紅い日が差し、夜が近づくにつれこの町はよみがえる。  
行きかう人は家路を急ぐより、自らの欲望を満たすために行きかう。  
そんな中をおりょうは一人歩いていた。  
「沖田くん?」  
駄菓子屋の前を通ると軒先で寝ている人物に声をかけた。  
アイマスクをして顔はわからないが真選組の制服で堂々と昼寝をする者など一人しかいない。  
おりょうの声に身を起こし、アイマスクを外した人物はやはり  
真選組一番隊隊長・沖田総悟だった。  
「あ、おりょうさんですかぃ」  
沖田は眠そうにおりょうを見る。  
「何やってんの。こんな所で」  
おりょうが呆れたように腰に手を当てて言う。  
「何って仕事中でさぁ。おりょうさんはこれからお勤めですかぃ?」  
「今日は休みよ。買い物帰り」  
おりょうはそう言って持っていた大江戸スーパーの袋を見せる。  
「沖田くんは?またパトロール?」  
別に惰眠を貪るのが仕事とは思ってはいないがそう聞く。  
「いやァ仕事はこれで終わりでさァ」  
そう言って立ち上がる沖田。愛用のアイマスクを懐にしまうとそのまま歩いて行く。  
「帰んの?」  
「屯所に帰ってもマヨラーがいるだけでぃ。万事屋の旦那ンとこで飯食ってから帰りまさァ」  
もちろん飯よりチャイナ娘が目的の大部分だが。  
沖田は振り向いてそう言うとまた歩き出す。  
「・・・・・・ウチでご飯食べてく?」  
おりょうは嘆息すると沖田の背中にそう声をかける。  
「・・・・・・・」  
沖田は無言で振り返ると、おりょうとスーパーの袋を見る。  
「どうする?」  
おりょうは特に表情が変化する事もなく沖田を見ている。  
「・・・・・・」  
沖田はまた無言で歩き出す。  
「ちょっと」  
おりょうが眉根を寄せて沖田に声をかける。  
「早く行きますぜィ」  
沖田は歩きながら背後のおりょうに言う。  
見ると沖田は屯所ではなくおりょうの家に向かって歩き出していた。  
「全く・・・・・・・・・素直じゃないわね・・・・」  
おりょうは嘆息すると軽く笑みを浮かべながら沖田の後に続いた。  
 
 
数時間後。おりょうの家。  
「でね、その長谷川さんってグラサンの人が・・・」  
おりょうは食器を洗いながら、沖田に話していた。  
満腹になった沖田は居間に寝転がりながら適当に相槌をうっている。  
「ちょっと聞いてる?」  
「ちゃんと聞いてまさァ」  
「それでね・・・・」  
沖田は何だかんだ言いつつもいつも残さず料理を食べてくれる。  
いつも一人で寂しい夕食を迎えるおりょうにとっては嬉しい存在だ。  
「近藤さんも公務員なのにホントよく店にくるのよ」  
などと言いながら洗い物を終えたおりょうが手を拭きながら居間に入る。  
「アラ?」  
さっきから反応が無いと思ってたら沖田はそのまま寝入っていた。  
「また寝てるし・・・」  
おりょうは溜め息をつくと沖田の傍らに座った。  
そのまま何の気なしに沖田の寝顔を眺める。  
細くて艶のある髪。そこらの女よりも綺麗に整った顔。長いまつげ。  
キメの細かい肌は赤ん坊のようだ。  
店の女の子にもファンが多いというのも分かる気がする。  
渋い土方と可愛い沖田は店での人気を二分していた。  
毎夜のゴリラが歓迎されるのも酔いつぶれた後に引き取りに来る土方か  
沖田が目当てだからである。  
かぶき町の人は彼をドS星人だのサディスティック星の皇子などと呼ぶが  
今の寝顔にはそんな雰囲気はかけらも見られない。  
安心しきって熟睡している様子はただの子供と変わらない。  
(この子も人を斬るのね・・・)  
沖田のあどけない寝顔を見ながらおりょうはそう思った。  
武装警察・真選組。江戸の治安を守るために結成された組織の一番隊隊長。  
危険な状況にイの一番で切り込む最も危険な隊だと聞いたことがある。  
そのなかで隊長を張るのはどれほどの覚悟がいるのか。  
宇宙海賊・春雨が来襲した時も、えいりあんがターミナルで暴れた時も  
そこには真選組が、沖田がいた。  
TV中継に映る彼を見たとき、おりょうはいつも何故か緊張するのだ。  
今日が最期かもしれない、と。  
チンピラ警察24時とか言われてる内はまだ平穏な日々なのだろう。  
おりょうは無意識の内に沖田の頬をつつく。  
沖田はピクリとも反応しない。安心しきっているようだ。  
いつかこの綺麗な顔が血で汚れるのだろうか。  
仲間とともに血風吹きすさぶ中をその剣と信念で駆け抜けていくのだろうか。  
江戸の人々を守るために。その眼に自分は映っているのだろうか。  
その時がくるまで、少なくとも自分が守ろう。この男を。  
彼が世界から傷つかないように。汚れないように。このあどけない寝顔を。  
そんなことを思いながらおりょうは沖田の傍らに身を横たえ、眠るのだった。  
 
 
< 了 >  
 
 
(・・・・・・・・・・・・勘弁してくれィ)  
沖田は目を開けるとそう思った。  
最初は熟睡していたがおりょうに頬をつつかれた時点で意識は覚醒している。  
しかしおりょうの自分を見る気配がなんだかマジなので起きるに起きられなかったのだ。  
おりょうの寝顔が間近に迫っている。  
その安らかな顔を見やって、沖田は身を起こし、小さく嘆息する。  
(ちょっと無防備すぎやしねえかィ?)  
子供っぽい顔だとは自分でも自覚している。だがもう立派な大人だ。  
おりょうの方が年上だとはいえ、そんなに離れているわけでもない。  
(男として見られてねーってことかよ)  
あるいは水商売の仕事柄、男には慣れているのか。  
どっちにしろ沖田には何故か腹立たしかった。  
かといっておりょうの寝込みを襲うわけにもいくまい。  
このまま朝を迎え、また駄菓子屋の軒先で昼寝をしている自分を思い浮かべると  
溜め息が漏れ、そのまま横になる。  
静かな吐息や甘い匂いをなるべく意識しないようにしながら、  
今夜も眠れない真選組一番隊隊長・沖田総悟であった。  
 
 

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