「ソーセージ楽しみだなぁ」  
明るい調子でごちるまゆみは、清掃のため隔離している豚たちに目をやった。互いの体に鼻を擦りつけあい、毛繕いをしている。豚は、とても綺麗好きだ。まゆみは見た目の愛らしさもあって、豚たちが好きだった。  
「はーい、もう入ってもいいよー」  
横開きのケージを開けてやると、豚たちは綺麗になった檻の中へと流れていく。息をついて、まゆみは清掃道具を片付けはじめた。  
「吉野、ちょっといいか?」  
二年生の男子だが、名前は知らない。入り口で立ったままの男子に、まゆみは促されるまま駆け寄った。  
「離れにある豚舎があるだろ?あそこの清掃を手伝って欲しいんだ」  
強制だった。エノゾーではよくあることなので、まゆみは快諾してみせる。不満は、出さない。  
離れにある豚舎……肉として出荷しない、種豚を世話するための小屋だ。入り口の前だというのに、漂ってくるにおいは酷いものだった。意を決して扉を開ける。においが、より強烈になった。  
豚舎に入ってから、においの元が汚れからではなく豚たちにあるとわかって、まゆみの面にしわが寄る。鼻を摘みながら、まゆみは清掃をはじめた。  
 
*  
 
清掃が終わる頃には、まゆみは全身に汗を掻いていた。息をついて、最後の一匹を柵に入れる。豚は綺麗にされた寝床が嬉しいのか、床を嗅ぎながら喉を鳴らしていた。「あはは、くすぐったいよ」  
豚は感謝しているのか、まゆみの足に鼻先を擦りつけてくる。お風呂に入りたいな。思うまゆみは額の汗を拭って、豚の頭を撫でた。  
「綺麗になってよかたね。じゃあ、ばいばい」  
まゆみが背を向けた時だった。豚がお尻に鼻を突きつけてきて、まゆみの体がつんのめる。豚はまた、鼻でお尻をつつた。逃げるようにしても豚は、執拗にまゆみの尻を追いかけてくる。  
まゆみが躓いた時だ。豚の巨体が、まゆみの背中にのしかかってきた。まゆみは小さく悲鳴を上げる。押し倒されたまゆみの服を、噛みついてきた豚が引き裂いてしまう。深く食い込んできた歯に、下着までもが破かれて、守られている神秘が露わとってしまった。  
反射的に叫ぼうとしたまゆみだが、直後のしかかられてしまい、声の代わりに詰まった息が漏らされた。まゆみは混乱していた。そして恐れた。恐怖を沸き上がらせる原因が、脳裏に浮かび上がってくる。  
確かアメリカで起きた事件だ。農家の男が、家畜の豚に襲われて、喰い殺されたという記事。  
 
殺されてしまう……最悪の結末を想像したまゆみだが、豚は殺すよりも惨い行動を取った。まゆみは、膣口に温かいものが触れていると気付き、そして絶望した。自分の体勢、のしかかっている豚。  
状況を飲み込んだまゆみの体内に、あてがわれていたペニスが滑り込んでくる。まゆみは声を詰まらせた。ちぎれた悲鳴だったかもしれない。膣内に侵入してきたペニスは、ねじ巻きになっている形状を伸ばし、まゆみの膣を犯していく。  
鈍い痛みを、下腹に感じた。  
前進を続ける細長いペニスは、目的の場所を見つけると、その動きを止める。「ひっ!?」熱を注がれて、まゆみは悲鳴を漏らした。  
子宮に辿り着いたペニスの先から、命の源がとめどなく放出されていく。腹奥に溜まっていく熱は、初産したことすらない小さな子宮を容赦なく膨らませていく。豚は役目を果たそうと、尚も種子を送り続けた。  
どれくらい経っただろうか。長い射精が終わり、豚の重圧から解放されたまゆみは、襲われた際解けてしまった髪を結い直していた。  
犯された。犯されてしまった。髪を結っては解き、まゆみは、はっとしたように、膣口を覗いた。注がれた精液の逆流はない。  
授業で受けた内容が、ぽつぽつと蘇ってきて、呆けていた意識を覚醒させていく。豚は射精の最後、遺伝子の流出をふせぐために、ゼリー状の精液を出す。それで子宮口に蓋をして、孕ませる可能性を高めるのだ。  
下腹を膨らませている種子は、いつまで残るのだろう。下腹をさするまゆみはうつむいて、一粒の涙をこぼした。  
まゆみは知らない。染色体が違っていても、受精してしまう、その事実を。  
数億匹以上もの因子が、排卵のたびに卵子を目指し、受精を繰り返すのだ。まゆみの胎内を泳ぐ精子は、数週間生き続けるだろう。  
まゆみはしゃくりを上げて、また、涙をこぼした。  
 

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