「校内での色恋沙汰は御法度だ、ってことくらいは知ってるよねェ?」
否定することは許さない、といったニュアンスを含みつつ呟いた
放課後教室に残らせた理由はそれか と理解した
思い当たる節はあるが、それを公にしたことは無い
それを言うなら、自分以外の者のほうがよっぽど、咎められるほど堂々と恋愛をしてるように感じる
吐き掛けた溜め息を飲み込む 面倒だが、ここで色々咎められることも面倒だ
「…別に、そんな校則があるわけでもないアル」
「へぇ、否定しないってことは認めちゃうの?生徒が不純なこととかしてるのとか嫌なんだよね〜先生悲しいな〜。」
一瞬、言葉に詰まる ここは否定しておくべきだったのだろうか、と思った
しかし何か言い返してもどうせ何らかの方法で言い包められるのだろう
教師相手とはそういうものなんだ 単純な話、口喧嘩等をしても絶対勝てないのだろう
恋愛、と呼べるようなものなのだろうか と、ふと思う
沖田や、それ以外の男に抱かれたことは多々あった
色恋沙汰が御法度だというのなら自分は咎められるようなことなどしていない 恋愛などしていない
不純なこと と、一纏めにされてしまえばそれまでなのだが
ただ、今真っ先に沖田の名前が脳内に浮かんだということは、少なくとも───…
「…──なァ、聞いてんの?」
ビク、と、わずかに肩が跳ねたのが自分でも分かった
すぐ目の前にまで顔を近付けられていることに気付き反射的に後ろに退いたが状況が悪かった
ガタッと、自分の後ろにあった机が音を立てた
そんなビビんなよ、と呟き、口元だけで笑顔を作ったのが見えた
頬の方に触れようとしてきたのが分かり状態を退く
「…触るなアル」
「教師に向かってそういう態度は良くないよ?」
何が教師だ、と、心の中だけで呟く
自分なら、こんな男くらい一発殴ればそれだけで逃げることが出来るはずだ
なのに、体がすくんで動かない
「なァ…さっき俺が言ってた話、ちゃんと聞いてた…?」
聞けと言われても聞くものか、と思いつつも、耳は勝手にそれらの言葉を吸い込んでいく
「そこらのガキなんかに体開くくらいならさ…」
最後の抵抗として発しようとした言葉も、声に出すことが出来なかった
「先生が大人の味教えてやるよ、って言ったんだよ。」
沖田のことが脳裏をかすめたのは、何故だろうか。