その日、かぶき町は記録的な猛暑に見舞われた。
強烈な太陽光線に加えてターミナルの壁面からの反射光が降りそそぐ。
昼間は比較的人通りの少ないかぶき町だが、今日は特に静かだった。
アスファルトからの熱気が揺らぐ通りを1台のパトカーが走っていく。
運転しているのは新鮮組副長・土方だった。
副長自らパトロールする事は普段無いのだが、屯所のエアコンが壊れたので
パトカーで涼むつもりで運転していたのだった。
「ん?」
土方が前方に目を凝らす。
強烈な日差しに目を細めて通りを見ると、見知った後姿を確認した。
万事屋のとこのチャイナ娘だ。
そのまま車を進め、神楽のすぐ横までつける。
駄菓子屋からの帰りらしく、神楽は酢昆布を齧っていた。
(このクソ暑いのに酢昆布齧るかコイツは)
口がカラッカラに乾くんじゃねーの?などと思いながら土方はそのまま
通り過ぎようとした。しかし神楽の様子がおかしい。
フラフラとおぼつかない足取りで歩いている。
土方は神楽の顔を見て驚いた。
普段は透き通るような肌だがその顔は真っ赤で目も虚ろだ。
(熱中症か)
夜兎族は太陽に弱い。いくら日傘を差してるとはいえ、今日はキツイだろう。
土方はウィンドウを開け、声をかけた。
「おい、チャイナ娘」
神楽が横を見る。
「なんだ・・・土方アルか・・・」
その声には全く覇気が感じられない。
「大丈夫かよ?」
「フン。大丈夫ヨ。心配アルないね」
心配アルナイネ。――ナイのかアルのかどっちだよ?などと土方が思っていると
神楽はその場に座り込んでしまった。土方も慌てて車を停める。
「オイオイ、全然大丈夫じゃねーだろ」
神楽は荒い息を吐き、もう返事もしない。
警察としてはここは保護するしか仕方ない。
土方は嘆息すると車から降り、神楽に近づく。
「よッ・・・と」
動けない神楽を抱えあげる。その軽さ・細さに土方は驚く。
ひとたび暴れ出すと軍隊でも止める事が出来ないそのパワー、凶暴さを
この体のどこに隠してあるのか。今はとても感じない。華奢な女の子であった。
(アイツはこれを自由にしてんのか?)
ふと土方は銀髪天パ野郎を思い出した。
この娘はアイツにずいぶん懐いている。奴も満更じゃないだろう。だとすれば――――・・・
つい妄想が膨らみかけて土方は我に返った。
(イカンイカン。何考えてんだ?俺は)
ともかく土方は神楽を助手席に座らせた。
背もたれを倒し、楽な姿勢にしてやる。
クーラーの効いた涼しい車内で、神楽は幾分表情が和らいだ。
襟元をくつろげてやる。これで少しは楽になるだろう。
「大丈夫か?」
運転席に戻った土方は神楽に声をかける。
「ン・・・」
小さく返事をする神楽。
(こんなクソ暑い日に外を歩かすとはあのヤロー保護者としての自覚が足りねーんじゃねーか?)
そんなことを土方は神楽を眺めながら思った。
「土方・・・」
「なんだ?」
「・・・・・アリガト」
弱々しい笑みを浮かべ、小さな声で神楽が言う。
土方はその様子にクラっときた。
(オイオイ、マジかよ、こんな小娘に・・・)
よく見るとこのシチュエーション。
紅く上気した肌、胸元までくつろげられた着衣、車内で二人きり。
(ヤベ・・・俺はロリコンじゃねっての)
そう思いながらもしっかり勃起している新鮮組副長・土方十四郎であった。
土方は無意識の内に神楽の胸元に口づけた。
「ン・・・」
神楽が小さく声を漏らす。意識が朦朧としているのか、抵抗する様子はない。
土方はそのまま首筋の汗を舐め上げた。そしてうなじに鼻を埋める。
汗混じりの甘い匂いがした。
手が神楽の胸元に忍び込もうとする。
その時、車の窓をコンコン、と叩く音がした。
ハッとなって土方は顔を上げた。最悪の相手が最悪の表情でコチラを見ていた。
黙って車から降りる土方。
「アラアラ多串君はロリコンだったってか?」
その男、銀時が顔中にニタニタ笑い顔を浮かべながらそう言った。
舌打ちをしながら土方は煙草に火を点ける。
「ロリコンじゃありませんー。テメーとは違いますぅ」
「余裕だな、ええオイ。他の奴に言いふらしてもいいんだぜ?あの新鮮組副長が白昼堂々と・・・」
「してませんー。介抱してただけですぅ」
「うそつけコノヤロー。しかしオメーも好きモノだな。こんな小娘に・・・」
「オメーもコイツを自分の好きにしてんだろ」
土方はつい言ってから後悔した。
銀時がそれこそ鬼の首を獲ったような顔で土方に迫る。
「アラ?アララ?やっぱりそーなの?え?多串くんよ?」
「・・・・・・・」
土方がソッポを向くと銀時が言った。
「いーんだぜ?オメ―も好きにして」
その声に振り返る。
銀時は車内の神楽を見ながら続けた。
「コイツは俺の言いなりだからな、俺が言えばオメーの命令に従うさ」
思わず唾を飲み込む土方。
「ん?どうするよ?」
「俺は・・・・」
土方が言おうとした瞬間。
「あら?銀サン?土方さん?」
二人に女の声がかかる。車を挟んで反対側に妙がいた。
「どうしたんですか?二人して。アラ?」
妙が車内を覗く。
依然、神楽はあられもない格好でグッタリしている。こんな所を見られれば・・・・
「ゲッ!いやこれはだな・・・」
「そうそうこれは警察としての・・・」
慌てて弁解する二人。
しかし妙は黙って二人に近づき、ニッコリと満面の笑みを浮かべた。
「あの・・・・」
「お妙?いや妙さん?」
次の瞬間、かぶき町の気温は二℃ほど上がり、二人は真昼の星になった。