大きな商談をまとめ終え、書類を完成させる頃にはいつも社長の毛玉はいなくなっている。  
陸奥はそのことを考えため息を吐いた。また今日も自分は社長を迎えに花街を歩く、その事実に眩暈がする。  
(認めた男じゃき、こんなコト位で腹を立てちゃいかん・・・)  
陸奥は自分で憧れなのか恋なのか、分からないまま坂本に惹かれている。  
別の女性と褥を共にしている彼を迎えに行くのは、正直嫌だと思う。  
だが自分以外の人間では、あのウナギのように掴みどころの無いモジャモジャは女から離れようとしないのだ。  
坂本を真っ向から叱ることが出来て、女である自分以外では彼は帰ってこない。  
船では副社長という仕事上、坂本の手助けと雑務が主な仕事だ。  
体調管理が出来ない彼の面倒を見たりもする。言うなれば子供の面倒を見、家事に追われる母親役。  
(そりゃあ、女といることなんか見られちゃあ気まずいじゃろ・・・)  
自分だけが彼を連れ帰れるというのは嬉しいが、正直に喜べない。  
(まぁ、アシがアイツに出来る女としての仕事はソレ位やき)  
陸奥は彼の古馴染みである銀色の髪の男から聞いた店を探す。  
事前に彼に自分の滞在する店の名前を伝えておくあたり、彼はまた今回も自分が迎えに行くと信じているのだろう。  
そしてそれは正しい。  
 
店を探して花街を歩いているうちに、奥のほうまで進んでしまったのか見るからに怪しい男が前へ進む道を体で塞いだ。  
花街をうろつく陸奥を遊女、それも夜鷹の類と勘違いしているのか臭い口で彼女の値段を尋ねる。  
あまりに酷い勘違いを正す気も失せ、何も答えず男から離れようとすると男は陸奥の腕を掴んだ。  
細い腕は男の掌で簡単に掴むことが出来る。籠められた力の強さに陸奥は眉を顰めた瞬間。  
ッバン!  
重い銃声が響き、男の腕から血が噴出した。カランコロンと下駄の音と共に背の高い男が近寄ってくる。  
「辰馬・・・」  
男は坂本辰馬であった。坂本が再び銃を向けると男は逃げるようにその場を去って、二人だけが通路に残される。  
陸奥が一応礼を言おうと坂本を見上げると坂本は見たことの無い硬い表情をしていた。  
その表情に、なんと言っていいか分からなくなった陸奥は黙りこむ。  
二人が黙ると、遠くから琴や琵琶の音が響く。そして曲が終わるやいなや、坂本は陸奥の手を引いて歩き出した。  
 
手を引かれて前につんのめりながらも陸奥は坂本の後ろをついていく。  
坂本はそのまま、ある建物に入った。  
陸奥は会計をさせられるのかと思ったがそうではないようで、そのまま坂本は手を離さずに2階の部屋に上がる。  
ベッドとバスしかない部屋には誰もいず、陸奥はとりあえずベッドに腰掛け何のつもりかと坂本を見上げる。  
そんな陸奥を見て坂本は眉をしかめ、どこか悔しそうな顔でいきなり陸奥に口づけをした。  
ベッドに座ったのは特に深い意味の無い行動のつもりで、  
まさか彼からそういう目で見られることがあると思わなかった陸奥は驚き目を丸くし、抵抗を忘れた。  
「んっ・・・んっ、・・・は、ぁっ」  
合わせた唇の間でお互いの吐息が混ざり合う。逃がさぬといわんばかりに坂本の舌は陸奥の口腔で暴れる。  
坂本の舌が陸奥の舌を絡めとり、しゃぶり、舐めさする。陸奥は自分でも分からないまま無意識にそれに応えていた。  
口付けを続けながら坂本は陸奥の服を一枚ずつ剥いでいく。  
笠の重みの無い頭が落ち着かなく、脱がされていく身体でなく頭を気にしている陸奥が可笑しかったらしく  
坂本は少し笑った。見慣れた顔に陸奥は安堵して、強張っていた力が抜ける。  
坂本の指が陸奥の綺麗な身体の線をなぞり、もう片方の手で乳房をこねた。  
陶磁器のように白い肌。しなやかな肢体。柔らかな乳房。陸奥は乱れながらも美しかった。  
坂本が固くなり始めていた淡い色の乳首を指の腹で押すように刺激し、軽くつまむと陸奥の身体は跳ねた。  
普段低い体温の陸奥の身体に、ぽつぽつと汗が浮かぶ。  
舐めとるように坂本の舌が陸奥の身体を這い、更に陸奥は震える。  
十分だと分かったのか、坂本は手を陸奥の内奥に添えた。指先は熱い湿り気を坂本に教える。  
挿れた指を蠢かすと、その動きに合わせるように陸奥は身体をくねらす。  
一つ瞬きをしてから、潤んだ陸奥の目が坂本を見た。  
言葉が無くても次の動作が伝わり、陸奥が目を閉じると同時に坂本は内奥に熱を帯びたそれをあてがう。  
あてがったまま動かない坂本を陸奥は潤んだ瞳のまま見上げ驚く。坂本は陸奥が診た事がない位真剣な顔をしていた。  
「何じゃ・・・やるなら早ぅ、せい」  
何も言葉を交わさずに事を始めたのが今更恥ずかしく思われて、陸奥は坂本に続きを促す。  
坂本は真剣な顔のまま、いいんか、とどこか心細げに尋ねた。その言葉に陸奥の眉が上がる。  
嫌なら最初から抵抗していたし、何より坂本だからこの行為に付き合っているのだから。  
男というのは本当に面倒くさい生き物だ。どうせこれからまた上司と部下という関係に戻れるか不安になったのだろう。  
女はもっと猥雑に、複雑に、要領よく生きられるように出来ている。  
3秒前たしかに感じていたはずの羞恥心など忘れ、陸奥はもう一度続きを促した。  
陸奥の思いが伝わったのか今度は坂本も黙って従う。  
「くぁっ・・・」  
前戯の時には噛み締められていた唇は開かれ、耐えていた嬌声を陸奥は始めて上げた。  
「ん、んぁ、・・・あぁっ、ふぁ・・・っ」  
互いの腰がぴったりと合わせられてから坂本は動き始めた。その律動にあわせ陸奥は少しずつ声を上げ始める。  
坂本にとうに明け渡していた陸奥の身体は、全身で坂本を受け止め受け入れていた。  
首は振られているが、嫌なわけでないのは陸奥の腕が坂本の背中に回っていることから分かる。  
しがみついてくるその腕に答えるように抱き返した坂本はますます強く腕の中の身体に腰を打ちつけた。  
 
暗く狭いその行為のためだけの部屋で、激しい呼吸音とベッドの軋む音、そして  
陸奥の尾を引くような悦びの声が暫くの間続いた。  
 
それぞれ備え付けのバスで身を清め、しっかり衣服を着込んだ二人はいつも通りだった。  
見かけだけでなく、関係も元の豪腕だがダメ上司とそれを支えるしっかり者の部下に戻っている。  
部屋を後にしようと二人が扉に立った時、ポツリと陸奥は何故あの時男を撃ったのかと尋ねた。  
そんなことをしなくても男を追い払えたのは余りにも明白。  
そもそも坂本の力を借りなくても陸奥一人で十分対処できる卑小な相手だった。  
坂本はニヤリと一つ笑って答えず、陸奥も追っては尋ねなかった。  
 
ただその後、坂本が地球で遊ぶ時、花町などではなくスナックなどライトなお店になったのは紛れも無い事実。  
 

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