そよ。  
 これから彼女の身に何が起こるのか。それは予言者でもなければ知りようもない。  
 しかし、どんな平凡な人生を送っても、後生から見てみれば波瀾万丈な、百年後くらいに  
1チャンネルでドラマ化するような人生になるのだろう。たぶん。責任は持てないが。  
 真選組副長、土方十四郎は吸ってもいない煙草をくわえなおしながらしみじみと考えた。  
 この国が開かれてから二十年だ。つまり、天人がこの国に侵入し、着々と浸食して行って  
から二十年。生まれて十六年の彼女は、生まれながらの、傀儡の姫君だった。将軍家が  
崇められる時代が終わってから生まれた姫君。誇りとすべき一族の、栄光を知らず、零落  
のみをその目に見続けてきた姫君。  
 誇りとすべきものを持たず、それでも押しつけられた形ばかりの誇りのために自由を奪わ  
れている娘。  
 表には出さないし、命令とあれば逃げ出した彼女を捕まえにも行くけれど、土方はその  
束縛を哀れむ。心から、と言ってもいい。  
 だが、と土方は続ける。  
 この場合、不幸なのは姫よりも俺だ。  
 
 十分ほど前、上司から「姫とセックスしろ」と命令が下された。  
 
「おうトシ、まあ座れ」  
 内密に、尾行に気をつけて、一人で来い、と、電話で呼び出された。指定された場所は料亭。  
接待か? 接待なのか? なんで上司から接待? まともに考えれば何か秘密裏の指令なの  
だろうが、それにしては局長に通さず副長の土方にだけ知らせて来るというのは異例の事態だ。  
何が何やら、一切説明されないで出かけて行った土方に、松平片栗虎はグラサンまで外しながら  
大真面目な顔で言ったものだ。  
「お前、姫抱け」  
 この国で普通ただ姫と言えばそよ一人。  
「頭イカれたかとっつァん」  
「いやいやいや、イカれてるのはおじさんじゃないよ、ちげーんだって聞けよお前ェコノヤロー、  
なんでオメーなのかおじさんにもよくわかんねーけど、姫がお前がいいって言うんだもんしょうがねー  
だろが。一応断ってやったんだけどさーどうしてもって」  
 
「何いってんのか全然わかんねーよ。日本語話してくれ」  
「いや、だからさァ」  
 数日前、水面下で勧められていたそよ姫の縁談がめでたく整ったのだそうな。相手は  
……わかりやすく、天導衆の手が入れやすい財閥の社長。  
 政略結婚は予想がついた、というより生まれたときから決まっていたようなものだ。  
「めでてー話じゃねーか」  
「そうなんだがな、相手が相手でな」  
 御年三十八。ちなみに初婚で、独身貴族を貫き通してきた遊び人だ。  
「三十八ねぇ」  
 姫の年の倍を軽く上回る。  
 まあ、仕方ないではないか。天導衆のお遊びである賭け事や売買は幕府の懐には  
入らない。財政はさほど富んだものではないから、姫の縁談が調えば結納金やらなにやら  
で随分潤うであろう。身分の高い家の女なぞ、千年前からそのように使われると決まっている。  
今のような状況なら尚更だ。本人だってとうに諦めているはずだ。  
「その遊び人ってのが……大した奴でよォ、嫁取りはかまわんが、処女は面倒くせェとのことだ」  
「面倒くせェ?」  
「つまりだな、」  
 声を潜める。  
「嫁入り前に調教しろってことだよ」  
 土方はようやく合点が言って、  
 目の前が暗くなった。  
「姫はお前をご希望だ。うまくやれよ」  
 どれほどこれが重大なことなのか、松平の顔がニコリともしないのをみればよくわかる。  
 
 報酬は口止め料込みでたんまり払う。真選組の格上げも約束する。  
 四十八手を一通り教え込め。  
 道具の使用になれさせろ。  
 避妊は徹底せよ。お前のガキはいらん。  
 以上の条件で、土方は幾分年の離れた、徳川そよ姫と、性交渉することになった。  
 ちっとも嬉しくなかった。  
 
 そんなわけで今日が一回目になる。  
 用意されたラブホテルの一室で、土方は姫の到着を待っている。  
(一体何が楽しゅーてガキなんぞ抱かにゃあなんねーんだ? 誰か説明してくれ)  
 その説明ができる唯一の人物であろうそよ姫は、今この場所に向かって、厳重に警備  
されながら向かっている。  
 よほど女に慣れていると思われているのだろうか。土方も男で風采はなかなかに良い方だ。  
溜まれば妓楼にも行くし、成り行きでその辺の女となだれ込むこともあるし、やっている仕事の  
関係で女を抱く必要の出てくる場面もある。……このように。しかしだからといって、AV男優でも  
なければそう絶倫というでも、またその道を研究したことがあるというでもない。ただ普通の女と、  
普通に、常識の範囲内でセックスをしているだけだ。抱く女だって、惚れているのではないから、  
よっぽどカツカツしている時でなければ一晩に二回することだって少ない。  
(四十八手なんて俺も知らねーってんだよ……)  
 今日は一回目と言うこともあり、姫もまだ処女だ。初めからハードなことをするのは気が引けるし、  
体が耐えられまい。  
 今日はまだ大丈夫、今日はまだ大丈夫。と、自分に言い聞かせて、慎重にカメラを探した。  
聞いていない以上、盗撮や盗聴をされてあとで利用されるのは我慢ならない。隊に漏れたら最悪だ。  
 冷静に分析してみれば、単に落ち着かないがゆえにうろうろしていたに過ぎないのだが、考え得る  
場所全てをいちいち探って、土方はカメラ探しに没頭していた。  
「何をなさっているんですか」  
 声をかけられたのは、女の支度のために置いてあるのだろう鏡台の裏を覗いている時だった。  
 顔を上げると、これから数時間後には土方とまぐわい終わり、その処女を奪われている予定にある  
そよ姫が、侍女と二人、入り口付近に立っていた。  
 いつのまに入ってきていたのか。そこは姫である。ドアを開けるときもなるたけ静かに音を立てずにと  
しつけられているだろうから、そうっと入ってきたわけでも、土方を驚かせようという意図も  
無かったに違いない。  
 
「いやっ、あの……」  
「はい」  
 言い訳をしようとすると、表情一つ変えずに彼女は頷く。  
 カメラを探していた、とはとても言えない。  
「……なんでもありませんよ」   
「そうですか」  
 興味がなかったのか、緊張でもしているのか、ありがたいことにそれ以上追求はなかった。  
「では姫様、わたくしはこれで……」  
「ええ」  
 おつきの侍女が、そよの肩を、万感の思いを込めた震える手で抱きしめた。侍女はこれから  
大人になろうとしている姫の、美しい娘姿の最後を焼き付けるようにそよを眺めた。それから、  
自分の気持ちを落ち着けるかのように下を向いて、深く息を吐く。  
「これを……」  
 土方に、差し出してきたのは一つ包み。  
「ああ」  
 何か下賜されたものだろうか。受け取ると、侍女は土方の顔を何とも言えぬ表情で――不思議と、  
怒りのようなものは感じられなかった――、どうぞ、どうぞ乱暴になさいませんように、と言わんばかりに  
訴える視線を寄越し、洟を啜り、姫に頭を下げ、小走りで部屋から出て行った。  
 安心してくれ。アンタは姫が不幸だと思っているだろうが、本当に不幸なのは俺だ。  
 胸中で侍女の背に向かって言う。  
 これは仕事だ。いくら抱け、調教しろ、と言われても将軍家の姫を粗雑に扱ったりはできない。言われた  
範囲のことだけをする腹づもりだし、それ以上のことは知ったことではない。男を教えることが乱暴だと  
いうのなら、そこで悪いのは土方ではなく、そんなことをせざるを得なくした姫の婚約者か、調教役に  
土方を選んだというそよ姫本人だろう。  
「ご迷惑だったと思いますが」  
 まだ始まってもいないのに帰りたくなっている土方に、そよが少女らしい甘やかな声で言った。  
「私を抱いて下さること、了承してくださって感謝します」  
 礼を言われる筋合いはない。断ることはできなかったのだから。  
 そよはひたと土方の目を真っ直ぐに見つめ、両手を揃えてお辞儀をした。  
「よろしくお願いします」  
 
 侍女から渡された包みを覗いてみると見たこともないような玩具が山ほど詰めてあった。ホテルの半端な  
明かりの中で浮かびあがるそよの白い顔が、読めない感情のままに向けられる。思わず崩れなく着こなした  
服の下の裸体を妄想して、下半身が反応しだした。土方は本当に泣きたくなった。  
 せめて優しく抱いてやろうと思った。  
 
 愛する人とするものだ、とか、誰が一番初めに言い出したんだろう。もう死んでいるだろうが、  
あと百遍くらい死んで償うべきだ。そいつがそんなややこしいことを言い出したりしなければ  
世の中のどんな種類の男も女も、これにさほどの期待や幻想を込めずに済んだものを。  
 土方自身、筆をおろしてから数え切れない人数の女と交渉を持ってきたが、ついぞ、本気で  
惚れた女を抱くことは一度だってなかった。それは、惚れているからこそ抱かないという選択  
を自らしたのであり、誰の責任でもなければ後悔さえしていないけれど、やはり惚れた女を  
抱きたかったのは嘘ではない。この世を去ってしまった女を抱くことは、金輪際、できない。  
誰のせいでもなく後悔もしていないけれど、愛する人とするものだ、という、この言葉さえなけ  
ればたまにでもこんなことを思うことはなかっただろう。一番初めに意味のない嘘っぱちを言い  
広めた奴は死んだ方がいい。死んで転生したとしても、不遇の生涯の末に夭折するべきだ。  
くだらない嘘。嘘っぱち。万事屋の面子にこんな名前の眼鏡がいたような気がする。あいつが  
その生まれ変わりだろうか。少なくとも恵まれてはいなそうだ。しかたない今生は許してやろう。  
 で。  
 そよ。  
 ホテルの一室に、船が難破して無人島に取り残された男女の如くに、二人きり。  
 彼女を抱かねばならない。いま、すぐ、ここで。  
 無人島ならまず何日か一緒に過ごすうちにこっちの性欲が我慢足らなくなるかもしれないが、  
さしあたってそういった状況ではなく、残念ながら女に餓えているとは言い難いコンディション  
で、しかも相手はどう人生を見直してみても手の伸ばしようがない上流階級プリンセスそよ。  
逃げたい。出来るなら。逃げられない。RPGの主人公がなまじっかのレベルでボスキャラに  
出会ったとき、RとLボタンを同時押ししたのに画面上に[逃げられない!!]と出てきた時の気分  
というのはきっとこんな感じなのだろう。  
 こう言うとき、主人公ならなんと言うのだろうか。  
 先シャワー浴びて来いよ、はおかしい。絶対におかしい。そんなん恋人か売春婦に言うことだ。  
そよはそういうものではないし、自分はそんなキャラじゃない。たぶん。たぶん。……たぶん。  
 
「あの」  
「はい」  
「風呂に……」  
「お風呂に?」  
「……入ってきます」  
「はい」  
 たぶんクリアだ。一応朝入ってきたが、それはいい。クリアだ。  
「あ……」  
 そよの傍を横切って、シャワールームに向かおうとすると、そよが小さく声をあげた。  
振り返ると、控えめにこちらを伺う。  
「いえ」  
 今日のところは、と続けようとした。やめた。今回で終わりではない。そうだったらもっと  
気が楽だったのに。いずれ一緒に風呂にも入らなければならないのだろう。でもそれは  
今日でなくていい。今日でなくても。とりあえず何回かは、おかしなことをせずにそよの体を  
慣れさせて、話はそれからだ。  
 てめえの嫁の開発くらいてめえでやれボンが!  
 シャワールームの床に座り込んで頭を掻きむしりつつ、憂さ晴らしに黙って罵るものの  
そろそろいい加減に腹をくくらねば。いや、腹自体はくくってあるが、つまるところ、あれだ、  
何コレ。ヤダコレ。助けて。  
 あんまり姫を待たせるのもよくないが、できるだけ先延ばしにしたいので必要ないのに  
頭まで洗ってみた。帰るときも入るから、夕方には体からアブラが無くなっていそうだ。  
 シャワーから上がって、困ったのが、服。トランクス一枚で出たら、不作法だと思われる、か?   
普通ここで服を着込んで出て行くバカはいない、いない……とは言い切れないか。世の中  
には着衣のままするのが燃えるというカップルもいる。でもそよにはそんな趣味はない……  
はずだ。今のところは。となると、服を着てでていくのはそよにそういう趣味が発露してから  
で……発露してくれませんように。  
 色々考えた末、しかし簡単に服は着ることにした。シャツとスラックス。そよが入って出る  
ときは、なるべくなら服を着たまま出てきたいだろう。自分が先に下着で出たら、そよもそう  
しなければと思うに違いなく、そこは気を遣っておいていいところだ。なにせ相手は清純  
無垢な姫様で、政略結婚のなりゆきでその辺の男、つまり土方、と、寝なくてはならなくなった  
薄幸の少女だ。彼女の周りの人間は何故誰も疑問にも思わずこの話をスムーズに進めて  
いるのか理解しがたいししたくないしもうどうでもいいが、土方はあの侍女程度の気の使い方  
はしておくのが一応曲がりなりとも臣下としての礼儀だ。と思っておく。  
 
「おまたせしました」  
 平時松平にも使わない丁寧語で、脱衣場から出る。  
 そよはベッドに座っていた。安そうなスプリングは姫の細腰では少ししかたわまない。  
 彼女は襦袢姿だった。薄い紫。  
「湯浴みは、済ませてきました」  
「はあ」  
 言ってから、はあ、はないだろうと胸中でセルフ突っ込みが入った。  
 上は脱ぎ、襦袢は着ている。そこから先は脱がせと言うことだ。  
 腹が据わってきた。何も失うものなどないのだからとっとと済ませてしまおう。それが  
どちらにとっても一番良い。どちらにとっても、ただの仕事、必要な作業なのだから。  
 ベッドに座ったそよの前に膝を曲げて視線の高さを合わせる。近づいてみると、頬に  
ほんのり赤みがさしているのが分かった。軽く膝の上に手を置く。そうすると、思った通り  
そよはその手を重ねて、軽く握る。  
「お願い、します」  
 声は震えていなかった。  
 逆に余裕が出てきた。不幸度は土方が上だが、切羽詰まってるのは土方ではない。  
なんてことはない。今まで散々やってきたことを、ちょっと丁寧にやってやればいいだけ  
のことなのだ。  
 そうと分かる程度に笑いかけてやると、そよの口元が緩んだ。頬を触って、顔を近づける。  
一瞬そよは逃げたが、よく堪えて土方の唇を受けた。  
 キスまで初めてか。  
 結局こんなことになるのなら、城に閉じ込めておかず、同年代の男と遊ばせて、惚れさ  
せて、そいつに破瓜させてやればよかったのに。  
 土方が口を出せた話ではない。  
 体勢が辛いのでベッドに座って、付き合い始めの恋人のように触れるだけを何回か繰り  
返し、そよがそれに応えられるようになってから、彼女の唇を横に舐めた。そよはサッと下を  
向いた。自分から顔を上げるのを待って、唇をつけて、舌を入れる。  
 歯列をなぞり、どうしていいのかわからずに怯えるそよの舌を絡め取り、辛抱強く、ゆっくり  
動かす。一所懸命、土方に応えようとしているのが可愛いと思えなくもない。  
 
 どのくらいそうしていただろうか、土方が口を離すと、そよはのぼせあがったような色で  
絶え絶えに呼吸をし、目元を潤ませてぼうっと遠くを見た。  
 このまま押し倒してもいいが、端過ぎるのでぼうっとしているうちに抱えあげて中央まで  
連れて行く。体を倒して、上からまたがり、シャツのボタンを外しながら首筋に唇を這わす。  
「あ……」  
 吐息混じりの声。両手が土方の腕を掴む。とても行為を止めるほどの力はない。かまわ  
ずに伊達締めと胸紐を抜いてベッドの外に放り出す。長襦袢は開いてそのままでいいか  
とも思ったが、姫が着ているくらいだから汚したらまずいだろう。背中に腕をさしこんで、  
抱きしめるように体を浮かせて、抜く。  
 肌襦袢一枚になった、そよ。息をつきながら、胸元に手をあてて握った。  
「土方、さん」  
「やめますか?」  
 尋ねると、首を振った。横に。覚悟は決まっているのだ。今更だ。  
 土方は自分のシャツを脱いだ。  
「脱がしますよ」  
「は、い……」  
 許可を得て、肌襦袢を剥ぐ。白い素の胸が現れる。乳房の一つを触り、撫でる。空いた手で、  
下のほうをおろす。抵抗したかったに違いない。そよは唇を引き結んで、他人の男に、恋人  
でもない男に恥丘を晒す羞恥に耐えた。  
 まだてんでガキじゃねーか。  
 姫の体を見た第一印象はそんなもんだった。  
 乳房は豊かではない。腰つきは細い。成長途中、未熟な、子供でも大人でもない貴重な美し  
さは、ありありと見えた。それは正しく評価した。が、まだまだ子供の体だ。……男に抱かれる  
体には――男の肉を求める体には、なっていない。  
 体を隠すものなくすべて晒されて、指先にシーツを握って、ぎゅっと目を閉じる。  
 『目を閉じていればすぐ終わる』と誰かに吹き込まれたのかもしれない。  
 それは無理だろうなァ、と勝手に否定する。優しくしてやるとしたからには入れる前に充分  
慣らしてやるつもりだ。さすがの土方も、キスさえしたことがなかった生娘の前戯が百戦錬磨の  
娼婦たちと同じ時間で済むとは思わない。それなりに前戯のテクニックはある。時間をかけて  
よくしてやるうちにその気になってくる。女というのは大抵そういうものだ。たぶん。  
 
 ふと思いついて、ベッドの横の引き出しをあける。案の定、準備してあったローションを  
手に取る。そよは目を開けて(ほら、さっそく開けた)、  
「それは……?」  
「ローションです」  
 我ながら適当な返事をしている、と自覚しつつ、土方は精液を彷彿とさせる白い液体を  
そよの体に垂らす。  
「う」  
 冷たかったのか、小さく呻いた。滑りが良くなった肌を何度も往復する。乳房をやわらかく  
揉み、指先で乳首を擦る。  
「ッ……」  
 姫は思ったよりずっと感じやすいタイプのようだ。反応よくびくっと震えて、先が尖ってきた。  
 口づけをして、口の中を荒らした後唇から下へずらしていき、胸の先を含むと、膝をがっちり  
くっつけて小さく悶える。  
 くちゅくちゅ、と音を鳴らして先を唇の上下ではさみ、舌でくすぐる。頭の上で苦しそうに息を  
吐く。口を動かしつつ、手が触る部位を段々と下げていく。下腹を撫でまわして、生えそろって  
いなさそうな陰毛の端に指先を触れさせる。そよの足は閉じられて、このままでは中心部に  
辿り着けない。  
「触りますよ」  
 断りを入れる。ためらいがちに、膝に入れた力が抜けていく。ほんの少し開いた足の間に、  
土方は片足を割り込ませて否応なく閉じさせないようにする。  
 割れ目を一差し指と薬指で開き、中指で内側を撫でる。行ったり来たり陰核の周りを滑らし、  
その奥へ。  
「…………」  
 とろっとした感触を捕らえた。  
 濡れてる。  
 土方の反応で、自分のそこがどういう状態になっているのか分かったらしく、そよは急いで  
顔を横に向けた。  
 
 一応セックスの過程真っ直中なのだが姫様でも濡れるんだなとみょうなところで感心した。  
 濡れているならそれは結構。  
 体を起こして、姫の下半身へ攻めの重点を移す。膝を折り股を開かせる。姫の上半身は  
腕で顔を覆ってしまった。露わになった姫の陰部。もしかすれば、自分でも触ったことが無い  
のかもしれない、綺麗な部分。他のどんな男も受け入れたことのない潔癖の処女だ。それを、  
今から初めて自分が汚す。努めて抑えてきた昂揚が強まる。事情は事情ゆえにためらいも  
したが、一人の娘を、一から全部、こうやって自分のやりかたに染めていくのも悪くない。これ  
から何度も抱くことになる体。その中で一番綺麗なのが今だ。  
 時間をかけて、その広げた股間を眺め、内腿を撫でつつ、丁重に、しみでてくる愛液を、指を  
ほんの少し差し入れ、掻き出しながら広げる。が、伸ばすには量が足りない。体勢を変えて、  
膝の裏に手を添えさらに足を開かせて中心に顔を寄せる。  
「きゃっ」  
 短い悲鳴と共に頭が掴まれる。  
「ひ、じかた、さっ……ん、んッ! やっ! 〜〜〜〜〜〜ッ!」  
 応えてやることは出来ない。  
 体つきは子供っぽくても女の味がする。そりゃそうか。現在の年から考えればこっちがロリ  
コンになりそうなくらい年齢差のある十六歳だが、もうすこし若いときに同じ十六を違和感なく  
抱いたこともある。  
 唾液と混ぜてその部分を攻める。ぺろっと陰核を舐め上げると、必死で膝を閉じようとする  
が、適わぬ行動だ。ぎゅっと膣と菊が締まる。快感を快感と認識出来ているかは本人次第だが、  
体のほうの反応はすこぶる良い。このぶんだと思ったより時間をかけずに入れられそうだ。  
 自分の股間がたてる淫猥な音はおそらく姫の耳にも届いているに違いなく、窺ってみれば  
そよは真っ赤な顔で懸命に声を抑えている。よく気に障るようなわざとらしい感じはない。ぎり  
ぎりのところで耐え抜くそよ姫。新鮮な感銘を受けた。  
 力を強めて動きを速める。  
 ちゅっ、ちゅ、ちゅ、と一定の間隔で音が響く。  
「あ……っ、あ……!」  
 息を吐くたびに声帯を掠めた声がでるのを我慢しようとする様は、足を開いた卑猥な格好でも、  
それでもどことなく上品だった。将軍家の女は閨でも品を失うことはないらしい。  
 数秒後に、そよの限界がきた。  
 今までで一番大きな声を上げて、のけぞった。  
 波が引いたあとの表情は、上等で色っぽかった。  
 
 
 中に入れた中指と薬指を緩急の差をつけながら出し入れしてみたり、入れたままもぞ  
つかせ内壁を擦り上げてみたり、また空いた手で、性感帯を探し、探り当て、執拗に攻め  
上げては他の部分に移り、ほっと気が抜けたところで戻り刺激する……休む暇もなく姫  
の体を、その女の性を目覚めさせるべく、磨き上げるように愛撫する。  
 べたべたになった股ぐらの中心に喰い込んだ土方の指。愛液とローションがたっぷり  
まとわりついた指は抵抗なく受け入れられ、蠢かすたびにくちゃくちゃと音がする。入れた  
指だけでなく、親指やてのひらを使って陰核をこすりあげると、姫は高い声をあげて腰を  
揺らす。  
 そよはほとんど正気を保たぬような面持ちで焦点の定まらない熱っぽい瞳を虚空にやっ  
たまま、唇を薄くあけて熱い息を吐く。両腕は胴の横に開かれ、シーツを握りしめて耐え  
ている。快楽か、苦役か、どちらともつかないどちらかに。  
 指を動かすのを緩やかに止めてみると、弛緩し、再び緊張し、土方の指を締め付ける。  
そしてまた奥をくすぐり、入り口を擦り、襞をなで、突起を潰す。  
 もうかなり長いこと、土方は自身を受け入れる準備をさせるため、こうして姫を慣れさせ  
ているが、まだ二本はいるくらいが精一杯だ。三本目は、入れようと思えば入るかもしれ  
なかったが、無理に広げることになりそうだった。そよの体がほぐれているかいないか、  
でいえば充分ほぐれている。指を使って何度も絶頂を迎えさせた。処女でない女か……  
否、彼女以外の女であればとっくに入れてしまう決心がついたのだろうが、土方は指二本  
より細いなどということは決してありえなく、三本であってもより太いのは間違いない。それ  
が入るかどうか怪しい段階で入れてしまうと負担をかけてしまう。  
 痛くないように入れてやりたい。処女が破れる際の痛みは仕方がないとしても、そのほか  
の痛みは感じさせないで、出来れば入れたまま感じさせられたら一番良い。抱かれながら  
痛みに歪む顔は見たくなかった。回数を重ねれば不感症でない限り必ず痛みのない快楽  
の行為になるのは確かだが、処女を失う苦しみと恐ろしさが後を引けば、愛のない行為に  
加えて苦痛になるだろう。  
 白い体は慣れない刺激に既にぐったりと疲れている。下半身の欲望が疼く。体の中心は  
熱を持って土方を急きたてる。早く寄越せ、早く喰わせろ、と女を求める。目の前には裸体  
の女。両の足はとうに開かれ、受け入れるべき肉ははしたなく蜜を垂らし、主体は渇望する  
ように身をくゆらせ女の香りを部屋中に充満させている。  
 楽になりたい。この熱をそのまま突き入れ、掻きたて、出し切りたい。蹂躙し尽くし、支配し  
尽くし、欲望の全てを叩きつけて刻み込みたい。気の赴くままに肌を吸い、交わりの証拠を  
しかと残して、その後は彼女を腕に抱いて眠ってもいい。  
 
 が、そういう乱暴が許される立場ではない。いくら股を開いて体を揺すって男を恋うてい  
るように見えても彼女はそよ姫だ。情愛を確かめるためにまぐわうのではなく、欲望の捌け  
口にするために抱くのではない。酔ってはいけない。理性は厳重な歯止めをつくって土方  
を制する。  
 しかし、こんな状態の女を目の前にして昂ぶるなというほうが間違っているのだ。姫は  
姫でも女だ。女がしどけなく足を開いたら、その奥に腰をぶつけろと遺伝子によって設定  
されているのが男だ。据え膳喰わないようなものだ。いや、たとえではないか。  
 チクショーやりてェ。  
 膨れあがる煩悩を抑えつつ、交わる器官ではない指だけをそよの性器に入れて、擦る。  
 緩く擦れば荒い息をつき、速めれば息つく暇もなく「あぁぁぁぁぁぁ」と切ない声が漏れる。  
我慢も自制も尽き果てたか、もう声を押し殺そうともしない。親指で包皮をなぞり、そちら  
のほうが感じるらしい左側をめくって浅く触ったあと、力を入れる。  
「ぁうっ、ああ!」  
 腰が浮いて足が一瞬伸びかけ、ぎゅっとシーツが絞られる。びくっびくっ、と全身が震え  
るとともに同じように中が痙攣する。汗のにおいに混じった女のにおいが強まって発される。  
 ちゅぱ、と指を抜くと、ぐしょぐしょに濡れた手を内股にあて、ゆっくりさする。行き来する  
たびにそよの体はふるふると震える。開いた唇のはじから唾液がこぼれ落ちる。  
 土方は口角から垂れた筋を、のし掛かり、発達途上の胸に自分の胸板を押し当てるよう  
に体を密着させて舐めとった。  
 ふと正体を取り戻したそよが土方の肩をつかみ、喘ぐように囁いた。  
「……もう……」  
 つづくのは、もうやめて、か、もう入れて、か。同じことか。早く終わらせて欲しい、と姫は  
せがんでいる。涙ぐんだ瞳で。熱に浮かされた言葉で。  
 女は皆天然の娼婦か。彼女の人格を超えて、肉体全てが男を求めている。早く入れて。  
あなたのオスを早くちょうだい。  
 本人の希望なら致し方ない。  
 頷くと、そよは安堵すると同時に戦慄した。とうとう、交わる時が来る。初めて男を受け  
入れて、女になる。その自覚が体中に広がるように見えた。  
 スラックスを脱ぎ、トランクス一枚になる。  
 そよがすと息を飲んで視線をそらした。  
 そらす前の視線の先にあったものは土方の股間。不自然な盛り上がり。晒した醜態の  
ためにすっかり膨れあがった部分を見て、そよは何を考えただろうか。  
 
「男って言うのは」  
 息をつく。  
「こーいうもんなんですよ」  
 トランクスも脱ぐと、立ち上がった逸物が露わになる。  
 そよは視線をそらし続けている。  
「そよさま」  
 頬に触れる。  
「見てください」  
 促すと、恐る恐る視線を下げた。呼吸を止めて、細く吐息を漏らす。  
 庶民の子ならば、父親か兄か、どちらかの性器くらい、生活のうちにみたことがあるだろう。  
そよにそれを当てはめていいのかは不明だったが、それにしても、女に欲情して勃起した  
男根を見るのは初めてだ。  
「これを……?」  
「はい」  
「ああ……」  
 気が滅入ったのか感極まったのか、前者に相違ないだろうが、逃げることもあたわない。  
そよは全身の力を抜いた。  
 臨戦態勢の体は一秒を争って女に潜り込みたがったが、土方も常識を弁えた男である。  
避妊を忘れたらえらいことだ。もし妊娠でもさせたら冗談なしに首が飛ぶ。  
 避妊と言ってもこの場でできることはゴムをつかうことくらい。常備してあるゴムを手早く  
かぶせる。  
 閉じかけた足を割って開かせ、入れやすいように腰を上げる。  
 とうとうこのときが来た。  
「手を」  
 所在なさ気なそよの手を背にまわさせる。  
「掴んでかまいませんから」  
 こくこくと黙って頷く。  
 そよの割れ目に沿って愛液がつくように何度か擦りつける。  
 悩ましげな唇に口づけをして、  
「入れますよ」  
「っ……」  
 
 そよの秘部に先をあて、腰を進める。押しつけられ、平ではない、奥に続く道をもつそこに  
段々と飲まれていく。そよは苦しそうに、固く目を瞑っている。土方にも痛みのようなものを  
感じさせられたが、かまわずさらに腰を押す。  
 そして彼女の中に亀頭部分が全て入った。  
 後戻りのできない一線を二人は越えた。  
 そこまで入れて、一度腰をとめて、軽く戻した。  
「んっ」  
 はずみをつけて、今度は先ほどより速めにぐいと入れ込む。ゴム越しに、姫の膜を感じ  
た。それを土方は強引に破って、奥へ。結合を深くし、最奥に辿りつく――。  
 これでそよは処女でなくなった。一人前の、子供を宿す器たる「女」になった。  
 土方は姫が初めて知った男となった。姫の処女を破った男に。これは一生変わらない。  
これから先そよがどんな男に抱かれようと、そよの初めての男は土方以外には誰もいない。  
 ぎゅうっと絞られるような感覚は誰も感じたことのないそよの「女」。土方は本能的に腰を  
振り恥骨をそよにぶつけたい衝動に駆られた。よく耐えたと思う。土方はそよに全て飲み  
込まれたまま、しばらくその姿勢を保った。  
 土方が本能と戦ったように、そよも痛みか、喪失感を堪えているようだった。  
 キスをする。  
「ひじかたさん」  
「そよさま」  
 名前を呼びあうことになんの意味があったのか。  
 入れたまま、腰を回した。そよの声が鼻にかかって抜ける。  
 急がないように抜きかけて、浅い部分で出し入れする。そよの足に、自分の腰が挟まれ  
て、今自分の性器を彼女のものに突っ込んでいる実感にめまいがするほどさらなる欲望  
がもたげた。でも、勝手に達してはいけない。これは姫のための行為、自分は単なる生き  
た道具に過ぎない。  
 拷問に近いな、先に一本抜いときゃよかったと思いつつ、苦笑しようとした。もっとも、そん  
な余裕はなくなっていたが。  
 時間をかけて、浅い交わりから、段々と重なる部分を深くしてゆく。  
 奥を突けるようになるころには、上げる声が快感を告げ初め、そよはセックスを喜び始め  
ていた。力を込めて土方の体を足で挟み、背に回した指は土方の肌に食い込まんばかり。  
自ら快楽を求めて拙く腰まで振ろうとする。  
 
 たっぷりの潤滑具合と初めてのきつさがぴったり二人をくっつける。  
「あっ! あっ! あっ! あっ! あ、ああぁっあっ!」  
 嬌声を上げて、そよは力尽きた。締め付ける膣に土方はいくのを堪えた。  
 動きを止め、はあ、はあ、とお互い荒い息を繰り返す。  
 姫の体がそのサイズに慣れるように、土方は入れたままベッドに寝そべり、自分の上に  
姫をうつぶせに寝かした。  
 無意識に、背中をさすり、尻を撫でていた。  
「……ひじかたさん」  
「もう少しこのままで。早く慣れられますように」  
 押し黙る。  
 体からそよの心音が伝ってくる。とても速い。  
 そよは不意に体を起こして騎乗位になる。  
「また、あとで入れてください。んっ……」  
 膝を立てて、土方を抜く。土方も起き上がる。  
 土方はまだ達しておらず、勃起は継続されている。そよから抜け出したそれはゴムに  
覆われて、白っぽい粘液と処女の血が付着してぬらぬらといやらしく光っている。  
 そよはため息をついて、触れる。  
「そよさま、何を」  
「あの、本で読んだこと、試しても、いいですか?」  
 ここに来る前、男女の交わりについて勉強をしてきたらしい。男根を弄ぶページでも  
読んだのだろうか。  
「あーっと、え、かまいませんが……」  
 そよはその細い指で土方の男根からゴムを外した。素肌をさらした姿はそよの愛液こそ  
付いていないが、土方自身の出した体液でうっすら濡れている。  
 今度は土方が羞恥を耐える番だった。一国の姫相手に、股間のこんな醜悪なものをまじ  
まじと眺められていたたまれなくならん男などいるだろうか。どーんと血圧が下がって萎え  
かけたとき、そよは土方を両手で握った。  
 ゆるゆると手を動かし扱き始める。遠慮が勝っていて、くすぐったいくらいだったが、冷め  
かけた熱は急いで戻ってきた。  
 
 硬さが増したのにそよは驚いたか顔を染めた。が、手は動かしたまま、  
「力とか、もっと入れたほうが……?」  
「そう、ですね、もうちょっと」  
 きゅっと手で作った輪を狭め、握力を加える。手で扱くのは自慰と大差ないが、それを  
やっているのが今破瓜させたばかりの姫君となれば話は別だ。  
 立ち上がった男根を姫に握られ、慰められている。自分でするよりも快感は段違いに  
強い。  
 姫の思惑から言えば、土方をいかせたいのだろうから我慢はせずにとっととだしてしま  
えばいいのだろうが、そこは男のプライド的なモノが疼いてそれをさせない。  
 疲れたのか、そよは手のスピードを落とし、子猫でも撫でまわすように捏ねる。と、手を  
土方の股間から離すと、顔を近づける……  
「え、」  
 ちろっと小さく舌を出して亀頭を舐めたかと思うと、口を開けてぱく、と咥えた。舌が先に  
あたる。落ちてくる髪をかき上げて、ちゅっちゅっちゅっとしゃぶる。  
「う」  
 直に舌で舐められるのは触られるのとはわけが違う。ぞぞっと込み上げるような快感が  
這いのぼってくる。口腔の奥へ進んでいく。てんで拙い舌の動きだが、読んだ本とやらの  
技を実行しようとしているようだ。  
 こういうのを指導するのも仕事のうちなのだろうか。  
 そよは素直に指示に従って、口を動かした。  
 根元に添えた手が図らずも陰嚢を揉むような形になり、後押しをする。  
 自分が破瓜させた姫がこんどは懸命にチンポをしゃぶってる。優越感が頭をかすめた。  
 衝動的にぐいと腰を動かしてしまい、そして姫の喉に先が当たって、舌に擦られて、今度  
こそ我慢の箍が吹っ飛んで、そよに顔を上げろと言う間もなく欲を放出した。  
 だれたように力が抜け、疲労感が全身をつつむ。抑えていた分、快感はかつてないほど  
だったが、経験上その場合出したモノが……  
「そよさま」  
「…………」  
 そよは顔を上げ、目をぱちくりさせている。  
 出してください、と言おうとしたが、そよは、  
 ……くん。  
 飲んだ。  
 
「ちょっ、なんっ!?」  
 詰問するように言うと、そよは逆にたいそう困惑した。  
「あの、これは飲むものだと……」  
「んな偏った本読むんじゃねーよ!」  
 つい素で叫んでしまった。  
「いけなかったんですか?」  
「いや、いけないってわけじゃ……その」  
 萎縮してしまったそよに、少々後悔しながら、  
「そういうことをするのは、旦那になる奴だけでいーんです」  
 済まなそうにそよはつぶやく。  
「殿方が、みな喜ぶわけではないのですね」  
「あー、や、まるっきり嬉しくないってわけでもねーんだが、えー、」  
 ごにょごにょと言葉を濁す。  
「……そよさまが飲んでもかまわないと思うんだったら、それで」  
「そうですか」  
 と、そよは自分が裸であることを初めて思い出したかのように驚いて、身を隠そうと試み  
た。そんな恥じらいに愛らしさと、微かな欲望を覚えて、反応した部分がぴくんと動いた。  
「あ……」  
 そよが声をだす。  
 男のどうしようもなさにつくづく呆れる。  
「今日は、もう一度だけして、終わりましょう」  
 そよは頷いた。  
 先ほど外したゴムを再利用しようとするそよを止めて、新しいのを出して、装着する。  
 そよを上にまたがらせ、自分で腰を落とさせる。  
 先が入るとき、まだ心的抵抗が残っているのか、躊躇った。  
「ゆっくりでいいですから」  
 頷いて少しずつ飲み込んでゆく。痛むのか、眉をひそめて、土方の腰の上に着席した。  
 どうすればいいの、という風な視線を投げられ、こたえてやると、そよは真っ赤な顔を  
して腰を振った。しばらく下から眺めているうちに、そよのいきたいという肉の欲求を感じて、  
土方は起き上がりそよを下敷きにして、今度こそ遠慮無く腰を打ち付けた。  
 セックスっつーのはこういうもんだ、と耳元で囁く。了解するように言葉にならない言葉を  
そよが発する。  
 激しくお互いを擦りあい、ぶつけ合うひとときを共有し、二人はほぼ同時に絶頂を迎えた。  
 
 
 疲れ果ててしばらくぐったりしたあと、二人に分かれて、休憩というべきか、ベッドで並ん  
で横になった。  
 口寂しさを覚えて、タバコでも吸おうかと思って気だるい身を起こそうとすると、隣ですす  
り泣く声が聞こえた。  
「……っく、ひっく、っく、ひっ、」  
 泣いちゃったよオイ。姫泣いちゃった。誰のせいだ。俺か? 俺だ。  
「ひっく、ひっ、く……」  
「………………」  
 なんて声をかけていいのかさっぱりわからん。  
 いやよく考えたら俺は悪くねーだろ。命令なんだもん。とっつァんに逆らうと俺首飛ぶ  
んだもん。つーか俺がいいって言ったのは姫様本人だったんじゃなかったっけか。でも  
泣いちゃったよ。俺腹切り必須かコレ。  
「そよさま……」  
「ごめんなさい、ごめんなさい」  
 そよはシーツに顔を押しつけて、ひたすら謝った。  
「ごめんなさい、ごめんなさい。あなたは悪くないんです。ごめんなさい。ごめんなさい。  
でも……」  
 泣きたいんです、とそよは言った。  
 土方はどうしようもなくてただぼんやりとして姫が泣きやむのを待った。   
 
    
 シャワーを浴びて、身を清め、情事の跡を洗い流して衣服を身につけたあと、土方は  
携帯で松平と連絡をとった。  
「あァ、今終わった。姫さんの迎え寄越してくれ」  
 ベッドはそのままでいい。チェックアウトしたあと手慣れたスタッフが全て片付ける。  
 迎えが来るまで、先に帰ると言うわけにも行かないし、しかしそよは友達でもなければ  
恋人でもない。そして特に親しい主従でも交流が特別に多くもない。  
 何を話したらいいのか。他にすることもない。  
 まさかセックスの感想を聞くわけにもいかないし。  
 椅子に座るそよは、寝る前と何処が違っているという感じはない。寝る前の彼女をよくは  
知らないが。知己なら違いがわかるのだろうか。でも土方にはどこも変わらないように思え  
る。  
「なんで俺だったんですか?」  
 
 間が持たないので、聞く権利のありそうなことを聞いてみる。  
 そよはうつむいて小さく微笑んだ。  
「あなた、『帰りましょう』って、言ってくれました」  
「え?」  
「私が、前にお城を逃げ出して、あなたが連れに来たとき、あなたは『帰りましょう』って、  
言ってくれました」  
 言っただろうか。言った気がしないでもない。  
「『帰りましょう』って、私のこと、怒らないで、無理に連れて行くわけでもなくて、『帰りま  
しょう』って」  
 それがどうしたと?  
「私、男の人があんまり得意じゃないんです。父様とも、兄様ともそれほど近く暮らして  
いなくて、周りの人は女性ばかりだったから」  
 話が飛んだ。どう繋がるんだ?  
 土方がそよの話についていこうとしていると、そよは立って傍へ寄ってきた。  
「でも、手」  
 と、土方の手をとる。  
「神楽ちゃんと別れて、お城に戻るとき、ちょっとだけでしたけど、あなたは私の手を引いて  
くれました。それが、全然嫌じゃなかったんです。だから」  
「それだけ?」  
「はい」  
 それだけか。かけた言葉が優しかったから。手を触られて嫌じゃなかったから。それだけ  
で、抱かれようと思ったのか。  
 そよは泣きそうに顔をゆがめた。  
「あの人」  
 あの人。ここであの人と言えば、婚約者か。  
「触られるのが嫌でした。会ってしばらく経つけれど、全然好きになれない。一緒になって  
も、あなたより好きになれるかもわからない。  
 本当を言うと、あの人が他の男の人に抱かれ慣れてからお嫁に、って言って、私嬉しか  
った。それで考えてみて抱かれるなら、あなたがいいと思った。ごめんなさい」  
 放心しながらも、慌てて否定した。  
「謝る必要はありませんよ」  
「だって、土方さん、好いた方を亡くされたばかりなんでしょう? なのに、私のわがままを  
聞かなくちゃならなくて」  
 誰だ姫にそんなこと吹き込んだ奴。憤怒で頭がクラクラした。見当はついた、というか一  
人しかいない。松平だ。松平に教えたのは近藤だ。  
 野郎。  
 キレることはできない。松平は一度断ったと言っていた。その理由にしたのだ。  
「いいんです。死ぬ前から、気持ちの整理はついています」   
 やっと、そう言った。いいのだ。あれは。操を立てると言った趣味はなかったし。  
 
「そよさまは……」  
 自分のお体を大事に、と言おうとして留まった。なんだそれ。  
 言葉が続かなくなった。  
 そよは土方の顔を見上げた。訴えるように。  
「ひじかたさん、もしよければ、私のわがまま、もう一つ聞いて貰えませんか」  
「なんです?」  
 そよはその愛らしい唇でそっと告げる。  
「私の、恋人になってください」  
「なっ、」  
「もちろん! うそでいいんです。こういう、ときだけ。そういうお芝居をしてください。うそ  
でいいんです、そういう風に思って……いたいんです。  
 そうしたら、たぶん、お嫁に行っても恋人と過ごしたって、思い出ができるから」  
 ……なんという。  
 言葉にならない。  
「……わかり、ました」  
 絞り出すように返事をする。難しいことではない。この「調教」のときだけ、恋人のような  
ふりをしろと、そういうことだ。  
 こんな小さなことがわがままか?  
「ありがとうございます」  
 本当に、心から嬉しそうに、笑う。  
 女というのは……女というのは!  
「でも」そよは苦笑する。「私は恋人同士がどう振る舞うかはしらないんですけどね」  
 土方はそよの腰を抱き寄せて、顎を上向けて唇を落とした。  
 背中に回るそよの腕がなんとも頼りなく震えていた。  
 
 
――End――  
 

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