「フンッフンッ」  
草木も眠る丑三時、一心に集中する男が一人。  
「フンッこんだけ、フンッ深夜なら、フンッ土方さんも、フンッ気付くめぇっ」  
いつもミントン片手に無駄に気張っている男、山崎。  
彼は皆がねしずまった夜中を狙って素振りに勤んでいた。  
「よし、次は羽を使っての実戦だ!行け!sagaru壱号!」  
だが打ち返す相手もいない羽は案の定綺麗な弧を描き、屋根の上に飛んで行った。  
「…やっちゃった」  
数少ない貴重な羽を回収すべく、木を伝い屋根に上る。  
「確かこの辺り…あった!」  
目を輝かせて近づく山崎。  
しかし羽を近付こうと一歩踏み出たその時、  
「え?」  
暗くて気付かなかったが山崎が踏みしめるすぐ目の前には大きな穴が空いていた。  
 
ぐらり  
 
羽を見つけて安心して気を抜いたせいか体制を建て直すことも出来ぬまま穴に吸い込まれるように身体が傾く。  
「うっそーん何でこんな所に穴がァァァ!」  
虚虚しい叫びが真夜中に響く。  
 
ドスン、…ガラガラ  
「痛たたた…な、なんでこんな所に穴が…ゲホッ」  
疑問に思いながらも状況を把握する。ひどく埃っぽいのはさっき落ちたせいだけではない。どうやら屯所内のあまり出入りの無い物置のようだ。見上げると天井に大きな穴が空いており、綺麗な月すら見える。  
「これ…もしかして俺のせいになる…?」  
何故空いているのかは分からなかったが、このままでは修理代はもちろん山崎の給料からさっ引かれるであろう。  
ただでさえ薄給なのに…。考えただけでも青ざめ変な汗が出る。急いでこの場から立ち去ろうとした。  
「…ん?」  
気が付くと、背中には何やら柔らかい感触。それはいきなり声をあげた。  
「うーん…痛たたた…」  
モゾモゾと動くそれに悪夢が蘇る。  
「ぎゃあっ!幽霊ィィ!?」  
本気でビビる山崎。  
がくがく震えているとそれは立ち上がり、こうおののいた。  
月明かりに照らされたの忍装束のようなもの着た髪の長い女性。  
「…幽霊なんかじゃないわ」  
「ヒィィ!喋った!」  
「こんばんわ、始末屋さっちゃん見参」  
「…あの、俺こっちですけど…」  
ポカンと呆れながらも壁に向かって話していることを冷静に指摘する山崎。かなり妖しいものの、とりあえず幽霊やもののけの類でないことに安心する。  
「あっメガネ!落ちた時に無くしちゃったんです〜一緒に探して」「あ、もしかしてこれかな…」  
山崎の尻の下から現れたのはレンズは欠け、フレームの曲がったメガネらしき物体。  
「…な、なにコレェ!これじゃあ真選組局長のゴリラ野郎を始末できないわ…どうしてくれるの。責任取って」  
「なっ!局長を狙ってるだと!?」  
近藤の名が出て、山崎の目の色が変わった。  
その様子を見て焦るさっちゃん。  
「お兄さん…まさか真選組の人……?」  
その質問は答えられないまま捕えられる。  
 
「な、何?離しなさいよぉ。マニアックな要望には答えないわよ」」  
逃げようとしたさっちゃんを慣れた手付きで素早く捕えた山崎。  
そばにあった麻紐で物置の柱に縛ると、正面に立つ。  
「言っときますが俺はこう見えても隠密方なんです…屯所内に不法侵入した上、局長の命を狙うとは…天井に穴空けたのもあなたですね?」  
「それは事故よ。寝所まで屋根伝いに行こうとしたらズボって落ちたのよ。随分ボロいのね」  
「…とりあえず色々調べさせて貰います」  
気をとりなおして取り調べを始める山崎。  
「で、あなたは一体何者ですか?壤夷派の一味?」  
「違うわ!私は始末屋よ。困ってる人の味方…テロリストなんかと一緒にしないで」  
「局長が誰かを困らるようなことなど…」  
する筈が無い!そう言おうとした。が、約一名、局長に甚だしいほどの迷惑行為を受けている人物がいるのを思い出し言葉を濁す。  
「ま、まさか依頼人て…」  
「…依頼人のプライバシーは守備義務だけど、お水をやってるTさん(18)とだけ言っておくわ」  
「ほぼ言ってんじゃないかァァ!!ってゆうかやっぱりお妙さんかよ…」  
「知ってるの!?」  
知ってるも何も、以前局長に任務だと騙されて住所だの行きつけの八百屋だの色々調べさせられたことがあるというのに。  
「あの人なら頼みかねないな…しかしそこまでしなくても…」  
ふうっとため息をつく。  
「ケツ毛ボーボーの上にストーカーで変態なのよ…?充分理由はあるわ」  
キッとした目で山崎を見つめるさっちゃん。  
 
その目はメガネが無いと全くと言っていいほど見えない筈なのに、何故かまっすぐに山崎を睨みつけていた。  
(…よく見ると綺麗な顔してるなぁ。泣きボクロもなんか色っぽいし)  
加えて丈の短い衣服からはスラリとした足が出ている。  
(俺…足フェチなんだよな…)  
「…何ジロジロ見てるの?お兄さん顔に似合わずスケベね」  
「え!?」  
考えを見透かされ、顔を真っ赤にして挙動る。  
その様子を見てからかうさっちゃん。  
「お兄さん…女の人に疎いんでしょ?」  
「なっ!?俺だって女の人抱いたこと位ありますよ!」  
ただし数える程だが。  
ばつの悪そうな顔をしながら言葉を続ける。  
「とりあえず、怪しいもの持ってないか調べますから」  
そう言って身体に触れようとする。  
「…スケベ」  
「しょうが無いでしょ!仕事なんだから!」  
真顔で罵られ言い返す山崎。  
口では正当性を主張しながらも、頭の中はいやらしことで一杯だった。  
(…いやいや!仕事だから!)  
 
身体を軽く触って凶器等を隠し持っていないか調べていく。  
足、腰の辺りを調べ、案の定クナイ等が見つかりとりあげられる。胸元に手をかけられた時、あることを思いつくさっちゃん。  
(悔しいからちょっとからかっちゃおうかしら…」  
 
「あっ…」  
わざと色っぽい声を出してみる。  
「な、何変な声出してるんですか!」  
「だって…お兄さんがそんな所触るから…あんっ」  
いきなり艶っぽい声を出され慌てる山崎。  
(ヤバい…勃ってきたかも…)  
ドギマギしながらも続けて胸元を調べる。襟元を軽くめくると月に照らされた白い肌がよく映えてなんとも美しい。思わず唾を飲む山崎。  
「ん…だめよ、お兄さん恥ずかしいわ…」  
相変わらず、演技を続けながらちらちらと視線を向けてくる。  
(一体…何考えてるんだ…?)  
最後に、ある箇所を調べようと手を近付ける。  
「そこは…乙女の大事な所よ」  
「こっコレは仕事なんです!変なこと言わないで下さい!」  
そうだ、これは仕事なんだ。必死に自分に言い聞かせる。  
理性を保とうとする頭と相反して下半身が熱い。覚悟を決めると裾をめくり、秘部に手を充てる。  
(…柔らかい。なんて柔らかいんだ…)  
山崎の下半身に血が巡ってゆく。  
「…いつまで触ってるの?」  
声を聞いた我にかえる。  
「えっあっその…違っ!いや!すいません!」  
その異様なほどの慌てぶりに目を丸くする。  
(かーわいい…本当に鬼の真選組とは思えないわ)  
そして更に山崎を慌てさせてみたいともくろむ。  
 
「…えっち」  
「すいませんってば!」  
顔を真っ赤にして謝る。  
「しません?」  
「だから謝ってって……はァ!?」  
突然の言葉に耳を疑う。「もう…この際お互い仕事なんて忘れて気持ち良くなりません?」にこりと笑いながら誘うさっちゃん。  
(もう…駄目かも…)  
山崎の中で理性が音を立てて崩れていく。  
(…局長…すいません…俺…俺は…)  
心の中で謝罪すると、山崎は強引に唇を重ねた。  
 
「んっ…」  
突然のキスに目をつぶることもできなかった。  
「お兄さん…結構大胆ね」  
「そうですかね…」  
視線を向けられどきりとするさっちゃん。  
さっきまでとは違う、ギラついた瞳。腐っても真選組。そう主張しているように感じた。そうこう思っている間に山崎は次の手に出た。  
「やっ!いきなりダイレクトタッチ…?」  
下腹部の薄布の中にするりと手を滑りこませる。  
「少し…黙って下さい」  
そう言うと再び唇を塞ぎ、舌を荒々しくからませてきた。  
(やだぁ…なんか頭がぼうっとする…)  
同時に下のほうも指でじらすようなぞられてゆく。軽く突起物を摘ままれる。  
「やっ…」  
思わず本当の声が出てしまった。にたりと笑う山崎。  
思わぬ攻撃に身体は素直に反応してしまった。  
「…濡れてきましたね」  
しばらく撫でていた人差し指を割れ目にゆっくりと沈める。  
「ひゃっ…」  
異物の侵入に悲鳴を挙げる。  
くちゅり  
中で静かに動かす  
「あっさり入りましたよ…もう一本どうですかね…?」  
くちゅり  
躊躇なく中指も受け入れる。  
「はあっ…!」  
深い溜め息を吐き身体を震わせるさっちゃん。  
くちゅり、くちゅり  
狭い空間をいやらしい水音が響く。  
「…凄いですね…俺の手、ベトベトですよ?」  
「!そんな事言わないで…!」  
強い口調で言おうとするが、語尾が濁る。  
 
「んっ…はぁ…もうやっ…」  
「随分…濡れて来ましたね」  
また、ギラついた目。  
さっきまで軽く触っただけで赤くなっていた男に、自分の軽い挑発に焦るような男に、今度は自分が弄ばれている。  
高揚する頭で必死に抵抗を試みるが身体は反対に快楽を求めている。  
「じゃ、そろそろいいですかね。」  
手早くベルトを緩める山崎。  
「ちょっと待って…このままするの?」  
「誘ったのはあなたじゃないですか…それにもう…我慢できないんですよ」  
そう言うと薄布をずらし、湿りきった秘部に己をあてがう。  
「はぅっ…!やっ…やぁっ!」  
ぐちゅりと音を立てながら、ゆっくりと山崎を受け入れてゆく。  
「あっ…あっ…!」  
「力抜いて…もっと…」  
耳元で囁かれびくりとする。  
「う…うん…あっ…入ってくぅ…」  
ずん、と更に深く受け入れてゆく。  
「可愛い顔して…ここは随分いややらしいですねぇ…」  
奥まで入ったことを確認するため結合部分を触る。まだ挿入しただけだというのにどろどろになったそこからは水が絶え間なく溢れていた。  
 
「…立ったままするのって好きじゃないんですよね…だからさっさ済ませますから」  
「ちょっ…だったら縄ほどいてよぉ…あんっ」  
意見を無視して腰を動かす。  
「くっ…すご…突く度に…濡れてきますよ?」  
意地悪く尋ねる。その顔はもう冗談だの言っても通じない位、固くこわばっていた。  
「あなた…する前と…随分っ…性格違う…んっ」  
息も絶え絶えに言う。うすら涙目を見て流石に悪いと思ったのか、伏せがちに答える。  
「しょうがない…でしょ…隠密方なんて所詮汚れ役…割り切らないとやってけない…ですよ…」  
「…大変…ね」  
「犯されてる割に…随分…余裕です…ね…」  
一息置いて話し出す。  
「…私も…同じだから…あっ」  
「…え?」  
「お兄さん…と私…なんだか似てるね…」  
泣き出しそうな鼻ぐもった声で答える。  
すると腰の動きを一旦止め、縛っていた麻紐をほどく山崎。  
「どし…たの…?」  
「言ったでしょう…立ったままするの…好きじゃないんです…」  
繋がったままさっちゃんの身体を抱えて下に倒れ込む。  
「…痛くないですか?」  
「大丈夫よ…それから言い忘れたけど…私も嫌いよ…立ったままするの」  
「奇遇ですね…」  
「そう…ね」  
そして再び動き始めた。自由になった手で山崎の顔を引き寄せると深く口付けをする。  
その後はお互いに一言も言葉を交すことなく行為に没頭した。  
朝が来るまで。  
 
 
 
「…さよなら、真選組のお兄さん…また…ね」  
「…待っ!」  
目に入ったのは寝所の見慣れた天井だった。  
 
「…あれ?」  
 
「あっ目ェ開けた。土方さーん気付きやしたぜ。」  
あんまり心配なさげに顔を覗き込む沖田。  
スッと襖を開け土方が入ってくる。その姿を見て急いで起き上がる。  
「山崎…てめぇ…」  
鬼の表情で睨みつける。その様子を見て取り乱す山崎。  
「ふ、副長!あのそのこれには理由がありまして!」  
「馬鹿野郎ォ!屯所の屋根にでけぇ風穴ぶち開けやがって!修理代、てめぇの給料からしょっ引くからな!」  
 
「え…?」  
 
「諦めなせぇ、あんたが大穴空いた物置で寝っ転がってるのを俺が見つけたんでさァ。全く何やってんですかィ」呆れたように言い放つ沖田。  
「え…?それで…それだけ?」  
おそるおそる確認する。  
「あン?まだ他にもなんかやったのか!?」  
「な、ないです!何にもないです!」  
さっちゃんの事も屯所内であんな事したこともバレていないようなので、ホッと胸をなでおろす。  
 
「ったく…大方ミントンやってて羽でも取り行ったんだろうが…。いい加減次はねぇからな、山崎ィ!」  
「ハィィィィ!!」  
ギロリと睨みつけられ震え上がる。  
 
(夢…だったのかなぁ?)  
そう疑いふと遠くを見つめる。  
「…さっちゃん…か…」  
ぽつり呟く。  
「あ?なんか言ったか?」  
「な、なんでも無いです!ははは…」  
(…確実なのは給料はパァになることだけだなぁ…)  
がっくりと肩を落とす山崎。  
 
 
それを横でニヤニヤと見つめる者がいた。  
(…まさか山崎に女を襲う度胸があったとはねェ…)  
実は真っ先にさっちゃんが落ちてきた物音を聞き付けていた沖田。  
何事かと思い物影に潜んでいたのだったが…  
(早起きは三文の得って言うが…まんざら嘘でもなさそうですねィ。さて、手始めに誰に言いやしょうか…)  
 
 
山崎の受難はこれからだ。  
 
 
終  

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