「「記憶喪失ゥゥゥ!?」」  
 
万事屋の応接間に響き渡る奇声を聞きながら、あー、なんだか前にもこんなことあったなー、と、新八は遠い目をした。  
その新八の背中に、妙が怯えた目をして、身を隠している。先ほどの奇声に、驚いているらしい。  
竹の開花より珍しい光景である。  
この世にも珍しい状態の妙を、万事屋の雇用主と同僚が、食い入るように見つめてくるのを、やんわり取り成しながら、新八は説明した。  
 
「…………今朝、何を血迷ったかですね……、自分の料理を、味見しちゃったらしくてですね………。  
 いつもそんなこと、したことないのにですね……。 ……僕みたいに、免疫ができてないモンですから………………。  
 …………いつも会ってる人たちに会ったら、何か思い出せるかと思って、連れてきたんです」  
 
「……何にも覚えてねぇのか?」  
訝しそうに尋ねる銀時に、妙がおずおずと答える。  
「はい……あの……、自分のことも……、よく思い出せなくて……。  
 この人……新……イチ君が、……私の弟だからって、親切にしてくれて……」  
姉上、新八です、シンパチ。と、本日何度目かのツッコミを入れる新八に、本気で申し訳なさそうに謝る妙。  
惑星直列より珍しい現象に、銀時と神楽がどよめく。  
「俺の事も覚えてねぇのか」  
銀時が再び尋ねると、妙は困ったように眉根を寄せた。  
「はい……あの……本当に、ごめんなさい。 ……どなた様ですか? 」  
いつもの凶暴さなど微塵もない。心細そうで、今にも泣き出しそうな妙に、銀時が神妙な面持ちで答える。  
「忘れちまったのか……? お前は俺の肉奴隷として、ご主人様の俺に毎晩ご奉仕を……」  
「オイぃぃぃぃ!!! 記憶を勝手に改竄するなァァ!!! アンタ人の姉を何だと思ってるんだァァァ!!!」  
妙の手を取ろうとした銀時に、新八の鼻フックデストロイヤーが炸裂する。  
「銀ちゃん!! 記憶喪失中のアネゴに付け入るなんて、サイテーネ!!!」  
トドメとばかりに、神楽が馬乗りになって銀時を殴る。ドガッ、バキッという鈍い音が、万事屋に響く。  
ピクリとも動かなくなった銀時を投げ捨てて、神楽は涙目で振り返った。  
「アネゴぉぉ!! ほんとに、私の事も忘れちゃったアルか!? 」  
瞳を潤ませてすがりついてくる神楽に、妙は申し訳なさそうに瞳を伏せる。  
「思い出してあげたいんだけど……ごめんなさい」  
「アネゴ! 思い出すアル!! アネゴ、毎日私に酢昆布買ってくれたネ!!  
 アネゴがキャバクラで働いてたのも、私に三食、ごはんですよご飯食べさせてくれるためネ!!」  
「 オイぃぃぃ!!! お前、そのキレイな瞳のどこに汚い心隠してやがったァァ!!   
 ウチの家計はそんな理由で動いてないから!! お前の為にエンゲル係数上げてる場合じゃないから!!」  
しまった、こんなところに姉上を連れてくるんじゃなかった、と、新八が後悔していると、突如、応接間の机から妖しい笑い声が響いた。  
「ハハハハハ!! 全て聞かせてもらったよ、新八君!!!」  
すたーん!!と音がして、机の一番下の引き出しが飛び出る。  
中にはみっしりと…………、 近藤が詰まっていた。  
 
アンタどこから出てくるんだよ! 猫型ロボットもびっくりだよ!! という新八のツッコミも物ともせず、近藤は引き出しから這い出てきた。  
「俺が来たからには、もう安心です、お妙さん! 俺の愛の力で、必ずや、俺たちが愛し合っていたという記憶を、取り戻させて見せます!!」  
「無理だから!! 元から無い記憶は取り戻せないから!!」  
忙しくツッコミを入れる新八の後ろで、またもや妙は怯えてしまっている。  
「………新二君、あの喋るゴリラは、こちらで飼ってらっしゃるものなの……?」  
記憶を失って、別人になっている妙にすら、ゴリラ扱いを受けている近藤に、新八は軽く憐れみを覚えた。  
「姉上……あれでも一応、人間です。……因みに僕は、 新 八 です 」  
 
怯えた妙の両手を握って、近藤は説き伏せるように言った。  
「お妙さん、こんなこともあろうかと、僕は医学を勉強していたのです!! このドクターコンドーにお任せ下さい!!」  
「毒テコンドーさんとおっしゃるの?」  
「違うネ、アネゴ。ドクターコンドーム、ネ」  
「どっちも違うわァァァ!!   
こんなこともあろうかとって、どこの警察が記憶喪失を第一に想定して、医学勉強するんですか! 胡散臭いことこの上ないわ!!」  
妖しげなことを言い出す近藤に、新八は不信感をあらわにした。  
「新八君、キミこそ忘れてしまったのかい? 俺はこの病の経験者であり、克服者なんだよ。  
僕以外に誰が彼女を救えるって言うんだい!?」  
言われてみれば、理に適っているような、いないような……。  
一応、ここには経験者で克服者の銀時もいるのだが、神楽に殴られて虫の息のこの様子では、半日は戻って来れないだろう。  
なんだか、自信満々で話す近藤に、新八が心を動かされ始めた、その時だった。  
神楽が床に落ちていた、一冊の本を拾った。  
「ゴリさん、今コレ落としたョ。『サルでもわかる催眠術入門』」  
「近藤さん、医学ってソレぇぇぇ!? それ医学って呼ばないから!! サラリーマンが宴会芸とかで使う本だから!!」  
新八と神楽にまるでダメな大人を見る目で見られても、近藤は動じなかった。  
「新八君、催眠療法というのは、暗示によって、過去の自分に遡ることもできるんだよ?  
 これで記憶を失う前のお妙さんにまで遡ることができる筈なんだ!」  
理屈を聞けば、なんだかソレらしいことを言っている。  
甚だ妖しいことに変わりはないが、他に手立てもない。  
新八は近藤にかけてみることにした。  
 
 
暗く締め切った万事屋の一室に、蝋燭の炎だけが揺らめいている。  
カーテンを締め切り、明かりを消して、まるでこれから怪談でも始めそうな雰囲気である。  
――――…………あきらかにアヤシイだろ、これェェェ!!!  
ツッコミを入れたくて已まない新八だったが、一応近藤に協力して、我慢することにした。  
ところが。  
近藤はおもむろに、妙の前で、糸から吊るした五円玉を揺らしながら、呪文のように同じ言葉を繰り返し始めた。  
「あなーたはーだんーだんーねむーくなーるぅー」  
「ベタぁぁぁぁ!!! きょうび、そんな方法で催眠術にかかる人なんて、いませんよ!!」  
己のツッコミ本能に逆らえず突っこむ新八に、近藤は厳しい表情で答えた。  
「シッッ!! 新八君、今一番集中しなければいけない段階なんだ!!  
 それに、既に催眠状態に陥っているクランケだっているんだ!!」  
近藤が指差した先には、枕を抱えて涎を垂らした神楽が転がっていた。  
「……近藤さん。あれ催眠状態じゃなくて、本格的な睡眠状態ですよ? 単に暗くなって、眠たくなっちゃっただけですからね?」  
万事屋に助けを求めに来たのに、当の二人は並んで伸びている。  
姉上を守れるのは僕しかいない! と、改めて新八は思った。  
 
しかし、拳を握る新八の横で、妙はうつらうつら船をこぎ始めていた。  
「さあ、あなたは今から記憶の海の、ふかーいふかーい底へ降りてゆきまーす。  
 そこであなたは昔の自分を取り戻しまーす。  
ワタシが手をたたくとー、あなたは目覚めまーす。……さん、にぃ、いち……ハイ! 」  
パン!!と近藤の手が鳴ると、うつらうつらしていた妙が、ぱちりと目を覚ました。  
おそるおそる、新八が妙に尋ねる。  
「姉上……、自分の名前、思い出せますか?」  
妙はきょとん、と、しながら、たどたどしく答えた。  
 
「なまえ……わたしの なまえは、 しむら たえ 」  
 
ぱあ、と顔を輝かせた新八が、妙に抱きつく。  
「思い出せたんですね!! 姉上!!」  
しかし、抱きつかれた妙は、渾身の力で新八を突き飛ばす。  
「やだあああ!!! おにいちゃん、だれ!?」  
突き飛ばされて、三回転半吹っ飛んだ新八は、ズレた眼鏡を抑えながら、起き上がって妙を見返した。  
 
――――……おにいちゃん!?  
 
……物凄く、嫌な予感を感じ取りつつ、答える。  
「……あなたの弟の、新八です」  
それを聞いた妙は、頬を膨らませて新八を睨む。  
 
「ウソだもん!! 新ちゃんはまだ赤ちゃんだもん!!」  
 
妙の答えを聞いて、顔面が白くなる眼鏡一人とゴリラ一匹。  
ゴリラはおそるおそる、妙に尋ねた。  
「お妙さん……お歳は、おいくつですか?」  
妙は自慢げに指を立てた。  
 
「よんさい!!」  
 
視線をマグロより早く泳がせる近藤の胸倉を、新八が掴んだ。  
「おいィィィ!!! 遡らせ過ぎだから!! 幼児退行おこしちゃってるじゃないか、これェェェェ!!!!」  
激しく近藤に詰め寄る新八。だが、次の瞬間、その新八の体が天井高く舞い上がった。  
 
「お父上にイジワルしちゃ、ダメなの!!」  
 
なんと、妙が新八を投げ飛ばしたのである。  
頭は4歳児だが、体は18歳である。強力の妙が渾身の力で投げたのだ。新八などひとたまりもない。  
新八はぐしゃりと壁に叩きつけられた。  
状況が全く解らずに、ひたすら脂汗を流しながら、近藤は妙を振り返った。  
「お……お妙さん……?」  
妙はにっこりと、近藤に満面の笑みを浮かべた。  
 
「お父上、きょう なんかヘンだけど、 においは いつものお父上なの」  
 
――――姉上ェェェ!! ソレ単なるおっさん臭ですって!!   
薄れゆく意識の中で、ツッコミを入れようと力を振り絞るが、声になる前に、新八は果てた。  
壊滅状態の万事屋の中で、脂汗まみれの近藤と、にこにこ顔の妙が残された。  
 
――――どうすればいいんだ? コレ。 お妙さんと二人きりて、喜べばいいのか!?  
      でも、なんか怖いんですけど!! 全く先が読めないんですけど!!  
 
自分で作り出した状況にも関わらず、近藤はうろたえていた。  
ますます汗が滝のように流れる。  
そんな近藤を見て、妙が近づく。  
「お父上、すごいアセなの。おフロはいらなきゃなの」  
ぴったりと近藤に寄り添って、愛らしい笑みを浮かべる妙。  
 
――――いつもは同じ部屋で息をすることすら許してくれないのに!!  
 
近藤は混沌とした現状を一気に忘れ去って、感涙にむせんだ。  
妙が自分に笑顔を向けてくれる。こんな至福が他にあろうか。  
自分のことを父親と勘違いしている、というのは複雑だが、今まで妙がこんなにも自分を信頼しきってくれたことはなかった。  
出来るだけこの信頼を守ってやりたい、と、近藤は強く思った。  
父親として慕ってくれるなら、父親として振舞おう。心が幼子に戻ってしまったのなら、そのように慈しもう、と。  
 
「そうだなー、それじゃあ、お父上、一風呂浴びてこようかなー  
 妙ちゃんはここでお兄ちゃんたちとお昼寝しましょうかー」  
 
神楽以外のお兄ちゃんたちは、昼寝などではなく、確実に生死をさ迷っている状態なのだが、すっかり父と子のテレビ絵本状態の二人には、こんな現状すら、のどかな昼下がりに変えてしまう。  
“お父上大好き光線”を瞳から出している妙は、素直にうん、と言う―――と、思ったのだが。  
唇を尖らせて、眉尻を下げた妙は、近藤の袂の端を握り締めて、首を横に振った。  
 
「やぁなの! たえもお父上と、いっしょに入るの! 」  
 
妙の言葉に、鼻血を噴きそうになる近藤。  
何度も言うが、今の妙は、頭は4歳児でも、体は18歳なのである。  
そんなもん、ゴリラの頭はお父上でも、ゴリラの下半身は野生に戻るわ!!と、人知れず近藤は葛藤した。  
そんな近藤など気にもとめずに、妙はぐいぐいと近藤の手を引っ張って、風呂場を探す。  
とても楽しそうである。  
 
「お父上、たえ、おっきくなったみたいー」  
 
万事屋を歩く妙は、自分の視点が4歳時より遥かに高くなっている違和感に、今更ながらに気づいたらしい。  
家の中を物珍しそうにキョロキョロ見回して歩く。  
その手は近藤の右手をしっかりと握り締めている。  
幸福感で地に足が着かなくて、なんだかフワフワしつつも、近藤は必死に考え続けた。  
 
お妙さんは明らかに自分と一緒に入浴するつもりである。  
入浴するということは、コレつまり、すっぽんぽんになるということであり、一糸纏わぬ姿で密室に二人きりという状況になる。  
そんなもの、想像しただけで袴の前にテントを張ってしまう。  
しかし、今のお妙さんは無垢なる4歳児。  
そんな邪な視点で見ていいものか。  
彼女は自分のことを父親として慕ってくれているというのに。  
 
近藤が葛藤している間に、妙は万事屋の浴室を見つけ出してしまった。  
「お父上、おフロあったよー」  
笑顔で振り返る妙。  
近藤は妙をすり抜けて浴室に入り、湯船に湯をはった。  
せっかくの妙の笑顔も、今は直視できない。イッパイイッパイになりながら、考えをまとめる。  
 
これはもう、腹をくくらねばなるまい。  
一緒に入ろう。  
しかし、お妙さんを邪な目では決して見るまい。  
じゃあ、どうする。  
「……目隠しして入るか」  
……本当は、がっつり見たいけど。金を積んでも拝みたいけど。  
「いや待て、勲。無垢なお妙さんの心を裏切るような真似だけはするまいぞ」  
 
心の中の天使と悪魔を分かりやすく戦わせている近藤の後ろで、妙がぐずった声をだした。  
「お父上ぇ! このヘンなの、とれないぃー!!」  
思わず振り返った近藤は、仰け反って鼻血を吹きそうになった。  
妙が着物を諸肌脱ぎにして、ブラジャーをたくし上げようとしていた。  
背中のホックを外す仕組みがわからないらしい。白い肌を露わにして、もどかしげにブラジャーを引っ張っている。  
その度に、ささやかな胸のふくらみや、先端の桃色の乳輪が見え隠れする。  
今まで散々、妙を邪な目で見るまいと誓ったはずの男は、あっさりと目の前の肢体に釘付けになった。  
すらりと伸びた腕、首筋から鎖骨、胸元まで余計な肉のついていない華奢な体。  
どこからあの怪力が繰り出されるものか、肩など思わず抱き寄せたくなるほどに細い。  
まばゆく見える珠の肌。その中でも、とりわけ柔らかそうな胸のふくらみが、無理に歪められたり、押し潰されたりする。  
着物の帯は解き方がわからなかったのか、ハンパなまま腰に巻きついている。  
しどけなく肌蹴た着物の裾からは、太腿が露わになって、男の情欲をさらに煽る。  
襲ってくれとでも言わんばかりの姿だが、近藤は必死に劣情を抑えた。  
「今俺はお父上、今俺はお父上……」  
念仏を唱える僧侶のごとく、口中で繰り返して、近藤は妙の背後に回った。  
「お……妙ちゃーん? お父上が脱がせてあげるから、万歳して待っててねー」  
はーい!と素直に両手を挙げた妙の背中のブラジャーに手をかける。  
指先が震えて上手く外せない。どうしても鼻息が荒くなってくる。  
触れられる距離に妙のうなじと白い背中がある。両手を挙げているので、脇から胸が見え隠れする。  
近藤が吸い込む息の中に、妙の甘い香りが紛れ込んで、媚薬のように近藤の体内をめぐる。  
「今俺はお父上、今俺はお父上……」  
再び繰り返すと、近藤は目を固く閉じて、ブラジャーのホックを外した。  
「妙ちゃんは、もうお姉さんだから、後は一人で脱ごうねー  
 お風呂の中に肩までつかれたら、お父上に教えてねー」  
あくまで、これ以上はお妙さんの裸を見るまい、と、近藤は瞼を閉ざしたまま言った。  
妙は素直に返事をすると、するすると着物を脱ぎ始めた。  
真っ暗な近藤の視界の中で、衣擦れの音と自分の心音だけが響く。  
今、目を開けたら、焦がれていたお妙さんの全てをみることができる……そんな誘惑に駆られながらも、近藤は目を瞑り続けた。  
ところが。  
「やぁぁぁ!!お父上ぇぇ!!」  
またしても、妙が悲鳴をあげた。  
何事かと目を開けてしまった近藤は、今度は本当に鼻血を吹いて仰け反った。  
妙が一糸纏わぬ姿で脱衣所に座り込み、近藤に向けて股を広げていたからである。  
「おまたがヘンになっちゃったよぉ!!かみのけみたいの生えてるのぉ!!」  
4歳児の知識では、陰毛が生える事など思いもよらなかったのだろう。  
それまでの記憶より背が伸びたことには喜んでいた妙も、動揺して近藤に助けを求めた。  
妙は陰毛の生えた付近を自身の指で押し広げて観察している。近藤にも見てくれと言うようにさらに広げる。  
黒い茂みの奥に見える妙の赤い肉が近藤を刺激して、近藤は完全に自身が勃ち上がったのを感じた。  
 
鼻血を抑えて前かがみになりながら、近藤は必死に言葉を紡いだ。  
「大丈夫だよ、妙ちゃん。み……みんな、おっきくなったら生えるものなんだよ。お……父上にだって、生えてるんだよ」  
言いながら、近藤は自分の股間の緊急事態にパニックになっていた。  
―――お父上のムスコが意に反しておっきくなってるよ! 何コレ反抗期!? 誰かァァァ!!  
脳内で助けを求めても、股間の反抗期が治まるわけもなく、近藤は油汗を流し続けた。  
そんな近藤を見て、妙は自分の体の変化よりも、近藤が心配になったらしい。立ち上がって近藤に近づく。  
「お父上おなかイタイの? お鼻からも血がててるよ。 びょうきなの?」  
妙が跪いて近藤の顔を覗き込む。全裸のまま、瞳を潤ませて。  
その瞳を見てしまった瞬間、近藤の全身は完全に固まった。  
――――ヤバイ。  
脳内では既に、この若く美しい娘の肢体にむしゃぶりついて、腰をぬこぬこ振っている自分がいる。  
っていうか、襲いかかる気満々の己の愚息を抑えるので必死だ。本気で襲いかかりそうだ。  
今、一歩でも動けば、己の理性の糸が切れる!  
極限状態の中で近藤は、股間にとり憑いた発情期のゴリラを調伏する陰陽師のように、ひたすら口中で「今、俺はお父上」を繰り返すのだった。  
「だいじょうぶ? お父上?」  
奇妙な姿勢のまま、固まってしまった近藤に、妙が両手を伸ばして、その頬を包んだ。  
びくりっと近藤の体が痙攣する。  
近藤は喉仏をゆっくりと上下させた後、声をひっくり返しながら言った。  
「お……父上、う……動けなく、なっちゃったから、先に、入んなさい、 …妙ちゃん 」  
ところが妙は首を横に振って、近藤の袴の帯に手をかけた。  
「お父上といっしょじゃなきゃ、やぁなの!! お父上がうごけないなら、たえがぬがしてあげゆ」  
――――えええええええ!?  
己の思考を超えた展開に、近藤の頭の中が真っ白になる。  
妙は先程のお返しとばかりに、張り切って近藤の着物を脱がせてゆく。  
たどたどしい手つきで、解いたことのない男物の着物と格闘している。  
目の前で、無防備に全身を晒して、妙が動く。  
その動きに合わせて、妙の小ぶりな胸が震える。――あの先端に色づく、小さな実を口の中に含みたい。  
きゅっとくびれた細い腰と、続くなだらかな丸いヒップ。弾力の良さそうな白い腿。――触れて、もみしだいて、擦り付けて、犯したい。  
見るまい、見るまいと思っても、目に飛び込んでくる絶景に、近藤はどんどん己の欲望が膨らんでいくのを感じた。  
近藤が抑えなければと思うほど、その興奮は抑えきれず、先走りの汁さえ、その先端に滲ませていた。  
やがて妙は近藤の着物や袴を取り去ってしまい、近藤はトランクス一枚になってしまった。  
トランクスの前方は、先端恐怖症の人間が見たら、逃げ出しそうなくらい張り出している。  
「あー! お父上おもらししてるー!! ぱんつぬれてるよぉ!?」  
妙は立派なテントを張った近藤のトランクスに手をかけながら、大きな声を出した。  
――――あぁ、お妙さん! 何気に羞恥プレイです!!   
無垢な少女の前で、己の欲望を晒され、見透かされたような気分になる。  
倒錯的な状況に、近藤は眩暈を感じた。  
近藤は最後のギリギリのラインで、妙からの信頼を裏切るまいと、必死に理性を保っていた。  
ところが。  
「わぁぁぁ! おっきぃ!! お父上、おちんちんがはれてるよ!!」  
近藤のトランクスを膝までずり下げた妙が、いきり立つ近藤のモノに驚嘆の声をあげた。  
「おちんちんがいたかったの? だいじょうぶ?」  
妙自身は本気で心配しての行動だったのだろう。妙の白魚のような指が、近藤の剛直を優しく包んで、撫でさすった。  
「あっあっ!!……おおお妙さん…だ、ダメです……っ」  
「わぁ、お父上の、びくびくして、あつ……」  
「あ…ぁああ…ッッ!! お妙さ…ッッ!!!」  
びゅくびゅくどぷっ  
近藤は体を震わせて、妙の顔面に、その精を放った。  
 
 

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