万事屋に依頼が来た夜。  
銀時はその報酬で飲み歩いていた。  
「あ〜、飲み過ぎた〜。銀さん限界だあ〜」  
泥酔状態でまともに歩けず、電柱に肩がぶつかりそのまま転倒した。  
のろのろと起きあがるが、立ち上がることが出来ない。  
銀時は先ほどの電柱を背もたれにし、だらしなく地面に座った。  
酔いが醒めるまでしばらく休んだほうが良さそうだ。  
帰ったら神楽に風呂を用意させようと考えていると、背後に人の気配がした。  
 
「ハァ、ハァ、ほら。大きいだろう…口を開けて」  
「約束が違っ…」  
「上乗せするから!金が欲しいんだろ?」  
「ぅっー…」  
 
何だ?この妖しい台詞は。  
銀時は、好奇心に駆られて思わず振り返る。  
大人ひとり分の幅しかない狭い通路で、下半身裸の男が腰を振っている。  
髪の量や筋肉の落ち具合から、男はおそらく中年であろう。  
銀時からは男の後姿しか見えないが、会話の内容から察するに相手の女の頭を掴みその口内を犯しているようだ。  
次第に腰の動きが小刻みになり、男の荒い息遣いとぴちゃぴちゃという水音が響く。  
「あっあ〜っ、イ、イクッ!」  
中年男は絶叫とともに果て、動きが止まった。  
「うぐぅ…ゲホッ」  
気の毒にも中年男の精液を口に流し込まれた女の咽る声が聞こえる。  
「また、よろしく」  
男は紙幣を女の懐にねじ込み、銀時の存在にも気づかず足早にその場を去っていった。  
女性はまだ座り込んだまま咽ている。  
 
「お前さん…大丈夫か?」  
いきなり声をかけられ、女はぎくりと身体を強張らせた。  
銀時は女のそばに近づき背中をさすってやった。  
その身体は小さく、まるで少女のようだった。  
「…大丈夫、…です」  
小さな声で答えると、女の顔を隠すように巻いていたストールがハラリと落ちた。  
現れたのは、闇の中でも輝く桃色の髪。  
珍しい髪色だが、銀時にとっては見慣れたものであった。  
「神楽…」  
逃げようとした神楽の二の腕を、銀時はすばやく掴んだ。  
「銀ちゃ…」  
「神楽…お前…」  
「痛いヨ、銀ちゃん」  
神楽の服の胸元に真新しい染みができている。  
さっき見たのは夢なんかじゃないのだ。  
銀時はそのまま神楽を引っ張り、無言で歩き出した。  
酔いは完全に醒め、足取りもしっかりしている。  
その手は震え、指先は白くなっていた。  
 
万事屋に着き、風呂場の前で銀時はやっと神楽から手を離した。  
「風呂に入るぞ」  
言いながら、銀時は神楽のチャイナドレスに手をかける。  
「銀ちゃん、やめてヨ」  
神楽の言葉を無視しボタンを胃の辺りまではずしたところで、紙幣が足元に落ちた。  
それが目に入り、銀時はボタンをはずすのをやめて服を引っ張り強引に脱がせた。  
神楽を風呂場に突き飛ばし、自分は服を着たまま室内に入り乱暴に扉を閉めた。  
下着一枚で震える神楽の腕には、銀時の手形が痛々しく残っている。  
「神楽、お前、いつもあんなことしてんのか?」  
銀時は、神楽の背中をシャワーで流しながら静かに訊ねた。  
「私、あいつに騙されたネ。信じてヨ」  
「騙された?」  
「あのオヤジが見るだけでお金くれるって言ったネ。なのに銀ちゃんのエロ本みたいなことされたヨ」  
神楽は、堂々と語る。  
対照的に、銀時は深いため息をついた。  
「お前、何を見るか解っててついて行ったんだろ?」  
「それは…」  
銀時は俯いた神楽の顎をつかみ、強引に目を合わせる。  
「金目当てで」  
「…ご、めんなさ…」  
いつも自分を慕ってついてくる可愛い神楽。  
誰よりも大切で愛しいから、傷つけたくないから、大人になるまで待つつもりだったのに。  
こんな形で神楽から裏切られるなんて。  
銀時の脳裏にあの路地裏の光景が浮かび上がる。  
あのときはショックのあまり頭が真っ白になりあのオヤジの汚らわしい性欲に嫌悪感を覚えた。  
しかし、今は。  
神楽への憎しみと支配欲に駆られ、なにも考えられない。  
 
「金を手に入れるために、男を悦ばせてんのか」  
銀時の骨張った指が、神楽の口に侵入する。  
「ぅっ…ぅ…これが最初で、最後ヨ…」  
大きな瞳に涙を溜め長い睫が震え、薄く開いた唇からは指に絡んだ紅い舌が覗く。  
まるで娼婦のような表情だった。  
自分が気づかない間に、こんな顔をするようになったのか。  
「お前、元々出稼ぎで地球に来たんだったな。金が欲しいなら、俺がお前を買ってやる」  
銀時はポケットから今夜の呑み代の残金を出し、神楽の手に押し付ける。  
「銀ちゃん、私、確かに悪いことしたネ。でも自分のために欲しいんじゃないヨ…私…銀ちゃんに喜んでほしくて…」  
「お前に金の心配をされるほど困ってねぇんだよ!」  
神楽を力任せに押し倒す。  
「あうっ」  
床に頭をぶつけ一瞬気を失いかけたが、寝るなと頬を叩かれすぐに気づいた。  
銀時の手が神楽の下着を取り払う。  
そしていきなり秘所に指を這わせた。  
「俺は、こっちで満足させてくれよ」  
「ひっ」  
全く愛撫をしていないため潤いのないそこは、固く閉じている。  
銀時はボディソープをたっぷりと取ると、入口と自分の性器に塗りつけた。  
「銀ちゃん、やめてヨ!怖いヨ!!」  
これから銀時になにをされるのか察した神楽が泣きながら叫ぶ。  
銀時は神楽の細い腰を引き寄せ性器を突き立てた。  
「痛い、イタイよぉ」  
性器も入口も十分に滑っているが、なかなか先に進めない。  
神楽は身体に力を入れ冷や汗を流している。  
もしかして初めてなのかも知れない。  
神楽の足を高く持ち体重をかけて一気に貫いた。  
「あぁーーーーーーっ!!」  
夜兎としての本能だろうか。  
痛めつける相手から自分を護るためか、神楽は銀時の腕を食いちぎらんばかりに噛みついた。  
「いてぇ…っ…こいつ…」  
神楽のなかを乱暴に掻き回す。  
浴室に肌がぶつかる音と泡立ったボディソープのぐちゅぐちゅという音、そして二人の荒い息遣いが響き渡る。  
銀時は何度達しても、さまざまな体位から神楽が失神するまで犯し続けた―――――――。  
 
その日から、銀時は神楽を銀時の寝室に監禁した。  
新八には実家に帰ったとだけ告げ、追求されてもシラを切り続けている。  
しかしあれから神楽は全く食事を受け付けず日に日に衰弱していっていた。  
「神楽。ホラ、飯と金だ。実家に仕送りするんだろ?」  
言いながら唇を肌に這わせる。  
どんなに丁寧な愛撫にも反応しない。  
神楽は金が欲しくて人間に身体を売ったのだ。  
だから自分が買ってやっているのになぜ――――なにが足りないのか。  
仕送りだけでなく好きな服も買えるくらいの報酬を与えているのに。  
札束に埋もれた神楽は裸のまま、ただ静かに涙を流している。  
ある日、神楽はこう呟いた。  
「…夜兎は…兎は…さみしいとダメなのヨ…」  
 
 
 
それからさらに数日後、銀時は新八から呼び出された。  
「銀さん、どうして神楽ちゃんは黙って行っちゃったんでしょう?」  
「またその話か…さぁな」  
「だって神楽ちゃん、今日の銀さんの誕生日にパーティを開くって張り切ってたんですよ」  
―――――――――?  
「大食い大会とかに出たりして資金貯めてるって言ってたし」  
――“これが最初で最後ヨ”  
「なのに突然いなくなって…」  
――“自分のために欲しいんじゃないヨ…銀ちゃんに喜んでほしくて”  
そこからの新八の話は覚えていない。  
 
 
慌てて部屋に戻った銀時は、いつものように裸で寝たきりの神楽を抱きかかえた。  
「神楽、起きろ、オイ!!」  
健康的で抱き心地のよかった身体はすっかり痩せ細り、瑞々しい果実のようだった唇はカサカサで紫色になっている。  
「神楽…」  
なぜ、自分はちゃんと神楽の話を聞いてやらなかったのだろう。  
神楽は、銀時が以前のような愛情ではなくただ支配欲だけで身体を求めているとわかっていたのだ。  
だから、さみしくて。  
生きることを放棄し食事をとらなかったのだろう。  
「ごめんな…」  
銀時は涙を流し、もう温まることのない冷たい神楽を抱きしめた。  
 

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