「先生が大人の味を教えてやるよ…」
あれから、何回あの男に抱かれただろう…ただ、不特定多数の男と関係していた事をバラされたくなかった。少なくとも最初は。
「…ぐらちゃん、神楽ちゃん!」「あ…ごめんネ、ちょとボーッとしてたヨ」
隣の席の妙に呼ばれているのにも気づかなかった。
「どうしたの?最近少しヘンよ。何かあったの?」
指摘され一瞬びくつく。
「な、何にもナイヨ」
動悸が…早まる。
知られてはならない。絶対に。
ガラガラと扉を開ける音のほうに目を向ける。
「はいはーい、じゃあ帰りの会はじめっぞー」
教室に入って来た男はひどく淀んだ目をしていた。
バンっと教壇の机を叩く。
「明日は避難訓練あるからな。皆全力で走れよー。」
「先生!避難訓練は走らない、騒がない、慌てないが基本です!」前の席の優等生が反論する。
「バカヤロー、命の駆け引きの訓練に3ない運動もクソもあるかぁ。」
その時、目が合った気がした。
慌てて視線を反らし、下を向く。「…神楽ぁ」
「!は、はい!」
「お前日直だったな、ちゃんと日誌出してけよー、じゃ解散ー」
その言葉と同時にクラスメイト達が一斉に席を立つ。
「神楽ちゃんバイバイ」
「バイバイ」
真っ直ぐに家に帰宅する者、バイトに向かう者それから…
「神楽ァ」
「あ、沖田…」
「俺、部活あるけどどうしやす」
「待っててヨロシ?いつものトコで。」「はいよ」
「おい、沖田!部活行くぞ!」
「へーい、ったく土方さんはせっかちでいけねぇ。」
「ふふっそうネ」
「だからいつまでたっても彼女ができねぇんでさァ」
「アハハ、言い過ぎヨ〜」
くすくすと笑い合う。
「じゃあネ。」
そう言って手を降って送り出す。
いつの間にか教室には自分しか居なかった。
「さて、早く切り上げるヨ」
日直の仕事をさっさとこなすと、担任のいる化学準備室に向かう。心なしか足取りは重い。
「今日こそ…言わなくちゃ…」
うわ言のように呟く。
階段を登る足が鉄のように重く感じられる。
そうこうしているうちに目の前には準備室の扉があった。
「先生…私です」
「おう、入れや」
返事をすることなく中に入る。
慣れたことのように。
「日誌です」
視線を下にそらしたまま渡す。
「…おう」
「それじゃ、さよなら先生」
「待てよ」
振り向き様に腕を捕まれる。
やっぱりダメかもしれない。
「最近ちょっと先生に対して冷たいんじゃないの?いけないなぁ〜」
「…何が先生ヨ」
思わず声に出してしまった。
どっと冷汗が出る。
(言わなきゃ、ちゃんと言わなきゃ。)
「先生…」
「あ?」
「…もういいでしょ…?」
震える声で懇願する。
「私、先生の言う通りにしてきたたヨ。」
あの日以来、ずっと言いなりになってきた。
「だからもう許してヨ…」
うつ向いた顔から雫が落ちる。
「…お前、沖田と付き合ってるんだってなぁ。」
「!なんで知って…!?」
「…良かったなぁ」
その言葉に驚いて顔を上げる
「じゃ、じゃあもう許して…」
「でも」
明るくなりかけた顔が引きつる。
「俺はお前のこと手放す気ないから」
男はひどくニヤついた顔で言い放つ。
(え…?)
「ずぅっと…俺の傍に居ろよ」
慣れた手付きで抱きよせると、耳元でそう囁く。
(何それ…意味わかんないヨ)
「じゃ、今日もせいぜい楽しませてくれよな」
(沖田ぁ…)
「…何やってんだよ、いつものとうり早くしろ」
(ごめん…沖田)
「そうそうさっさと脱いで、」
(ごめんネ…)
「さっさと入れろ。」
この男から、逃れたいのに。
やっぱりダメかもしれない。