夜の中にその男は居た。
闇に紛れるように足音を忍ばせて動く。
そして、幾つかのトラップをたくみに避けながら目的の部屋につく。
部屋の前に立ち、襖を少し開け中をのぞくと布団が人の形に盛り上がっている。
「……お妙さん」男は呟く。
「……男、近藤勲。この日のために生きてきました。ただ、ただお妙さんの姿を見るためだけに生きてまいりました」
暗闇の部屋の中、月あかりで布団からの長い髪が見てとれる。
近藤は音をたてずに部屋に入り込み布団の際にひざまづく。
思えば、ここまでくるのにどれだけの歳月がかかったのだろう。この屋敷中張り巡らされた、トラップ一つ一つに命をかけた。これもお妙さんが自分の愛の深さを測るためとわかっていてもつらいものだった……。
そしてついについにこの日がきたのだ。
近藤勲はいつの間にか泣いていた。男泣きに泣いていた。
お妙さんは喜んでくれるだろう。この「愛の戦士」の勇姿に!!
「……好きです」小さく呟き髪にキスをする。髪をそっと撫でる。
すると……
布団から腕が……近藤の首にかかり引き寄せる。
「!」
お妙さん! お妙さん! お妙さん! お妙さん!
いつもストーカーだのゴリラだの言っていたのは照れ隠しだったんですね。
まいスイートハニー
近藤は震えながら暗闇の中唇にキスをした。酒の味がする。
近藤のキスに応えるかのように、お妙も唇を貪ってきた。
舌を絡めてくる。
近藤の中で何かが切れた。
熱い唇を貪りながら自分の着物を脱ぎ、お妙を抱きしめる。
お妙は嫌がるそぶりもみせずに近藤の背中を手を回し強く強く抱きしめる。息もできないほどに強く。力強く。
お妙さん、お妙さん。今までの苦しかった過去が嘘のようだ。今日全てが報われる。
お妙さんっーー
近藤はゆっくりお妙の着物の手をさし込み胸をまさぐった。
……胸をまさぐった。しかしその指先には乳首の感触はあっても丸く隆起してる筈の乳房の感触は捉えるられなかった。
いくら胸がないとはいえこれはあまりではないのか? いいやだからこそ、今まで俺を避けていたのでは。
お妙さん、俺は胸の大きさで女の善し悪しを決める馬鹿じゃないです。安心してこの近藤に任せてください。
近藤は一人納得し今度は着物の裾を割った。
ふとももをまさぐり、秘所に手がいこうとした時、
?
何かに突き当たった。その感触は知っている。
そう、知っているモノだ。自分も持っているモノだ。そう、股間に屹立しているモノだ。
でもってお妙さんは持っていないモノだ。
じゃあこの、今唾液を啜りあっている相手は……暗闇で顔は見えないが。
「し……すっせししんしんばぁっっちぃっー、。」
俺はお妙さんの弟、新八君に手をだしたのかっー!
「誰ですっ。姉上の部屋にいるのは」
襖ががらりと開く。
そこには明かりと木刀を持った新八が立っていた。
じゃあ俺の下に組み敷かれているのは!!
「………若っ〜」
身体の下から声。明かりの中に浮かぶ顔は。
コイツはっ、あの柳生の「東条ーーっ!!」
なんでお前がお妙さんの部屋にいるんだっー。
「若ァ、私は若が大好きなんですよ、それなのに私をおいてお泊りなんて〜若ぁ」
……酒でぐでんぐでんに酔っ払った東条が涙ぐみほとんど裸で近藤に足を絡めてきた。
「若ぁ〜待ち伏せて……」
「…!離せボケッ。し、新八君、これは!」
新八は、少しの沈黙の後、何事も見なかったかのように襖を閉めかける。
「近藤さん………お邪魔しました」
「あっ、新八君待って……違う」
「………右手」
「右手?」
うぉぉー、右手にはしっかりと東条のモノが……。
「新八ー」
そこへ神楽がひょっこりと現れた。
「新八。何かいたか?遅いから向かえにきてやったぞ」
「あっ、神楽ちゃん。この部屋は入っちゃだめだよ。マニアな男のプレイ中だから」
新八をかいくぐり中をのぞいた神楽が冷たい目で近藤を貫いた。
「ゴリラ。姐御に相手にされなくて男に手をだしたね。東条も同じね。傷をなめあうんじゃなくてアレをな……め。新八、何する。ひっぱるな」
「神楽ちゃん、お互い慰めあってんだからそっとしておいてあげようよ。ほら、ゲームの続き。九兵衛さんたち待ってるよ」
あっ…待ってくれ新八君〜。
「姐御に報告するね。ゴリラ」
ま、待ってくれ〜
「若ァ〜」
絡まるな!東条っ
待ってくれ。俺は……
待ってくれ。俺は……
待ってくれ〜
軒下で潜んでいた。山崎は、近藤を東条から助けるべきかこのまま新しい世界に突入させるべきかを考えていた。
(終わり)