ハァハァと荒い息を刻み、顎から滴る汗を汚れた手の甲で拭う。
崩れた斜面の土は柔らかく、女の手でも掘りやすかったが、流石に大人一人分の体が
すっぽりと納まるだけの穴を掘るのは一苦労だ。
夢中で掘り進めていると突然、重たいスコップを持つのに耐え切れなくなった手が
痺れて穴の中にそれを落としてしまう。
「――おい、大丈夫か」
ずぼっと穴の中に踏み込んで、妙が落としたスコップを土方が拾う。
「ごめんなさい」
乱れて額や頬に張り付いた髪を整えもせずに妙は再びスコップを手に取ると、
今さっき土方が踏みつけていた穴の中にスコップを突き立てる。
「もう、これくらいでいいだろ」
言って自分のスコップを投げ出し、土方は懐からタバコを取り出すと口に咥える。
「これだけあればあの死体くらい優に……」
言いかけた土方に、スコップを再び手から落とした妙が声を荒げる。
「本当に、本当に大丈夫なの!?」
「ああ。この下に埋めてさえおけば、見つけたヤツはきっと土砂に巻き込まれて死んだと
判断するはずだ……」
ふーっと吐き出す白い煙の向こうに、ぴくりとも動かない男が横たわっている。
土砂の上に体を横たえたその男は、苦しそうに見開いた眼で暗い空を睨みつけていた。