてやがる」
内心、感じてくれていた事にガッツポーズでもしたいくらいには喜んでいたのだが、土方はわざと九兵衛を詰るような言葉を紡いだ。
どうにも女相手には素直になれない性分らしい。
言われた九兵衛はそれがどうやら淫乱な女を意味することだと理解したらしく、眉根を寄せて頬を染めた。
「は…っ離せ…っ!! 気持ち悪いっっ!! 」
「嘘吐けよ。 気持ち良いと濡れるモンなんだよ、ココは。」
土方は徐々に気持ちが昂ぶりだし、九兵衛の狭い膣口に指を潜りこませた。
「はあぅっ…あ! やだ!! んぁああッッ!! 」
節だった男の指が、のるっ、と、自分の体内に潜り込んだ感触に、九兵衛は震えた。
強く収縮する暖かい膣の感触を楽しむように、土方は九兵衛の泉を掻き回した。
膝ががくがくと震えだした九兵衛は、不本意にも土方に寄りかかってしまう。
それを良いことに、土方はより強く九兵衛を抱きかかえ、彼女の内部を焦らすように擦り上げた。
柔らかく広い奥から狭く収縮する入り口付近まで、指を前後にゆっくり抜き差ししてやる。
九兵衛は今まで感じたことがなかった刺激に対し、面白い程素直に反応し、土方を悦ばせた。
「あ…っふぁ…ッッ!! ぃ…ゃ……!! なんか……ヘンだ…っ」
「変じゃねぇよ。もっと声出せ。もっと気持ち良くしてやる」
頬に紅葉を散らし、切なげに眉を寄せた九兵衛の唇の端から涎が伝った。
土方は内部が解れてきたのを察すると、指の数を増やして中でバラバラに動かした。
「ひゃぁああんッ!! やめッ!! らめぇ…ッッ!!!」
「ココが好いのか」
土方は重点的に九兵衛を攻め立てた。
ハァッハァッと、加速していく九兵衛の呼吸に合わせて、指の出し入れを早めてやる。
「ぁああああああッッ!!!」
九兵衛は一層高い声で鳴くと、ビクビクと腰を痙攣させて、土方に凭れ掛かった。
土方はそんな九兵衛の肩を抱いて、今まで九兵衛に突き刺していた指を、己の唇に運んだ。
「しょっぺぇな……お前も舐めてみな」
息の整わない九兵衛の唇に、彼女の愛液と土方自身の唾液に塗れた指を押し込む。
「ん……」
九兵衛は幼子が母親の乳房を吸うような素直さで、土方の指を吸った。
恐ろしいほど快楽に従順で、驚くほどに男を知らない九兵衛は、土方の与える刺激に面白い程翻弄されていた。
土方は目の前の娘に快楽を与えることに、すっかり夢中になっていた。
面倒事と斬って捨てようと思っていたことなど、露ほども頭に無くなっていた。
「もっと……頭がおかしくなるぐらい気持ち良いコトしてやろうか?」
耳元で囁くと、九兵衛が土方に顔を向けた。
涙と涎で汚れているのに、その顔は驚くほど美しく、扇情的だった。
「……して…ほしい……」
土方の理性の糸は、その瞳に捕えられた瞬間に、ぷっつりと切れてしまった。
夢中で九兵衛の唇に吸い付き、乱暴に彼女の片脚を持ち上げた。
岩風呂の淵にある、大きくてなだらかな岩の上に体を横たえさせ、開かれた泉に、己の猛った先端を潜り込ませる。
「はぅっ…あっ、アッッ!!!!」
跳ねる細い腰を無理やり押さえ込んで、己の剛直を捻り込んだ。
華奢な九兵衛の脚は限界まで開かされ、彼女より二周りは大きい体格の男を受け入れていた。
幼い、という歳でもなかったが、経験のない彼女の内部は、興奮した男の猛りを鎮めるには些か狭すぎた。
「ぃ…た……ッッァッ……ああッッ!!!」
苦痛に涙を滲ませ、顔を顰める九兵衛の貌が妙に土方の嗜虐心を煽り、つい乱暴に突き上げてしまう。
九兵衛の白い脚の付根に、目に痛いような鮮血が滴った。
未熟な九兵衛の膣内に、深々と熱い男根が埋め込まれる。
「ぅあ…っやあぁ…っ!! あーーーっ!!!」
ぼろぼろと涙を流す九兵衛が流石に不憫になり、土方は暫し繋がったままで彼女の様子を窺うことにした。
「……大丈夫か? 」
無理やり挿入した張本人が聞くにはあまりに間抜けだったが、他にどんな言葉をかけてよいのかも解らない。
土方の心配を余所に、快楽を与えられ続けた後で急に激痛を与えられた九兵衛は、それまでの異様な興奮状態とも相俟って、軽く退行を起こしたらしい。一向に泣き止まなくなってしまった。
「ええと……あの……」
それまでほぼ思うがままに九兵衛を翻弄していた筈の土方だったが、本気で泣かれてしまうと弱ってしまう。
先般は竹刀でボコボコにされた相手だったし、生意気な態度が鼻につく糞餓鬼程度の認識だった少女が、自分の腕の中で淫らに甘えた声で喘ぐのが小気味良くて、思わず図に乗ってしまっていた。
やりすぎた事に反省しないわけでもなかったが、泣きながらも九兵衛の膣内は土方の男根をぎちゅぎちゅと締めつけてくれるのだから、土方の猛りは萎えるどころか一向に治まってくれないわけで。
―――泣き叫ぼうが、喚こうが、もう無理やり犯しちまおうかな……。人も来ないし……。
男に不用意に無防備な態度取ると痛い目に遭うよ、っていう教育にもなるし……って、
アレ? 俺、いま家出少女をレイプしてる悪いオトナ?
子供のように泣きじゃくる九兵衛に無理やり挿入しているこの状況は、それはそれでかなり興奮しないでもない。
が、かといって、無理やり犯すには、先ほどの従順な姿を見せられて、情を絆されすぎた。
土方はため息を吐くと、九兵衛の頬に舌を伸ばして、その涙を舐めとってやった。
「好きな奴に、さっきやった気持ちイイコトされてるって思ってみろ」
「……好きな…人……。………妙ちゃん」
やっぱりオンナなのかい!!という突っ込みを飲み込んで、土方はなるだけ優しい調子で九兵衛の肌の上に舌を這わせていった。
「目ェ瞑って想像してみな。好きな奴に口吸われて、体触られて、一番気持ち良いところ舐められてんだ」
土方の声を聞きながら、九兵衛は言われたとおりに、お妙との情事を想像しだした。以前見た、一糸纏わぬ美しい姿の妙と、裸の自分が絡み合ってくちづけを交わす姿を。
泣いていた九兵衛の頬に艶やかな赤味がさし始め、軽く高揚したような息遣いに変わっていく。
―――オイオイ。単純すぎないか、コイツ。自分でやっといてなんだが、これなら幾らでも丸め込んでエロイ事仕込み放題じゃねぇか。
あっさり欲情しだした九兵衛にあきれつつも、それはそれで好都合、とばかりに、土方は九兵衛の小さな胸を啄ばんだ。
ぴちゃぴちゃと大きな音を出して乳首を嘗め回し、唾液で濡れ光るそれに、軽く歯を立ててひっぱった。
「あっ…! はぁんっ…ふゃ…っ! たえ、ちゃ…っ! 」
途端に、九兵衛の薔薇色の唇が濡れた吐息を吐き出し始める。
土方を締め付けていた内部も、異常なほどに愛液を溢れさせ、緩み始めた。
自分が抱いている娘が、ここにいない女の名を呼ぶのには、どうにも複雑な心境は否めないが、土方は猛る己をゆっくりと前後に動かし始めた。
張り出したカリの部分が九兵衛の内壁をずりゅりゅりゅ、と、擦りあげていく。
根元まで引き抜いて、また奥深くまで押し込んでゆく。
体重を乗せて腰を回すと、興奮して立ち上がった九兵衛のクリトリスも一緒に擦りあげるような動きになり、
九兵衛は腰を震わせて嬌声を上げた。
「やぁあんッ! アッ! 気持ちイイ!! 」
その声を聞いた土方は、徐々に速度を上げながら、九兵衛に腰を打ちつけ始めた。
ぱちゅんっ!ぱちゅんっ!という音が、一定のリズムで山に響き始める。
その音に呼応するように、九兵衛の可憐な唇からは、淫蕩な喘ぎ声が溢れた。
―――妙ちゃんの乳首は綺麗なピンク色だったな……。妙ちゃんのアソコもピンク色なのかな……。
妙ちゃんも、こんな風に、アソコにおちんちんを入れられたら、気持ち良くて泣いちゃうのかな……。
膣奥まで土方の男根を受け入れながら、九兵衛はお妙のことばかり考えていた。
こんなときにお妙のことを考えてしまうのは、お妙を欲望の道具として穢してしまったような気がして、九兵衛は内心、罪悪感を覚えていた。
だが、それがかえって九兵衛の興奮を煽り、性感を高めた。
土方は長く堪えていた分、抑えが聞かなくなって、自分の下でお妙の名を呼び続ける少女を無茶苦茶に突き上げまくった。
土方の男根が出入りする九兵衛の膣口からは、濃い愛液が泡状になってその太腿にまで流れた。
膣底にまで響く振動と、激しく擦りあげられる快感に、九兵衛は遂に理性を手放した。
高く掠れた悲鳴をあげ、激しく内部を収縮させながら、九兵衛は達した。
きゅうううっと己を締め上げる九兵衛の内部の力の強さに、思わず土方も射精感が限界にまで高まった。
土方は九兵衛の膣口付近の天井に、ゴリゴリと激しく己を擦りつけると、勢い良く己を引き抜いて、白濁した熱いシャワーを九兵衛の顔面に吐き出した。
暖かい湯気を立ち上らせたその粘液を浴びせられた九兵衛は、びくびくと痙攣した後、意識を失った。
九兵衛が目を覚ますと、既に空は白み、鳥が木々の間を囀っていた。
記憶にないのに、髪は丁寧に水気を拭き取られ、ここに来るまでに纏っていた浴衣と半纏を着せられていた。さらにその上から、新撰組の隊服まで被せられている。
横に目をやると、上半身はカッターシャツのみで薄ら寒そうな男が背を丸めて眠っていた。
おそらく男が九兵衛をここまで運んでくれたのだろう。
露天風呂から半里ほど離れた脱衣用の小屋の中である。
九兵衛が上半身を起こすと、男も目を覚ました。
「目覚めはどうだ。家出娘」
不機嫌な声で呼びかけられ、身を捩ると、脚の間に鈍痛が響いた。
咄嗟に昨晩曝してしまった醜態を思い出し、九兵衛は顔を赤らめた。
そんな九兵衛の顔を見つめながら、土方は語りだした。
「言っとくが、俺はホモでもロリコンでも変態でもないからな。良い女じゃねぇと勃たねぇフツーのオトコだ。」
何を語りだすのかと、きょとん、としかかる九兵衛に、土方はうんざりだと言いたげにため息を吐きながら、続けた。
「お前は充分に魅力があって可愛い女だって言ってんだよ!」
言われて、さらにポカンとする九兵衛を見て、土方はあーーーーっ!!と叫んで後ろを向いてしまった。
慣れない甘い言葉で、虫唾が走るのを我慢して慰めてやろうとしたのに、相手に伝わらないのでは、恥の掻き損だ。
だから女は面倒で嫌なんだ!!と内心臍を曲げた土方の背後で、くすくすと笑う九兵衛の声が響いた。
「僕はやっぱり、お妙ちゃんの事が好きだ。
だけど、僕は紛れも無く女なんだって、解ったよ。
ありがとう」
窓から差し込む朝日の下で見たその笑顔は、土方のそれまでの蟠りをあっけなく霧散させた。
「何だ、そりゃあ……。 訳の解んねェ餓鬼だな。」
土方は九兵衛の笑顔に暫し見蕩れた後、わざとつまらなそうに言ってみせた。
九兵衛は再び笑うと、真直ぐに土方に向き合い、晴々と告げた。
「餓鬼なんかじゃない……僕は――柳生九兵衛だ」
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