***  
 
 トレーニングを終えた後、私はなんとなくギガレンジャーの基地へと来ていた。  
 家でゴロゴロしようかとも考えたが、こんないい天気に引き篭もるのはやはり勿体無い。  
 ……まあ、基地に行ってもやる事は無いので、ゴロゴロする場所が変わるだけなのだけれど。  
   
「はぁ……」  
   
 そこらに転がっていた少女漫画をパラパラと捲りながら、私は溜息をつく。  
 それでも一人でいるよりは、余計な事を考えずにすむのはありがたかった。  
 
「ヘイ、そこの少女! 辛気臭い顔してるじゃなーい!」  
 
 ――こんな風に、絡んでくる人がいるから。  
 
「辛気臭いのはいつもの事です」  
「自覚してたんだ……って、若い身空でそんな枯れてちゃ駄目でしょ!」  
 
 余計なお世話だ。  
 
「それよりもなんですか横山さん、急に抱きついてきて」  
「んー、アキラちゃんはいつも抱き心地いいにゃー」  
「頬擦りしないでください……あと、当たってるんですけど」  
「当ててるんだもん」  
「……出てる腹を当てて喜ぶとは、特殊な性癖をお持ちですね」  
「そっちは当ててないし、出てない!」  
 
 この無駄にハイテンションな人は横山チサさん。  
 ギガレンジャーの一人、ギガイエローであり、私の先輩であり、ちょっと頭の弱い人だ。  
 
「……なんか今、失礼な事考えなかった?」  
「気のせいです」  
 
 あと、無駄に勘が鋭いってのも追加で。  
 横山さんはしばらく私に頬擦りした後、やっと満足したのか、拘束していた手を離す。  
 
「ふー、充電完了。これであと二時間は戦える」  
「その電池はもうヘタっているので、交換する事をお勧めします」  
「二時間毎に充電すれば大丈夫!」  
「なるほど……だが断る」  
「もー、アキラちゃんは可愛いのに、ちょっとぶっきらぼうなのが玉にキズね」  
「ぶっきらぼうなのは生まれつきです」  
「そんなんじゃモテないよ?」  
「……余計なお世話です」  
 
 そう、本当に余計なお世話だ。  
 
「せめて服装だけでも女の子っぽくすればいいのに。いつも制服かジャージじゃない」  
「学生の正装は制服です。私服にしても動きやすい方が好きなので」  
 
 可愛い服に興味が無いわけではない。  
 でも、どうせ私に似合うような服なんてないのは分かっていた。  
 似合わない服を着るくらいなら、ジャージでゴロゴロする方がよっぽどいい。  
 
「やっぱり枯れてるわねー……でも、動きやすくて可愛い服があればいいのよね?」  
「……まあ、そんな服があるのなら考えますけど」  
 
 私のその言葉に、横山さんは嬉しそうに含み笑い。  
 ……なんだろう、この嫌な予感は。  
 
「ふっふっふ……じゃじゃーん!」  
 
 彼女はどこからか大きな袋を取り出すと、その中身をもったいぶった動きで私の眼前に晒す。  
 出てきたのは――  
 
「……なんですか、これ?」  
「動きやすくて可愛い服、よ」  
 
 出てきたのは、黒い生地に白いフリルをあしらった――あしらったと言う言葉で表現していいものか迷うほどに大量のフリルを纏ったロングドレス。  
 俗に言う、ゴシックロリータドレスだ。  
 
「……」  
「可愛いよね?」  
「……まあ、確かに」  
 
 可愛い、のは認めよう。  
 しかし、どう考えても動きやすいとは思えない。  
 
「ふふふ、アキラちゃんが何を考えてるのかは分かるわ。確かに、お世辞にも動きやすそうには見えない服よ。でも……」  
 
 またもやもったいぶった動きで、横山さんは手に持っていたドレスを空中に放り投げる。  
 次の瞬間、横山さんの手には機関銃が握られており、それは空中に投げたドレスへと狙いを定めていた。  
 ――そして、銃声。  
 大量の弾丸に晒されたドレスは、一瞬で無残なボロ布に……って、あれ?  
 
「へへー、すごいでしょ、これ」  
 
 嬉しそうな表情で、横山さんは床に落ちたドレスを手に取る。  
 それは穴どころか傷すらもなく、たった今まで機関銃で打ち抜かれていたとは思えない状態だった。  
 
「……なんですか、これ」  
「ふふふ、うちの技術部特製のゴスロリ服よ。防弾、防刃だけじゃなく、防熱、防水、防塵も完璧。伸縮性も高いから動きにくさも無し。しかも洗濯機で洗えるのよ」  
「……」  
「あれー、なんか反応悪いね?」  
「いや、まあ……なんというか……」  
「せっかく技術部がアキラちゃんの為に、持てる最高の技術を結集して作ったのに」  
 
 ……技術の無駄遣いとは、きっとこういう事を言うのだろう。  
 うちの技術部は力を入れる部分を間違っていると思う。  
 
「その……横山さんと技術部の心遣いは嬉しいのですが、さすがにこれは私には似合わないかと……」  
「えー、そんな事無いって」  
「どちらかというと、横山さんの方が……」  
「ゴスロリは胸が無い方が似合うって」  
 
 ――どうしてやろうか、このビッチ。  
 
「……あー、その、ゴメン。満面の笑顔で殺気振りまくのはやめてくれないかな」  
 
 怯えた顔で私から視線を外す横山さんを、私は溜息と共に見る。  
 
「とにかく、こんな服は私には似合いません。着るつもりもありません」  
「……汗臭いジャージよりはいいと思うんだけどなー」  
「っな!」  
 
 思わず、自分のジャージ服に視線を落としてしまう。  
 
「ちゃ、ちゃんと洗ってます! 汗臭くなんてありません!」  
「知らぬは本人ばかりなり、ってね。今日もそのジャージでヒカル君とトレーニングしてきたんでしょ? その汗臭いジャージ姿で手取り足取りやってきたんでしょ?」  
「紛らわしい言い方しないでください! それに汗臭くないですから!」  
 
 そ、そうよ、汗臭くなんて……ないよね?  
 
「まあ、汗臭いかどうかはともかく、たまには気分を変えてみるのもいいんじゃない? この服着たらヒカル君もやる気出すかもしれないよ、別の方向に」  
「どんな方向ですか! そ、それに、ヒカルとはあくまで真面目にトレーニングをしてるだけで――」  
「へー、真面目に、ねー」  
「そ、そうです!」  
 
 楽しそうな視線を向けてくる横山さんから視線を外すと、私は読んでいた漫画に視線を戻す。  
 読んでいたと言っても、ただ絵を目で追っていただけで、内容はさっぱり頭に入っていないのだけれど。  
 
「うーん、せっかく作ったのを捨てるのもなんだし……そうだ、フミちゃんにあげようか!」  
「っ!」  
「フミちゃんはアキラちゃんと違ってスタイルいいけど、私よりは似合いそうだし」  
 
 ……わ、私だって、あと二年すればあのくらいは……  
 
「ん? なにか言ったアキラちゃん?」  
「いえ、何も」  
 
 そう言いつつ、動揺しているのはバレバレだろう。  
 むしろ、私の反応を見るために彼女の名前を出したのかもしれない。  
 
「そうそう、フミちゃんと言えば、昨日街中で会ったのよ」  
「……」  
「で、色々と雑談したんだけど」  
「……」  
「……どうだった?」  
「……何がですか?」  
 
 確実に分かって言ってるのだろう。  
 
「……彼女と会ったんでしょ?」  
「……何のことですか?」  
「またまたー、とぼけちゃって」  
「……」  
 
 口元に小さく笑みを浮かべながら、横山さんは私の顔を覗き込む。  
 彼女が何を言ってるのかは分かる。  
 分かるけど、それを認めるのは癪なので気付かないフリで無視する。  
 せっかく忘れかけた『余計な事』を思い出すのも癪だった。  
 
「会ったんでしょ、フミちゃんに?」  
「……」  
「もしかしたら修羅場になるかなー、とか思ってたんだけど、その様子だと戦う前に逃げたみたいね?」  
「……仕事でならともかく、日常生活で私と彼女が戦う理由はありませんから」  
「へー、ないんだ」  
「ないです」  
「ヒカル君と彼女が仲良くしてても?」  
「ヒカルと彼女が仲良くしようが、イチャイチャしようが、子作りしようが、私には何も、まったく、これっぽっちも関係ありませんから」  
 
 即答。  
 そう、ヒカルと彼女が何をしようが関係ない。  
 だから、私と彼女が戦う理由なんて――  
 
「じゃあ、なんでそんなにショック受けてるのかな?」  
「……別にショックなんて受けてません」  
「本当に?」  
「本当です」  
「ふーん……あのさ、アキラちゃん」  
「なんですか?」  
「漫画、上下逆だよ?」  
「……これは漫画を読みながら脳を鍛えるトレーニングで、高尚な趣味であり、凡人には理解できない深い意味があるんです」  
「へー……」  
「……」  
 
 さすがに無理があったので、ジト目で睨む横山さんから逃げるように視線を外す。  
 なんという失態。さすがにこれは言い訳できない。  
 というか、今まで気付かなかった私も私だ。  
 ……横山さんが言う通り、それほどショックだったのか。  
 
「……」  
「……?」  
 
 ネタにされてからかわれるかと思ったけど、返ってくるのは無言のみ。  
 不思議に思って横目で伺い見ると、横山さんは真面目な表情でこちらを見ていた。  
 
「はぁ……これは本当に重症だわ」  
「……なにがですか」  
「アキラちゃん、我慢は身体に毒よ?」  
「横山さんのように欲望に忠実に生きるのもどうかと思いますよ? 体重的に」  
「だ、ダイエットしてるもん! まだセーフだもん! 2ストライクからバントで粘ってるもん!」  
 
 それはアウトだ。  
 
「ゴホン……と、とにかく、アキラちゃんはもっと素直になっていいと思うよ」  
「……私は素直ですよ」  
「本当に素直だったら、そんな顔はしないわ」  
 
 思わず、自分の顔に手を当ててしまう。  
 今の私はどんな顔をしているのだろうか。  
 
「その様子だと、自覚はあるみたいね」  
「な、何のことですか?」  
「……言わなきゃ分からない?」  
「だから、何のことだか――」  
「あ、ヒカル君」  
「えっ!」  
 
 とっさに振り返るが、そこには誰もいない。  
 
「嘘だけどね」  
「……」  
 
 振り返った姿勢のまま固まる私の頭を、横山さんはポンポンと叩く。  
 
「いつもはクールなのに、こういうのは分かりやすいね、アキラちゃん」  
「…………いつからですか?」  
「ん?」  
「いつから……気付いてたんですか?」  
 
 私の疑問に、横山さんはぽりぽりと頬を掻きながら答える。  
 
「んー……なんとなく最初からそんな感じはしてたんだけどね。あ、でも安心して、それに気付いてるのは私くらいだから」  
「最初から……」  
「と言っても、あくまでそんな気がしてただけで、それが疑念に変わったのもつい最近の事だし」  
「……」  
「分かってるみたいね。そう、フミちゃんとヒカル君が付き合うようになってからよ」  
 
 その言葉で、私の脳裏にあの日の出来事が鮮明に浮かび上がってくる。  
 ヒカルが、阿久野フミの告白した日の事が。  
 
「アキラちゃん、あの日からちょっとおかしかったよ。なんというか……ピリピリした感じで」  
「……そう、ですか」  
「自覚あった?」  
「少しは」  
 
 出来るだけ外には出さないように気をつけていたけれど、私もまだ修行が足りないようだ。  
 
「で、昨日ちょうど良く街でフミちゃんに会ったから、教えてあげたのよ。朝のトレーニングの事を」  
「……」  
「会ったのよね、彼女に」  
「……はい」  
 
 なるほど、最初からヒカルの為ではなく、私を試す為にトレーニングの事を教えたのか。  
 そして、私はそれに見事に引っかかったと。  
 
「……ごめんね、アキラちゃん」  
「別に横山さんが謝る必要は無いです……どうせ、もう今更な事ですし」  
 
 そう、今更な事だ。  
 私がヒカルを好きな事は事実だけど、そのヒカルはもう阿久野フミと付き合っている。  
 私が二人の間に入る余地など無いのだ。  
 むしろ、ちょうど良かったかもしれない。  
 現実を見せられて、微かな希望も打ち砕かれて。  
 よかったじゃない、黒澤アキラ。  
 これで何の憂いも無く、またツマラナイ日常が――  
 
「それでいいの?」  
「――っ!」  
 
 顔を上げると、横山さんが真面目な表情のまま私の顔を覗き込んでいた。  
 
「本当にそれでいいの?」  
「……だ、だって、二人はもう――」  
「私はアキラちゃんに聞いているの……他人の事は関係なく、アキラちゃんがどうしたいかを」  
「……」  
 
 だって、もう――  
 
「……なんで赤井さんがあなたを一生懸命に勧誘したか分かる?」  
「え……」  
「内緒って言われたんだけどね……赤井さん、あなたを心配してたのよ」  
「赤井さんが……?」  
 
 心配してた? 私を?  
 横山さんは優しく、だけどどこか悲しそうな笑顔で、私へと語りかける。  
 
「断られたら諦めようと思ってたらしいんだけどね……この子は絶対に誘わなきゃ駄目だって思ったそうよ」  
「な、なんで……」  
「『我慢する事が普通だと思っては駄目だ!』ってさ。その時は良く分からなかったけど、今なら赤井さんの気持ちが分かるわ」  
「……」  
 
 赤井さん……ただの迷惑な人じゃなかったんだ。  
 
「だから我慢しないで、そして諦めないで……もう一度聞くわ――あなたはどうしたいの?」  
 
 最初に脳裏に浮かんだのは、屈託のないヒカルの笑顔。  
 あの日、私を助けてくれた時に見せた、純粋な笑顔。  
 私のヒーローの笑顔。  
 
「私……私は……」  
 
 我慢しなくてもいいのなら。  
 諦めなくてもいいのなら。  
 
「私は――ヒカルと一緒にいたい」  
 
 涙と共に零れたのは、その一言だった。  
 もっと、ヒカルと一緒にいたい。  
 もっと、ヒカルに触れていたい。  
 もっと、ヒカルを見ていたい。  
 もっと、ヒカルに見てもらいたい。  
 だって――  
 
「ヒカルのことが――好きだから」  
 
 一度零れた想いは、もう止まらなかった。  
 今まで胸の中に秘めていた想いが一気に溢れ出る。  
 
 子供の頃のツマラナイ日常。  
 それを変えてくれるかもしれない、赤井さんとの出会い。  
 悩む私と、道を示してくれた少女。  
 そして、私を助けてくれたヒカル。  
 彼を追って入隊し、ギガレンジャーになった事。  
 それなのに、すっかり私の事を忘れていたヒカルへの怒り。  
 怒っていたはずなのに、一緒にトレーニングする事になった時の喜び。  
 そして、ヒカルと阿久野フミが付き合う事を知った時の絶望。  
 やり場の無い想い。  
 
 それら全てが涙と共に溢れ出る。  
 横山さんは優しい笑みを湛えたまま、最後まで聞いてくれた。  
 そして全てを吐き出した頃には、涙はすっかり枯れていた。  
 
「スッキリした?」  
 
 私が話し終わった後、横山さんは笑顔のまま尋ねた。  
 私は小さく、だけどはっきりと頷く。  
 
「はい……心の整理も出来ました」  
 
 今まで私の心に影を落としていたモヤモヤはすっかり消えていた。  
 我慢するなと言われても、諦めるなと言われても、どうしようもない事はある。  
 だけど、生きている限り、私の道は続くのだ。  
 終わってしまった事を悔やんでもしょうがない。  
 きっと、横山さんは私にそれを教えたかったのだろ――  
 
「ちょーっぷ!」  
「いたっ!」  
 
 唐突に飛んできた本気チョップに、私は思わず顔をしかめる。  
 
「そんな顔しない! 大体アキラちゃん、一つ勘違いしてる」  
「か、勘違い?」  
 
 あ、あれ、このお話まだ続くの?  
 
「あのね……ヒカル君とフミちゃん、まだ付き合ってないよ」  
「……へ?」  
 
 え、で、でもヒカルは確かに告白したはず……  
 
「フミちゃんに告白したシーンを思い出してみて。あの時、ヒカル君は何と言ったか」  
 
 ……えーと、確か『オレ、お前の事が好きだ!!』と……  
 
「その次」  
 
 次? 次って……『い、いやっ!! とっ……友達としてだ、友達として!!』……ん?  
 
「気付いた? あくまで『友達として好き』としか言ってないのよ」  
「っ!」  
 
 た、確かにそういえば……いや、でも、これは照れ隠しじゃ……  
 
「照れ隠しだろうがなんだろうが、恋人として告白してないの! だったら、まだアキラちゃんが恋人になる可能性はあるでしょ?」  
「……そ、そうかもしれないけど……」  
「それがただの言い掛かりってのは私だって分かってるわよ……でもね、まだ可能性があるのに諦めるのは早すぎじゃない?」  
「それは……」  
「大体、アキラちゃんは何か努力した? ただ、なんとなくヒカル君の側にいただけじゃない?」  
 
 そ、それは……そうだけど……  
 
「『やらずにこうかいするくらいなら、やってからこうかいしろ』」  
「!」  
「諦める前に、自分が出来る事を全力でやってみなさいよ。頑張って、努力して、これ以上は無理ってくらいに全力を出して……それでも駄目なら、またこんな風に話を聞いてあげるから」  
「……横山さん……」  
「枯れるのは早すぎるでしょ……まだ若いんだから」  
 
 そう言って、横山さんは手にしていたドレスを私へと手渡す。  
 似合わないと思っていた、そのドレス。  
 だけど……今なら、着てもいいかもしれない――そう、思えた。  
 
「さて、そうと決まったらこれからどんな作戦でヒカル君を手篭めにするか……」  
「お願いですから、もう少し言葉を選んでください」  
「言葉を変えても、どうせやる事は同じでしょ?」  
「……」  
 
 というか、別にその方法まで頼んではいないのだけど……  
 
「……それにほら、たとえ駄目でもまだ手はある訳で……」  
「……?」  
「相手は敵の幹部で、こっちは正義の味方。うっかり戦闘中に――」  
「す、ストップ! それ以上は――」  
「『殺らずに後悔するくらいなら、殺ってから後悔しろ』ってね」  
「汚すな! 私の思い出をそれ以上汚すな!」  
 
 まったく、この人は……せっかくちょっとは尊敬してもいいかなって思ったのに。  
 
「ふふ、やっぱりアキラちゃんはそのくらい生意気な方が似合ってるわ」  
 
 冗談よ、と笑いながら、横山さんは私の頭をぽんぽんと叩く。  
 ……冗談にしては目が笑ってなかった気もするけど……気のせいと言う事にしておこう、うん。  
 
「まあ何にせよ、これからはアキラちゃん次第だから……頑張ってね」  
「……はい」  
 
 手にしたドレスを見つめながら、これはどのタイミングで着るべきかを考える。  
 明日のトレーニング? いやいやイキナリこんなのを着ていったら、怪しすぎる。  
 ここは少しづつ着てもおかしくない雰囲気に持っていかないと。  
 とすると……えーと……  
 
「……アキラちゃん」  
「はい?」  
「残念だけど、色々考えてる時間は無さそうよ」  
「……はい?」  
 
 真面目な顔で横山さんが呟いた、その瞬間。  
 基地内に大音量のブザーが鳴り響いた。  
 
「大変です! 悪の組織が――」  
 
 慌てて駆け込んでくるオペレーターの台詞を待たず、横山さんが呟く。  
 
「……チャンス到来?」  
「それ以上言ったら、本気で怒ります」  
「冗談よ」  
 
 しれっと舌を出す横山さんを尻目に、私はオペレーターの台詞を待つ。  
 ――この時、私はまだ軽く考えていた。  
 また、悪の組織が騒いでいるのか、と。  
 だけど、次に発せられた台詞は、私の……いや、多分、基地内にいる全ての人間の予想を超えていただろう。  
 
「悪の組織が――悪の組織に襲われています!」  
「「……へ?」」  
 
 

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