夜も更け静まり返ったかぶき町を土方は歩いていた。
酔いつぶれて眠っている銀時を引きずりながら。
(畜生、何で俺がこいつを送ってやらなきゃいけねーんだ)
忌々しい思いで銀時を睨むが、相手は間抜けな顔で眠っているため空しいことこの上ない。
土方は自分の運の無さを恨むしかないのであった。
――全くついていない。
非番だからと町に足を伸ばせば行く先々で銀時と遭遇しその度に争い、苛々は募っていった。
憂さを晴らすつもりで入った行きつけの居酒屋でカウンターで飲んでいる天然パーマを見た時には殺意が湧いたほどだ。
銀時の方でもそれは同じだったようで再び喧嘩になり、先に酔いつぶれた方が金を払うということで飲み比べになった。
互いに相手を挑発し合いながら一杯二杯と盃を空けていき、気がついた時には
もう店じまいだからと店の親父に揺り起こされていたのだった。
土方は親父にどちらが先につぶれたか尋ねたが、答えは両方とも同時だったという甚だ不本意なものだった。
揺すっても殴っても銀時が起きないのでとりあえず自分の飲んだ分だけ払って帰ろうとしたら、
親父にこのまま置いていかれたら困りますと言われてしまい、止む無く全額払って銀時を引きずって店を出たのだった。
タクシーで万事屋まで送りまた後日代金は請求しようと思っていたら、捕まえたタクシーの運転手には
二人がひどく酔っ払っていることを理由に乗車拒否されてしまった。
そのため土方は寒空の下憎い天然パーマを引きずって歩くという事態に陥ってしまったのだ。
寒さで酔いはすっかり覚めていた。
どこかその辺の道端に捨てていってしまいたいのはやまやまだが、うっかり凍死でもされたら流石に寝覚めが悪い。
店の親父が土方が送っていったのを知っているのだから責任問題にもなる。
結局無事万事屋に送り届けるしかないのだ。
――本当に、全くついていない。
それでもようやく万事屋が見えてきたのでほっとしていると、その前の道端にしゃがみ込んでいる人影を見て土方は足を止めた。
「ない、ない…。どこにいったの?」
長い髪の女が必死で何かを探している。
こんな深夜になかなかホラーな光景である。
銀時を捨て去ってマヨネーズ王国の入り口を探しに行きたい気持ちを抑え、土方は恐る恐る女に声を掛けた。
「こんな遅くに探し物か?」
振り向いた女の顔はなかなかの美貌だった。おまけにどこかで見た覚えがある。
ともかく女が幽霊の類ではなさそうなので土方は幾分余裕を持って女に近づいた。
「何を探しているんだ?」
「眼鏡を落としてしまったの。あれがないとまるで暗い闇の中にいるみたい…」
「実際闇の中にいるだろうがよ…」
ぼやきながらも土方は女の周りを見渡した。何てことはなく眼鏡はすぐ側に転がっている。
「そこに落ちてるぞ」
「えっ、どこ?」
「そこだ、右手のもっと先」
「ああ、あった」
女は眼鏡を掛け直すと立ち上がった。
「どうも……あぁっ銀さん!!」
女は銀時の姿を見つけるとその体に飛びついた。
「家が留守だからどうしたのかと思ってたら、こんなになるまで飲み歩いてたなんて!!」
「留守ってガキ共もいねーのか?」
「そうよ。今日はお妙さんが仕事から早く上がるから神楽ちゃんは新八君の家に泊まって3人で遊ぶの。
だからせっかくのチャンスだと思ってやってきたのにこの寒空に放置だなんて!
でもそうやって冷たくされることで私の銀さんへの思いはよりいっそう燃え上がるの…」
言ってることはかなり怪しいがどうやら女は万事屋メンバーの行動パターンを熟知しているようだ。
「とりあえず早く中に入らないと。あなたそのまま運んできて」
女はそう言うと万事屋の階段を上っていった。
早くこのお荷物から解放されたい土方は言われるままに女の後をついていく。
女は懐から鍵を取り出しドアを開けてそのまま中へ入っていく。
合鍵を持っているということはよほど深い間柄なのだろうか。
とりあえず中に入れたら後のことは女に任せればいいと土方も家の中へ入った。
「このソファーに寝かせてね」
「ああ…」
ソファーに銀時を寝かせようやく土方は解放された。
「おい、茶を一杯もらえるか」
「台所はあっちよ」
女は台所を指差すと家の奥へ行ってしまった。
舌打ちしながらも台所に行きポットに残っていた湯で茶を淹れてリビングに戻る。
何かを蹴飛ばしたので足元を見るとビニール紐の玉だった。
部屋の隅に重ねてあるジャンプを見るに、これで縛ってゴミの日に出そうとしたのだろう。
放っておいて空いている方のソファーに座り茶を飲む。
温い上に不味い。土方はため息をつくと煙草に火をつけた。
銀時を送り届けたらすぐに帰るつもりだったが、一旦腰を落ち着けると
また寒い外に出るのがひどく億劫になってきた。
女はどこからか毛布を持ってきて銀時に掛けた。
土方の目には間抜けにしか映らない寝顔を頬を染めて幸せそうに見つめている。
テーブルの上の灰皿で煙草を揉み消し、土方は女に尋ねた。
「アンタこいつの女なのか?」
「あら、そう見えるかしら?」
女は嬉しそうに頬に手をやる。
最初見た時はクールな印象を受けたがその仕草はなかなか可愛らしい。
(最初見た時…?違うな。さっきが初めてじゃねぇ。やはりどこかで会ってる…)
「アンタ名前は?」
問うと女は得意そうにポーズを決めながら
「私は銀さんの未来の妻にして元隠密御庭番衆始末屋さっちゃん」
と名乗った。
「始末屋…。そうか前に松平のとっつぁんといた…」
よくよく見ればさっちゃんの着ているのは忍装束だ。
直接言葉を交わしたことはないが松平と一緒にいるところは何度も見ている。
なかなか思い出せなかったのはやはり酔っている証拠だろうかと土方は眉を寄せる。
「あら。松平様の知り合いなの?」
そう言ってさっちゃんは土方に近づいて顔をまじまじと見つめた。
涼しげな瞳とふっくらと赤い唇に土方は釘付けになった。
「ああ、思い出した。あなた真選組副長の沖田さんでしょ」
「誰が沖田だぁぁっ!!俺は土方だっ!!」
思わず土方は立ち上がって怒鳴りつけた。
さっちゃんは動じることなく土方の口を手で押さえる。
「大声出さないで。銀さんが起きちゃうでしょ?」
「……」
銀時に目をやるとこっちが苦労して連れてきてやったことも知らないで気持ち良さそうに眠っている。
忘れかけていた苛立ちが酔いと共に再び沸き起こる。
無言で睨みつける土方にさっちゃんは肩を竦めた。
「間違えてたわ、土方さんなのね。ごめんなさい私基本的に銀さん以外の男はどうでもいいの」
そう言いながら引っ込めかけたさっちゃんの手を掴むと乱暴に床に押し倒しその柔らかな唇に口付けた。
咄嗟のことにさっちゃんは反応できなかった。
酒と煙草の匂いが混じり合って彼女の口腔を犯す。
「んん…、いやっ…」
さっちゃんは身を捩って必死に逃れようとするが、上からがっしりと押さえつけられてまともに抵抗できない。
布の上から乱暴に乳房を鷲掴まれる。
「きゃあっ!!」
「大声出すと起きちまうんじゃねーのか?」
ハッとしてさっちゃんはソファーの銀時を見るが、相変わらず彼は夢の中だ。
さっちゃんの視線が銀時に向いている隙に土方は先ほど蹴飛ばしたビニール紐を手に取った。
さっちゃんをうつ伏せにし手首を後ろ手で縛る。
「ちょっと!!」
「だから静かにしろって」
「う……」
さっちゃんは止む無く口を閉じる。
「大人しくしてればすぐに気持ちよくしてやるからよ」
耳朶に舌を這わせ囁くとさっちゃんは一瞬体を震わせた。
が、すぐに首だけ捩じらせ土方を睨みつける。
「馬鹿言わないで。私を抱いていいのは銀さんだけよ。他の男なんて…」
しかしその言葉は余計に土方を煽るだけだった。
土方はさっちゃんをもう一度仰向けにすると忍装束を無理矢理引き裂いた。
ふっくらと豊かな胸に土方の目が細くなる。
「へぇ、あのヤローにはもったいないカラダしてんな」
無遠慮に乳房をまさぐられてさっちゃんは唇を噛み締める。
未来の妻だと宣言したものの、彼女と銀時の間にはまだ何もないのだ。
当然こんなふうに裸体を見られたことも触れられたこともない。
それでもいつか銀時と結ばれることを夢見て日々妖精のように彼を見守ってきたというのに、
まさかその前に他の男に――それも銀時がすぐ側で寝ている状況で襲われるなんて。
油断して易々と抵抗を奪われた自分に腹が立つ。
しかし土方の節くれだった指が柔らかな肌に触れ、赤く色づいた乳首を摘み上げるとさっちゃんは身悶えした。
男に抱かれるのは久しぶりであったし、好きな男に見られるかもしれないという
緊張感がさっちゃんを興奮させているのだ。
「くぅ……あふっ…」
「何だかんだ言って感じてんじゃねーか…」
嘲笑されても否定できずに、固く目を閉じて銀時を起こさないよう必死に声を耐えた。
土方はそんなさっちゃんを眺めながら首筋から鎖骨にかけて舌を這わせ時折歯を立てる。
「ふぅ…っ、んん…」
「痛いのが感じるらしいな」
鼻で笑うと土方はピンと尖った胸の突起に思い切り噛み付いた。
「んぅぅっ…」
閉じられた瞼がぴくぴくと震え、噛み締めた唇の隙間から切ない声が漏れる。
顔を離すとさっちゃんの白い乳房には痛々しい歯型がくっきりと刻まれていた。
その痕を舌先でつつきながら、手はさっちゃんの肉付きのよい太股の上を滑る。
スパッツを下ろそうと指を掛けると、さっちゃんは足をばたつかせて抵抗した。
それを押さえつけて一気に下着ごとずり下ろす。
髪と同じ色の茂みの奥に指を這わすと、そこは蜜でとろとろに濡れていた。
「好きな男が寝ている横で他の男にこんなことされて濡らすとは、アンタも相当だな」
「違……あぁんっ!!」
否定の言葉を吐こうとしてさっちゃんは白い喉を晒して仰け反った。
土方が指を一気に二本差し込んだのだ。
「何が違う?俺の指美味そうに飲み込んでるぜ」
「あぁっ、あん、んん…」
中で指をバラバラに動かされ、さっちゃんは首を振り乱した。
長い髪がぱさぱさと揺れ汗が飛び散る。
銀時以外の男に触れられて感じたくなどないのに、直接的な刺激に抗うことができない。
土方は蜜を溢れさせるそこに顔を寄せて、肉厚の襞や赤く充血した淫核を舌で嬲った。
独特の女の香りが酒以上に土方を酔わせる。
そろそろいいだろうと自分の前を寛げ、熱く反り返った分身を取り出してさっちゃんの入り口に宛がう。
その感触にさっちゃんはハッと顔を青ざめさせた。
「ま、待って!それはダメ!」
「あぁ?」
土方は眉を顰めた。
「冗談だろ。ここまで来て」
「ダメなの!お願いだからそれ以上はやめて!」
「………」
瞳に涙を滲ませて懇願するさっちゃんを見つめる。
「それはアイツへの義理立てか?」
未だ眠る銀時を顎で指す。さっちゃんは黙って頷いた。
「そんなにあのヤローに惚れてんのか」
「そうよ…。だからお願い。手でも口でもするからそれだけは…」
縋るように見上げてくるさっちゃんの頬をそっと撫で上げ、土方は笑った。
「却下だ」
その言葉と同時にさっちゃんの中に土方が一気に押し入ってきた。
「あぁっ!!」
その瞬間さっちゃんの眼鏡越しの瞳が絶望に揺らいだのを見て、土方は胸がざわつくのを感じた。
それを打ち消すように細腰を掴むと半身を起こさせ乱暴に突き上げる。
目の前の大きな乳房がぷるぷると揺れ、それに吸い付いて赤い痕を散りばめた。
「ひぁっ、あぁ、あぁん」
内壁を擦り上げられる度に淫核を刺激され、堪え切れずにさっちゃんは喘いだ。
(銀さんがすぐそこで寝ているのにっ……)
自分の膣内を無遠慮に掻き回す男が憎くて仕方がない。
それでも久々に男を迎える体は悦んで男を銜え込んで離そうとせず、
快楽を求めて男をきつく締め付ける。
その締め付けに土方も夢中になって腰を動かした。
繋がりあった部分から響く濡れた卑猥な音が部屋を満たした。
「あぁ、あんっあぁ!」
(こんなに大きな声出したら、銀さんが起きちゃう…)
さっちゃんは銀時が寝ているソファーに顔を向けた。
その瞬間彼女の瞳は大きく見開かれた。
ずっと眠っていた銀時が、ソファーの上で半身を起こし自分達を見つめていたのだ。
「――――っ!!」
熱くなっていた体から一気に血の気が引いていくのが分かった。
それと同時に中の土方を強く締め付けてしまう。
「くっ……」
土方は低く呻いてさっちゃんの中に精を吐き出した。
「あぁっ!」
奥底に流し込まれる熱を感じてさっちゃんも体を震わせて達した。
ハァハァと荒い息をしながら土方の肩越しに銀時を見つめる。
銀時はいつもの感情を窺えない表情でさっちゃんを見つめ返していた。
さっちゃんの視線を追い土方も銀時が起きていることに気がついた。
流石に決まり悪げに目を逸らす。
「ち、違うの銀さん私…あっ」
動いた拍子に未だ繋がっている土方のモノが中で擦れ、思わず甘い声が出てしまう。
とても言い訳できない状況に俯くさっちゃんをしばらく見つめた後、ずるりと土方は己を抜き出した。
土方の精液とさっちゃんの蜜が混じり合ったものがどろりと溢れ床を汚す。
床に置いてあるティッシュで汚れたペニスを拭き、着物を直すと土方は立ち上がって銀時に向き直った。
「万事屋」
黙ったまま銀時が視線を向ける。
「飲み比べは互角だ。次やる時は俺が勝つ」
そう言うと土方は何事もなかったかのような足取りで玄関へ向かっていった。
あの状況を見られてフォローも何もないだろう。
自分のせいで銀時とさっちゃんの関係が壊れても自分には関係のないことだ。
そう思っているのに必死で懇願したさっちゃんの涙や銀時に見られて青ざめる表情が頭から離れない。
苦い思いを断ち切るように土方は冷たい闇の中へ足を踏み出した。
万事屋には無言でさっちゃんを見つめる銀時と、その視線に体を震わせるさっちゃんが残された。