「――ねぇ、妙ちゃん、昔みたいに僕に見せてよ」
湿った生温かい息が妙の柔らかな耳朶を震わせる。
九兵衛の囁きは妙の身体を凍らせ、彼が部屋へと足を踏み入れたときから
出番を待つかのように握り締めていた拳から徐々に力が失われてゆく。
その言葉はまるで魔法の呪文のように妙の思考を鈍らせて、体の自由を奪う。
頭の奥の方が痺れて上手く物事を判断する事が出来ない妙の体はまるで、
妙に寄り添うようにしゃがみ込んだ九兵衛に乗り移られてしまったかのようだった。
柳生家の離れの一室に閉じ込められて数日が経っていた。
朝早くから暗くなるまで女中頭に一日中扱き使われる日が続き、
流石の妙も疲れきっていた。
夕食もあまり喉を通らず、風呂へ入るのさえ面倒だった。
それでも、疲れを取る為に風呂へと入り、部屋へ戻ると髪を乾かすのも忘れて
布団へと倒れこんだ。
直ぐに睡魔は襲ってきたが、眠るわけにはいかなかった。
柳生家に連れて来られてから一度も顔を見せなかった九兵衛が、妙の部屋へと
忍んできたのだ。
慌てて蒲団から飛び起き、眠る為に既に消した部屋の灯りを点けようとした妙を
九兵衛は素早く歩み寄って制した。
灯りをつけてしまったら、月明かりが薄っすらと差し込む障子は、部屋の中の
様子を外にぼんやりと透かしてしまうだろう。
もし、部屋の中に妙以外の誰かが居ると知れてしまったら気付いた誰かに様子を
見に来られてしまう所か、花嫁修業中の妙に近づいた事が父に知れたら叱られる
のは目に見えていた。
声をあげるために大きく開いた妙の口を掌で塞ぎ、九兵衛はそのまま妙を抱きこむ
ようにして蒲団の上にしゃがみ込んだ。
肩に回された九兵衛の腕に妙の背筋が強張ったが、何かされたら殴ろうと思い、
強く拳を握って耐えた。
花嫁修業をしているとはいえ、まだ、九兵衛の嫁になったわけではない。
もしかしたらまたキスくらいはしようとするかもしれないが、それ以上は
求めては来ないだろう、と思っていた。
――が。
「――ねぇ、妙ちゃん、昔みたいに僕に見せてよ」
思い掛けない言葉に、ずっと頭の奥に仕舞いこんでいた記憶が蘇る。
「思い出してはいけない」と、ずっと否定して忘れようと努力し続ける事で
今では夢の中の出来事のような気さえしていた、あの”遊び”。
けれど、九兵衛が突然目の前に現れたことで、夢だと思い始めていた記憶が
急にまた現実として記憶の奥底から浮かび上がり始めていたのを、妙自身、
認めたくは無かったが薄っすらと気付いていた。
「九ちゃん……」
呟くように言って、耳元に顔を寄せた九兵衛を振り返る。たった一つの九兵衛の
目は真っ直ぐに妙を見据えていて、一度視線がぶつかってしまったら最後、
視線を逸らすことは不可能だった。
「もうあの頃のような子供じゃ無い、大人になった妙ちゃんが見たいんだ」
九兵衛の視線に操られるように妙は立ち上がると、九兵衛の目だけを見つめ返し
ながら、女中頭から与えられた浴衣の帯を解く。
するすると帯を解いて合わせ目を開くと、障子から滲むように差し込む月明かりに
照らされ、九兵衛の目の前に小振りだが形のよい裸の胸が浴衣から零れ出る。
キレイな桃色の天辺が、しゃがんで妙を見上げる九兵衛から顔を逸らすように
つん、と上を向いていた。
皆が遊んでいる境内の一角に、捨て置かれたような小さな祠があった。
その後ろは背の高い雑草がうっそうと繁っていた。
時折、その雑草の中を猫か何かが通るのか、姿は見えないのに雑草がガサガサと
音を立てて揺れるので、小さな子供たちは怖がって近寄らない場所だった。
――その、祠の後ろに。
妙を手招く九兵衛が居る。
いつから、そしてどんな理由でその遊びを始めたのか、忘れようと強く
願い続ける事で今では本当に忘れてしまったが、それは妙と九兵衛だけの
秘密の遊びだった。
弟の新八にさえ内緒の。
他の子は決して仲間にはしない、二人きりの遊びだった。
九兵衛の手招きに気付いてしまったら最後、他の遊びをしていても妙は
祠の後ろに行かなくてはならなかった。
他に誰もついてこないことを確認して、妙は祠の後ろの繁みに足を踏み入れた。
九兵衛は祠の後ろの、繁みとの僅かな隙間にしゃがみこんで、妙がその遊びを
始めるのを待っている。
時々、妙が躊躇って着物の前を掴んだまま突っ立っていると、
九兵衛が手を出して妙の着物の前を捲った。
そうして白い足と共に妙の白いショーツが露わになると、
九兵衛はそのショーツに手をかけて膝元まで下す。
しゃがみ込んだ九兵衛が妙の白い足の付根にある、一筋の切れ目を
食い入るように見詰め、妙は九兵衛が気が済むまでそうして着物の前を
持って立ちながら待っている、という遊びだった。
「――もう、いい?」
じっと見詰める九兵衛は全く妙の事など忘れてしまったかのように、
いつまでも桃色の中身を隠した切れ目を見ていた。
その中身が知りたくて仕方が無いようだと悟っても、九兵衛は手を出して
触れようとはしなかったし、妙もわざわざ足を開く事はしなかった。
妙と九兵衛のどちらが決めたのかは忘れたが、その遊びはあくまで見るだけで、
触ったりしてはいけないルールだった。
そうしてその遊びは、妙と九兵衛が居ないことに気付いた誰かがどちらかの
名前を呼ぶまで続いた。
その遊びはいつも決まって、妙の名前を弟の新八が呼ぶまで続いた。
まるで催眠術にでもかかったかのような妙が浴衣の前を開き、
あの頃と同じ、白いショーツを九兵衛の前にさらしている。
妙の膨らんだ胸を見詰めていた九兵衛が、やがてゆっくりと視線を落として
妙の白いショーツを捉える。
自然と手が伸びて、九兵衛の手がなだらかな下腹部に寄り添っているショーツを
掴むと、脇腹に触れた九兵衛の手から妙の体にビリビリと電気が駆け巡る。
不意に、一番忘れたかった記憶が妙の脳裏に蘇り、強いショックに思わず
妙は眩暈を覚えた。
――一度だけ、九兵衛が妙の切れ目に触れた事があった。
何かに魅入られてしまったような九兵衛は、じっと見詰めていた妙の
切れ目に手を伸ばしたのだ。
九兵衛の冷たい指先が、ぐっと妙の切れ目に押し入ってそれぞれを
別れさせて開いた。
桃色の中身をさらけ出すと同時に、思わぬ行為に妙の足の付根が痛んだ。
「イタイッ」
言って思わず顔を顰め、腰を引いた妙の尻を抱きこんで、九兵衛は尚も
切れ目を開いた。
ぐっと押し入ってくる九兵衛の指は奥へ奥へと突き進み、桃色の切れ目に
分け入る。
あまりの痛さに膝が震え、今にも崩れこみそうな妙の腰を九兵衛は抱き
込んで支え、強引にその行為を続けた。
今まで聞いた事もないような、荒々しい息が見下ろす九兵衛の頭のほうから
聞えた。
痛くて怖くてどうしようもなかったが、獣のような息を漏らす九兵衛に
体は凍りつき、抗うことが出来なかった。
痛みは徐々に増し、やがて強烈な痛みが妙の下腹部に走った。
あまりの痛さに思わず「イタイッ」と再び悲鳴をあげると、夢中だった
九兵衛の耳にやっと届いたのか、彼の指がゆっくりと切れ目から引き抜かれた。
ほっと胸を撫で下ろすのも束の間、引き抜かれた彼の指が紅く染まって
いるのを見て、妙はそのまま気が遠くなり、その後のことは覚えてはいない――
ショーツを下されて露わになった妙の下腹部を、夜の冷たい空気が撫でる。
「妙ちゃんも大人になったんだね」
言って、九兵衛はそっと手を伸ばすと、あの頃目にした切れ目を覆い隠して
いる繁みを撫であげる。
「また、あの時みたいに妙ちゃんの中身を見せてよ、キレイな桃色の――」
九兵衛の言葉に誘われるようにして、ぴったりと合わされていた妙の
白い両の足がゆっくりと離されてゆく。
黒い繁みを撫でていた九兵衛の手が、中身を探るように繁みをかき分ける。
切れ目を見つけると、あの時と同じように指を滑り込ませてぐっと左右に
割った。