「もういい加減にして下さい」  
「そ、そんなぁ…俺はお妙さんを幸せにしたいんだよぉ」  
道場で向かい合って凄む二人。  
一人は道場主の妙  
もう一人は真選組局長・近藤  
妙は今日も今日とて近藤の激しいラブコール…もといストーキング被害に遭っていた。  
先程も庭先で洗濯物を干していたところ妙な視線感じた。見ると植え込みから顔だけ出して「いいお嫁さんになれるよ」と書かれたプレートを持っている近藤がいたのを見つけたのだった。  
 
「だから迷惑だって言ってんだろクソゴリラァ!」  
「ひィィィ!ちょ、落ち着いてお妙さん!怒ると可愛い顔が台無しだよ!」  
「だからお前のせいで怒ってるんじゃ、ボケェ!」  
今すぐにでも鉄拳が飛んでくると思い震えて身構える近藤  
「…………アレ?」  
うっすら目を開ける見るとさっきまで般若の面のようだった妙の顔は元に戻っていた。  
「真面目な話し…どうしたら諦めてくれます?」  
いつになく深刻な顔付きに近藤は困惑した。  
 
「…え…あの…」  
「私…たとえ地球が爆発しようとも貴方と結婚だなんて考えられないの」  
「お妙さん…」  
妙にここまで嫌われたか…とがっくりと肩を落とす近藤。  
それを見て少し言い過ぎたかと思い肩に手をかけようとしたその時。  
「!な、何するんですか離して!」  
近藤のゴツイ手で妙のか細い腕は捕えられた。  
「………諦めます」  
「え?」  
「ここまで嫌われたんじゃしょうがないっス…諦めます。もうこんりんざいお妙さんの周りには現れません。ただ…」  
「ただ…なんですか?」  
「さっき、『どうしたら諦めるか』って言いましたよね?」  
「ええ」  
にっこり笑って答える。  
それを見て近藤は柄にもなく頬を赤らめた。  
「じゃあお願いがあるんですけど…」  
「あら何かしら。言っとくけど『結婚』ってのはナシよ」  
「あの…一度だけ…俺とその男女の仲に…いや何でもないです!ごめんなさい!」  
流石にこれは無理だろうと思いまた身構える。  
すると意外な答えが帰って来た。  
 
「…分かりました」  
「そうですよね、やっぱり嫌ですよね、俺みたいなケツ毛ボーボーなんて……って、え!?マジですか!?」  
思わず耳を疑う。  
「…嫌なんですか?」  
「そ、そんな滅相もない!」  
慌てて掴んでいた手を離し、ブンブン振り否定する。  
それを見ても妙は顔色一つ変えなかった。  
「だったら…」  
すっと立ち上がると近藤を見つめ  
「さっさとしてしまいましょう?」  
そう言い放った。  
近藤の方はと言うと未だに目を丸くさせていた。  
 
 
妙に導かれるまま主屋に入る。  
男臭い道場と違い、家庭的な感じがする屋内。生けられた花、手入れされた家具、そして今自分が歩いている廊下…塵一つ落ちていない。  
(やっぱりいいお嫁さんになれるよ!うん!)  
鼻息を荒くしてそう言おうとしたが  
(さっき諦めるって言ったばかりじゃないか…)  
と思い出しやめた。  
(いや!もしかしたら俺のてくにっく次第でお妙さんも考え直してくれるかも!)  
と再び鼻息を荒くして、あんなことやこんなことやそんなことを妄想した。  
「あの」  
「え!?ぼ、僕はべつに嫌らしいことなんて考えてないよ!?」  
ふいに妙に振り向かれ考えを見透かされたかと慌てる。  
呆れた顔で見つめる妙。  
「…片付けるので少し待ってて下さいます?」  
「は、はい!」  
そういうと目の前の部屋に入って行った。  
 
気が付けば屋敷の随分奥まで来ているようだった。  
(…ここがお妙さんの部屋かな?片付けるったってどうせまた散らかっちゃうのに…って俺のばか!)  
近藤の妄想は更に高まった。  
暫くしてスッと障子を明けどうぞ、と妙が隙間からこちらに言った。  
言いようの無い妖しさにドキリとする。  
おそるおそる部屋に入る近藤。  
「…ちょっと散らかってますけど…」  
妙はそう言うが全く散らかってなどいなかった。  
化粧台、掛けられた着物。年頃の女性の部屋らしい。  
「可愛いらしい部屋ですねぇ、いやーお妙さんのことだから長刀でも飾ってあるのかと…アハハハ」  
「……早くしましょう?新ちゃんが…弟が帰って来てしまいますから」  
そういうとハラリと帯をほどき始める  
「ちょっお妙さん!そんないきなり…その本当にいいんですか?」  
「…何度も言わせないで」  
妙の真っ直ぐな瞳を見て近藤も覚悟を決めた。  
 
薄暗い灯りの中、妙と近藤は一つに繋がっていた。  
普段見られない白く細長い足が露になるほど広げて。  
「あっ…はあっ」  
近藤に馬乗りになり、下から突き上げられる状態で声をあげる  
顔わ伏せがちで表情はよくわからないが赤く高揚していたのは確かだった。  
「あっ…そんな強くしちゃっ…やっ」  
そうは言っても腰の動きは早くなる一方だった。ただただお互いを貪るように。  
半脱ぎ状態の上半身からは小さいが形のよい胸が突く度に揺れ、気持ちを更に高ぶらせる  
何より、体制を維持することに疲れるとへたりこむように自分に倒れかかる妙の…荒い息がたまらなくいやらしかった。  
決して自分の目を見ようとはしない妙  
焦がれ続けた相手を手に入れたというのにこの虚しさはなんだろう。  
高揚する頭と相反するように己の下半身は更に早く早くと急かすように妙の体内をかきまわす  
身体はこんなに近いのに心は随分遠い所にあるようだった。  
 
乱れた髪の隙間から妙の、濡れてうるんだ目が見え隠れした。  
「た、妙さ…ん…」  
「…な…に?」  
息も絶え絶えに声を絞る。  
「今だけ…でいい…名前…呼んでくれ…」  
少し間を置いて、唇が動く  
「近藤…さぁんっ…」  
下半身にしびれが走る  
「…もっと」  
「近藤さぁんっ…」  
いやらしく顔を歪めた唇から淫靡に漏れる自分の名前。  
堪らなく愛しく感じ抱き寄せる。  
二人の肌と肌が密着し顔が近い。  
「…んっ」  
驚いたことに妙が自ら唇を重ねてきた。  
「…接吻はお嫌い?」  
「滅相もない…です」  
「そう…良かったぁ…」  
今まで見たことの無いような顔。  
泣きそうな、辛そうな、でも感じている顔。  
愛しい女子を抱くことが、どれほど幸せなことか。  
身をもって理解した。  
例え相手に嫌われていても構わない。  
醜い利己欲だろうとなんだろうと。ただ今お妙を抱いていることはまぎれもないことなのだから。  
「妙…さん、もう俺ヤバいです…  
「あっ…あたしも…もうダ…メ」  
締め付けられる感覚が下半身を襲う。  
「くっ…」  
妙の腰を掴み、自らを押し付けるとそのまま、熱くほとばしるものを放つ。  
その瞬間、妙の悲鳴に近い声が微かに聞こえた気がした。  
 
 
「…信じられないわ」  
「す、すみません…」  
情事の後、背中合わせに寝転ぶ二人。  
はだけた足の付根を白い液が伝う。  
「中に出すなんて何考えてんの、クソゴリラ」  
「…だって気持ち良すぎて他の事まで考えられなかったんだもん…」  
「んだとこの遅漏がぁ!」  
鬼の面相で振り返る妙。  
「ヒィィィ!お、落ち着いてお妙さん!僕もう腰ががくがくで動けないよ!」  
 
「…責任、取って下さいね」  
「はい…。約束通りもう諦めます…ってえぇぇ!?何どういう意味!?……もう一回言って。」  
我が耳を疑い妙のほうを向き、聞き直す。  
「日本語もわからないんですか…?」  
「え、じゃあ俺と…お、お妙さぁぁぁぁん!!!好きだぁぁ!」  
「調子に乗るなァァ!ケツ毛ェェ!熱くるしいんじゃァ!」  
抱きついて来た近藤を必死に引き離そうするが果てた後では力が入らない。  
 
「大丈夫だよ、結婚は慣れだからね!お妙さん!」  
 
汗臭い男の胸元で「私、ゴリラの子を産むのかしら…」と真剣に悩む妙であった。  
 
 
 
終わり。  
 

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