暖かい春の日差し。舞う花びら。
今でも思い出す。まだ父が健在で、家族で花見に行ったときのこと。
幼い自分は父の膝の上によじ登るのが大好きで、そこが自分の特等席だった。
背中に、大きくて温かい父の懐があって、そこは世界で一番安心できる場所だった。
毎回、いつのまにか自分はそこで眠ってしまい、気づくと父の背の上に負ぶわれていた。
そこは世界で一番暖かい場所。世界で一番幸せな場所。
妙は瞼に陽の温かさを感じながら、まどろんでいた。
ほのかに甘い花の香と、どこか懐かしい香りが鼻腔をくすぐった。
背中に、自分をすっぽりと包み込む、あの温もりを感じた。
その中では、妙はいつでも小さな子供でいられた。最も安全で、最も懐かしい場所。
心地良くまどろみながら、妙は呟いた。
「おちちうえ……」
ところが、そのまどろみは、やる気のyの字も検出できない、気だるい男の声によって、ぶち壊された。
「そーだなー。こんなお乳でも、上に寄せて上げれば、谷間の一つも…………いや、やっぱ無理かなー」
そして、その声と共に、自分の両の乳房が無遠慮に捏ね回される感触に、妙の意識は一気に覚醒した。
「………っっ!!?? な、なにしてるんですか!!」
急激に頭に巡った血の勢いで、眩暈がする。
いや、その眩暈の原因は単なる貧血だけではなかった。
何故なら―――布団の上で目覚めた妙は、衣服を一切身に着けておらず、そのささやかな乳房を覆い隠すものが、背後から回された無骨な男の手、のみだったからである。
「な、な、なんっっ」
流石の妙も、この予想せぬ朝の始まり方には、動揺を禁じ得なかったらしい。
その証拠に、背後から自分に抱きつく男に対して、得意の肘鉄も、背負い投げも繰り出せないでいた。
「あー、言っとくけど、勝手に脱いだの、お前だかんな。俺の布団に勝手に入ってきたのも、お前だかんな」
男はにやにやしながら、妙の耳元に唇を寄せた。
妙の裸の背は男の裸の胸と密着していた。
男の指は妙の乳房にぴったりと張り付いて、やわやわと厭らしく、その感触を愉しんでいた。
軽いパニックになりながら、妙は必死に昨夜のことを思い出そうとしていた。
昨日は恒例の花見に出かけて、例のごとく酒が入ってめちゃくちゃになり、しかし新八や神楽と共に、万事屋に帰ってきて―――そうだ、四人でウノをやった。でも、新八も神楽も途中で寝てしまい、ウノが成立しなくなって、その後―――。
全く、覚えていなかった。
自分から脱いだと言われれば、そんな気がしないでもない。
自分から男の布団に潜り込んだと言われれば、そうかもしれない、とも思う。
何故なら―――自分の乳房を先ほどから執拗に揉み続けている、この、にやけた天パ―――坂田銀時と妙は、数ヶ月前から、閨を共にする仲になっていたからである。
きっかけは何だったか―――ある日、妙が家に帰ると、部屋には誰もいなくて、炬燵の中から銀色の天然パーマが生えていた。
その天然パーマはだらしなく鼾をかいて、堂々と、妙の家の炬燵で寝腐っていたのである。
思わず、踏みつけようとした。
仕事で疲れていたし、しつこいストーカーを例のごとく沈めてきた直後で、気が立っていたのだ。
だが、妙の足は男の顔面を踏みしめるより前に、男の手によって捕えられた。
「こっから見ると、割とエロイ脚してんなァ、お前――」
いつの間に目覚めたものか、男は丁度、妙の着物の裾の真下に頭を置いて、しげしげと妙の生脚を拝んでいた。
「!! ナニ、勝手に覗いとんのじゃ、ワレェェェ!!」
妙は自分の足を掴む男の指ごと、顔面を踏み砕いてやろうとした。
だが、男の手はビクとも動かなかった。
片足をつかまれたまま、妙はたじろいだ。
男は片手で妙の動きを封じたまま、もう片方の手で妙の素足に指を這わせた。
死んだ魚のような目をした男は、まるで美術品を愛でる鑑定士のように、白い妙の脚を撫で回した。
とたんに、妙の背筋にぞくりと這い登る感覚が走った。
妙の頬に、さっと赤味が差し、眉が困ったように歪められる。
それまでに感じたことのない感覚に動揺した妙は、上手く言葉が紡げずに、無理矢理逃れようともがいた。
が、本気を出した男の前で、妙はあまりにも無力だった。
強かな衝撃と共に、気づくと妙は、畳に引き倒されていた。
とっさに瞑った両目を開けると、自分に覆いかぶさる男の顔が、目の前にあった。
逆光で見上げた男の顔は、まるで妙が知らない顔だった。
いや、日頃見慣れた男ではあったのだが、こんな表情を見たことがなかったのだ。
わずかに怯える妙に、銀髪の男は問いかけた。
「なぁ……、徹夜明けって、なんでこんなに下半身だけ元気なんだろーな」
「は…はぁあ!? し、知らないわよ!! アンタの下半身談義なんて!
…て、アンタさっきまで寝てたじゃない!!!」
真っ赤になって強がるが、男は一向に妙を解放しようとはしてくれなかった。
それどころか、妙の首筋に頬を寄せて、襟元に鼻先を埋めようとしてくる。
「そんな事いわずにさぁ……優しくしてくれよ…」
口調はいつもの、のんべんだらりとした話し方だったが、表情や押さえつける力は、決して冗談とは思えないものがあった。
男は気だるい吐息を妙に吹きかけた。
「なぁ……しようぜ」
一方的な体勢で、一方的な提案を、何の脈絡もなく、突きつけられる。
おかしい。無理強いは妙の専売特許で、他の者にされることなど、考えられなかった。
しかもこんな、にやけた天パに。
それも、18年間大事に守り続けた操を捧げろなど。
あまつさえ、徹夜明けだか、朝立ちだか分からぬが、こんなぐだぐだな流れのままで。
男の要求など、きっぱりと拒否すればよかった。……良かったのだが。
妙は弱った表情を、いつものポーカーフェイスで誤魔化すことも出来ずに、押し倒された姿勢のまま、男と見つめあった。
「お妙…」
耳元に男の低い声が響いた。
何故か、その声は妙の頭に靄をかけ、動悸を速めさせた。
妙はそのまま、思考が停止したように、動けなくなってしまった。
もし―――それでも抵抗するのなら、この男はあっさりと止めて、妙を解放してくれるだろう。
冗談だったことにして、侘びとして、妙に大人しくボコられるくらいは、してくれるだろう。
本気で女に無理を強いるほど、下衆な男でないのは、妙も知っている。
知っているのに―――いや、知っているからか、妙は男を拒めないでいた。
こんな、だらしない男なんて、ちっとも妙の好みではないのに。
―――なかった筈なのに。
男は慎重に妙の表情を窺うと、ゆっくりと妙の唇にくちづけた。
湿った感触がして、自分のものとは違う舌が、妙の咥内に潜り込んできた。
妙が目を開けると、妙と舌を絡ませあったまま、男は目を細めた。
それから後の妙は、まるで人が変わったように、大人しくされるがままになっていた。
男の指が妙の着物の帯に手を掛けたときも、小さな胸を震わせたまま、息を呑むことしかできなかった。
炬燵で寝ていた為なのか、興奮の為なのか、男からは獣じみた汗の臭いがした。
その臭いを生々しく感じながら、妙は終始、薄い肩を震わせていた。
男によってもたらされる、未知の経験に耐えていた。
熱と痛みと、徐々に速まる律動が妙を追い詰め、意識を攫われそうになる度に、妙は男にしがみ付いた。
なにか、夢うつつのうちにそれは終わり、気づくと、鈍い痛みとともに、不思議な感情が妙を満たしていた。
喪失感に似ているような気もしたが、今までになく充足しているとも感じた。
最高に安心できるようでいて、とてつもなく不安であるような気もした。
矛盾した想いが溢れて、妙の頬を伝った。
男は妙の肩に着物をかけてやると、ポンポンと妙の頭をなでた。
暖かい男の手のひらを感じながら、妙は呟いた。
「銀さんは……私の事が好きなんですか」
男はそれに答えずに、妙の頭をわしわしとかき回した。
男の胸に頭を預けながら、妙はなんだか悔しい気持ちになっていた。それでいて、なんだか満足もしていた。
「んじゃ、帰るわ」
死んだ魚の目をした男は、あっさりと着物を纏うと、自分の営業する万事屋に帰っていった。
男がいなくなった部屋で、なんだったのよ…、と、声に出して言ってみた。
呟いた後で妙は、自分のからだから、男と同じ獣のにおいがすることに気がついた。
それ以来、男は気まぐれにやってきては、なし崩しに妙と体を重ねるようになっていった。
男も妙も、新八や神楽や、他の仲間といるときは、以前と変わらない態度だったので、二人の変化に気づいている者など、皆無だったろう。
妙自身、自分がこんな男に全てを許してしまっている事実を、受け入れがたく思ってもいた。
こんないい加減な男と、なんで、と、自分で自分に問いかけたりもした。
それでも、ずるずると曖昧なままに、関係は続いた。
炬燵をしまう季節になって、桜の蕾がほころぶ頃、妙は自分の気持ちも、男の気持ちも、よく分からなくなっていた。
―――で。先ほどの場面に戻るわけである。
「オイオイ。あんまデッカイ声出すんじゃねーぞ。隣じゃ、まだ新八と神楽が寝てっからな」
「な……!!?? んむっっ」
背後から妙の乳房を覆っていた男の手が、今度は妙の唇に宛がわれた。
布団の中で寄り添った体勢のまま、妙は銀時の掌を唇から力ずくで剥がし、振り向いて小声で抗議した。
「どーいうことですか!」
「どーしたもこーしたも、新八も神楽も応接間で寝ちまって、お前も完璧酔ってたから、残された銀さんは皆を運んでやるしかなかったんでしょーが。
ようやく全員、布団に寝かしつけて、自分もようやく寝られると思ったら、お前が俺の布団に潜り込んできたんでしょーが。
おまけに気持ちよさそーに脱ぎ散らかしやがって、俺の服まで脱がせたのも、お前でしょーが。
後ろから抱きしめて、つって、一人で寝ちまったのも、お前でしょーが。
そんなこと一晩中させやがって、銀さんの息子がどんだけ寝付けなかったと思ってるんだ、お前コノヤロー」
一気にまくし立てて、銀時は妙の唇を吸った。反論は一切、受け付けないとでも言うように。
急に呼吸を止められた妙は、目をしろくろさせながら、銀時から逃げようともがいたが、銀時の左手は妙の顎を掴んでいたし、右手は妙の腰を捕えて離さなかった。
全てを奪いつくすような口付けの後で、銀時が妙の唇から舌を引き抜くと、二人の間に透明な糸が引いた。
妙は顔面を真っ赤に染めて、肩で息をした。
眼の色はすっかり、快楽に溶けてしまっていた。
「……こんなにしちまった責任取れ、コノヤロー」
銀時は硬く勃ち上がった己の先端を、妙の腿に擦り付けた。
妙は下唇を噛んで、吐息を飲み込んだ。
先ほどの口づけで、既にからだの芯に抗い難い欲望が目覚めはじめていた。
この男によって植え付けられ、この男によって育てられた、快楽への欲望が。
しかし、眉根を寄せて、瞳を伏せた妙は、小さく首を横に振った。
「新ちゃんや神楽ちゃんが、隣の部屋にいるんでしょう……ダメに決まっています」
二人のいる部屋と、他の部屋を仕切るものは、薄い壁と衾しかなかった。
それに、いくら昨晩泥酔して騒いだといっても、すでに陽も上っているし、二人がいつ起きだしたって、おかしくはない。
そんな状況の中でまぐわうなど、気が触れている。
例え、二人が爆睡していたって、できるわけがなかった。
弟が寝ている横で男に抱かれるなんて。
考えただけで真っ赤になっている妙に、銀時は感情の捉えづらい、いつもの視線を注いでいた。
だが、その唇は、いつもと違って、不満気に突き出されていた。
「………………………ふーーん」
銀時はそう呟くと、再び妙の身体をうつ伏せに組み敷いた。
「な……っちょ…っ、銀さん…!?」
首だけ捩らせた妙は、極力声を抑えながら、銀時に抗議した。
「うるせぇな。要は声出さなきゃいんだろーが。口は塞いでやっから、ヤらせろよ」
言うと、暴れる妙を押さえつけて、妙の上にのしかかった。
「…声、出すなよ」
あいつら起きちまうからな、と、耳元で男の含み笑いが聞こえた。
「んッ…ゃ……っんむ!んー!んん……!!」
妙の顔全体は覆いつくせるような、大きな男の片手が背後から伸びて、妙の唇を完全に塞いでしまう。
「暴れんなって」
男は体重をかけて、妙の動きを封じると、唇に当てた片手はそのままに、空いているほうの手で、妙の尻の肉を押し開いた。
びくりと、妙の体が震えるが、男は容赦なく、割れ目に添って指を這わせ、滑らせていく。
やがて、男の指先は、たっぷりとした蜜を湛える、泉の入り口に辿り着いた。
「しっかり、濡れてんじゃねーか……。何?お前、こういうの好きなの?」
「んんんッんー!んー!!」
妙は首を横に振ったが、身体は素直に、男の動きに反応していた。
ぬかるんだ泉の入り口を、男の指が何度も往復していく度に、奥から蜜が滴って、指の動きを円滑にしてゆく。
妙は尻を振って逃れようとするが、余計に擦れて、快感を大きくしてしまう。
「ふむぅ…んんぅ…んッんッ」
妙の頬に、淫靡に染まる朱がさすと、男の指の間から漏れる妙の吐息も、自然と快楽の色が滲んでくる。
「淫乱だなァ、お妙は。こんなことされて興奮してんだもんなァ?」
銀時はわざと妙にだけ聞こえる声で囁いた。
妙は息苦しさの為か、快感で気が昂った為か、涙で潤んだ瞳を銀時に向けた。
銀時はそんな妙に視線を注いだまま、その指を1本、2本と、泉の奥に沈めてゆく。
妙の顔が苦痛とも快楽とも取れる表情に歪んだ。
「すっげぇ…とろっとろ……」
いつもより濡れてんじゃねーのコレ、と、妙の羞恥を煽るように銀時は続けた。
泉の奥に沈められた指先は、膣壁を擦り上げて入り口まで戻り、また深く沈められる。
出し入れを繰り返す度に、中から蜜が掻き出され、男の指を伝い、垂れた。
部屋の中は淫靡な香りで満ち、妙の思考には既に靄がかかり始めていた。
自分を組み敷くこの男に屈して、快楽の高みまで連れ去ってもらいたかった。
だが、次に男が発した言葉によって、甘く抗いがたい快楽への誘惑は、恐ろしい破滅の色を帯び始めた。
「こんな姉ちゃんの姿見たら、新八はどー思うかなァ」
危うく忘れかけていた状況が、頭の中に戻ってきた。
衾一枚を隔てて、隣では弟と神楽が眠っているのである。
妙は必死になって、首だけでも捩ろうともがくが、しっかり密着して、上から覆いかぶる男を払い退けるのは、容易なことではなかった。
「んー!!んー!!ん…ッぎっ」
「…ッつ!」
暴れる妙の犬歯が、銀時の指の腹を切った。
思わず手を離した銀時に、努めて感情的にならないように、妙は声を出した。
「止めて…ください……二人が、気づいたら…」
指から滲んだ自分の血を嘗め上げていた銀時は、片眉をピクリと動かした。
「……ひょっとして……お前さァ、新八に、まだ話してねェの?」
大いに意外だ、とでも言うように訊ねる。
「い、言えるわけないじゃない! 新ちゃんは、まだ私が純潔を守っていると信じてるのに!」
真っ赤になって答える妙に、目を丸くする銀時。
「は…ぁぁあ!? そんなもん、さりげなくサラッと済ませろや!」
「さりげなくって、どーすりゃいいってのよ!」
「紛失届けに“処女”とでも書いて、警察持って行かせりゃ、しつこいストーカーにもお知らせできて、一石二鳥じゃねーか、コノヤロー」
「どこの世界に、公文書で処女喪失を知らせる女がいるってのよ! 大体、紛失届けって、探し出して見つけてくれるの!? 元に戻してくれたら1割お礼払うの!? 意味解んないんですけど!!」
ヒソヒソ声で口論する男女は、布団の中で向かい合った。
女の方では、この関係を黙秘事項と考えていたが、どうやら、男の方では違ったようである。
「おっまえ……その辺、新八がどう思ってんのかよく判んねーから、こっちは色々気ィ使ったりしてたのによー……。ハッキリさせとけよー、そういうことはよー…」
銀色の天パをぐしゃぐしゃとかき混ぜながら、男はぼやいたが、それを聞いた妙の方は、血相を変えた。
「はああ…!? ハッキリしてないのはどっちよ! 銀さんの方で何も言わないから、わ、私みたいな遊びの関係は、黙ってた方がいいのかと思って…」
ところが、そんな妙の発言を遮って、今度は銀時がぶち切れた。
「 は あ あ あ あ !!?? テメー、いつ銀さんが遊びだなんて言った、コノヤロー! 」
「す、好きって、一回も言ってくれたことないじゃない!!」
涙目で、つい大きな声を出してしまった妙は、我に返って口を押さえた。
そんな妙を見つめながら、銀時は深く溜息を吐いた。
「は………はぁー………女ってのは……どうして、こう…」
先ほどより激しく、天パが絡まって、タワシになるのではないか、という勢いで頭をかき回した銀時は、顔を上げると、妙の腕を引き寄せた。
「言葉なんかより、もっと具体的に教えてやる……」
銀時に捕らえられた妙は、あの獣の臭いを感じ取って、強い眩暈を感じた。
銀時は妙の身体の隅から隅まで、銀時の唇が触れていない場所がなくなる程、妙の肌の上にキスを落とした。
妙は己の指を噛んで、声が漏れないように必死に堪えていた。
それでも鼻から漏れる甘い声が、妙が感じていることを示していた。
桃色に頬を染めて、切ない吐息を漏らす妙を見下ろして、銀時は告げた。
「覚悟しろよ、コノヤロー……銀さんでなきゃ、ダメなカラダにしてやる」
言うが早いか、妙の充分に潤った泉に、怒張した肉の杭をあてがう。
しかし直ぐには挿入せずに、妙の蜜を自身に絡ませるように、ゆっくりとその上を往復させた。
妙の蜜とは違った、透明な露を吐き出す肉の先端を、妙の敏感な突起の先に擦り付ける。
妙は強く目を瞑って、己の手の甲に歯を立てた。
目の端に溜まった涙が、官能に染まった頬の上を流れ落ちていく。
まだ、繋がってもいないのに、妙は既に、息も絶え絶えだった。
襲ってくる快楽の波に、攫われて戻って来れなくなりそうだった。
何度目かの往復の後、その肉の杭は凶暴な熱を持って、妙の中に侵入してきた。
先端の太い部分が、複雑な妙の肉襞の、一枚一枚をめくりあげていく。
妙の内部は、その肉の杭に吸い付くように、蠢いた。
やがて、妙がそれを根元まで受け入れると、銀時は僅かに眉を顰め、ゆっくりと息を吐いた。
「……声、出さねぇように塞いでやる」
妙がその意味を理解するより早く、銀時の唇が妙の唇に重ねられていた。
その姿勢のまま、銀時は繋がった腰を激しく突き上げた。
「ふっ…んっ!んんッ!!ふむぅん!!」
二人の唇の間から、妙の喘ぎが微かに漏れる。
細い妙の腰に、無遠慮に男の腰が打ち付けられる音が響いた。
からだの内側が擦り切れてしまうのでは、というほど、その刺激は妙にとって強烈だった。
膣底を何度も突き上げられて、からだの芯を揺さぶられて、妙は快感に翻弄され続けた。
「あ…っんむう…っん…!はぁんっ…くちゅ…ん…」
銀時の舌が妙の口の中を蹂躙し、上と下で深く繋がる。
銀時は打ち付ける腰の速度を、さらに速めた。
「ん!んんー!!ん!ん!んっあ!!!」
銀時が与える振動が、妙の身体の熱を増幅させ、意識を奪う。
妙は正体を失って、銀時の背にしがみ付いた。知らず、自身も激しく腰を振っていた。
既に、共に昇りつめること以外、考えられなくなっていた。
「んーー!! んぅんんんーーーー!!!! 」
妙の身体がびくびくと震えた。
銀時の腰の動きに合わせて漏れる、ぐちゅぐちゅという音が、さらに間隔を狭めてゆく。
妙の足の指が、引きつったように、ぴんと反り返った。
銀時は妙から唇を離すと、小さく呻いた。
腰を小さく痙攣させながら、銀時は妙の膣底に、熱い欲望を吐き出した。
「新八ぃー。起きるアルヨー」
春の日差しが差し込む万事屋の一室で、新八は頭を揺さぶられていた。
二日酔いの頭で、何とか起き上がろうとしている矢先に、神楽に勢い良く胸倉を掴まれたのである。
―――……や、やめて………神楽ちゃん……もうちょっとで起きられそうなのに……これじゃ、永遠に眠ってしまいかねないよ……
声に出してツッコミたいのに、二日酔いと怪力娘のダブルパンチで、新八は口を開けないでいた。
ところが、次に神楽が発した言葉は、そんな新八に、二日酔いも吹き飛ぶような、三つ目の打撃を与えた。
「新八、赤飯炊くアル!!今日はお前が泣きながら赤飯製造マシーンになる日ネ!ワタシ早く赤飯食べたいヨ!」
「え………ぇええ!?神楽ちゃんナニ言ってんの!?それ、どういう意味!!??」
起き上がった新八に、神楽はくいくいと、銀時の寝室を指差した。
物凄く、禍禍しいまでに凶悪な予感を感じ取りつつ、新八が薄く開かれた衾を開け放つと、中には汗まみれで口づけを交わす、全裸の銀時と妙がいた。
春の日差しが包む万事屋に、新八の絶叫がこだました。
<了>