隣りに寝そべっている男のその柔らかい銀髪の猫毛に、くるくると指を絡めてみた。  
手首に微かに触れる髪が思っていたよりくすぐったくて、なにかが、無償に、込み上げてくる。  
それは、ぎゅう、と音が聞こえてくるほどに、痛い。苦しい。・・・愛しい。  
 
「…なんだよ。ちょっ、痛いんですけどお姉さん」  
 
彼がこちらを向く。  
その、眉と離れたやる気の無い目も、憎たらしい言葉が次々に出てくるその口も、大嫌いなのに。  
大嫌いでしょうがないのに。  
それすら愛しいと思えてしまって仕方がないなんて。  
新ちゃんには口が裂けても言えないわ、と思った。  
もちろん、この目の前でにやにや笑う男にも。  
 
「何、もう一回やっちゃう?」  
 
ああ、ムカつく。  
そうやって貴方は、何でも先回りして答えに辿り着いてしまうのよ。  
私の考えていることも、して欲しいことも、すべて見透かしてしまうのよ。  
 
「・・・」  
 
抱いて、なんて可愛いことは言えない。だから私は睨むように彼の瞳を見つめた。  
一瞬、どきりと鳴ったかと思うと、夜の闇よりもずっと暗いその目は、すぐに私の視界を支配して、唇に生暖かい感触を与えた。  
 
「んっ・・・ふぅ・・」  
 
彼の舌から逃げようとするもすぐに捕らえられる。  
 
歯列をなぞり、上顎を舐めあげ、息をする隙さえも無く、私の力を抜き取っていく。  
 
私が彼の首に手を回すと、唇から首筋へと移し、紅い痕を惜しげもなく残していく。  
先程付けられた痕の上をまた同じように吸い付く。  
二度付された痕達はきっと私の肌にそぐわず、ここ暫くは元に戻らないだろうと冷静に思った。  
 
彼の大きくてごつごつした手が、器用にホックを外し、するりと指を滑らせる。  
 
「あっ…」  
 
思わず高い声を出してしまう。  
それを聞き逃すはずもなく、さっきよりもにやにやとしたかと思うと、一方は手で、一方は舌を丹念に動かし、先端を避けるように愛撫する。  
 
「ぁ…はァ…ンんっ…」  
 
既に先端は疼きを抑えきれずに、つんと固くなっていた。  
それに気付いているのに、敢えて触れてこないもどかしさに思わず首を振る。  
 
「ぁ…ゃん…ハァ……ぃゃ…」  
 
「んー?何が嫌?」  
 
悪戯っぽい口調で聞いてくる。殺してやりたい。  
 
「も…ちゃ…んと、触っ…て…あぁんっ」  
 
言い終わるのを待つことなく、一気に吸い付かれる。  
舌先でちろちろと、人差し指と親指でころころと弄ばれる。  
 
「ぁぁ…ゃんっ…ぎ…んさ…」  
 
空いている方の手が、膝の辺りから太腿の内側をゆっくりと這っていく。しかし、いつまでたっても手は付け根より先にいこうとはしない。  
 
余りにも焦らされて、我慢の限界だった。私は恥ずかしさを堪え、彼の手を握ると、既に湿り気を帯びたそこへ導いた。  
それには驚いたようだったが、間を置くことなく行為を続けた。  
下着を膝までおろしたかと思うと、間髪を入れず彼の指が触れた。  
ピチャ…と卑劣な水音が、しんとした部屋に響く。  
 
「あぁッ…ん…ふっ」  
 
「すげー濡れてる、もうぐちょぐちょだぞお前」  
 
「ゃ…いわな…で……やぁっ!」  
 
思わず腰を浮かす。  
クリトリスを親指で転がしながら、人差し指と中指を一気に中へ侵入させた。  
内壁を擦り、2本の指をバラバラに動かす。  
 
「はぁ…ぁんっ……ンぁ…」  
 
「うわっ今の顔エロすぎ、ヤバイって」  
 
そう言うと、じっとりと汗が滲んでいる額に軽く口付けた。  
 
「・・・」  
 
彼はいきなり指を抜き、べとべとに濡れた長い指を私の前でぺろりと舐めた。  
恥ずかしくて、顔を背けた。  
 
「あ、今シカトしたよね、完璧にシカトしたよね」  
 
「別にっ……」  
 
「おしおきしなきゃな〜」  
 
彼は両足の太腿を掴み、そこに顔を近付けた。  
そこはヒクついて痙攣をおこし、愛液がとめどなく溢れていた。  
それをじぃと見つめながら言う。  
 
「全くこんな淫乱な女にしたのはどこの誰だ」  
 
「あぁんっ…はぁ…ぎ…んさん…でしょう…きゃぁっ」  
 
彼の舌先が触れた。  
稲妻が走るようなびりびりとした感覚が背中を襲う。  
熱い。  
花弁を執拗に舐めとり、クリトリスを甘噛する。  
 
「ふぁ…ぁぁっ…ゃん…ダメ…」  
 
彼のふわふわした頭を掴む。  
 
「…そろそろいいかな」  
 
そう言うと、大きくそそり立った彼自身を秘部にあてがう。  
 
「お妙、こっち向いて」  
 
「・・・」  
 
目を、合わす。  
優しい目が、私を見つめている。  
どうしようもないくらい、痛い、苦しい・・・愛しい。  
私は彼の頬に手を添えて、言った。  
 
「銀さん…お願い」  
 
彼は軽く微笑むと、「了解」と言って一気に奥まで突いた。  
 
「あぁぁぁっ!…はぁ…あぁンっ」  
 
激しく上下される。  
熱い。  
卑らしい水音と二人の息遣い、私の声が響く。  
私も自然と腰を振ってしまう。もう、限界が近付いていた。  
 
「ああっ…銀さ…私…もぅ……あぁァっ!」  
 
「くっ…」  
 
「あぁぁッ……」  
 
二人、一緒に達した。  
どくどくとお互いの愛液が混ざって、こぼれる。  
 
「はぁ…はぁ…」  
 
彼はごろんと横になった。  
肩で息をする。  
私を頭から抱き寄せると、髪に優しく口付けした。  
 
情事後の、いつものように。  
 
さっきまであんなに熱かったのに、こうされると、私はいつも、その唇が触れた部分に熱がいってしまう。  
…これって何なのかしら。  
 
「…銀さん」  
 
彼の腕の中で、小さく呟く。  
 
「…好きです」  
 
私の、馬鹿。  
何言ってるんだろう。  
そんな女の子みたいなこと。  
 
彼はふっと笑うと、言った。  
 
「知ってるって」  
 
 
「まあ俺の方がお妙のこと好きだけど」  
 
 
痛い想いは、苦しい想いは、愛しい想いは。  
きっとずっとこの男にさせられっぱなしになるんだと思うと、なんだか悔しくなった。  
 
 
終  
 

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