「お腹すいたぁ〜」  
背中越しに聞こえる愛しい彼女の甘え声。  
彼女が私の腰に手を回す。  
そして、顎を肩に乗せる。  
彼女は甘えたい時には  
決ってこの仕草をやる。  
「悦ねぇ、お腹すいたんよ〜」  
砂糖も溶けてしまうかの様な甘え声を出し  
猫の様にすりすりと頬を首に寄せる。  
普通だったら恋人に甘えられるんいう事は  
嬉しい事に違いない。  
でも、私は………  
「さっき食べたばっかやないの…」  
はぁーっと大きな溜息をつく。  
溜息の原因は彼女にあった。  
別に彼女が嫌いな訳でも  
不満がある訳でもない。  
ヒメの作る料理は抜群に美味しいし  
付き合って初めて迎えた冬  
編んでもらったマフラーの暖かさも嬉しさも忘れた訳じゃない。  
それに、ヒメは可愛い。  
なんて言うんやろ?  
上手く言えんけど  
おっとりしてるんやけど、怒らしたら怖いところとか  
家庭的な良妻賢母タイプに見えて実は甘ったれなところとか…  
言い出したらキリがない。  
好きで、好きで、大好きで  
仕方がない愛しい姫様。  
ただ、一つ不満があるとするならば  
彼女の食欲だろう。  
可愛らしい外見には似合わず彼女はよく食べる。  
どこに詰め込んでるんやろ?と言うぐらい食べる。  
凄いときは私の分まで食べる。  
一杯食べとるはずや  
やのに、やのに…  
彼女はお腹がすいたと言う。  
彼女と過ごした日々  
この台詞を聞かなかった日はない。  
一日たりともない。  
別に、ムードとかそういう物を大事にして欲しいとは言わない。  
ただ、たまには…お決まりの台詞を聞きたくない時だってあるんよ。  
 
「やって、おなかすいたんやもん…」  
ヒメの声のトーンが低くなったのが分かった。  
そーっと、後ろを振り返ると  
しゅんと小さくなったヒメが視界に入った。  
そんなヒメを見てたらちょっとだけ胸が痛んだ。  
なんや、うちが悪い事してるみたいやないか?  
「ヒ、ヒメ………」  
心配になって、うつむいている彼女の顔を覗き込む。  
これがいけなかったのだろう。  
「分かった…」  
「えっ、何が分かった…って…ひ、ヒメ?!」  
ぐぃっと体をヒメの方に引き寄せられた。  
抵抗する、しない、以前に気がついたら  
ヒメが私の上にいた。  
嫌な予感がする。  
凄く嫌な予感がする。  
この予感が外れてくれる程世間は厳しくなかった。  
「悦ねぇ食べるけん」  
にっこりと歯を出して笑うヒメ  
あぁ…可愛ええな…  
やっぱり、ヒメ大好きや…  
なんて、呑気な事言うとる場合やない。  
「えっ、あ、ひ、ヒメ?ちょっとまっ──んっ………」  
言葉の続きを彼女に伝える間もなく塞がれた唇  
無理やり口内を割って入る舌に嫌悪感を覚えつつも  
抵抗したところで止めてくれる彼女ではない。  
だから、私は彼女に身を任せる。  
「んっ…んんっ!!!ん─んん!!」  
パーカの上から与えられる刺激  
服の上からなのにこんなにも  
反応してしまっている自分がおる。  
ヒメの手が胸を強く揉みしだく。  
服の上からやなくて  
直に触ってほしい…  
言いたくても唇は彼女に塞がれている。  
して欲しいのに…  
触って欲しいのに…  
伝えられない…  
「触って欲しかったん?悦ねぇのスケベ…涙まで流して…すごく可愛ええよ、今の悦ねぇ」  
いつのまにか涙まで流していたらしい。  
恥かしい…  
なんや、私、ほんとに、スケベなんやろか?  
触って欲しくて涙まで流してしまうなんて…  
堪え性のない自分が情けなかった。  
ヒメは頬を伝っていた涙を舌で舐め取る。  
私の顔を見ながらわざと、蛇のように舌を出し  
ちろちろと舐めていく。  
ヒメは笑っていた。  
でも、眼は笑っていなかった。  
その瞳に映る  
冷たい眼差しに期待してしまう自分が嫌や。  
これからされる、行いに否がおうでも、期待してしまう自分が嫌や。  
 
「悦ねぇ、脱がすよ?バンザイしてや」  
彼女に言う通り両手を上にあげる。  
よいしょっと小さく囁くとあっという間に脱がされた。  
下に着けていたキャミソールも一緒に…  
「あ、ひ、ヒメ?…あ、あの、私、寒い………」  
季節はもう冬や。  
下にスカートを履いているとは言え  
上はブラジャー以外何も着けていない。  
ストーブを付けているとは言え  
寒いものは寒い。  
分かってるはずやのに…  
私が寒がりなの…  
「悦ねぇ、寒い?」  
ヒメは私の髪に指を絡ませる  
耳を甘噛みした。  
「つっ…?!さ、寒いよ…あっ、や、やめっ…」  
かぷかぷと、まるで、犬の様に私の耳を噛んでくる。  
痛さと、痛い以外の何かが  
中から込み上げてくる。  
耳を甘噛みして喜んでいる  
彼女の姿はまるで、新しい玩具を貰った子犬のようやなと思った。  
飽きる事なく噛んでいる。  
そうや、彼女は犬なんや。  
そして、私は飼い主  
我儘な犬を飼っている飼い主なんや。  
我儘で気まぐれな犬を飼っている飼い主なんや。  
気まぐれに逆らえず、犬に流されてしまうダメな飼い主なんや。  
「んっ?!はっ、やぁっ…あっ、あぁ…」  
ブラジャーを上にたくし上げられて  
欲しくて仕方がなかった刺激が与えられた。  
突起を口に含まれ舌で転がされていく。  
「やっ─んんっ!!ヒメ…好きぃ…大好き…」  
自然と出てくる愛の言葉。  
普段も言えたら良いのに  
好き、大好きと言えたら良いのに  
素直やない私は彼女に好き?と聞かれても  
ボートと同じ位好きやとか  
豚神様より好きよとか  
リー達よりも好きやとかしか言えなくて  
ちゃんと、彼女に好きって言った事なんて数える程しかなかった。  
もちろん、ヒメの事は好きや。  
大好きや。  
好きやなかったらこんな事はせん。  
ヒメの手が段々と下がっていく。  
胸、お腹、そして…  
 
「んっ…あっ、あぁ…ヒメ…やぁっ…」  
ヒメは突起への愛撫を止めると  
頭をスカートの中に入れて  
ショーツに手を掛けると  
それを引き摺り下ろした。  
スカート中から聞こえてくる  
淫らな音色  
それを演奏してるんは私…  
そう思うだけで  
体が焼けそうなぐらい熱くなる。  
楽しみたい  
この余韻を楽しみたい…  
ゆっくりと…楽しみたい。  
そう思ったのがヒメに伝わったのだろうが  
今までゆるやかだった舌の動きが急に早さを増した。  
「やっ─ヒメ…んんっ!!いやぁ…ゆっくり…」  
ヒメは舌を尖らせて敏感なそれを執拗に舐めあげる。  
そんなにしたら…私、もう…  
シーツを強く握り締める。  
「あっ、あぁ!!あんっ!!…ヒメ、大好き…やっ、んんっ…はぁっ…んっ…」  
ヒメが敏感なそれを強く吸い上げた時  
私は達してしまった。  
誰かに押さえつけれて  
地面に引きずり込まれるような  
この感覚が私は少し嫌いやった。  
肩で息をしとる私を見てヒメは満足そうに笑った。  
「もっと、しよ?悦ねぇ…」  
彼女の唇がゆっくりと重なってきた。  
ヒメ…好きよ、大好きよ…  
愛おしむように彼女の体に手を回すと  
私達はもう一度重なり合った。  
 
「んっ…今、何時?」  
寝ぼけ半分に瞳を開けると辺りはまだ暗い。  
時計の方に眼をやると時計の針は  
3時を差していた。  
まだ、そんな時間か…  
また寝るには微妙な時間やし  
かと言って、起きたところでやる事もない。  
冬休みの宿題があるって言えばあるけど  
愛しい彼女と過ごす大切な時間に  
そんなつまらないもんを持ち込みたくない。  
さて…どうしたもんやろか?  
愛しい姫様は可愛らしい寝息を立てて寝とる事やし…  
そっと、ヒメの顔を覗き込む。  
心なしか幸せそうな顔して寝とる気がした。  
起こさないようにそっと彼女の頬に  
キスを落とした。  
あれから、何度肌を重ねあったのかはあんまり覚えていない。  
ただ、ヒメの執拗な愛撫に泣かされたんは覚えとる。  
ヒメ、ヒメ、好き…大好きぃ…そう言いながら  
シーツを掴み何度達した事だろう。  
思い出すだけで恥かしい。  
たぶん、今、電気をつけて鏡を見たら  
私の顔は真っ赤なんやろな。  
「つっ…もう、ヒメの馬鹿!!!」  
ぼふっと枕に顔を埋め  
ヒメへの恨み言を口にする。  
聞こえてくるんはヒメの寝息だけ  
「………寝よか………」  
馬鹿らしい。  
そう思って毛布を掛けなおし  
布団の中に潜り込んだ。  
寝てるヒメの体を包みこむ様に  
抱きしめる。  
体に伝わる彼女の体温が妙に愛おしい。  
あっ、忘れとった。  
「ヒメ…普段は恥かしくて言えんけど…大好きや…  
ボートよりも、豚神様よりも、リー達よりも…大好きや…ヒメが一番大好きなんよ…」  
言えた。  
消え入りそうな声やったけど  
緊張して声が上ずってしまったけど  
言えた。  
ヒメが寝てる時にしか言えん  
へたれな私やけど  
ずっと、ずっと、一緒におろうな…  
ヒメ…大好き…  
おやすみの代わりにもう一回ヒメの頬にキスを落とすと  
私は眠りについた。  
これをヒメに聞かれとは夢にも思わんかった………  
私の長い夜が始まってしまった。  
でも、それを心地良いと思うのは  
やっぱり、何だかんだ言ってヒメが好きなんやと思う。  
どうしようもない位ヒメが愛しいんやと思う。  
そう思う事にした。  
 

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