夜兎でよかった と思う。
昔は忌み嫌ったこの血 が 今は愛おしい。
「銀ちゃん、股から血が止まらないアル。私何か病気かもアル。」
「ぶばっつっっ!!」
ある日の午後。いつものように仕事がなく、いつものようにお金もなく。
だから、銀時と新八はいつものようにお茶を飲み、テレビを見、ジャンプを読んでいた。
そこへ、トイレから出てきた神楽が開口一番こう言ったのだ。
かなり衝撃的な発言に、いつもの日常的空間が一気に凍りつく。
新八は飲んでいたお茶が器官に入ったらしく、ごほごほと咳き込んでいる。
「な・・・。」銀時はジャンプを持ったまま、神楽の顔をただ凝視するしかない。
神楽は蒼白とした表情で「ほらネ。」とチャイナのスリットをめくりあげた。
しばらく硬直するしかない銀時だったが、やがておそるおそる神楽の顔から視線を下げていった。
「あ・・。」
確かに、白いパンツのある一部分が赤く染まっており、なおかつ ツ――.....と赤い筋がふとももをたどって床に小さな血痕を残していた。
「あ・・その・・・えっと・・・。」
銀時はそれが「アレ」であるということにすぐに思い至ったが、どう説明したものか、言葉がなかなか出てこない。
「おまっ、それはあれ、その、あれだ、俗に言う月のもんだ。」
「月?私の故郷が何アルか?」
「いや、だから、そうじゃなくて・・。あぁ゛ぁ゛ちくしょうっ!どう言ったらいいんだ?
俺は年頃の娘を持つ父子家庭の父親かあぁぁぁぁ!」
ジャンプを床に投げ捨て、銀時は頭を抱えた。
「こほっ・・。銀さん、落ち着いてくださいよ。何、狼狽してるんですか。アンタもういい年でしょうに。
こんなことくらいで我を見失わないで下さいよ。」
まだ少し咽るのか、こほこほと胸を撫でながら新八がこぼしたお茶を拭きながら言った。
「お前だって、動揺してむせてんじゃねーか。」
「僕はびっくりしただけです!動揺はしてないですよ。神楽ちゃん、安心していいよ。
それは病気じゃなくて誰にでも起こる生理現象だから。」
「ホント?病気じゃないアルか?」
神楽は安心したのか、こわばっていた表情が少し和らいだ。 が、
まだ不安げである。
「誰でもって、銀ちゃんや新八も股から血を流すのカ?」
「いや、誰でもっていうか、女の人だけね。」
口調は落ち着いているが、やはり新八の顔は少し赤らんでいる。
「へー、新ちゃんそういうこと疎そうなのに、意外ねー。」
銀時は新八が落ち着いた様子なので、気に食わないらしい。
「何ですか意外って。僕には姉上がいますからね。よくナプキンを買わされに行きましたし。いい年こいて全然女っけの無い銀さんに比べれば、そりゃ免疫はありますよ。」
「んだと、コラァッ!俺はちゃんと毎週いちご100%読んでんぞ!!」
「そんなフィクションの世界で何がわかるってんだあぁぁぁ!」
「ぅおおおぃっ!つかさちゃんを馬鹿にすんなよぉぉぉ!」
「いいかげんにするアル!一体これは何なのか説明しろおぉぉぉぉ!血が止まらないっつってんだろうがあぁぁぁぁ!!」
がっしゃあぁぁぁぁぁん!!!!
「っおま、その状況で暴れんなあぁぁ!血が飛ぶだろうがぁぁ!」
「ちょっ、神楽ちゃん落ち着いてぇぇぇぇ!!」
小一時間後――
「ね、神楽ちゃん、だからこれは生理っていうもので、女性は月に一度こうやって血を流すの。
個人差があるけれど、そうね、大体一週間くらい続くわ。」
銀時と新八は暴れる神楽を何とか落ち着かせ、そして自分たちは落ち着く間もなく、
銀時は神楽の血で汚れてしまったところを掃除し、新八は急いでお妙を呼びに走った。
そして
「でも、神楽ちゃんは夜兎族だから、私たちとは少し違うかもしれないわね。」
「姉御、なんで女性は血を流すアルか?」
お妙は万事屋宅に着くとすぐに銀時・新八を叩き出し、神楽と二人きりになり、女性の体について優しく説明してくれた。
「それはね、子供を生むためよ。生理は子供を生むために必要なのよ。」
「!?」
神楽はソファに浅く腰掛けていたので、驚きのあまりずり落ちそうになった。
今はお妙にもらったナプキンを着けているのだが、着け慣れていないためどうにも居心地が悪い。
「初耳アルよ。」
「そう・・。ひょっとしたら夜兎族は違うのかしら・・・。うーん、とにかく、人間の女性はそういう仕組みなのよ。体が大人になったってことなの。」
お妙はそう言って優しく微笑んだ。
(いつ見ても綺麗な人アル・・。本当にあの地味な眼鏡男の姉だろうカ−。)
新八が眼鏡なのはお妙の殺人的な料理のせいでもあるのだが、神楽はお妙に憧れている。
ものすごく強いのに物腰は常に優雅だ。容姿も、あるゴリラ男がストーカーになる程に美しい。ゴリラ男がお妙に惚れたのはその容姿のせいだけではないのだが。
「大人・・・。私、もう大人アルか?!」
私も、姉御みたいな――。
「そう、ね。だから―・・・。いい?神楽ちゃん。もし新ちゃんや銀さんに何かされたら、私に言うのよ。血祭りにするから。」
わたし もう大人 アルか。
神楽は「えへへへへ。」 と
子供っぽく笑った。
「ふ・・ぅ。」
昨日、神楽に初潮が訪れ、お妙のおかげで混乱は収まった。
しかし
「ん・・・。」
体がおかしい。いや、
おかしいと言えば、人間と比べれば夜兎の体は十分おかしい。
かなり頑丈だし、力も強い。銃で撃たれてもすぐに傷口は塞がる。
そのくせ、日中は日傘が無ければ生きていけない。
夜兎側からすれば、日の光は平気なのにちょっとしたことで壊れる
人間の体の方がおかしい。
しかし今神楽が感じている体の変調はそういったことではない。
「なんだか下半身がむずむずするアル。」
人と違う夜兎の体は、やはり生理も人と少し違った。
血は昨日一日でぴたりと止まったのだ。
そのかわり
「なんか朝から体が熱いアル。風邪アルか?」
でも
「変にテンションは高いアル。」
なぜだろう
「血は止まったアルけど」
「なんか」
そう、あそこが 熱い。
銀時はめずらしく仕事−といっても要するにバイトである。
街頭でポケットティッシュを配るんだそうだ。さすがに全く働かないわけにはいかない。
必要最低限の生活費は稼がなくては。
何ヶ月も貯めている家賃は必要最低限の生活費には入らないみたいだけど。
「そのうち追ん出されるネ。」
生活費の8割は神楽の食費と銀時の糖分費だ。もちろん神楽にも新八にも給料は出ない。
「そのうち訴えられるネ。」
生活費の8割を占めているのは神楽の食費なのだから、神楽も何かしら働くべきである。
しかし、「生理中は無理すんな。」
と銀時は気をきかせ神楽に家で留守番をするように言いつけた。
「銀ちゃんは何だかんだ言って優しいネ。」
「ふぅ。」
それにしても朝から続くこのもやもや感は一体何なのか。
「きっと退屈だからアル。少し体動かすヨロシ!」
よいしょっ と寝転がっていたソファから立ち上がる。
「たまには掃除でもしてヤルか。んしょ・・・。ん?何アルか?」
銀時の机の横にある新聞やらチラシやら雑誌やらを片付けていると、
凡庸な表紙達の中で一冊、異彩を放っている雑誌を見つけた。
「あ、エロ本アル。」
生理を知らなかった神楽でも、世の男性が女性の体に
興奮することは知っていた。もちろん、銀時も新八も、あのいつも
すかした顔した真選組の奴らも、そうなのだろう。
知っている。そう、あの花見の時、あのゴリラは当然としても、
ほとんどの真選組の隊員達がお妙のことを熱っぽい目で見ていたことを。
神楽の場合真選組の前に現れても、子供扱いしかされない。
あの沖田とかいう奴に至っては、会えば拳の会話のみである。
「・・・・私ももう大人アルヨ・・。」
ぺらり。
何気なくページをめくる。
ぺら ぺら・・・ ぺら・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・――――――――――――。」
ガラ。
「遅くなってごめんね、神楽ちゃん。
おわびに家からおいしい水羊羹持ってきたよ。もらいものだけどね。
お茶入れるから・・・・。神楽ちゃん?」
新八が遅れてきたのには理由があった。
朝からお妙に「神楽ちゃんに変なことするんじゃないわよ。」
「武士として恥ずかしいまねはしないでね。」
「ちょっとでも手を出してみなさい、切腹よ。」と、懇々説教されてきたのだ。
姉上は僕を信用していないらしい。
(僕はお通ちゃんに操を立てているから心配いらないのに・・。)
お妙はどうやら神楽を実の妹のように思っている。
(それはいいけどさ。最強最凶コンビだよなぁ。)
「新八・・・・。」
「神楽ちゃんどうしたの?――何見てるの?」
「!?っそれ・・銀さんのエロほ・・・。
だ、だめだよ、よ、よりによって銀さんの・・・。
あの人野外プレイとかコスプレとかちょっとそういうマニアック志向なんだから、
神楽ちゃんが見るもんじゃないよ!」 バッ!
新八は急いで神楽の手からエロ本をひったくった。
「全く、こんなもの出しっぱなしにしておくなんて!
銀さんが帰ってきたら一言言わないと!」
「新八・・・・。」
新八は軽い怒りのせいで 神楽がいつもの様子と違うことに
気が付いていない。
「か、かかかっかかかかっか、神楽ちゃん?!!」
新八は今、神楽に後ろから抱き付かれている。こんなことは前代未聞だ。
(いつものように僕をからかってるのか――? いや、)
新八はここに来てやっと、神楽の様子がおかしいことに気が付いた。
まず、神楽が食べ物に反応しないなんてことが今まであっただろうか。
そして
ただ抱きつかれているだけなら、こんなに緊張はしないだろう。
何か怖いことがあったのかとか、
悲しいことがあったのかとか、そんな風に考えるだろう。
だけど、今のこの状況は――・・・・?
「か、かかかか神楽ちゃん!!だめだよ!
ふ、ふざけないで、ちょ・・・。」
神楽の手は新八の腰を経由して新八の股間の前にあった。
前にあるだけではない
「ちょっ、ちょっと、何触ってんのぉおおおお?!何?新しい罰ゲーム?
それともなんか新しいおまじない??!眼鏡の股間を触るといいことがあるとか
・・っあ・・こら・・ちょ、んっ!」
新八の顔は、眼鏡が熱で割れるのではないかというくらい、真っ赤である。
「・・ふざけてないヨ。」 すっ と
神楽の手は新八の袴の横の隙間に侵入し、下着の上からさすりはじめた。
新八は最近、旧来のふんどしではなく、最近天人によって普及しつつある
“トランクス”という下着を履いていた。実は新八は結構流行に敏感である。
私服は常に和服なのだからトランクスなんてものは本来邪道なのだが、
興味本位で履いて以来、その楽チンさにすっかり魅了され、履き続けている。
今は そのトランクスが仇となっている。
布はペラペラなので、神楽のいやらしい手の動きも温かさもダイレクトに伝わる。
新八の は、もうほぼ完全に大きくなっている。そのため、それは
ちょっとの動きで隙間から出てしまいそうになっていた。
「ほ、ほんとに、勘弁して、・・・っ! よ、よくわからないけど、ぼ、僕が悪かったか・・くっ。」
新八は子供の頃から剣術をやってきた。
まわりにいる化け物じみた強さの連中のせいで目立ちこそしないが、
新八も十分に強いし腕っ節もある――が
所詮 夜兎族の力にはかなわない――だから
ただ 快感の波に自我がさらわれないように我慢するしかない――けれど
「体は正直ネ。」 ぎゅっ
新八は羞恥心で目の前が真っ白になった。
「ど・・ど こで そんっ な言・・葉!」
「…..っはっ!」 「!んっ、はぁっ」
神楽は問いには答えずに、無心で新八自身を揉み続ける。
「お 通ちゃん に あ 会わせる 顔 が・・。」
新八の声はあえぎ声にまじり、もはや、吐息と同じである。
姉との約束をやぶることになるかもしれぬ 背徳感 と
16歳の純朴な少年には 耐えられぬ快感 と
今までに感じたことの無い 羞恥心 で
新八の目は 涙目だった。
と 「んぅっ・・・・・・・・・ん?」
「ごめんアル・・。泣くほど嫌なら、やめるヨ・・。」
いつの間にか神楽は新八の目の前に居た。
「こうすると、男は気持ち良くなるって、読んだから・・・。」
神楽は本当に申し訳なさそうにうなだれている。
「気持ち良くないのカ?」
こんな神楽を新八は見たことがなかった。
「い、いや、気持ちは、その、すごく良か、いや あの・・。」
何を言ったらいいのかわからない。全くわからない。
とりあえず、姉との約束は破らずにすみそうなので、
新八はほっとした。
先ほど神楽から受けたあそこへの愛撫の余韻をまだ残しつつ、
新八は聞いてみた。
「・・・・なんでいきなりこんなことしたの?」
「だから、こうすると、男は喜ぶって、その雑誌に書いてあったから・・・。
喜んで欲しかったアル・・・。」
意外だ。神楽ちゃんが、あのいつでも激辛辛口な神楽ちゃんが。
天衣無縫 傍若無人 な 神楽ちゃんが。
人に対して、しかもいつも格下扱いの僕 に対して。
喜んでもらおうと行動するなんて。
驚きのあまり声を失った。
そして次の瞬間、もっと声を失った。
「気持ちよくしてやれないなんて、私、どうすればいいアルか?!」
泣いている。 なんで???!
「神楽ちゃん、あのね、僕はそんなこと神楽ちゃんに無理にして
もらわなくても十分だからさ。僕以外の人間にももうこんなことしちゃだめだよ。
――全く、これも全部銀さんがエロ本置きっぱなしになんてするから!
神楽ちゃんに変な影響与えちゃって。」
「違うネ!!」 「?!」
「違う・・・。無理なんてしてない・・。私がしたいだけアルヨ・・。」
私が したい だけアル ヨ
よくわからない。
とりあえず神楽ちゃんをソファに座らせて、ちょっと離れて自分も隣に座った。
「?どういうこと?何があったの?」
「うん。私、昨日初潮きたアルね?でも今日血止まったヨ。
その代わり、朝からずっと、なんていうか、体が、
特に下半身がうずうずしてたヨ。」
神楽は少し俯いたまま語りだした。
「それで?」
「私、なんでうずうずするかわからなかたヨ。で、
銀ちゃんのエロ本見て、ますます下半身がきゅってなってきて、
その本に出てくる女の人みたく、その、したくなったアル。」
神楽はここにきてやっと頬を赤らめ、少し恥ずかしそうにしている。
新八はちょっとびっくりした。
(はぁ。なるほどね。それにしても積極的だなぁ。
女の子、それもこんな少女にも、性欲はあるんだな。)
お通ちゃんにもあるんだろうか―― 新八がそんなことを考えていると――
「新八!!私したくてしたくてたまらないアル!
でもするためには相手にも気持ちよくなってもらわないと駄目ヨ!
私、新八を気持ちよく出来なかったヨ!どうすればいいアルか??!」
気付けば 神楽の綺麗な さらさらとした髪がすぐ真下にあった。
そっと触ると やわらかく 甘い いい匂いがする。
「もう、我慢出来ないヨ・・・!!」
いつも こんな細い腕のどこに あんな力が と思っていた
その神楽の腕が しっかりと新八を 抱きしめている。
「新八・・・・。」
いつもは 人を馬鹿にしている そんな大きな瞳が
今は 涙ぐみながら 真っ直ぐに僕を 見つめている。
いつも開けば 毒ばかり吐く その小さな口が
今は切なげに 願いを乞うかのように 僕の名を呼ぶ。
「新八・・・・。」
「神楽ちゃん・・・。」
姉上 すみません もう理性の限界です。
新八はそっと、神楽に口づけをした。
16歳 目は悪いけれども健康な男子が
よくぞここまで理性を保ったものでしょう?
でも もう ここまできたら 止まりません。
「ちゅ・・くちゅ・・・ん・・ふ・ぴちゃ」
2人はたががはずれたように お互いに激しいキスを交わす。
姉上にばれたら 逝くことになるな と思いながら
この日 新八は何度も イクことになった。
この日 新八はお妙との約束と神楽の処女の
両方を破ってしまった。