「お妙大丈夫かァボブマ」
差し出した手を全く無視され、浮き輪を必死に掴まれる。
溺れる者は藁をも掴むんだよなァそんじゃあ俺は藁以下ですかコノヤロォォォ!
心中絶叫していたら突然口に大量の塩水が雪崩れ込んできた。アレ?浮き輪は?と思う間もなく二人分の体重で跳ね飛んだソレを視界の隅に捕らえる。
何この無茶苦茶な展開?
浮き輪を手放した途端に俺の腕に鞍替えしてお妙が必死にしがみついてくる。
「しっしがみつくなって!沈む!」
沈む!言ったとおり沈み始める。
放っといても人間の体なんて浮くモンなんだから二人でも浮く気がしてたが、足掻いても足掻いても鼻と口とアゴしか海面に出ない。
まるっきり川で溺れた子供を助けようとして父親が死ぬとかそういうアレじゃねェか。
必死に浮き輪を探す。お妙は一層強くしがみついてくる。
その時「あっ」と新八の声がして、「姉上!銀さん!」ざばざばと浅瀬を駆ける音。
やっと気付いたか眼鏡!早く来いや!
発する声に塩水が混じる。浜辺で起き出した騒ぎも、耳に定期的に水が入るドプン、ドプンという音に消されて断続的に聞こえる。
志村家の泳法は競泳向きか遠泳向きか、遠いクロールを眺めながら見ていたら、お妙が息を吸おうと伸び上がった。俺の頭は自然に全部水に浸かる。
あァなんかもうコレダメなんじゃねェの?新八間に合わなそうだし。
この世に留まるのを諦めかけたそのときやっと、藻掻いていた左手が浮き輪に触れた。
「げほッ、」
浮き輪に体重を預けると、首から上が海面に出た。
深呼吸2回。新八は近づいて来ている。明確に助かったじゃねぇか。
「銀さ・・・あ、新ちゃん!・・っ」
お妙が咳き込む。と、波と浮き輪に任せている俺の体までが揺れた。