(やってしもうた・・・)
本鈴が鳴っている。もうコピーを取りに行っている時間なんてない。
英語の教科書を家に忘れてきてしまった。昨日めずらしく予習でもしようと持ち帰った。
だけど開いた瞬間睡魔が襲ってきて、それからの記憶がない。
(もっと早く気付いとったらなぁ・・・)
教科書を借りて、コピーを取れたのに。もう遅い。
素直に申し出ることにした。
「ほらみんな席につけー」
「起立」
タイミングをはかる。これで失敗すると結構恥ずかしい。
着席、と委員長が言って数秒、口を開いた。
「先生!すいません、教科書忘れました!」
みんなの視線が痛い。
「忘れたぁ?篠村ぁ、しゃーないな、関野に見してもらい」
ブーが迷惑そうにこっちを見た。私だってできることなら遠慮願いたい。
「そういうわけだから、見してな」
机をガタガタ動かしてブーの机とくっつける。
「アホ」
ブーはそう言いながらもながらも教科書を机の真ん中に置いてくれた。
授業が始まるとすぐに私は眠くなった。膝掛けをかけていて暖かいせいかもしれない。というかきっとそうだと思う。
寝ては覚め、寝ては覚めを繰り返すうちに、あろうことかブーの方へと体が倒れ込みかけた。
・・・けれどそれは阻止された。
ブーが、支えてくれた。
ありがとなぁ・・・
そう思ったのもつかの間、私はブーを払いのけた。
ブーは顔を真っ赤にして私から目をそらした。
ブーの手は、私を支えてくれたブーの手は、私の胸を思い切りつかんでいた。
意図的ではないにせよ、私の胸に触れたのは確か。
ブーに対して怒りというか、軽蔑というか、負の感情が溢れ出してきた。
(ブーのエロ!エロブー!!)
ブーのほうを見ないよう、授業に集中することにした。
しばらくして、ブーの様子がおかしいのに気がついた。
体をかがめてもじもじしている。
最初はトイレにでも行きたいのかと思った。
だけど、違った。
(ちょっ・・・なんで!?)
ブーの股間の辺りが膨らんでいる。
ブーはそれを必死に隠そうとしていた。
ブーと目が合う。すまなそうに顔を赤くしている。
(最悪やな!見損なった!)
ブーから目をそらすともう決してそちらを見ないようにした。
だけど、しばらくしてなんだか妙な気持ちになってきた。
女としてなんて見てくれたこともないブーが、私に女を感じてくれた。
少し、嬉しいような気もした。
女らしくしぃ!と何度も言ってきていたブーが、男らしい反応を見せている。
なんだかんだ言って、ちゃんと女として見てくれてたようで。
なんとなくいい気分になった。
だから、少し助けてあげることにした。
膝にかかっている膝かけを開く。いつもは二つ折りで使っている。
それをブーと私の足にかけた。
ブーの膨らんだ股間もうまい具合に隠れた。
ブーだけにかけなかったのは、私だって寒いから。
ブーは少し驚いたような顔をしていたけれど、私は気にせずに再び黒板へと視線を戻した。
しばらくして、私は視線を感じた。
ふと横を見てみると、ブーと目が合った。
その瞬間、ブーは目を逸らした。
(なんやの・・・変なやつ)
再度黒板を見ようとした瞬間、あたたかいものが足に触れてきた。
(なん!?)
体がびくっとした。
その瞬間一旦そのあたたかいものは退いたけれど、再び私に触れてきた。
(ブー・・・?)
ブーの手だ。少し汗ばんでいる、ブーの手だ。
ブーはやっぱり顔を赤くしてうつむいていた。
何故ブーはこんなことをしているのかわからない。
私の足なんか触って、何がしたいのか。
おかしなブーだ。
不思議に思っていると、ブーの手が内腿へと動いた。
体の奥が熱くなった気がした。
(ブー・・・)
ブーを見ると、まだうつむいていた。決してこちらを見ないようにしているように見える。
ブーの手は優しくさわさわと動く。
不思議と嫌悪の情はわき出てこない。
私はただ、ブーに身を任せていた。
何分そうしていたのだろうか。
ブーの手がスカートの中へ入り込もうとするたびに、私は体を震わせた。
ブーの手が腿を優しく撫でるたびに、私の奥が熱くなった。
拒絶することも忘れていた。
ブーの手が私から離れようとした時、私は思わずその手を引き止めた。
手と手が重なって、目と目が合った。
自分でも何をしているのかよくわからない。
顔が熱い。
(ブー・・・)
心の中で、ブーの名を呼んだ。
ブーは私の手を握ってきた。
さっきの体の奥が熱くなる感覚とはまた違う熱さ、手を中心として全身が、熱くなった。
膝掛けの下でつながれた手は、授業終了のチャイムが鳴るまでそのままだった。
チャイムが鳴って、膝掛けをたたんだ。
もうブーの股間は膨らんでいなくて、少しホッとした。
「教科書ありがとな、ブー」
「・・・おぉ」
ブーは立ち上がると足早に教室から出て行った。
さっきのことを、悔いているのだろうか。
次にブーに会った時に、言ってあげよう。
嫌じゃなかったよ
ブーに触られるの、嫌じゃなかったよ
また、手をつないでもいい?
私のブーに対する想いが、変わった瞬間だった。
おしまいw