姉、桜野タズサが、トリノオリンピック代表に内定したらしい。  
まあ、本人は頑張ったみたいだけど、テレビなんかじゃライバルとか言われていた人がなるだろうって言われていたから、結構意外だった。  
 
風呂上りで涼みながら、鳴り出した電話のコール音を聞きつつ。  
そんな事を思いながら、私、桜野ヨーコは、リビングのソファを立った。  
 
で、代表内定が決まったのは別にいいけど、それ以来、姉貴宛ての中傷電話が結構来ている。  
おかげで姉貴達と比べ、家に居る事の多い私は、その電話の応対に追われる事が多い。  
番号非通知な電話は繋がらないけど、そんな事に頓着しない熱心な批評家が後を絶たないのだ。  
姉貴なんかに執着するなんて、世の中暇な人が随分と多いらしい。  
 
とは言っても、これが結構面白い。  
言うだけ言ってすぐに電話を切る輩も居れば、自分の考えをクドクドと話し捲る奴と、様々。  
が、大抵そういう人は、電話に出たのが姉貴本人だと思い込んでいる人ばっかりだ。  
だから私が、暫く黙って聞いてやって、突然一般的な9歳児みたいな対応をしてやると、キョドる。  
その時の、素に戻ったような慌てた態度が、堪らなく愉快なのだ。  
理論武装している大人の、裸の正体を覗き見る様な感じだろうか。  
 
けど、正直姉貴もいい加減に、自重して欲しい。  
何かこの前会見していたけど、それの後、電話の量が倍ぐらいに増えた。  
応対している私も私だけど、そろそろ面倒臭い。  
 
―――まあ、いい暇つぶしにはなるけど。  
 
そんな事を思いながら、私は廊下で鳴り続けていた電話の受話器を手に取ると、耳に当てた。  
 
「もしもし」  
『タズサタンハァハァ』  
 
…正直、予想外だった。  
 
荒い息づかいと、電話越しにでも分かる、何処と無く暑苦しい雰囲気の、男の声。  
状況からして、何となく電話の目的は分かるけど…その、アレだよね。  
…所謂、変質者というやつだろう。初めてだ、本物は。  
 
『タズサタンのぱんつ何色かなぁ?』  
 
はっきり言って、どう対応していいか分からない。  
素直に答えてやるわけにも行かないし、取り敢えず、何時もの応対通りに黙って聞いてはいるけど。  
…姉貴も災難だなあと、有名になってしまった弊害を被る家族に、ちょっとだけ同情する。  
 
それにしても…。  
ただの誹謗中傷ならまだしも、こんな犯罪者丸出しの電話を番号通知で掛けて来るとか、余程のバカなんじゃないだろうか、この電話の主は。  
…バカじゃなきゃ、こんな電話掛けてこないか。  
 
『ハァハァタズサタンタズサタンタズ』  
「9歳の女の子に興奮するとか変態ですね」  
『…は?』  
 
一通り聞くに耐えない粘ついた言葉をスルーしてやった後、電話の主を姉貴だと思い込んでいる男に、淡々と事実を告げた。  
ポカンとした様な、間抜けな言葉に、ちょっと口元が歪む。  
暫く沈黙が続いた後、桜野タズサさんのお宅ですよね? と、妙に畏まった様子で尋ねてくる、変質者のおじさん(推定)。  
その変わり様に、噴き出しそうになるのを堪えながら、私は「妹」と、簡潔に言葉を発した。  
 
『…はぁ、妹さんですか…』  
「まあ、迷惑電話もだけど、変態な電話もうちはお断りなので」  
 
目当ての姉貴に繋がらなかった以上、このおじさんも大人しく引き下がるだろう。  
そもそも、姉貴、今居ないし。  
それを伝え、では、これでと断って電話を切ろうと、息を吸いこむ。  
それを制するかの様に、電話の向こうのおじさんが、言葉を発した。  
 
『…妹ちゃんのぱんつは、何色かなぁ?』  
 
…なんだって?  
 
 
まあ、ちょっと面白そうだったから、話に付き合ってやっているんだけど…。  
何で、こんな事になっているんだろう?  
 
『気持ち良くなったかなあ?』  
「別に…なにか、ムズムズするけど」  
 
電話の向こうからの質問に、適当な答えを返しながら、左手で受話器を持ち、パジャマのズボンに、右手を差し込んでいる私。  
その指先は、さっきから私の履いているパンツの真ん中、その…おしっこが出る辺りを、擦り続けている。  
 
エッチな事に興味が無いか?  
最初の質問もそこそこに…最初も随分な内容だったが、そんなアホな事を聞いてきた、電話の先の変質者。  
呆れながらも、小学生に正気かと罵ってやったけど、曰く、ロリもオッケーらしい。  
 
…真性の変態だった。  
 
取り敢えず言う通りに承諾してやるのは癪だったので、渋ってやると、途端に情けない声で懇願してきた。…面白い。  
暫く、聞いて聞かないといった押し問答、もとい、漫才を繰り広げていたのだが、会話が予想外に楽しかった私は、つい、OKという返事をこの変質者にしてしまったのだ。  
…何より、興味もあった。暇つぶしにも丁度良いし。  
 
で、了解されるや否や、物凄い勢いで私の知らない性知識を捲し立てて来たこのオヤジ。  
学校で習った事柄や、時々見ている雑誌なんかとは、全然違うんだけど…。  
 
一応、躊躇したり、渋ったりしながら、おじさんの話を実践している。  
が、私の予想的には、ニヤニヤとした厭らしい目つきの中年のオッサンが、助言相手の印象だ。  
電話越しとはいえ、そんな輩に素直に従ったり、弱みを見せる様な行為を行うというのは何と言うか、プライドに関わる。  
なので、私はなるべく平静を装いがら、受話器の向こうの奴と、先程から受け答えをしている訳なんだけど…。  
 
…実は結構、気持ちいい。  
 
ドキドキと高鳴る鼓動を意識しながら、教えられた所謂、気持ちいいと言われた所に、指を走らせる。  
割れ目、等と表現していた股間の筋に沿う様にし、…おしっこをする場所の辺りまで、擦り、押し、揉む。  
最初はいまいち、勝手が分からなかったけど、段々と触り続けて、気持ちよくなる場所が把握出来る様になると…ちょっと楽しくもあったり。  
そうして得られる気持ち良さに、何処かで感じた様な感覚だと、記憶を巡らす。  
 
―――確か、鉄棒を跨いで乗った時とか、こんな感じの…。  
 
度々、刺激に対して停止する思考を何とか遣り繰りして、そんな答えに辿り着く。  
それと時を同じくして、パンツ越しじゃなく、直接触るともっと気持ちいいと、中年おじさんが囁いてきた。  
…本人はお兄さんだとのたまっていたので、本当はもっと若いのかもしれないが。  
 
けど、知識を教えてくれるのはいいけど、素直に従って行動する理由は別に無い。  
ふーんと、興味無さげに対応してやると、切羽詰った様な声で、それとなく嘆願してくるおじさん。  
…やっぱり、面白い。  
暫くはそんな事を思って笑みを浮かべていた私だったが、そんな私の意思に反する様に。  
気持ちよさを求めて、何時の間にか無意識の内に、私の右手がパンツと体の間に滑り込んでいた。  
 
「ひゃうっ!?」  
『…あ、触ったね』  
 
笑いを湛えたおじさんの指摘が飛んできたが、私はそれ所ではなかった。  
差し入れた指に纏わり付いてきた、ヌルリとした感触。  
その粘つきに任せる様に指を擦らせてしまい…下着越しとは明らかに違う、鋭い快感が、私の頭を満たした。  
 
「な、に…これ、ヌルヌルして」  
『ああ、ちゃんと感じてたんだあ』  
 
曰く、エッチな気持ちで興奮したり、気持ちよくなったりすると、そういう液が、割れ目の間から出てくるらしい。  
説明には納得したが、図らずもおじさんに私の現状を知り得る報告をしてしまった事に、若干プライドが疼く。  
…心なしか、電話の向こうのおじさんも、ニヤニヤしている様な気がする。  
微妙に自己嫌悪に囚われた私だったが、蠢き続ける私の手によって齎される快感に、そんなプライドや空想も、徐々に四散していった。  
 
「ふ、んぅ…くぅ、ぁ」  
『おしっこの穴の上辺りに、コリコリした所無いかな?そこが多分一番気持ちいいよ』  
「ぁ…んはぁっ!」  
 
言われた通りに、指でその標的を探り…一瞬、目の前が白くなった。  
 
―――駄目、これ、気持ちいい。  
 
それまでよりも大きな快感を得られたその場所を、重点的に弄ぶ私。  
何時の間にか吐息が早まり、はしたない声を憚る事が無くなっていたが、それに気付く事無く。  
私はただひたすら、そこから涌き出る快感を貪っていた。  
 
『そう言えばぱんつの色って、なあに?』  
「ふぁ、赤ぁ…ん、ぁ」  
 
…何気なく聞かれた所為か、つい、質問に答えてしまった。  
どうも気持ちよさのせいで、頭の回転が緩くなっているらしい。  
度々考えが止まる頭をなんとか動かし、原因を把握する。  
 
『じゃあもうブラは着けてるのかな?』  
「…さあ?」  
 
もう、油断はしない。  
そう心に決めた。  
 
『気持ちいいかい?』  
「あ、はぁ、気持ちいい…ぁん」  
『所で、お名前は何だっけ?』  
「ふぅ、ん、ヨー、コぉ、んぁっ」  
 
もう何分弄り続けているか、分からない。  
私が興奮しているせいなのか、それとも弄り過ぎからなのか、パジャマの下のパンツは、絶えず垂れ続ける私の愛液で、ドロドロだった。  
ずっと立ち続けながら弄っている為、パンツからはみ出た滴が足を伝わり、幾つかはシミとしてパジャマに浮かび上がっている。  
…こんな状況、誰かに見られたら…。  
一瞬まともな自分の思考が頭を掠めるが、すぐに響いてくる刺激に、それも霧散する。  
もう、ただ気持ちいい事しか、私は考えられなかった。  
 
「ふぁ、ぁ…あ、何、か…んぅ、くる…あぅっ」  
 
そろそろ、立っているのも限界かなと、感じ始めた頃。  
気持ちよさが段々と溜まっていく様な、それまでと違う感覚に、思わず言葉を発する。  
体を突き抜けるだけだった快感が、ジワリジワリと、全身に広がっていく感じ。  
何が起こるのかは分からなかったが、もうすぐ、何かが決壊するのだけは、分かった。  
 
『それ、イクっていう感覚だねえ。イク時はそう宣言しながら弄ると気持ちいいよ』  
「い、く…?ん、ぅああっ、ぁ!」  
 
気持ちよさで思考は半分惚けていたが、感覚の正体だけは、何とか聞き取る。  
そして、その答えを反芻する間も無く、いよいよその感覚が、私の体に押し寄せた。  
 
「ひぁ!ぁ…くる、ぁぅ!イく…んぁぁ!あ…っ!!」  
 
体に張られた糸が切れたかの様に、肢体が一瞬震える。  
次の瞬間、今まで感じた事の無い快感が押し寄せ、視界が真っ白に染まった。  
 
 
気が付いたら、廊下の床にへたり込んでいた。  
ドキドキと激しく鼓動する心臓の音が、やけに耳に響く。  
荒い息を吐きながら、暫くそのまま、動悸が収まるのを待った。  
段々とはっきりしてくる目の前の情景を確認しながら、私は先程体を駈け抜け、今も体を包み込んでいる感覚を反芻する。  
 
―――…凄く、気持ち良かった。  
 
あの瞬間、考えていた事全てを忘れてしまい、ただ、快感に身を任せている事しか、出来なかった。  
…こんな気持ちいい事、あるなんて…。  
 
『初めてでイクとか、エロい子だなあ』  
 
微妙に感動すら覚えていた私の耳に、その快感を教えた張本人の声が触れた。  
…私はそんなエッチな子じゃない。  
そう文句を言おうと、息を吸いこむ私。  
けど、口から出たのは文句ではなく、何故か、溜息だった。  
 
「はぁ…ん…」  
 
―――あ、まだ、気持ちいいの、残って…。  
 
溜息に連動するかのように、ピクピクと、腰が痙攣し、その都度、淡い快感が頭に響く。  
ついでに、私が何も言い返してこない故か、おじさんの笑い声も響いた。  
何とか反論しようと息を吸いこむが、吐き出されるのは結局、甘い吐息。  
そんな私をいい事に…一通り私の痴態を言い列ねて反芻する、変態オヤジ。  
暫くして、それにも満足したのか、ではそろそろと、別れの言葉を発した。  
 
『今日は長引いたし、夜も遅いから切るよー。また、気持ちいい事教えてあげるからねえ。ヨーコちゃん』  
 
プツリと、何十分も続いていた電話が切れた。  
ツー、ツーという音を耳に受けながら、どこかフワフワとした感覚の中、宙を見つめる私。  
 
―――…また、こんな気持ちいい事、教えて貰える…。  
 
「…ぅあんっ」  
 
無意識に、股間に触れっぱなしだった指先が蠢き、私はその刺激に思わず、喘ぎ声を上げた。  
 
 
 
…あれ、私名前、言ったっけ?  
 
 

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