うららかな小春日和。銀時はチョコを片手に惰眠を貪っていた。  
手の中のチョコが柔らかく崩れ、ソファーに茶色い染みを作っていた。  
神楽も新八もいない、平和な昼下がりだった。  
 
「銀ちゃぁぁぁん!」  
聞きなれた絶叫が響く。神楽の声だ。  
「銀ちゃん、銀ちゃん大変アル!銀ちゃぁぁん!」  
けたたましい声に銀時の意識がようやく浮上した。  
一番に目に入ったのは…溶けてぐずぐずになったチョコレート。  
「うわぁぁぁgyふいじょp@!!!!俺のチョコがァァァ!」  
「チョコなんてどうでもいいよ銀ちゃん!大変ある!!」  
チョコを前に絶叫する銀時を殴り飛ばして神楽がわめく。その目には涙が滲んでいた。  
「なんなんだよおめー。糖分より大事なモンなんてこの世には存在しねーよ。  
 とりあえず食っとけ。銀さんのとっときのチョコだ」  
「ん……っ」  
ソファーに座りなおし、溶けたチョコレートをすくって差し出す銀時の指を  
神楽はためらわずに口に含んだ。  
指先に感じる、柔らかな舌の感触。爪の間まで舐め尽すようにねっとりと舌を這わせる。  
おいおいやべーんじゃねえのこいつの舌かなり気持ちいいんですけどついでに俺の息子もお世話に…と、  
不埒な考えを銀時が抱き始めたとき、神楽が指を開放してまた喚いた。  
「銀ちゃんの嘘つきィィィ!」  
「…あんだよ」  
「糖分取ってもちぃとも直らないアル!嘘つき!おやじ!おめーのかーちゃんデーベソ!」  
「誰がデベソだ!いいからちょっと落ち着いて話せっての。何があった?」  
「股から…」  
「股?」  
「股から血が出て止まらないアル!お腹も痛いヨ!怪我してないのに!  
 銀ちゃんこれ悪い病気アルか?不治の病アルか?私このまま死ぬアルか…?」  
言いながらだんだんとテンションが上がってきたらしく、神楽はぼろぼろと涙をこぼしていた。  
 
銀時はすぐに原因に思い当たる…。月の障りか…!  
思い当たったと言えど、所詮は男。対処法などわかるはずもない。  
妙がいればどうにかなるだろうが、お妙も新八も今は出かけている。  
どうしたもんか…。  
「えーと、ま、とりあえず落ち着けや。新八が帰ってきたらどうにかなるから」  
「ほんとアルか?」  
「……多分」  
「…お腹痛いヨ……もうやだヨこんなの…」  
床に座り込んで泣き続ける神楽に銀時はペースを乱されっぱなしだ。  
家には鎮痛剤の類も無いし、あったところで天人の神楽に効くかどうかは定かではない。  
しかたなしに神楽を抱き起こして膝の上に抱いた。  
「悪ぃな、何にも出来なくて。新八くるまでこうしてやっから」  
「銀ちゃんなんか今日変アル……。また拾い食いしたアルか?」  
「一言余計だてめーは」  
目の前で一人の女が泣いているのに、何も出来ない不甲斐なさ。  
男ってやつはいざというとき意外と無力だと、思い知りながらただ神楽を抱いて腰をさすってやった。  
 
どれくらいの時間が経ったろうか。新八が帰ってきた。  
「ただいまですよー…と」  
最初に目に入ったのは、衝撃的な光景だった。  
ソファーに座った銀時の上に向かい合わせに神楽が乗っている。  
泣いている。  
そしてズボンに滲む鮮血。  
「ああああんた何してんですかァァァ!!」  
新八のドロップキックが華麗に決まった。  
スローモーションのようにゆっくりと銀時が崩れ落ちた。  
 
その後、神楽の必死の抗議と説明により、ようやく銀時は誤解を解消出来たという。  
夜はお赤飯だったそうだ。  
 

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