夕陽がかぶき町を紅く染め上げる。
日暮れを迎え夜が近づくにつれ、この街はよみがえる。
人通りは絶えない。夜の街に生きる人間の息遣いが溢れている。
そんな中を歩いて行く男女がいた。
歳はまだ若い。子供でもない、大人でもない、中途半端な年頃。
しかし誰も声はかけない。無関心だからではなく、その男女が何者か皆知っているからだ。
男は新鮮組一番隊隊長、沖田総悟。
女は、神楽だった。
この泣く子も黙る破壊神を前に誰が声をかけられようか。いや、いない。(反語)
普段は犬猿の仲のように見られる二人だがそんな雰囲気は感じられなかった。
いつもの駄菓子屋の帰り道。
「あのよ・・・」
ポツリと総悟が呟く。
「何アル?」
酢昆布を齧りながら神楽は総悟を見る。
「手ぇ・・・つないでもイイかィ?」
総悟は前を向いたままだ。
「イイアルよ」
あっさりと神楽は言う。
そうして二人は手を繋いで歩いて行った。
神楽は相変わらず酢昆布を齧っている。特に照れた様子も無い。
総悟はそんな神楽をチラチラ見ながら嘆息した。
「どうしたアル?総悟?鼻クソでもついてるカ?」
「いやァ・・・何でも無ィ」
二人きりの時はいつしかお互いを名前で呼び合っていた。
総悟は迷っていた。
言うべきか、言わざるべきか・・・。
しかしこの想いは伝えなければならない。
なぜなら敵がいるからだ。そう、あの死んだ魚のような目のした銀色の天然パーマ野郎だ。
普段は奴を慕っていると言ってもいい総悟だったが神楽の事となれば話は別だ。
しかしそれは向こうも分かっているだろう。
神楽を自分のモノにするには――――――
「神楽・・・あのよ・・・」
「?」
総悟は立ち止った。
神楽はそんな総悟を不思議そうに見ている。
「どうしたカ?」
神楽が上目遣いに総悟を覗き込んでくる。
総悟はそんな神楽にドギマギしたいた。
大きな瞳。そして、小さく、可憐でそれでいて綺麗なその唇。
神楽の唇にそっと触れる。少し顔を上げさせ、それで―――――・・・
「神楽?」
不意に二人に声がかかる。
その声を聞いた瞬間、総悟と神楽の表情は対照的だった。
「銀ちゃん!」
神楽が顔を輝かせてジャンプを買いに行った帰りであろう銀時に駆け寄る。
そんな神楽を総悟は見送るしかなかった。
神楽は子犬のように銀時に跳びつく。
神楽の頭を撫でてやりながら銀時は総悟から目を離さない。
数瞬、にらみ合った後、銀時はニタリと笑った。
そして荒々しく神楽を抱きすくめ、唇を塞いだ。
「んッ・・・銀ちゃ・・・んんッ・・・んくッ・・」
舌を絡ませ、唾液を嚥下していく。
突然の事に神楽はなされるがままだ。
(あのヤロー・・・)
総悟は青筋をたててその光景を見ていた。
銀時は神楽の細い体を抱き締めている。
そして僅かに顔をずらす。
総悟と銀時の目が合った。
総悟はその瞬間分かった。アイツは敵だ。奴の目が言っている。
オメーになんざァやらねーよ 、と。
「こンの・・・・エロオヤジ!!」
そう言い捨てると総悟は走り去った。
神楽の口と舌を思う存分味わった銀時はようやく神楽を離した。
「ん・・・銀ちゃん・・どうして?」
神楽が赤い顔で銀時を見る。
しかし銀時は笑いを堪えるように肩を震わせて総悟の後姿を見ていた。
(エロオヤジたァな・・・)
今回は銀時の貫禄勝ちであった。