「こんばんは〜」  
 
日も暮れた夕飯時、万事屋にやってきたのは、妙だった。  
白い息を吐きながら、いつものような笑顔で玄関先に立っている。  
 
「姉御!」  
「姉上、どうしたんですか?」  
「今日はお仕事がお休みだから、銀さんと神楽ちゃんも一緒にお鍋でもと思って。はい、これ」  
と、新八に鍋の材料が入ったお江戸ストアのビニール袋を渡し、居間へと向かって行った。  
 
「おっ、何だよ、お前にしては気前いーじゃん」  
奥からソファにもたれかかっていた銀時がこちらを向く。  
 
「ええ、まぁ」  
妙は素っ気なく返すと、外は寒かったわと言いながらコタツへ入った。  
神楽も後に続いてコタツに入り、テレビを見始めた。  
新八は台所へ準備をしに行く。  
 
「・・・」  
銀時は目を伏せている妙に目をやった。  
最近、妙は銀時に対して妙に冷たい。…ような気がしていた。  
それは本人にしかわからないほど些細で、もちろん新八や神楽は気付くはずもない。  
何を考えているのかわからないのはもともとだが、最近は特に、自分に対して素っ気ない妙に、少々いらいらしていた。  
 
「はい、材料切りましたよー」  
しばらくして、新八が台所から鍋を抱えてきた。  
「ちょっと、銀さん暇なら手伝って下さいよ」  
言いながらコンロに火をつけている。  
神楽もいるだろ、と言いそうになったが、既に手伝わされると察していたのか神楽はいなかった。  
おそらく厠にか逃げたのだろう。  
 
「へいへい」  
しぶしぶ銀時は立上がり、頭をかきながら台所へ向かう。  
たんまりの野菜と少々の肉の入った皿を持ってきて、テーブルに置いた。  
 
ふと、妙の滑らかなうなじに目がいく。  
…そこで気付いてしまった。  
いつもと変わらぬ、白い肌。しかし、そこにいつもと違う…赤い…  
 
その瞬間、さっとさり気なく、妙の白い手がその部分を覆った。  
 
「さっはじめましょ。神楽ちゃんも早くいらっしゃいな」  
 
「やっと出来たアルか、遅いんだヨ腐れ眼鏡」  
「何もしてないでよく言うよ…。あれ、銀さん?何ぼーっとしてるんですか」  
「…や、別に」  
「?そうですか。じゃあ、いただきます」  
 
新八と神楽はそう言って食べ始めた。  
 
銀時も鍋の方に向きなおり、箸を進めだす。  
ちらっと妙のほうを見ると、妙もこちらを見ていたらしく視線がぶつかった。  
が、すぐに逸らされた。  
 
(…そーいうことかい)  
 
銀時と妙は、妙が仕事が忙しいからという理由でここ何週間か会っていなかった。  
つまりあの赤い痕は、自分が付けたものではない。  
 
二人は恋人同士ではなかったが、言わずもがなで互いに惹かれ合っていた…はずだった。  
そう思っていたのは、自分だけだったのだろうか。  
 
(あー…腹立つ)  
 
ふつふつと募っていたいらいらは、もうピークに達していた。  
何食わぬ顔で笑っている妙を見て、銀時に言い様の無い欲望が沸いてくる。  
 
 
悪戯、してみようか。  
 
銀時の中で、何かが弾けた。  
 
「お妙ぇ〜、その首の…」  
 
「!」  
 
びくりとし、何を言うのかと妙は銀時を見る。  
 
 
「なんですか?銀さん」  
「姉御の首がどうしたアルか?」  
新八と神楽が箸を止める。  
 
「な、なんでもないのよ」  
妙は首を押さえ、ぎこちない笑顔を作る。  
 
それを見た銀時は、  
「何でもねーのにんな痕がつくかよ」  
と妙にだけ聞こえるように小さく呟き、こちらを見た。  
 
一瞬で、体が凍ったかと思った。  
その目は冷たく、妙は感じたことのない恐怖に襲われた。  
それから目を逸らせずにいると、ふと、着物の裾を割って、太股のあたりに違和感を感じた。  
 
「え…」  
 
それが銀時の左手だと気付くのに、そう時間はかからなかった。  
 
ごつごつした大きな手は、妙の肌を厭らしく撫でる。  
 
「な、何す…!」  
 
「ん?どうしたんだ?お妙」  
 
銀時はさらっと言い放つ。  
目は、あの冷たいまま、口元は少し不敵に笑っている。  
 
「!」  
 
嫌な汗が背中にじわりと滲む。  
その目だけで、この男の考えていることはすぐに判った。  
嫌。逃げようと身を少し引こうとしたその時、  
「姉上?」  
という新八の声に、はっとした。  
 
気付かれる。気付かれては、いけない。  
この場をしのぐには…  
この男の怒りを鎮めるには…  
我慢するしかない。  
 
(それに、もとは…私が…)  
 
そう考えていた刹那、妙がおとなしくなったと感じた銀時は、手をするりと股に忍び込ませ、下着越しに触れた。  
 
「んっ…」  
 
思わず声が出そうになる。  
妙は目を閉じ、右手に持っている箸をぎゅっと握りしめた。  
妙のその様子にも、銀時は左手は動きを止めることなく、右手は平然と鍋を食べ進めていた。  
 
指は、何度も妙のそこを擦りあげている。  
次第にじわじわと愛液が滲み出て来るのが、自分でもわかった。  
 
「…濡れてきてらァ」  
 
にやりと呟かれる。  
妙はびくりと肩を震わした。  
 
「銀ちゃん何か言ったアルか」  
「いや、煮えてきたなってな」  
 
銀時の答えに安心したのも束の間、指は下着の隙間から割って入り、ぷっくり膨れた突起に触れ、きゅっと摘んできた。  
 
「は…ァ…」  
 
箸で運んでいた白菜が、口に入ることなくふるふると震え、それと同じように妙の唇も震えていた。  
 
銀時は構わず指を進める。  
着物は乱れ、いつの間にか下着はずらされ、  
初めは固く閉ざしていた膝も力が抜け、まるで迎えいれるように少し開いていた。  
 
こたつの中の自分の姿は、決して人には見せられない乱らな状態に違いない。  
恥ずかしさで泣きそうになる。  
 
さらに自分を乱すその指は2本になり、腟口からゆっくりと中へと侵入してくる。  
 
「ぁ…は…」  
 
くちゅ…  
という水音が響き、妙は2人に聞こえるのではないかと冷やりとした。  
 
「姉御?どうしたアルか?顔が真っ赤ネ」  
 
心配して問う神楽。心臓が痛む。  
 
「だ、大丈夫…よ。…んっ」  
銀時は妙の中で指をバラバラに動かす。  
 
くちゅくちゅと、さらに音は激しさを増す。  
頭がどうにかなりそうだった。  
しかし、気持ちとは裏腹にそこはヒクつき、銀時の指を飲み込むように刺激を求めていた。  
それに加え、いつ気付かれてもおかしくない状況に、体は残酷にも興奮しているかのようだった。  
愛液はとめどなく溢れてくる。  
快感に耐えるように、妙は唇をぎゅっと噛んだ。血の味がした。  
 
「はぁ、はぁ…」  
 
息が荒くなってくる。  
指は妙の一番感じるところを捕え、そこを責め立ててきた。  
 
「ふ…ぁ…」  
 
足がガタガタと、限界を告げていた。  
妙は手をこたつの中に入れ、自分を弄ぶその男の手首を弱々しく握った。  
 
銀時は目だけを妙に向けた。  
 
「ごめんなさい…もう…」  
 
目を伏せて唇を震わせながら呟く妙に、銀時は手を離し、下着を戻した。  
 
「…ちょっとこいつ家まで送るわ」  
 
銀時はいきなり立ち上がると、まだ力が抜け切っている妙の手を引いて、万事屋を出ていった。  
 
 
男は手を強く引っ張って行く。  
言葉は何一つ交さず、狭い路地に入った。  
人がいないことを確認して、銀時は妙に壁に手をつかせると後ろから着物をめくり、下着をずらして一気に貫いた。  
 
「あァ…!」  
妙の顔が快感に歪む。  
今までの我慢を全て吐き出すかのように、声をあげる。  
銀時は自分の欲望のためだけであるかのように、一心不乱に妙を突いてくる。  
 
壊れてしまう、寸前。  
 
「ぁ…ぁ…ぎ…んさ…私…」  
「まだイクんじゃねーよ」  
 
銀時が妙の口に指を入れると、唾が伝い流れ落ち、その顔をよりいっそう厭らしくさせた。  
 
「私…ごめん…なさい…はぁっ」  
「……」  
銀時は顔をしかめ、さらに腰の動きを早くし、奥まで突きあげる。  
 
「も…ダメ…や…あ…あぁぁッ!!」  
「くっ…」  
 
二人はほぼ同時に達した。  
銀時は己を全て中に吐き出すと、妙からは二人の濁った液が滴り落ちた。  
 
「はぁ…はぁ…」  
息を整えながら、壁にずるっともたれかかる。  
 
夜風がひゅうと通り過ぎる。  
長い沈黙。  
それを先に破ったのは、妙だった。  
 
「銀さん…私…ごめんなさい」  
「…なんで謝んだよ」  
 
そう言われて、言葉が詰まる。  
「別に付き合ってる訳じゃねぇんだし、」  
まぁ突き合っちゃってるけどね、といつもの調子で言う。  
 
妙は顔を伏せた。  
苦しくなって、涙が目に溜まってくる。  
 
「ただ…」  
「え?」  
「ただ、ムカついたから。そんだけ。  
その…悪かったな。家まで送っから」  
立ち上がると、妙の手首を取りふわっと立たせる。  
 
家に着くまで、何も話さなかった。  
ただ、手を繋いだまま。  
 
おやすみと別れて、家の玄関に入った途端、妙は泣き崩れた。  
 
心臓が痛んで仕方なかった。  
あの日のことが、頭をよぎる。  
崩れていく自分が、どうしようもなく悔しかった。  
 
<つづく>  
 

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