肌に纏わりつくような寒さの中、銀時は白い息を吐きながらしゃくしゃくと  
足音を立てながら大通りを歩いていた。  
 空はもうすっかり色濃く闇色に沈み、ぽつぽつと雪の結晶を散らしたような星が光を  
帯びている。昼間、賑わいをみせるこの歌舞伎町大通りも今ではすっかり静寂に包まれ  
ている。  
 赤いマフラーに、派手な花柄の羽織りを肩にかけた銀時は、寒さに肩をくすませながら  
足早に通りを抜けた。向かうは、通りの離れにある一軒の道場。  
 そう、妙のところだ。新八に、「夜はでかけるから、家に泊まって神楽の面倒みて  
やってくれ」と言って来た。妙ももう仕事が終わって家に帰っているだろう。銀時は妙の自宅の  
勝手口からこっそりと進入し、閉めてある雨戸をこんこんと叩いた。  
 すると、がたがたと雨戸を開ける音がして、浴衣に羽織りをかけただけの妙が姿を現した。  
 風呂上りなのだろうか。髪は少し湿り気を帯び、もともと黒い髪はさらに漆黒に濡れていた。  
 青白い月の光が妙の輪郭をぼかし、いつもの凛とした雰囲気ではなく、柔らかい雰囲気を  
かもし出している。下ろした髪が揺らめき、妙は唇を笑みの形に変えた。  
 「あら、銀さん。こんな時間にどうしたの? チョコレートでももらいにきたのかしら」  
 首をかしげて妙は言う。その穏やかな笑みが年相応でとてもかわいかった。普段からそうして  
いればまともな男も寄ってくるだろうに、と銀時は思う。いや、寄ってこないほうがいいのかもしれ  
ない。銀時は、妙を独占したいのだ。他の男に触れられたくなど無い。  
 かすかに漏れた悋気を振り払い、銀時は妙の問いを肯定した。  
 「あァ、お前にはまだもらってないことを思い出してなァ」  
 「そんなに甘いものが好きなの? あんまり食べると新ちゃんにまた怒られるわよ」  
 寒いから中に入って、と促され、銀時はブーツを脱いで板間に上がる。素足から感じる冷たさに  
耐えかねて、そそくさと畳の床に移動する。中心に置いてあるこたつに足を突っ込み、冷えた  
身体を温める。  
 そんな銀時に、妙は茶を入れて銀時に渡した。  
 
 「昼間にくれば良かったのに、こんな時間に出歩くと風邪ひくわよ」  
 鼻の先を赤く染まらせて茶をすする銀時に、妙は苦笑しながら言った。そうだ、別にこんな  
夜更けに来なくてもいいのだ。それは分かっている。けれど、昨日のバレンタインに妙に会い  
そびれてしまったので居ても経ってもいられず、半ば衝動的に妙の家まできた。  
 普段、こんなイベントになんて興味も湧かない銀時だったが、妙とは別だ。銀時は妙に惹かれて  
いた。それは妙も同じだった。  
 しかし、お互いに「好き」などと言い交わすわけではない。そんな気持ちを口に出して確かめ  
合わなければならないほどではないのだ。  
 妙も、銀時も、言葉にするのが重いのだ。お互いに好きだと思っているのならばそれでいい。  
 言葉にしなくても伝わる。そんな思いがこうして銀時と妙の心を繋いでいる。  
 「……みかん剥いてくれよ」  
 「自分で剥けるでしょう? もう子供じゃないんだから」  
 「妙が剥いてくれないと食べられない」  
 そう言って、銀時は笑みを浮かべながら妙を見つめた。笑みといっても、妙の反応を伺うような  
悪戯心に満ちた笑みだった。妙は呆れたように銀時を見てから、こたつの上のみかんを剥き始めた。  
それに満足したように、銀時は再び茶をすすった。  
 「あぁ、あったまるなァ」  
 「そうね、やっぱりこたつ出してよかったわ」  
 「うちこたつあっても神楽と定春に占領されてるしよォ、毎日ここに来てぇよ」  
 屈んでこたつの上にあごを乗せて、銀時は言う。万事屋にはこたつはあるが、サイズが  
小さいため、毎日神楽と定春に占領されてしまうと、銀時の入るスペースが無くなってしまうのだ。  
 だから、仕方なくソファの上で毛布を被ってテレビを見たり、ジャンプを読んだりしているのだ。  
 「……でも、こたつは足元は暖まるけど、上半身は寒いわね」  
 肩から落ちた羽織を肩にかけ直して妙は言う。みかんは、白い筋まで綺麗に剥かれていた。銀時が  
その白い筋を嫌うことから、気を使ってくれたのだろう。そんな妙の優しさが、銀時の心を温かい  
ものにしていた。  
 ふいに、銀時が立ち上がる。厠にでも行くのだろうか。妙がそんな銀時を見上げると、銀時は  
妙の背中に回って、こたつに潜り込んできた。そして、ぎゅっと抱きしめられる。  
 
 「あら、急にどうしちゃったの? みかんならもう剥いたわよ」  
 みかんを一房、銀時に差し出して妙は言う。後ろから拘束されてしまい、自由に身動きすることが  
できない。それでも、妙は怒らなかった。銀時のことを好いているから。  
 妙が差し出したみかんを、銀時はそのまま口に運んだ。ついでに、妙の指に伝ったみかんの果汁を  
舌で掬い取る。そのまま妙の指を咥えこんで強く吸ってやると、妙は頬を朱に染めて睨んでくる。  
 「銀さん、何をするつもり?」  
 「何って……みかん食べただけじゃねぇか」  
 「それじゃあ、そんなに指を舐めなくたっていいじゃない」  
 溜息をついて、妙が銀時を引き離そうとすると、銀時は妙の顎をつかんでキスを仕掛けた。  
 唇を割られて、舌が口内に侵入してくる。口の中を蹂躙されて、舌を絡め取られる。逃げようを  
する舌に吸い付いて、妙の唾液までをも飲み込む。すると、どちらとも付かない唾液が、銀糸の  
ように妙の顎を伝った。  
 「ちょっとは雰囲気ってモンを読んでくれよ。黙ってれば可愛いんだからさァ」  
 「……黙って、は余計よ」  
 二度目のキスを仕掛けたが、今度は妙は何も言わずにそれを受け入れた。口の中に、甘酸っぱい  
風味が広がる。唇を離すと、妙は恨めしそうに銀時を見た。  
 「甘酸っぱいわ」  
 「初めてのキスは甘酸っぱいってか?」  
 「初めてじゃないでしょ」  
 そんな言葉を交わしつつ、銀時はもう一度妙を抱きしめる。そして耳元で囁いた。  
 「こうすれば、上半身もあったかいだろ」  
 
 耳元に唇を寄せつつ、羽織を取り払い、妙の浴衣の襟が肩を落ちる。曝け出された首筋にキスを  
落とし、赤い花弁を散らしていく。鎖骨の上に指をなぞらせ、帯を解く。露わになった乳房を  
両手でもみ込み、乳輪を焦らすように愛撫して、ぷっくりと膨らんだ乳首に触れた。  
 「……っ」  
 そのくすぐったさに、妙が身体を捩った。それを良い事に銀時は指の腹でその乳首を捏ね、挟んで  
少しひっぱってみる。すると妙はびくりと肩を震わせた。うなじに舌を這わせながら、銀時は  
妙の乳首に爪を立てる。  
 電撃が迸るような鋭い感覚が妙を襲い、妙は思わず甘い声をあげた。  
 「ひぁ……っ!」  
 鋭い痛覚のあとに、今度は慰めるように優しくなでられて、妙の下肢がじくじくと疼き始める。  
 それでも尚、銀時は胸への愛撫を続けた。妙の身体を回転させて向かい合う形となり、その胸に  
顔をうずめた。銀時のふわふわとした銀髪が肌を刺激してくすぐったい。  
 胸を揉まれながら、赤く、ふっくらと立ち上がった乳首を舌で弄ばれて妙は小さく喘いだ。  
 「ん……ふぅ……っや、」  
 銀時の愛撫に感じてしまっている自分が恥ずかしくなってかぶりを振ると、銀時が愛撫していた  
胸の突起に歯を立てる。ちりり、と焼きつくような痛みが走り、妙は浮付いた声を上げた。  
 「ッあぁ……! な……に……っ」  
 妙が抗議の声を上げる間もなく、銀時は妙の乳首に吸い付いた。強く吸い上げ、その先端を舌先で  
抉るようにして愛撫する。それだけでも強烈な快楽が妙を蝕み、下半身の疼きが色濃く現われ  
始める。  
 もぞもぞと腰を動かし、妙はその快感から逃れようとするが、銀時はそれを逃さなかった。  
 妙の腰をつかみ、膝立ちにさせると妙の下着を膝まで下ろし、そこをまじまじと見つめる。そこは  
見ただけでも快楽に濡れており、妙の内股を、愛液が滴っていた。  
 「弄ってないのにこんなに濡れるなんざ、どこの誰に仕込まれたんだァ?」  
 「そ……れは、銀さん……でしょう……っ? あ、やぁ……っ」  
 「嫌なのに感じてるのは誰だ? 最近お前に触ってなかったからな」  
 妙のわき腹をなぞりながら、銀時は意地の悪い口調で言った。ここで殴りたい衝動に駆られた妙  
だったが、次々と襲い来る快楽にそれもままらならくなっていた。  
 
 銀時はそのまま指先を下肢に移動させて、妙の茂みに触れる。愛液に湿ったそこを掻き分けて  
秘所にたどり着くと、ぬめりと帯びた溝の部分を二本の指で擦りあげる。それだけでもくちゅりと  
淫らな音を立てるそこに、銀時は指をもぐらせるとぷっくりと膨れた肉芽を突く。  
 「あっやぁ……っは、あ、あっ」  
 そこに指を触れた途端、妙が甲高い声で喘ぎ始める。クリトリスを丹念に愛撫されて、妙の秘所  
からは止め処なく愛液が滴ってくる。  
 銀時がクリトリスを引っかいたり、摘んだりする度に、妙はびくびくと身体を撓らせて、その  
淫楽に溺れていく。そんな淫靡な妙に、銀時の瞳が劣情の色に揺らめいた。  
 割れた襞に指を忍ばせ、暴かれた膣口に指を差し込む。するとちりつくような、圧迫されるような  
異物感が妙を襲い、その指を排除しようとする。  
 「力抜いてくれねぇと解せねぇじゃねぇか。後で痛い思いしたくないだろ?」  
 すっかり体温を無くしてしまった妙の指先に口付けながら、銀時はゆっくりと膣内に指を押し込んで  
いった。もうすでに愛液で濡れそぼっていた膣口は、拙いながらも銀時の指を受け入れていく。  
 膣内は熱く蕩けるようで、内壁はひくひくと蠢き、銀時の指に纏わりつく。そして奥へ奥へと  
誘うように妙の腰が動いた。銀時はもう一本指を差し込むと、妙の膣内を解きほぐすように二本の  
指を自由自在に動かした。  
 「は……っはぁ……、あっ銀さ……んっふ、ん……」  
 ある程度解きほぐして、銀時は妙の膣内から指を抜き去った。すると、名残惜しげに愛液が糸を  
引き、銀時の指先を繋ぎとめる。その指を妙に見せるようにして、妙の唇に塗りつけてやった。  
 「ほら、お前俺に弄られてこんなになってるぜェ? そんなに気持ちよかったか?」  
 「そんなこと……っ」  
 無い、と続けて口にしようとしたが、それは言葉にならなかった。  
 
 突然内蔵を貫かれるような感覚。異物感、圧迫感。――銀時が妙の膣口を貫いていた。  
 一気に挿入されて、妙が息をつめる。ひゅ、と喉が鳴り、妙が甲高い声をあげる。  
 「……っや、あっあああぁ……っあ――……」  
 急に押し入ってきた銀時の性器を押し出すように膣が蠢く。内部の襞が銀時の性器を締め付け、  
圧迫する。銀時は額に滲む汗をそのままに、ゆっくりと律動を開始した。  
 内部を摩擦される感覚に、妙は苦しさも忘れて、思わず喘いだ。最奥を何度も貫かれる感覚に、  
始めは苦しかった圧迫感も徐々に薄れ、やがて快楽に変わっていく。  
 「あっはぁ……あ、ひぁっダメ……だめぇ……!」  
 だんだんと昂ぶりを見せる妙に、銀時の注挿もだんだんと激しさを増していく。そそり立った  
雄雄しい、凶器とも言える男の性器が華奢な妙の身体を貫いているのかと思うと、銀時の性器が再び  
硬度を増す。  
 「そろそろ出すぞ……」  
 劣情に煽られた声は低く掠れていた。銀時が一際深く貫くと、妙は弓のように身体を仰け反らせて  
達した。それと同時に銀時も、自身の熱い飛翔を迸らせて妙の中に射精した。  
 「ひっあ……あああぁぁアッ―――……っ」  
 どくどくと膣内からあふれ出てくる精液をそのままに、妙はぐったりと銀時の身体にその身を  
預けた。行為の最中、ずっと背中に爪を立てていた指はすっかり色を無くしてしまっていた。  
 妙からゆっくりと萎えたそれを取り出し、銀時は手早く後始末をすると、妙をその腕に抱いたまま  
眠りについてしまった。  
 
 
 少し開いたままだった障子から朝のすがすがしい光が差し込み、妙は目を覚ました。  
 肩が少し冷える、そう思いながら倦怠感の残る身体を持ち上げると、その傍らには銀時がいた。  
 昨夜の行為の後、そのまま眠ってしまっていたようだ。  
 
 
 そこらに散らばっていた浴衣を羽織って軽く身支度を整えると、妙は立ち上がって障子を開く。  
するとそこには辺り一面雪が積もっていた。  
 「通りで寒いと思ったわ」  
 吐く息も白く濁り、冬の朝独特の澄んだ空気が鼻を突く。妙は未だ眠りこけている銀時を起こすと  
散らばった服をまとめて銀時に渡す。寝起きの悪い銀時を急かして着替えさせると、手招きして  
縁側に誘った。  
 「見て、銀さん。雪が積もってるわ」  
 「……江戸に積もるなんざめずらしいな」  
 鼻水をすすりながら銀時が独り言のように呟くと、横にいた妙が銀時に丁寧な包装をされた小箱を  
差し出す。  
 「銀さんにあげるわ。少し遅くなってしまったけど、バレンタインのチョコレートよ」  
 「マジでか、超嬉しいんだけど。ありがとうな」  
 「ホワイトデーに期待してるわ」  
 そう言った妙の頬に、銀時は軽くキスをして玄関へと向かう。早く帰らないと、新八にも  
迷惑がかかってしまうだろうと思ったからだ。神楽もきっと銀時の帰りを待っているだろう。  
 「じゃあ、俺はそろそろ帰るわ。家に帰ってゆっくり食べるから」  
 「えぇ、それじゃあ気をつけて」  
 妙に背を向けながら手を振った銀時が玄関を出て行く。銀時を見送った妙は、もう片方の手に  
忍ばせておいたチョコレートを取り出した。  
 形の崩れたチョコレート。それは妙が作ったものだった。  
 
 銀さんに私の作ったチョコレートなんて食べさせたら、きっとお腹を壊しちゃうわ。  
 
 少し悲しげに微笑んで、妙は再びそのチョコレートをしまいこんだ。  
 銀時に渡したのは新八の作ったチョコレート。自分で作ったチョコレートを渡すのは、もう少し  
後になってからのこと。  
 妙はゆっくりと台所に向かった。  
 
 
 
 
 END  
 
 

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