『教師と生徒の黄昏』
飴色の空が次第に橙を濃くしてゆくのを、一人の教師がぼんやりと眺めていた。
死んだ魚のような瞳を覆う伊達眼鏡に夕日を反射させ、銀八は煙草の煙を長く吐き出す。
短くなった煙草を灰皿に押しつけ、もう一本を白衣のポケットから取り出してくわえる。
が、ライターがない。
「……んだよ、仕方ねーな」
舌打ちをひとつして、手持ち無沙汰に校庭を見下ろす。
彼は今、校舎の隅にある国語科準備室(通称・『糖尿病患者隔離病棟』、当然そこを利用する教師は銀八のみ)にいる。
四階に位置するここからは、新緑に囲まれたグラウンドの様子がよく見えた。
トンボ掛けをする野球部員たちに、校門に向かって歩く数人の女子グループ。
こっそり手を繋ぐ初々しいカップル、と見せ掛けて桂とエリザベス。
ヘドロ君を見て足早になる一般生徒、神楽とテニスの王子様よろしくありえない動きでミントンする山崎、
定晴にもたれて一緒に寝ている沖田、近藤に馬乗りになってここまで鈍い音を響かせている妙……
「……あの体勢ならどうにかして騎乗位に持ち込めんじゃねーのか近藤」
どうせ勃ってるんだろうしと、一通り校庭で繰り広げられる惨状ーーーーもとい日常を見渡して銀八が呟く。
この教師にしてこの生徒あり、といったところか。
「ーーーー先生」
唐突に、銀八の身体にするりと腕が巻き付く。
ちなみに、さっきまで物音や気配はおろか銀八が座るパイプベッド(勝手に持ち込んだ)が軋むことすらなかった。
普段の彼なら、半回転しながら適当な隙間に頭を突っ込んで生クリーム王国を探しかねないような状況だが、
銀八は動じることもなくゆっくりと振り返る。
「遅かったなァーーーーさっちゃん」
にたりと、唇の端を吊り上げながら。
悪徳教師の視線の先で、眼鏡をかけた少女が頬を赤らめて正座していた。