「土方さん、行っきやすぜー!」
今日が日曜日ならば、プリキュアが変身した頃。
けれど生憎平日なので、3年Z組の生徒は、体育の授業中。
「掛かって来いや!総悟!」
春の日差しが暖かく校庭を照らしつつも、まだ横風は少し冷たい。
その校庭の真ん中で、ジャージを膝まで括り上げている少年、
沖田がグローブに手を当てて、タンッと砂を蹴り、状態を捻った。
その直線状の向こうで、バットを構える土方が、グリップをきゅっと強く握り沖田の腕を睨んで集中する。
ほんの少し間を空けてから、沖田の状態が一気に変わった。
春の横風を切って、彼の手から軟球が放たれる。
反射的に、その球を打とうと土方が左足をあげようとした時だった。
…明らかに、球の軌道がおかしい――瞬時にそう悟った彼が、自分に向かってくる、
これが硬球だったら甲子園を狙えるんじゃないかって程の豪速球を、間一髪のところで避ける。
「あーあー何避けてるんですかィ!ちゃんと打たなきゃ駄目じゃないでさァ!たっく土方さんは運動音痴だなァ」
「運動音痴はテメーだろうがァアァアア!!!どこ見て投げてんだよ!!軟球意外と痛いんだから!マジやめて!」
「俺は運痴じゃねえ。ワザとに決まってるじゃないですかィ!」
やっぱワザとかアァアァアア!!つーかその略し方ヤメロォオオォ!!
と叫んで金属バットを地面に投げつけた土方の横で、捕手をしていた桂がフゥと溜息をついた。
「沖田、狙っての死球はスポーツマン失格だぞ。土方、お前もいくら相手が死球を狙ってきたとは言え、バットを投げる事も無かろう」
真面目腐った桂の言葉に、沖田の胸倉に掴みかかっていた土方が白ける。
叫ぼうとしていた胸が一瞬詰まり、それを一気に吐き出すように溜息を目の前の沖田にかけた。
タバコ臭っ!と沖田が顔を顰める。その様子を眺めていた体育教師である近藤が、ガハハと笑った。
「元気だなァお前等!よし、総悟、俺にもちょいと球を投げてくれ!」
「…本気ですか先生…こいつがマトモに投げると思います?」
桂の前に落ちていた金属バットを近藤先生が拾う。
半場無謀な申し出に、額に手を当てて呆れながら土方が止めさせようと試みた。
「なぁに、どんな球でも打ってやるさ!お妙せんせえぇえぇぇ!!俺のカッコイイ所、見てて下さいねー!!!」
近藤先生は、保健室のほうへ振り返ると、美人だけど素性はゴリラ…いや、間違えた、
剣道の腕では並大抵の男では敵わない、保健室のお妙先生に向かって叫んだ。
名前を叫ばれたお妙先生が、ちらっとこちらを一瞬見やると、おもむろに席を立ってカーテンを閉めてしまう。
「お、お妙先生…」
途端に、近藤先生は元気を無くしてしまった。その様子があまりにも哀れで、桂と土方が哀愁の目を先生に向ける。
沖田はそんなのお構いなしに、退屈そうにトントンと靴のつま先を地面で成らすと、ぽきぽきと首の骨を鳴らした。
「で?やるんですかィ?やらないんですかィ?」
落ち込んでいた近藤先生が、すっと顔を上げる。
「男たるもの一度勝負を挑んだら引かん!!多分お妙先生も、俺のカッコイイ姿を直で見るのが恥ずかしくてカーテン閉めたんだよ!実はきっと隙間から覗いてるんだよ!!…多分」
金属バットを沖田に向けてさっきまでの落ち込みは何処へやら、元気良く先生が叫んだ。
おまけに、先ほどのお妙先生の行動を、勝手に自分の良いように自己解釈している。
「そうですかィ。そんならヅラ、今一度ミットを構えてくれねーかィ」
「ヅラじゃない。桂だ」
成らすように肩を回す沖田に注意を入れながら、未だに一度も沖田の球を捕球出来た事のないミットを桂が構えた。
それに従って、沖田が状態を低くして集中する。
「流石総悟…凄まじい緊張感だな」
先生はバットを構えると、勝負を前に興奮してきたのか、男らしい笑みをして、
沖田から発せられるプレッシャーに身体を緊張させた。土方は、仕方なしに沖田から少し離れて、それを見守る。
「近藤先生、行っきやすぜー!」
そう叫んでから、タンッと砂を蹴って、先ほどと同じく、球を握った手を構えて状態を捻る。
先生は、汗でグリップが滑らないように、ぎゅっとグリップを強く握った。
「いっけぇー!超・沖田カーブ!!」
今時聞かないような、使い古されたネーミングと共に、
物理上有り得ない程の大きな弧を描いて、沖田から放たれた球が風を切る。
――ドゴン!!
「ギャァアァアァアァアア!!!」
「先生!!」
大きな弧を描いた球は、そのまま先生の尾骨にヒットした。あまりの痛さに、涙目で腰を突き出して校庭に這いつくばる。
「てめぇぇええ!!先生にまで何さらしてんじゃボケェエエ!!皆に影でゴリラって呼ばれてるけど一応先生なんだぞ!!ゴリラだけど!」
「うるせーなァ。そんなに先生が好きなら結婚すりゃいいじゃないですかィ!あ、ゴリラとじゃ結婚できねぇか」
再び掴みかかってきた土方にガクガクと揺さぶられながら、沖田が鬱陶しそうにあしらう。
口喧嘩しはじめた二人を尻目に、悶絶していた近藤先生がヒリヒリと痛む尻を抑えながらやっとの事で起き上がった。
「…総悟」
「あ、先生。どうです?尻毛薄くなりやした?」
「オメーそのためにわざわざケツに当てたのかよ!!」
狙って先生の尻に当てたのなら、それは凄い。
だが、いたずら心で無駄に抜群のコントロールを発揮するよりも、頼むから普通に投げてくれと土方が切に願った。
「総悟…俺が尻毛が濃い事で悩んでいるのを知って…」
「んな訳ねーだろ!!」
明らかに言い訳臭い沖田の言葉を、純粋な先生は真に受ける。
そんな先生に対してツバも飛ばんばかりに土方が沖田の言葉を否定した。
「先生の仰るとおりでさァ。俺ァ恥ずかしがり屋さんだから。これが俺なりの優しさと気遣いってわけですよ」
「嘘つけぇぇえぇえ!!!お前のどこが恥ずかしがり屋さんでどこに優しさがあるんだよ!!寧ろもっと恥じらいと優しさをを持って欲しいぐらいだよ!!」
「嘘言っちゃいけやせん!沖田総悟の半分は優しさで出来てますぜ!」
「テメーはバファリンかァアァアァ!!!」
「そうだったのか…総悟、お前の優しさ、しかと俺の尻が受け取ったぞ!だがな一つ言わせて貰えば、勝負の時は普通、直球勝負だ。次から気を付けろよ」
「直球とかそういう問題以前だと思うんですが」
「わかりやした、先生。次からはタマキン狙いで行けばいいんですね!」
「「わかってねーじゃねえかァアァア!!!」」
同性とは思えないほど残酷な言葉を吐く沖田に、土方と近藤先生が同時に叫んだ。
桂は先ほどからその様子を、飽きれたように見ている。
暫くしてから、桂が先生のほうへと歩み寄ってきた。
「先生、さっきから気になってたんですが、注意しないんですか?」
そう言ってから、校庭の隅の方を指す。桂が指差した方を、先生と、沖田と、土方が見た。
――…「フンッ!フンッ!!」
気合マンマンにミントンラケットを素振りしている山崎を見て、先生は溜息をつき、
沖田は特に表情を変えず、土方は額に青筋を立てた。
反射的に、土方の足が動く。
「てめぇえぇえ山崎イィィ!!今は野球の授業なんだよォオオォオ!!ラケットじゃなくてバット振るえやァアァアァア!!!」
凄い形相で自分に突進してくる土方から、ギャァアァアと悲鳴を上げて山崎が逃げる。
追いかけっこを始めてしまった二人を見て、近藤先生が苦笑いをした。
「あーあー山崎可哀想になァ。ご愁傷様」
先生の隣で、沖田がさも可哀想にと言う風に、山崎を哀愁の目で見る。
追いつかれた山崎が、土方にマウントポジションを取られた所でチャイムが鳴った。
「まあ、そんな感じだったなァ今日の体育は」
「ふーん」
日が傾き、校内はすっかり静まり返った放課後、沖田が授業中寝ていて貰い逃した資料を取りに、人気の無い雑務室に二人はいた。
教室の半分もない狭い部屋でごそごそと棚を漁る彼の後ろに、つまらなさそうに神楽が床にあぐらをかいている。
「いいなぁ、私も体育出たいアル。毎日曇りだったらいいのに」
どこか悲しげに、神楽が呟いた。沖田の棚を漁る手が一瞬止まって、そのまままた動き出す。
日に弱い神楽は、雨のときの体育館か、曇りの時にしか体育の授業に出られなかった。
身体を動かす事が大好きな神楽にとって、それが結構辛い。
それを可哀想に思い、神楽が体育に出られなかった日は、いつもこうして沖田がその日の体育の状況を話すのだ。
神楽は、沖田の話をいつも興味無さそうに聞いているが、やはり内心では結構嬉しい。
それに気付いているのかいないのか、やたらと熱心に沖田はいつも神楽を気遣い、話していた。
「ネーネー帰る前に勝負しよーよ、勝負。私も野球したいアル!」
沖田の予想通り、神楽が勝負を吹っかけてくる。彼は棚を漁る手を止めずに、そのまま口を開いた。
「神楽ちゃんとだったら野球より、野球拳がいいなァ」
聞いたことのない単語に、神楽が目をぱちくりさせる。
「ハ?ヤキュウケン?何ソレ、野球アルか?肉弾戦?」
沖田は資料を漁っている手を止めると、興味深々に尋ねてくる神楽の方へ向き直った。
振り返った顔が、お約束の『いやらしい顔』で、神楽が少し怪訝そうな顔をする。
「まぁまぁ、まだ何も言ってないじゃないですかィ。野球拳ってのは――…」
「言うな。どーせロクでもない事ナンダロこのヨゴレが!」
沖田の言葉を、神楽が遮る。先手を取られて、あえなく彼が口をつぐんだ。
だが、黙ったら黙ったで二人共沈黙してしまい、懲りずに沖田が口を開く。
「人の話は最後までお聞きなせえって。いいですかィ?野球拳ってのはなァ」
「…」
喋り出した沖田を、黙ったまま神楽が見据えた。今度は遮られないなと思い、そのまま沖田が続ける。
「じゃんけんして、負けた方が服を脱いでいく遊びなんでさァ」
「んな馬鹿な遊びある訳ネーダロ」
間髪居れずに神楽が反論した。まぁ、知らない人に話した所で通じるような内容じゃあないわな、と沖田が思う。
それに、神楽の話を聞く限り、どうやら母国は性の事に関しては、結構厳しいらしい。
元々嘘が多いい沖田の発言を、神楽は勿論周りの誰もあまり信用してないし、それではますます信じない事だろう。
「それが本当にあるんだなァ。そんなに疑うんなら周りに聞いてみればいいじゃないですかィ」
「たとえマジだとしても私はヤラネーヨ」
神楽の言葉に、チッと沖田が舌打ちをした。
暫く沈黙が続いてから、また、沖田がその沈黙を破る。
「…コシヒカリ3キロ」
「秋田小町5キロ」
流石は庶民派神楽、間髪入れずにコシヒカリよりも秋田小町をチョイス。
少し沖田は考えてから、『わかった』と返事した。
「ただし、神楽ちゃんが勝ったらなァ」
「じゃぁやらない」
おいおいおい、と沖田が珍しく顔を歪める。
「…今なら梅干10粒入りをセットで」
「やる!」
土方さんも扱いやすい人だが、神楽ちゃんも神楽ちゃんで扱いやすいなァ…と沖田が心の中で思った。
さっきまで不機嫌そうにしていた彼女は、もう勝つ気マンマンで意気揚揚としている。
とりあえず、扉―はあらかじめ閉めてあったので、窓のカーテンをシャっと閉めて外から見えないようにした。
「えーっと…歌うのめんどくさいなァ…いいや省略で」
「何をぶつぶつと言ってるアル」
「ん?まあ何でもないでさァ。いいかィ神楽ちゃん、『アウト、セーフ、ヨヨイノヨイ!』でじゃんけんだからなァ」
「オゥヨ!任せとけ!」
ばっと二人が、仁王立ちする。その場の雰囲気が、一瞬にして変わった。
戦う前の時のような、ピリピリとした空気が広がる。二人共真剣そのものだ。
「行きやすぜ神楽ちゃん!アウト!セーフ!ヨヨイノヨイ!」
ポン、ポン。
バッと神楽がグーを出してから、ワンテンポ遅れて沖田がパーを出す。
ゴツンッ!
「あだっ」
「後出ししてんじゃねーよカスが」
神楽が出したグーの手で、そのまま沖田は殴られてしまった。
怪力の手で殴られて、ヒリヒリと痛む脳天を沖田が痛そうにさする。
そうしながらも、もしかしてチョキだったら目潰しされてたのかなぁと冷静に沖田が思った。
「でも、負けは負けですぜ神楽ちゃん」
「無効に決まってんだろクソが。そこまでして勝ちてえのかよエロショタが!」
屁理屈を言う沖田を一喝して、神楽がギラリと睨みつける。
睨まれた本人は、つまらなさそうに口を尖らせると『へいへいわかりやしたよ』と返事をした。
「そんじゃぁ気を取り直して、アウト!セーフ!ヨヨイノヨイ!」
神楽がパーを出して、沖田がチョキを出す。
負けた神楽が、チィッと舌打ちをした。それに対して、沖田がにたっと笑う。
「さーさ神楽ちゃん、脱ぎなせえ」
「…シャーネーナ」
負けは負け、それを認めた神楽が、上履きと靴下を脱ぎ始める。
「ちょっと待った!靴下だけは反則ですぜ」
沖田の言葉に、神楽が怪訝そうに顔を顰めた。
「じゃあ、これも」
とりあえず、ビンゾコ眼鏡を取ってからセーラー服のスカーフも取る。
あっても無くても良いような小物過ぎて、沖田が腑に落ちないように眉を寄せた。
それを見た神楽が、仕方なしに自分の頭についている髪飾りに手を伸ばす。
―パサリ
桃色のサラサラな髪が、重力に従って神楽の首筋に落ちた。
前髪を見る限りストレートなのだろうが、結わいていた為に癖がついている。
神楽は、普段でも黙ってさえいれば中々に可愛いのだが…
今は癖のついた髪が、その神楽を一層可愛く引き立てるようにウェーブしていて、思わず沖田が生唾を飲んだ。
『狭い部屋に二人っきり、それも学校』の時点で既にムラムラしていた沖田は、
思いがけない事態に早くも下半身が窮屈そうにしている。
「小物グッズ4点セットと言う事でヨロシ?」
「…わかりやした」
神楽が、小首を傾げながら沖田に問い掛けた。
見惚れていた為に反応が遅れた彼が、はっと我に返って俯く。
「そんじゃあお次行きやすか!アウト!セーフ!ヨヨイノヨイ!」
今度は、神楽がパーを出して、沖田がグーを出した。
負けた沖田が、苦い顔をして、神楽が、フフンと機嫌を取り戻す。
「男が脱いでも誰も喜ばないってのになァ」
文句を言いながら、沖田が学ランを脱ぎ捨てた。
カジュアルで着易い、若者向けメーカーのTシャツの淡い赤が、沖田の幼いながらも良く整った顔に合っている。
「そっち系の人には受けるんじゃネエノ?」
神楽の言葉に、沖田が顔色を変えた。
「冗談も程ほどにしてくだせぇ。俺にはそっちの趣味はありやせん」
少し怒ったように言った沖田の様子に、やっぱモテるのか、と神楽が悟る。
身長は並みながらも、よく言えば美形、悪く言えば女顔、それもかなりの。
オマケに鍛えてはいるものの肉付きがあまり良くなく、線も細いときた。これでは男にモテてしまうのも仕方無いだろう。
思いがけず沖田の弱みを握れて、少しかわいそうだが最終手段として覚えておこう、と神楽が心の中で思った。
「まぁ、気を取り直して次行きやすか。アウト!セーフ!ヨヨイノヨイ!」
神楽がチョキ、沖田もチョキ。
「あいこでホイ!」
あいこを予想していなかった神楽が、慌てて握り拳を出した。
それを予想してか、自信タップリに沖田がパーを出す。
「はーい、さーささーさ脱ぎなせえ〜」
「オメーは宴会で酔っ払ったオヤジか!」
ニタリと笑いながら神楽が脱ぐのを沖田が煽る。
それに皮肉を吐きつけてから、がばっと神楽がセーラー服の上着を脱いだ。
神楽の真っ白い肌が、うさぎのプリントがあるピンクのスポーツブラと共に露になる。
いつもとは違う、解いた髪に、上半身はスポーツブラだけで、下半身は真っ黒い折目つきスカート。
もう駄目かも、と心の中で沖田が思った。
だが、―男たるもの一度勝負を挑んだら引かん!!―との近藤先生の台詞を思い出し、とりあえず勝てばこっちのもんだから落ち着け、と自分の心を抑える。
―勝負の時は普通、直球勝負だ。―
パニックに陥りそうな頭の中に、もうひとつ近藤先生の言葉を思い出す。
直球勝負…
直球…直球……
「ちょっと俺トイレ行ってきやす」
「マテ」
くるりとドアに向かって身を翻した沖田の襟を、神楽がガッシリと掴む。
「大?小?」
「カルピスの方」
恥じらいも無く即答した沖田の後ろ頭を、スパンと神楽が叩いた。
諦めたように振り返った沖田が、またじゃんけんの構えをとる。
「行きやすぜー!アウト!セーフ!ヨヨイノヨイ!」
神楽がチョキ、沖田がグー。
「…」
いよいよ神楽は恥ずかしくなってきたのか、絶句しつつもスカートのチャックを下ろし、パサリとそのまま下ろす。
ふと沖田を見ると、何故か彼もカチャカチャとベルトを外し始めていた。
「オメーは脱がなくていいんだヨ!!」
三度目になるドツキを、彼の頭に入れる。
神楽にどつかれて、チッと舌打ちすると沖田はベルトから手を離した。
まともに神楽を見てみると、スポブラとお揃いの、うさぎパンツが可愛くて頭から理性が吹き飛びそうになる。
「さーそろそろ盛り上がってきやしたー!アウト!セーフ!ヨヨイノヨイ!」
神楽がパー、沖田がグー
此処に来て負けかよ!と沖田が自分の手を見詰めた。
まあ早く進めればいいのか、とそわそわと落ち着かなそうにしている神楽を視界の端に捕らえながら、沖田が思う。
Tシャツにトランクスは、個人的にカッコ悪そうだと思ったので先にTシャツを脱いだ。
初めて見るわけでは無いが、沖田の細いが薄くは無い、少なくともそこら辺の男どもよりは鍛えていると思わさせられる沖田の上半身が露になり、神楽は、自分の体の中が彼を求めて熱くなるのを感じた。
ラストスパートに突入し、着ている服の枚数が少なくなると一緒にお互いの会話の回数が減っている。
真面目なような、滑稽なような、どこか不思議な空気が二人の間を漂った。
「行きやすぜ!アウト!セーフ!ヨヨイノヨイ!」
神楽がパー、沖田がチョキ。
負けた神楽が、脱がなきゃ駄目?と半ば助けを請うようにガラにも無く困った顔で沖田を見た。
既に息を浅くしはじめている沖田が、目つきを変えて神楽の行動を促す。
逃げられないと悟った神楽が、少し悔しそうに歯を食いしばりつつ腕を交差させて、スポブラに手をかけた。
生唾を飲んでいる沖田の前で、そのまま手を上に擦りあげる。
プルンと、小さな胸が露になったのを見て、沖田の中で理性の切れる音がした。
―ダンッ
神楽が脱いだスポブラを投げ捨てると同時に、沖田が神楽を壁に押さえつける。
壁に押さえつけられた衝撃によって乱れた髪が、顔に張り付いた。
その髪を払う事も無く、突如豹変した沖田を不思議そうに、無邪気に神楽の瞳が覗く。
見上げて来る、可愛らしい神楽の大きな瞳が自分だけを写していて、沖田はきが狂いそうになる。
「総…悟?」
「ごめん、神楽ちゃん。俺、我慢できやせん」
沖田の言葉に一瞬神楽の瞳が揺れたと同時に、彼は深く、深く神楽に口付けを落とした。
突然の沖田のキスに、神楽の鼓動が高鳴った。
噛み付くような、激しいキス。彼の舌が、神楽の口内を掻き回す。
そうしながら、沖田が発情した犬の用に下半身を擦り付けてくる。
息苦しくて、逃げようとしても頭を沖田の手によって引き寄せられ、逃げる事が出来ない。
未だに唇の触れ合うだけのキスでも硬直してしまう彼女が、その行為についていける筈もなく、体の力が抜けてしまう。
その神楽を支えるように、力の抜けてしまっている彼女の腕を取り、自分の首の後ろに回させてやった。
裸同士の肌が強く擦れ合い、互いに熱を上昇させていく。
「んんっ…ふ…」
苦しそうに、キスの合間に神楽がくぐもった声を漏らす。
静かな教室に、二人の荒い呼吸と、ぴちゃぴちゃと舌同士の触れ合う音だけが響いた。
反響するその音に、二人の興奮が煽られる。沖田の行動に戸惑っていた神楽でさえも、やらしい気分に陥り始めた。
「んっ…!」
キスを続けたまま、沖田の手がいやらしく神楽の胸を弄る。
耐え切れずに、神楽は彼の首の後ろで組んだ手を、ぎゅっと自分に引き寄せた。
少し寂しそうに沖田が口を離して、余韻を残すようにチュッと神楽の唇に軽くキスをすると、頭を神楽の肩に預ける。
自分に密着してくる熱い体と、背中の冷たい壁、自分の首筋を掠める浅くて熱い呼吸に、いやらしく胸を弄ってくる手、
そして何より――…普段は殴りあいで愛情を確かめている二人が、誰も思いもしないような痴態を、
それも学校で行っている事を思い、ぶるっと神楽が身を振るわせた。
「寒い?」
「熱い」
神楽の肩に顔を埋めたまま、身震いをした彼女を気遣い、沖田がかけた言葉に、神楽が即答する。
現に、沖田に触られて彼女の身体はどんどん熱くなり、顔や、耳まで赤くして火照ってきている。
その熱を更に高めるように、彼は胸を弄っていた手を止め、指で乳房の尖端の周りを撫で始めた。
もどかしい感覚にぎゅっと沖田の頭に頬を寄せてから、蒸気し、浅くて苦しい息を少しでも和らげようと顎を上に向ける。
「…はぁっ…」
すっかりと尖り、主張しているのに、いつまでもその尖端を触ってくれなくて燻り続ける体の熱を吐き出すように、熱い溜息を神楽が吐いた。
それを聞いて満足したのか、やっと沖田の指が尖端を摘む。
彼はそれと同時に、口が寂しくなってきたのかペロっと神楽の鎖骨を舐め上げた。
「ひゃぁっ」
乳房の先と、同時に襲ってきた沖田の舌の感触に、神楽が擽ったそうに身を縮こめる。
もっと鳴かせようと、摘んだそれを、クリクリと弄くり始めた。
「…ゃっ…やぁっ…」
堪らずに真っ赤に顔を染めて、控えめに、神楽が切ない声を零す。
「もっと、可愛い声聞かせてくだせぇ…」
乳房の先を弄くる手は休めずに、神楽の耳元で囁いた。
耳元で囁かれた、高目のハスキーボイスが色っぽくて、神楽がまたぶるっと身体を震わせる。
顔を真っ赤にして目を閉じている神楽が可愛くて、焦るように彼の手が胸を離れ、下へと降りていった。
そのまま彼女の下着の中に手を滑り込ませ、快感にひくついている恥丘を掻き分けて中心に指を這わせると、ぬめぬめとした液体にソコが満たされているのを知って沖田の口元がニヤリと引きあがる。
「指、入れていいですかィ?」
本当は聞かないでとっとと突っ込みたい所だが、一応彼女に確認を取る。
返事を求めるように神楽の肩から顔を離して、彼女の顔を覗き込んだ。
見詰められて彼女が、切なげに眉尻を下げて、ふるふるっと首を横に振る。
「やだ」
あぁ…そんな可愛い顔と甘い声で誘われたら、我慢できなくなるじゃないですかィ…
今の神楽の反応がドツボにハマリ、我慢しきれなくなった沖田の手がゆっくりと動き始めた。
途端に腰を跳ねらせて、沖田の手を止めようと股をきつく絞める。
「やだってば、止めるアル」
「神楽ちゃんの此処は、欲しいって言ってるのに?」
彼の行動を咎める神楽の言葉を嘲笑うかのように、チュクチュクと、ワザと音を立てるように指の先だけを器用に動かした。
我慢できずに、「あっ」と神楽が喘ぎ声を漏らす。
「ほら、こんなに濡らしちまって…素直になりやせぇ」
沖田の言葉に、元々赤くなっていた顔を更に赤くして、先ほどよりも大きく首を横に振った。
「違うもん…それは、汗アル」
口を少し尖らせて、屁理屈を垂れた神楽を可愛いと思いつつも、沖田が俯いて溜息をつく。
大人しくなってしまった沖田を少し可哀想と思ったのか、一瞬神楽が股を緩めたのを彼は見逃さなかった。
「ひゃっ!やだぁっ…!!」
突然、揃えた指を恥丘に平らに沿えて力任せに押し付けられて、堪らずに神楽が声を上げる。
神楽はその行動を何度も繰り返されて、「あっ!あっ!」と細かく喘ぎ声を出し続けた。
全身の力が抜けて、沖田の身体にしな垂れかかる。彼の手の動きに合わせて、ガクガクと神楽の体が揺れた。
「なァ…俺たち、初めてチューしてからどれぐらいたちやした?」
ガクガクと揺さぶられながら、沖田の言葉を白くなりかけている頭で必死に整理する。
「あっ…っ1ヶ月…くらい…っ」
息を荒げながら、必死に神楽が彼の質問に答えた。
「1ヶ月かァ…なげぇなァ。俺、結構我慢しやしたよね?」
沖田の言葉に、神楽は彼の肩に顔を埋めて、荒い呼吸を繰り返しながら、彼の肩に顔を擦りつけるように首を横に振る。
「まだ俺に我慢しろと言うんですかィ…健康な男児が一ヶ月もソフトタッチまでで我慢して待ったんですぜ?一ヶ月」
最後の、『一ヶ月』に合わせて手を大きく動かした。沖田の荒い手の動きに、一際高く神楽が喘ぎ声を上げる。
「もう駄目だ…最近じゃァ、夢の中まで神楽ちゃんが出てきて、俺を誘うんだ…けど、抱かせてくれねェ…。もう、駄目だ。俺、おかしくなっちまう」
神楽の女陰を圧迫する手は休めずに、片手で彼女を強く抱いた。珍しく切羽詰った沖田の態度に、喘ぎながら、心を動かされる。
ふと、決心したように神楽が顔を上げて、沖田の耳元で囁いた。
――総悟が、欲しいヨ…――
彼女の言葉に、目を見開いて手の動きを止める。
「俺に、同情してるんですかィ…?」
やっと下半身に与えられつづけた刺激が止まり、恥丘を引きつらせながら肩で呼吸を整え、
沖田の言葉を否定するように、フルフルと首を横に振った。
「欲しいヨ…体が…熱いアル…」
沖田の肩に顔を埋めて、上擦った声で彼を誘う。
「楽になりたいんですかィ…?」
神楽が、だるそうに、ゆっくりと顔を上げて沖田と視線を合わせた。
汗で髪の毛が顔に纏わりついていて、乱れている様子に興奮を掻き立てられる。
自分を見上げてくる瞳は潤んでいて、それに誘われるように、彼女を抱く腕に力を込めた。
「総悟と…一緒に、気持ち良くなりたいヨ…」
今にも消え入りそうな、切ない声で求められ、彼の下半身が熱く滾る。
胸にまで昇ってきたそれを、堪えずに、彼女の唇へと落とした。
先ほどの噛み付くようなフレンチキスとは違い、優しく、彼女を愛しむような
甘い口付け。
とろけてしまいそうな感覚に、嬉しそうに神楽は目を瞑った。
それから、思い出したように、彼の指が動き始める。
「あっ…」
彼女のソコが、再びじんわりと愛液で濡れてきた。
助けを請うように、自分にしがみ付いてくる彼女を愛でるように、唇、頬、鼻、と顔全体にキスを落としていく。
そして彼は、神楽の中心で動かしていた指を、女陰へと潜らせる。
圧迫感に襲われて、逃げるように神楽が腰を浮かし、固く目を瞑って沖田にしがみ付いた。
彼女の恥部が固く絞められたまま硬直して、彼の指を強く締め付ける。
指一本入れただけでも異物を吐き出すように締め付けてきた上に、神楽は生まれつきの怪力なのだから、
勿論女陰も、普通の女性とは比べ物にならないくらいに締め付けが強いという、当たり前の事実を沖田は予想していなかった。
密かに3年Z組の裏番長で、怖い物なしの彼とはいえ男としての部分が使い物にならなくなるのは怖い。
最悪の事態を想像して嫌な汗が出たが、それでも彼の男根は、彼女を愛したいと主張しつづけていた。
何せ一ヶ月も愛したくて愛したくて仕方が無かったのだ、折角のチャンスなのに、今更引けない。
「大丈夫だから、力を抜きなせぇ」
神楽を抱いていた手を上にずらし、彼女を安心させるように優しく頭を撫でてやった。
神楽はこくんと俯くと、なるべくリラックスしようと試みる。
ほんの少し彼の指が自由になり、ゆっくりと抜いてから、また彼女のそこに指を入れる、という行動を繰り返し始めた。
愛液で溢れているそこは、彼女が力さえ入れなければ滑りはいい。
「あ…」
何度も繰り返されて慣れてきたのか、圧迫感に顰めていた神楽の顔が、うっとりとした物へと変わってきた。
「指、増やしますぜ」
ご丁寧にも告げてから、抜き差しする指を一本増やす。
指を増やされて、また先ほどのように顔を顰めて、神楽が腰を浮かした。
一瞬締め付けられるものの、神楽はすぐ力を抜いたので、また先ほどと同じように、抜き差しを再開する。
「あっ――!」
二本目も慣れてきて快感を感じたのか、神楽が上擦った声を出した。
そしてまた、呼吸が浅く、早くなっていく。
沖田は、なるべく彼女のそこを慣らそうともう一本指を増やそうと思っていたのだが、彼女のその反応を見て耐え切れなくなってしまった。
一刻でも早く彼女を愛したいと、彼の下半身が窮屈そうに解放を求める。
「ひゃっ!?」
じゅぷっと一気に二本の指を女陰から引き抜くと、そのまま手を下着にかけて、引きずり落とした。
沖田は神楽の片足を持ち上げると、器用に下着を脱がさせる。
愛液でぐちゃぐちゃに濡れた下着は、通っている片足に沿って床に落ちた。そして、持ち上げた彼女の足を自分の腕にかけさせる。
焦るように、器用に片手でベルトを外してから、彼が自身の男根を取り出した。
髪と同じ、色素の薄い茂みから天井に向かいそそり立っているそれを見て、期待と不安に、神楽の鼓動が高鳴る。
「入れますぜ」
とろとろと愛液を漏らす彼女のソコに、彼自身をあてがう。
不安そうにこくっと彼女が頷いたのを確認してから、腰を押し進め始めた。
ぎゅっと、彼の首に神楽がしがみ付く。
「…っ」
まだ先の先が入口に侵入しただけなのに、早速追い出そうと、キツイ締め付けが彼を襲う。
あまりの力に、沖田が顔を顰めた。
「神楽ちゃん…息、吐いて…力抜いて…」
苦しそうに言った彼の言葉に神楽が頷くと、ふぅーっと神楽が息を吐く。
その瞬間に、彼がまた少し押し入る。
「痛っ…!」
俺も凄く痛い、と言う言葉を飲み込んで、神楽の頭に添えている手動かして、頭を撫でてやった。
沖田に撫でられて少し痛みが紛れたのか、神楽の身体から緊張が解ける。
内壁が少し緩んだのを見計らって、彼が今度は一気に彼女を貫いた。
「痛ぁっ…!!」
つーっと、結合部分から血が流れてくる。
愛する彼女の処女膜を破ったという悦びに浸る間も無く、本当に潰れてしまうのではないかと思う程、強烈な締め付けが彼を襲う。
「痛いアル、痛いアルー!」
ぎゅーっと沖田に強くしがみ付いて、がむしゃらに彼の男根を締め付けた。
あまりの痛さに込み上げて来る涙を、互いに我慢する。
「…力入れてると、余計痛いですぜ…大丈夫だから」
そう言って、また彼女の頭を優しく撫でてやる。
我慢できずに溢れてきた涙を、神楽はぽろぽろと彼の首筋に落としながら、大きく息を吐いた。
強すぎる締め付けが和らいで、ほっと沖田が胸を撫で下ろす。
神楽も、段々と慣れて来たのか、自分の中で熱く脈打つ彼を感じて、痛さで引いていた熱が再び上がっていく。
「総悟、凄く熱いアル…」
「神楽ちゃんも」
お互いに、顔を見合わせた。
さっきまで泣いていた為に潤んでいる瞳に、沖田は吸い込まれそうな錯覚に陥る。それから、ちゅっと神楽の唇に口付けをした。
「動いてもいいですかィ?」
「…うん」
やや間が開いてから神楽が返事をして、沖田が、腰を動かし始める。早く彼女を狂わせてしまいたいという気は山々だが、ゆっくりと、腰を上に向かって打ちつけた。
「…っ!」
途端に鈍い痛みを感じて、神楽が顔を顰める。
「大丈夫ですかィ…?」
「慣れれば大丈夫アル…総悟は?」
「俺も大丈夫」
そっか、と小さく神楽が言ったと同時に、また彼が腰を動かした。
声を抑えて、痛そうに顔を顰める神楽の様子を見つつ、彼がゆっくりと、今度は続けて腰を動かす。
段々と気持ち良くなってきて、沖田の呼吸が浅くなってくる。
「あっ…ああぁっ…」
神楽も、痛さより快楽が勝ってきたのか、上擦ったような声を漏らした。それを合図に、我慢の限界だった彼が遠慮なしに突き上げ始める。
「ひゃあぁあぁっ…!!」
今までに感じた事の無い、下半身に電流が走るような刺激を受けて、足の指の先までがピーンと伸びる。
やっと、聞きたかった彼女の快楽による叫びを聞けて、彼の口元が満足げに緩まった。そのまま、何度も何度も彼女を突き上げる。
狭い部屋に、二人の荒い呼吸と、結合部分から溢れるいやらしい音と、神楽の気が狂ったように叫ぶ喘ぎ声が響いた。
「あぁぁあぁっ…やぁあっーー」
彼から攻め立てられる度に、甘い叫び声が漏れて、快感に身をよじらせる。
何度想像して、恋焦がれただろうか――神楽が今、自分の手によって乱れている…
今の状況が現実だということが信じられなくて、沖田は半場すがるようにして喘いでいる神楽の頭を引き寄せると、唇を合わせ、そのまま舌を絡めた。
「んーーーっ…」
顔を真っ赤にして、苦しそうに神楽が沖田の口内へと叫ぶ。
それさえも誘われているような気がして、沖田は腰の動きを早めた。
段々と、頭の中が真っ白になっていく…。
「んんーっ!!んーーー!」
苦しそうに、肩を使って神楽が息をする。
二人の激しい動きに、カツッと時々互いの歯がぶつかった。
けれど彼はそんなのおかまいなしに、神楽の舌を吸ったり、息を吹いたりしながらも、絶頂に導くように攻め立てる。
「んーーーっ―――…!!」
ぎゅうっと神楽が沖田の首に回す手を力強く引き寄せて、びくびくと彼の男根をきつく締め付けてから、達してしまった。
その締め付けに、彼が熱い物を彼女の中へと放出する。
一通り放出し終えてから、名残惜しそうに神楽から自身を引きずり出した。
「…っはぁっ…はぁっ…」
壊れてしまった人形のように全身の力が抜けて、肩で大きく息をする神楽を抱き寄せてから、そっと床に横たわせる。
自分もごろんと神楽の横に転がって、ほどよい疲労感と開放感に身体を落ち着かせた。
「総悟」
名前を呼ばれて、天井に向けている体はそのままに、顔だけを神楽に向ける。
「大好きアル」
不意をついた始めて聞くその言葉に、情けなくも内心泣きたくなった。
「俺も、神楽ちゃんが大好きですぜ」
いとおしくていとおしくて、横にある神楽の身体を、強く抱きしめる。
安心したように、神楽が彼の胸に顔を摺り寄せた、と
――ガスッ!!
思い出したように、神楽が彼の腹に拳を入れた。
突然の攻撃に対処できずにおもいっきり喰らってしまい、神楽を抱きしめていた手を解いて沖田が腹を押さえる。
「なんですかィいきなり!いくら相手が馬鹿だからってやって良い事と悪い事があるってもんでさァ!」
「馬鹿だと自覚しなくてもいーから中出しスンナ!」
あ、と沖田が彼女の真っ白い太ももを伝う白濁液を見る。
「俺たちの子供絶対可愛いだろうなァ」
「話が飛躍しすぎなんだよクソが!」
ゴツッと、今度は胸元に頭突きを入れられて、沖田が咳き込んだ。
暫くそのままごろごろと寝転んでから、どちらかともなく帰り支度を始める。
ポケットティッシュやハンカチなどを互いに持たない性分なので、棚にあった藁半紙で処理をするという暴挙をしてから、
適当にゴミ箱に突っ込んで二人仲良く手を繋ぎ、自転車置き場まで歩いて行く。
ギクシャクと蟹股で歩く神楽を見て、「大丈夫?」と聞くと、「立ち乗り、出来るアルかなぁ」と不安そうな声が帰ってきた。
「結わくのめんどくさい」と下ろしたままの神楽の髪を梳くようにして、頭を撫でる。
普段は二人乗りの荷台で神楽は、股をおっぴろげて豪快に座っているもんだから立ち乗りは慣れていない。
たまに自分が漕ぐと言い出して、猛烈なスピードで神楽が漕いで沖田が荷台に座るのだが、
あまりの車輪の回転速度の速さにブレーキが利かず、いつも後ろの彼が自らの足で平然とブレーキをかけるのだ。
「気持ちいいアル〜」
さっきまでの不安は何処へやら、気持ちのいい夜風を受け、長めの髪をなびかせながら沖田の後ろで神楽が言った。
「気持ちいいなァ」
静かに自転車を漕ぎながら、神楽と同じように、自分も冷たい風の感触を楽しむ。
誰も通らない静かな土手に、彼の自転車の電灯の、ジーコジーコという音だけが聞こえた。
暫く二人共沈黙してから、神楽が前を指して少し大きめな声を出す。
「もっとスピード出すアル!いっけぇー総悟!」
「よっしゃー任せときなせぇ!しっかり掴まってろィ神楽ちゃん!」
立ち漕ぎで、ぐんぐんとスピードを上げていく。
後ろで、楽しそうに神楽が笑った。
沖田は、神楽と一つになれた悦びを、今再び噛み締めていた――…。
「土方さん、行っきやすぜー!」
今日が数ヶ月前の日曜日ならば、ナージャが踊りだした頃。
けれど生憎平日なので、3年Z組の生徒は、体育の授業中。
「よし!決めるぞ!!」
春の日差しが暖かく校庭を照らしつつも、まだ横風は少し冷たい。
その校庭の真ん中で、ジャージを膝まで括り上げている少年、沖田が土方に向けて走りながらボールをパスした。
そのボールを器用に足で受け止め、土方が近藤先生の守るゴールに向かってシュートしようと足を上げる。
「いっけぇ土方さん!剃刀シュート!!」
「無理にきまってんだろーがァアァアァ!!!」
沖田の言葉に動揺してバランスを崩し、土方が反論を叫びながらのシュートは、あえなく近藤先生に簡単に取られてしまった。
「あーあー何やってるんですかィ!折角のチャンスだったってのにまったく!もうどうしようもねえ程土方さんは運痴だなァ」
「テメーが変な事言うからだろうがァアァアア!!!大体常人が剃刀シュートなんて出来る訳ねえだろ!!いい年こいて漫画に影響されてんじゃねえよ!!つーかその略し方やめろっつってんだろ!」
キャッチしたボールを近藤先生が遠くに向けて蹴り、それを沖田と土方のコンビが口喧嘩しながら追う。
全速力で走りながらも、息切れもせずに大きな声で土方が叫ぶ。
「無理じゃねえさ!トシちゃんならやれば出来る!!」
「オメーは何処のママだよ!トシちゃんとか言うんじゃねエェエェ!!お袋にも呼ばれた事ねーよ!!」
いつもよりテンション高めに、嫌に真面目顔で言った沖田の言葉に土方が叫んだ。
「おーいお前等!いつまでも言い合ってるんじゃない!」
ゴールから、口元に両手を添えてこちらに叫ぶ近藤先生の声が飛んできた。
やっとボールに追いついて立ち止まり、すいませーんとやる気なさげに二人同時に先生に謝る。
それから、沖田は転がっているボールに足をかけると、両手を腰に当て、びしっと胸を張り近藤先生の守るゴールを見据えた。
「そんじゃあ次はツインシュート行きやしょうか」
「無理」
「じゃあスカイラブハリケーンでいいや。飛べ!土方さん!」
「もっと無理だろーがァアァア!!しかも俺が飛ぶ方かよ!!!」
「いいから黙って飛んでくだせぇよ。まったく最近の土方さんはワガママだなぁ。しまいにゃ俺怒りますぜ!」
「黙れぇぇえ!!怒りたいのはこっちだァアァア!!大体あんな低空飛行なんざ人間が成せる技じゃねえんだよ!!無理!不可能!!」
「無理じゃねぇ!トシちゃんは不可能を可能にする男よ!自分を信じなせぇ!」
「親馬鹿の真似も程ほどにしろよ!!トシちゃん言うなっつってんだろーがアァアァ!!信じても出来る事と出来ない事があるの!!サンタさんはいないの!!」
土方の言葉に、今まで真顔だった沖田が、眉間に皺を寄せる。
「嘘言っちゃいけやせん!サンタさんは必ずいやす!俺たちの心の中に」
「勝手にサンタさん故人にしてんじゃねェエェエェエ!!」
「お前等真面目にやれって言ってんだろーがァアァア!!」
いつの間にやらこちらに移動してきた近藤先生に、二人がボカッボカッと殴られる。
殴ってから、ちなみにサンタさんはいるよ!寒い国とかに!と心優しい先生が沖田の夢を守る。
そしてまたいつの間にやらこちらに移動してきた桂が、近藤先生の肩を掴んで、振り向かせた。
「先生、さっきから気になってたんですが、注意しないんですか?」
そう言ってから、校庭の隅の方を指す。桂が指差した方を、先生と、沖田と、土方が見た。
――…「フンッ!フンッ!!」
今日も気合マンマンにミントンラケットを素振りしている山崎を見て、先生は溜息をつき、沖田は特に表情を変えず、土方は額に青筋を立てた。
反射的に、土方の足が動く。
「てめぇえぇえ山崎イィィ!!今はサッカーの授業なんだよォオオォオ!!テメーが総悟とスカイラブハリケーンしてこいやァアァア!!!」
凄い形相で自分に突進してくる土方から、ギャァアァアと悲鳴を上げて山崎が逃げる。
今日も元気に追いかけっこを始めてしまった二人を見て、近藤先生が苦笑いをした。
「あーあー毎日毎日山崎可哀想になァ。ご愁傷様」
先生の隣で、沖田がさも可哀想にと言う風に、山崎を哀愁の目で見る。
追いつかれた山崎が、土方にマウントポジションを取られた所でチャイムが鳴った。
「俺も転校しようかな…」
チャイムにかき消されてしまったが、桂はボソリと呟き、転校を心に決めたのであった。