不確かに刻まれたあの日。  
アンタは俺の前から、あっという間に消えた。  
辛い匂いの蒸せかえる中で、少しの間…幻を見ていたみたいに。  
「結局背負っちまったのは―生きてる俺1人かよ…」  
まぁ損な役目も厄介事も慣れてる。  
そうやって生きてきたから――。  
 
 
―今日は雨。だからつい思い出しただけで。多分。いや他にねぇっつーの!多分。  
 
「あー…あれから随分たっちゃったんだけどな…っておいおい!この始まり、なんかこう哀愁漂う銀さん!!って感じかこれ?いやいや、こんな俺もたまにはあってもいいよな〜」  
窓と雨空・時折ジャンプを眺めながら、台詞とは異なる死んだような目で独り言を言う。  
「銀ちゃん、うるさいネ〜。何ブツブツ言ってるアルか?」  
ちょっ!うるさいじゃなくてぇっ!これ哀愁ぅっ!!  
……何となく、もう少しこの気分に浸っていたくて。  
「…神楽、俺ちょっと出掛けるわ」  
読みかけのジャンプの読みかけのページに折り目をつけて立ち上がる。  
「外は雨降ってるから、天パ1.5割増になるヨ」  
「うるせぇ!気にしてること言うんじゃねーよ!」  
「お土産は酢昆布でいいアル〜」  
既に1.1割増(推定)の天パの横でひらひらと後ろに手を振りながら、万事屋の玄関を出る銀時。  
雨足が少し強くなった。  
 
 
「…いいんですよ」  
クスクスと笑うミツバ。  
「あの人、私を置いていってばかりだもの」  
「ったくどっちも素直じゃねーんだから…」  
「素直じゃないから、私も素直にならないでいるの。十四郎さんに…」  
「あー…」  
ポリポリと頭をかく。  
「…なんだ。その…」  
「銀さんが気にする必要なんてないの。私が望んだことだもの」  
 
 
思い出す会話の欠片。  
あの日も――こんな大粒の雨で。  
 
「おいおい、こりゃ当分戻れねーぞ?どうするよ?やっぱ俺1人で激辛煎餅くらい買いに来てやったのに」  
「だって好みがあるんだもの。フフッ、銀さん…雨で頭が2割増ですよ」  
「喧嘩売ってんですかぁっ?おねーさんんっ!?」  
くしゅん!  
ミツバが両手で口を押さえてくしゃみをする。  
「あーあーもうほら風邪引くから!これでも羽織っとけ!」  
腰のベルトを外し、ミツバに愛用の白い着物をかけてやる。  
「ありがとう。ねぇ…銀さん…万事屋って本当に何でもするの?」  
 
「まぁ…金さえ貰えりゃ結構何でもやるかな…いやいやでも人殺しはやんねーか」  
「……じゃあ…抱いてくれますか?」  
べぶばーーーっっっっ!!!  
いちご牛乳とタバスコの未知との遭遇を吹き出した訳ではない。  
「なななななに言ってんの!うおぉいっっ!ちょっと待て!お姉さんんんっ!?」  
「いやですか?そーちゃんのお友達なのに」  
また友達ぃっ!?  
そーちゃんの友達だったら余計いかんだろぉぉっっ!バズーカくるぅぅっっ!銀さんの息子さん付近がアフロと化して、息子さん本体はKOされるぅっ!と、心で1人ツッコミする銀時であった。  
が、ゴホンと咳払いして極めて冷静になってみたり。  
「……アンタ婚約者いるだろ…ったく…結婚前から浮気すん……」  
銀時の言葉が途切れる。  
唇に合わさる冷たい唇。  
そっと触れてすぐに離れた。  
「一度だけ……それで私とのこと忘れてください」  
ふざけてない真面目な顔と眼差しで、銀時を見つめながら静かに言う。  
「言う相手違くね?俺はアンタの旦那じゃねーよ?それに…何もしてないのに忘れろって随分勝手な言いぐさだなぁおい」  
「あら?したじゃないですか、さっき」  
「俺さぁ最近物忘れがひどくてさ〜。あー甘いもん食べてないせいかこれ!誰かさんに付き合わされて辛いもんしか食ってないもんな〜」  
「ひどい人」  
クスクス笑いながら、話題をはぐらかそうとする銀時の頬に手をあててもう一度唇に触れる。  
「……唇冷てーな」  
「…だって…私もう…きっと先は……」  
ミツバの言葉を塞ぐように銀時が口付けた。  
今度は―そうするのが当たり前の様な熱く長い口付け。  
いつしか銀時の腕がミツバを抱き締め、  
ミツバもそれに応えるように抱き締める。  
「…は…」  
舌を絡める唇の隙間から、どちらのものとも付かない漏れる吐息。  
それは甘い様にも辛い様にも聞こえ、雨音に消される。  
 
――外は一層雨が強くなってきた。  
 
 
「……んっ…」  
うなじを舐められミツバが仰け反る。  
座ったまま後ろからミツバを抱きかかえ、そっとその胸を揉みしだき、ちょうど腰の辺りまではだけた着物から覗く背中にゆっくりと口付けを落としながら舐めていく。  
「銀さん…痕はつけちゃいやですよ…」  
「そーだな…俺も多串くんに斬られたくないからな…」  
「…?だぁれ?」  
「ん…知り合い…みたいな」  
 
そう言って、片手を胸から脇腹に下ろしながら指を這わす。  
脇腹に触れた瞬間ピクリと反応して震える細い身体。  
もっとその反応が見たくて、下腹から内腿と指先でなぞる。  
「んっ…は…」  
またピクリと身体が揺れる。  
「もう感じてきちゃった?」  
「バカ」  
もう片手も足に触れ、白い両脚を弄ぶ。  
どこか触れられるのが弱かったのか、  
伸ばしていた膝を立てて、ぎゅっと脚を閉じる。  
無論、内腿を撫でていた銀時の手は挟み込まれ。  
「お姉さん、銀さんの手固定されちゃったんですけど」  
「だって…くすぐったいんだもの」  
と言いながら、背中にいる銀時にもたれかかる。  
「ん〜じゃあ、くすぐったくないよーに」  
内腿に固定されていた手をするりと抜きミツバの膝頭に動かし、そのまま両の手で膝を左右に開く。  
「きゃっ!」  
突然のことに驚く。  
後ろから掴まれ開かれた脚―前から見るとM字開脚状態?―併せて露わになる秘部。  
「いーい眺めだなおい」  
ミツバの肩越しにニヤリと笑う。  
「!やだ…銀さん…」  
開いた脚の筋にそって手を這わせる。でも確信には触れないで。  
後数ミリのとこまでは、その指先が近付いてくるのに。  
じわじわと熱くなってくる内を感じながら、ミツバが呟く。  
「…っ…いじわる…な人…っ……」  
「そーよ、銀さん意地悪ぃからなァ」  
耳元で囁いて、耳朶を軽く噛む。  
「んんんっ…」  
またビクビクする身体。  
「おねーさん、んなに反応されたら…」  
ギリギリ触れずにいた秘部に指をやっと動かし、  
「…さらに意地悪になっちゃおっかな」  
くちゅ  
濡れているのを人差し指の指先で確認して、  
ぐちゅ  
その指と中指を根元まで挿し入れる。  
「…や…んん…」  
ちゅくぬちゃ…ちゅぷくちょ  
出し入れを繰り返し始める指に、濡れたそこから溢れ出てやまない密が絡みついて、雨音より卑猥な水音がいやらしく響く。  
「こっちはあったかいな…こーんなに暖かく迎え入れるヤツは…そう簡単に死なねーんだよ」  
「…ふっ…ぁっ…」  
「だから…死ぬとか…思うな」  
「ゃあん…はぁっ…んっ…うんっ…」  
銀時の激しくなる指と言葉に、小さく頷いた様に見えた。  
ぐちゅぐちゅ  
文字通り、ぐちゅぐちゅになってきた膣内を引っ掻くように擦りつけながら、根元までの出し入れをやめない指。  
秘部から尻を伝い滴り落ちるまで、じゅぬじゅると濡れてきた頃、  
「銀…さん………っ」  
 
絞り出すような切ない声がした。  
指だけで、もう力の抜けかけたミツバを抱きかかえ、自分の方に向かせ座位のまま、ゆっくりとゆっくりと散々弄んだ場所に挿入する。  
「…銀さんぜーんぶ入っちゃったよ?おねーさん」  
その熱さと優しさにたまらなく、銀時の広い胸にもたれかかり息を吐く。  
―ミツバの息のあたる部分が焦がされる様に熱い―  
「息…熱ぃって……お前辛いもん食べ過ぎ。火ぃ吹いてんじゃね?」  
ミツバの腰を、自分の股間と上下させながら言う。  
上下させて動く度に、  
ぢゅぷぢゅぷ  
お互いの結合部から、さっきよりも耳につく水音が響く。  
「…銀さん…わたし…んっっ…」  
また一段と熱くなる吐息。  
振動に耐えられなくなってきたミツバの手が、銀時の肩を掴む。  
「…あぁっ!…っとぅ…し……」  
果てる寸前のミツバの唇を塞ぐ。  
その先の言葉は今は聞きたくなかったから。  
「…ん…っ!」  
ミツバの締め付け方が変わり、銀時もまた応える様に腰を持つ両手に力を込めて、ミツバの唇にも下唇にも、どちらも深く深く自身をぶつけた。  
 
 
「今度あま〜いもんの甘い甘い食べ方教えてやる」  
「フフ…約束ですよ」  
「俺は約束破らねーよ」  
まるで恋人同士が、離れたくない様に繋がったまま抱き合い交わす甘ったるい会話。  
「お前さぁ…良かったの?ほーんの浮気相手なら…あいつのが本望だったんじゃねーの?」  
 
雨が少し弱まってきた。  
 
――……十四郎さんは何があっても私を抱かない…だから、あの人になんとなく似ているあなたと知り合えて、抱いてくれただけで…十四郎さんと一つになった幻を見れた…それだけで私は幸せよ…――  
 
「銀さんが気にする必要なんてないの。私が望んだことだもの」  
 
 
 
「ったく、あっさり約束破りやがって…」  
全部思い出して、なんだか胸の内がアイツがいなくなったあの時みたいに―病院の屋上で痛みを殺して煎餅を食べた夜の様に―辛く辛く切なくなる。  
 
 
 
そんな想いを引きずり濡れながら歩く銀時の横に一台のパトカーが近付いてきて。窓が下ろされ、そこから無愛想な声が。  
「てめーは傘もねェのか?」  
あ。  
「んだよ、その面は?」  
寄りによって一番会いたくねーヤツが。こんな時に。だからつい言っただけだ。多分。いやいや銀さん、ヤキモチとかしねーから。多分。  
「お前はマヨネーズばっか食ってねーで、辛いもん食ってちっと素直になりやがれぇぇっっ!!」  
「はぁ?いきなりなんだ?糖分取り過ぎて気ぃでも狂ったのか?っつか、てめェの頭―」  
「うるせぇぇっっ!!」  
 
――どしゃ降りだった雨は、誰かの見た一時の幻と同じ様に…いつしかその勢いを弱めて空から消え去った。  
 
 
〈終〉  
 

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