微かに震えているような、その動きに目を見張る。
息を呑んで見守ると、心なしか低く音まで立てているような気がした。
「……ああっ」
自分の意思とは関係無しに、凍りつく体の中から喘ぐような声が漏れだす。
少しずつ迫り来る黒く光ったソレを目の前に、妙の足は地面に縫い取られてしまった
ように動かない。
小さく震えたまま動かないソレは、妙に向かって徐々に距離を縮めながら、
中に孕んだものを吐き出す時を待っている。
「――いい加減覚悟を決めろ」
言って腕を掴む土方の手を振り解こうともがいたが、土方は更に強い力で
妙の腕を掴み、引き寄せる。
「……いやぁ、やめてぇぇえ!」
悲鳴をあげ、土方から逃れようと足掻く妙をあざ笑うかのように、黒いソレが
ゆっくりと迫りくる――。
「いい加減諦めろ、避難命令が出てるんだ、ここもいずれ崩れ落ちる」
言って強引に妙の腕を土方が引いてかけ出すと、それを待っていたかのように
山が崩れて黒い土砂が今さっき妙が立ち竦んでいた場所を覆いつくす。
「家がぁぁあ!ワタシの家がーっ!」
半狂乱になって泣き叫ぶ妙を、不気味なほど静まり返った土砂がじっと見つめていた。